「コウモリは目が見えない」はウソ。小さな虫は超音波で探し、遠くの景色は目で見ているらしい

超音波で虫を探すコウモリも、目は見える。2種のコウモリで計算すると、小さな虫は超音波、遠くの景色は目のほうがよく分かると見積もられた。

No.186 8分で読めるえっ度 論文 2019年
夕焼けが残る空の下、茶色の小さなアブラコウモリのなかまが、翼を大きく広げて低く飛んでいる。前方には小さな羽虫が数匹舞い、遠くには木々と丘のシルエットが見える。コウモリの顔には、小さな黒い目と大きな耳がある。ウソ
ウソ

判定の対象コウモリは目が見えない

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  1. コウモリは目が見えないわけではなく、目も使って飛んでいる
  2. 小さな虫を見つけるのは、目より超音波のほうが得意らしい
  3. 遠くの木や地形を見るには、超音波より目のほうが有利と計算された

人に話すなら

コウモリって目が見えないと思われてるけど、ちゃんと見えるんだって。小さな虫は超音波で探して、遠くの木や地形は目で見てるらしいよ。迷路では、行き止まりの黒い壁のほうへ飛んでいったんだって。

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読む前に予想しよう

超音波を使うコウモリは、目がまったく見えない

英語には「コウモリのように目が見えない」という言い方があります。日本でも、コウモリは目が見えず、超音波だけで飛んでいると思っている人は多いでしょう。でも、アメリカの地質調査所(USGS)の解説ははっきり「いいえ、コウモリは目が見えないわけではありません」と書いています。

では、超音波を使うコウモリは、目を何に使っているのでしょうか。イスラエルのテルアビブ大学のチームが2013年、2種のコウモリで、目と超音波でどれだけ遠くの物が分かるかを見積もりました。すると、蚊ほどの小さな虫は、目より超音波のほうが遠くから分かる計算になりました。一方、木や丘のような大きな景色は、目のほうがずっと遠くまで見えるという結果でした。

コウモリの研究は、長い間、超音波に注目してきました。目がどこまで見えているのかは、あまり調べられてきませんでした。研究チームは、コウモリは2つの感覚を同時に使い、1つの世界を組み立てていると考えています。

01コウモリは、日がしずんで空にまだ光が残るうちに狩りを始める

研究したのは、テルアビブ大学のアルヤン・ボーンマン(Arjan Boonman)さん、ヨシ・ヨベル(Yossi Yovel)さんたちです。チームが目をつけたのは、コウモリが狩りを始める時間です。

多くのコウモリは、日がしずむとすぐに巣を出ます。この時間は虫がいちばん多く飛ぶ時間でもあります。まだ空には光が残っていて、明るさは1〜10ルクスほどです。

研究チームは、この明るさを「中くらいの明るさ」と呼びました。チームが調べたコウモリは、真っ暗(1ルクスより暗い)になるまでに、少なくとも1時間は狩りができます。

真っ暗な洞窟なら、超音波が有利なのは当然です。でも、まだ光が残る夕方なら、目でも虫が見えるかもしれません。それなのに、コウモリはなぜ超音波を使うのか。目は何をしているのか。チームはこれを確かめることにしました。

選んだのは、狩りのしかたが違う2種です。1種は、ネズミオコウモリのなかまです。ひらけた空で、羽アリの女王などの大きな虫をとります。もう1種はアブラコウモリのなかまで、草木の近くで蚊ほどの小さな虫をとります。

02野生のコウモリは、明るくても超音波を出し続けていた

まず確かめたのは、「明るいうちは超音波を止めて、目だけで飛んでいるのではないか」という点です。そう考える研究もあったからです。

チームはイスラエル北部で、ネズミオコウモリのなかま2匹をつかまえ、背中に小さなマイクを付けて放しました。マイクは一晩じゅう、30秒ごとに5秒ずつ声を録音しました。数日後にコウモリをつかまえ直して記録を調べると、暗くなっても、声を出す回数や大きさは増えていませんでした。明るい時間から、暗いときと同じように超音波を出していたのです。

アブラコウモリのなかまは、テルアビブの公園で、12本のマイクを並べて録音しました。チームが観察した、虫をつかまえる動きでは、明るさに関係なく、つかまえる直前の速い連続音がいつも出ていました。

03本物の虫を天井からつるし、音の跳ね返りと見え方の両方を測った

次は、何m先の虫まで分かるかの見積もりです。チームは、まわりの壁を音を吸うスポンジでおおった防音室を使いました。直径0.25mmの細い光ファイバーの先に、本物の虫をつけて天井からつるします。虫は、ガ・羽アリ・クサカゲロウ・ユスリカ(カに似た小さな虫)の4種です。羽の長さは18mm・13mm・10mm・3.5mmでした。

60cm離れたスピーカーから超音波を当て、跳ね返ってくる音の強さを、いろいろな角度から測りました。野外で測ったコウモリの声の強さと合わせて、何m先の虫まで跳ね返りが聞こえるかを計算します。

目のほうは、同じ虫を夕方の空や草木を背にして写真にとり、背景との明るさの差を測りました。そこに、ほかの研究で調べられたコウモリの目のデータを組み合わせました。目の細かさや、うす暗い光の中でどれだけ見えるかのデータです。こうして、何m先まで見えるかを計算しました。

ここで研究チームは、わざと目に有利な数字を選びました。たとえば目の細かさは、これまでに測られた中でいちばんよい値に近いものを使いました。それでも超音波が勝つなら、実際の差はもっと大きいと考えられるからです。

04小さな虫は超音波、遠くの景色は目のほうが分かった

まず、いちばん小さいユスリカの場合、アブラコウモリのなかまは超音波で2〜4m先から分かる計算でした。目では0.5〜1mです。ネズミオコウモリのなかまでは、超音波が2〜5.5m、目が0.5〜1.5mでした。平均して比べると、4種の虫すべてで、超音波のほうが遠くから分かるという結果でした。

ただし、大きな虫になると、目で見える距離も伸びます。羽が18mmのガなら、目でも4〜7mほど先まで見える計算でした。アブラコウモリのなかまがガを見つける場合は、超音波と目の差はわずかでした。

大きな物になると、話が逆転します。超音波は空気の中で弱まりやすく、森の端のような大きな物でも、分かるのは50mほど先までと見積もられています。一方、光はずっと遠くまで届きます。チームの計算では、コウモリの目でも、直径5mの物なら2km先から見えます。

背景も効いてきます。草木を背にした虫は、空を背にした虫より、明るさの差が3〜5分の1に下がりました。目で追うと、背景によって虫が見えたり消えたりしやすいと考えられます。超音波なら、背景が変わっても追い続けやすい、と研究チームは書いています。

05迷路の実験で、コウモリは黒い壁でふさがれた通路に飛びこんだ

目が本当に使われていることは、別の実験でも確かめられています。同じテルアビブ大学のチームは2019年、エジプトルーセットオオコウモリで実験しました。目が大きく、舌を鳴らして出す音で周りを探ることもできるコウモリです。

実験には、長さ3mの分かれ道のある迷路を使いました。片方の通路は壁でふさがれ、もう片方は開いています。初めて迷路に入るコウモリを1匹ずつ放し、どちらに飛びこむかを見ました。参加したコウモリは、全部で298匹です。

ふさぐ壁が黒いとき、大半のコウモリが、壁のある通路に飛びこみました。3つの暗さで試し、平均で90%がそうしました。洞窟の入り口のような暗い穴に見えたのだろう、と研究チームは考えています。壁を白にかえると、今度は平均92%が開いた通路を選びました。一方、黒い壁を、音を跳ね返さない素材にかえても、選び方はほとんど変わりませんでした。進む方向を決めるとき、コウモリは目の情報を重く見ていたのです。

ただし、壁の通路に入って近づくと、コウモリは音の情報を使い始めました。音をよく跳ね返す壁のほうが、引き返す割合が高かったのです。どちらの感覚を重く見るかは、場面によって変わるようです。

横長の迷路の分かれ道を、上から見た図。片方の通路の奥は黒い壁でふさがれ、もう片方の通路は奥まで開いている。犬のような顔で目の大きいエジプトルーセットオオコウモリが1匹、黒い壁の通路のほうへ飛んでいく。
DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

目かくしをしたコウモリは、巣の方向へまっすぐ飛ばなかった

コウモリが目を使うことは、昔から知られていました。アメリカのロックフェラー大学のチームは1967年、中南米のヘラコウモリのなかまに小さな発信機を付けました。巣から10km離れた場所で放し、帰り道を電波で追ったのです。目が見えるコウモリは、巣の方向へまっすぐ飛びました。目かくしをされたコウモリは、そうした向きのそろった飛び方をしませんでした。

2019年には、ドイツやラトビアなどのチームが、渡りをするアブラコウモリのなかまで実験しました。夕方、鏡を使って、しずむ太陽の位置を反対に見せます。するとコウモリは、何もしないコウモリと比べて、その夜に飛び立つ方向がほぼ反対になりました。ただし、生まれて最初の年のコウモリには、はっきりした向きがありませんでした。夕日の位置を手がかりにするには、経験がいるようです。

超音波は、小さな虫を見つけるために発達したのか

ボーンマンさんたちは、超音波が進化した理由についても考えています。夕方の水辺には、ユスリカのような小さな虫がたくさん飛んでいます。小さな虫を見つけるには、波の長さが短い、高い音が必要です。

ネズミなどの小さなけものは、もともと超音波が聞こえます。一方、鳥は超音波が聞こえるように進化しなかったと考えられています。鳥にも、音の跳ね返りを使う種が約25種いますが、人にも聞こえる高さの音です。洞窟の中で向きを知るために使うのが主で、小さな虫を探すことはできないようです。超音波を使うコウモリは1000種ほどいます。研究チームは、超音波が聞こえるけものだったからこそ、コウモリは夜の小さな虫という食べ物を手に入れられたのではないか、と考えています。

数字は計算による見積もりで、飛んでいるコウモリで測ったものではない

この研究の数字は、飛んでいるコウモリで直接測ったものではありません。目の細かさのデータは、コウモリの種によって0.3〜5度と大きくばらつきます。チームは目に有利な数字を選びましたが、それでも見積もりには多くの仮定が入っています。研究チーム自身も、超音波を使うコウモリがどこまで目にたよっているかを知るには、もっと多くの研究が必要だと書いています。

06まとめ

「コウモリは目が見えない」は、ウソです。超音波を使うコウモリも、うす暗い夕方の景色を目で見ていると考えられています。テルアビブ大学の計算では、蚊ほどの小さな虫は超音波のほうが遠くから分かり、木や丘のような大きな物は目のほうがずっと遠くから見えるという結果でした。

迷路の実験では、エジプトルーセットオオコウモリが、黒い壁でふさがれた通路に飛びこみました。暗い穴に見えたのだろうと考えられています。どこへ向かうかを決めるとき、このコウモリは目の情報を重く見ていたのです。夏の夕方、まだ空が明るいうちに飛ぶコウモリを見かけたら、あのコウモリは超音波で虫を探しながら、目で家の屋根や木を見ているのかもしれません。

RESEARCH FILE

研究カルテ

イスラエル・テルアビブ

研究チーム
イスラエルのテルアビブ大学のチーム(第一著者アルヤン・ボーンマン、ヨシ・ヨベルら)
調べた場所
イスラエル北部とテルアビブの公園の野生のコウモリ、大学の防音室
調べた動物
ネズミオコウモリのなかま(学名 Rhinopoma microphyllum)とアブラコウモリのなかま(Pipistrellus kuhlii)
調べ方
虫4種の音の跳ね返りと見え方を測り、超音波と目で何m先まで分かるかを計算した
分かったこと
小さな虫は超音波のほうが遠くから分かる。遠くの大きな景色は目のほうがずっと有利
まだ分からないこと
計算による見積もりで、飛んでいるコウモリの行動で直接確かめたわけではない
論文
Frontiers in Physiology(2013年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Bats Are Not Blind

Many people think bats cannot see. But that is not true. Bats have eyes, and their eyes work well in dim light.

Many bats also use sound to find things. They make very high sounds and listen to the echoes. Scientists in Israel studied two kinds of bats that hunt in the evening.

The scientists hung real insects on a thin line in a quiet room. Then they measured the echoes and took photos of the insects. Their math showed that sound is better for finding very small insects. But eyes are much better for seeing big things far away, like trees and hills.

In another test, bats chose between two paths in a maze. One path had a black wall at the end, but most bats flew toward it. The wall probably looked like a dark hole to them. So bats use their eyes and their ears together.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Are bats blind?コウモリは目が見えないのですか。

Q2. What is sound better for?音のほうが向いているのは何ですか。

Q3. Why did the bats fly toward the black wall?コウモリが黒い壁に向かって飛んだのはなぜですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Boonman, A. et al. (2013) It's not black or white—on the range of vision and echolocation in echolocating bats. Frontiers in Physiology 論文確認済みdoi:10.3389/fphys.2013.00248
  2. 2Danilovich, S. & Yovel, Y. (2019) Integrating vision and echolocation for navigation and perception in bats. Science Advances 論文確認済みdoi:10.1126/sciadv.aaw6503
  3. 3Williams, T. C. & Williams, J. M. (1967) Radio Tracking of Homing Bats. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.155.3768.1435
  4. 4Lindecke, O. et al. (2019) Experienced Migratory Bats Integrate the Sun's Position at Dusk for Navigation at Night. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2019.03.002
  5. 5U.S. Geological Survey「Are bats blind?」usgs.gov/faqs/are-bats-blind

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい