「レミングは集団自殺する」はウソ。約4年ごとの大きな増減には、天敵と雪が関わっていた

レミングの集団自殺は、昔の記録映画が広めた作り話。実際の約4年ごとの大きな増減には、4種の天敵の食べ方や、冬の雪の状態が関わっていた。

No.178 8分で読めるえっ度 論文 2025年
雪どけの北極のツンドラで、丸っこい体のクビワレミングが草のあいだから顔を出している。少し離れた岩の上から、白いシロフクロウが見下ろしている。ウソ
ウソ

判定の対象レミングは数が増えすぎると、集団で海に飛びこんで死ぬ

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  1. 「海に飛びこむレミング」は、1958年の記録映画が広めた作り話だった
  2. グリーンランドでは、天敵4種の食べ方の計算で約4年ごとの増減を再現できた
  3. ノルウェーでは、冬の雪の状態が変わると、大きく増える年がなくなった

人に話すなら

レミングって増えすぎると海に飛びこむって言うけど、あれは昔の映画のやらせから広まった話なんだって。グリーンランドでは、天敵4種の食べ方だけで4年ごとの増減が説明できたらしいよ。

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レミングは数が増えすぎると、自分から海に飛びこんで死ぬ

小さなネズミの仲間の群れが、雪の野原を走っていきます。行き着いた先はがけです。ネズミたちは次々に飛びこみ、海に落ちていきます。レミングという動物の「集団自殺」として、多くの人が聞いたことのある場面です。

けれども、この場面は本物ではありませんでした。1958年の記録映画のために作られた場面だと、アメリカのアラスカ州の野生生物の担当部局は説明しています。一方で、レミングの数が数年ごとに大きく増えて減るのは本当です。グリーンランドの研究では、その増減を、4種の天敵の食べ方だけを使った計算で再現できました。

では、レミングの数は何によって決まっているのでしょうか。天敵、食べ物、天気。研究者たちは100年近く、この問いを議論してきました。最近の研究からは、冬の雪の状態も関わっているらしいことが見えてきました。

01「海に飛びこむレミング」は、1958年の映画が広めた

レミングは、北極のまわりのツンドラなどにすむ、しっぽの短いネズミの仲間です。およそ20種がいます。

アラスカ州の野生生物の担当部局の記事によると、話を広めたのは1958年の記録映画でした。ディズニーが作った自然記録映画のシリーズの1本です(原題 White Wilderness)。映画では、レミングの群れが移動して最後にがけから海へ身を投げます。ナレーションは、数が増えすぎると数年ごとに海に飛びこむかのように語っていました。

ところが1983年、カナダの放送局の制作者がこの映画を調べました。記事によると、撮影はレミングのいない地域で行われました。レミングは別の地域から運ばれてきました。大移動の場面は、雪をかぶせた回転台の上で数十匹を走らせて作ったものでした。海に見えた水は川で、レミングは撮影者によってがけから落とされていたといいます。

レミングの研究者は、記事の中で「レミングは自殺しない」とはっきり答えています。ただし、元になった事実もあります。数が増えると、レミングは周りへ散らばって移動します。水辺で足止めされたレミングが集まり、泳いでわたることもあります。そのとき、おぼれて死ぬことがあるのです。

02レミングの数は、3〜4年ごとに大きく増えて減る

レミングの数が大きく変わるのは本当です。2024年、北極のまわりの国々の研究者が、24本の長い記録をまとめて調べました。カナダ、グリーンランド、ロシア、北ヨーロッパの20か所の記録です。

すると、レミングの数は多くの場所で、増えては減る波をくり返していました。波の間隔の真ん中の値は、3.7年でした。ただし、波がいつもあるわけではありません。合わせて649年分の記録のうち、はっきりした波があったのは55%でした。波は、消えたり戻ったりしていたのです。

レミングは、長い冬のあいだも雪の下で子どもを産みます。地面に近い雪の層は、ふわふわとやわらかいのです。レミングはそこで暮らし、草を食べます。冬にたくさん子どもを産めた年に、数が大きく増えます。

03グリーンランドでは、4種の天敵の食べ方だけで4年周期が再現できた

グリーンランド北東部に、トレイル島という島があります。ここにいる小さなネズミの仲間は、クビワレミング1種だけです。オリヴィエ・ジルグ(Olivier Gilg)さんたちのチームは、1988年からこの島で調査を続けてきました。チームは、フランス、フィンランド、ドイツの研究機関の研究者です。

クビワレミングを食べる天敵は4種です。オコジョ、ホッキョクギツネ、シロフクロウ、シロハラトウゾクカモメという鳥です。獲物も天敵も種類が少ないので、天敵とレミングの関係を1つずつ調べられます。

数え方にも工夫があります。雪がとけたあと、決めた範囲を歩いて、レミングが冬に使った巣を数えます。数えた巣はこわして、翌年に同じ巣を数えないようにします。冬の巣のうち、オコジョに乗っ取られた巣も数えます。オコジョの数を直接数えるのはむずかしいので、その目安にするのです。

チームは、天敵それぞれがレミングをどれだけ食べるかを、野外で見積もりました。レミングが多い年に天敵がどれだけ増えるかも調べました。その数字を計算の模型に入れると、レミングの数は約4年ごとに増減しました。実際の長い記録とも合っていました。

雪の断面の絵。地面の近くのやわらかい雪の層にトンネルと草の巣があり、レミングが子どもと一緒にいる。巣の入り口には、白い冬毛で細長い体のオコジョが鼻先を入れている。

波を生んでいたのは、オコジョでした。オコジョの数は、レミングの数に1年遅れて増えたり減ったりします。レミングが減っても、オコジョはすぐには減りません。そのため、レミングはさらに食べられて大きく減ります。ほかの3種は、レミングが多いときほど、たくさん食べます。この食べ方が、波を安定させていました。

野外では、食べ物や場所が足りずにレミングが増えなくなる様子は見られませんでした。計算の模型にも、食べ物や場所の不足を入れる必要はなかったのです。

04ノルウェーでは、雪の状態が変わると、大きく増える年がなくなった

2008年、ノルウェーのオスロ大学などのチームは、別の答えを示しました。調べたのは、ノルウェーの高山にすむノルウェーレミングを中心とするネズミの仲間です。1970〜1997年の記録を使いました。

その増減は、冬の天気と雪の状態、そして数が多いと増えにくくなる性質で説明できました。この計算は、1994年より後に大きく増える年がなくなったことも当てました。気温やしめり気が変わると、雪の下のすき間の状態が変わります。それがレミングの増減に大きく影響しているようでした。

2024年の北極全体の研究でも、似た傾向が見えました。雪が積もり始めるころに暖かい日が多いと、次の年のレミングは少なくなる傾向がありました。雪がとけてまた凍ると、地面近くのやわらかい雪の層が固くなります。すると、寒さを防ぐ力が弱まり、雪の下で草を食べにくくなると考えられています。

05天敵だけで決まるわけではない、という結果もある

2025年、カナダのバイロット島の研究が、オコジョの役割を調べ直しました。1993〜2019年の記録です。オコジョの数は、ここでもレミングの数に1年遅れて変わりました。グリーンランドの結果と同じです。

ところが、計算の模型でオコジョを消しても、レミングの増減の波は消えませんでした。オコジョは、波を生む決め手ではなかったのです。オコジョの役目は、レミングが少ない時期を長引かせ、波の間隔を延ばすことかもしれない、と論文は考えています。

2024年の北極全体の研究は、もう1つの結果も出しました。波が消える時期は、最近になって増えたわけではなかったのです。北ヨーロッパでは、100年以上前の記録でも、波は消えたり戻ったりしていました。温暖化で今すぐ北極中の波が消える、というわけではなさそうです。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

100年近く続く「なぜ波があるのか」論争

北の国のネズミの仲間の数が数年ごとに大きく変わることは、昔から知られていました。その理由は、およそ100年にわたって議論されてきました。天敵が原因だという考え、食べ物が原因だという考え、天気が原因だという考えなどがあります。2021年には、ヨーロッパなどの研究者たちが、まだ答えの出ていない大事な問いを10個にまとめた論文も出ています。

グリーンランドの研究が注目されたのは、場所の単純さのおかげです。獲物がクビワレミング1種、天敵が4種だけなら、関係を1つずつ数えられます。一方で、天敵や獲物が多い場所では、同じ方法は使いにくくなります。場所によって答えが違う可能性も残っています。

波が消えると、天敵が困る

トレイル島では、2000年ごろにレミングの波が消えました。レミングの数も低いままになりました。2012年の研究は、その影響を天敵ごとに調べています。

一番影響を受けたのは、レミングが多い年にだけ子育てをするシロフクロウでした。巣立ったひなの数は、98%以上減りました。オコジョも、大きく減った可能性があります。いろいろなものを食べるホッキョクギツネは、子どもの数が約30%減るにとどまりました。レミングの増減は、ツンドラの生き物全体を動かしているのです。

映画のナレーションと実際の数字の違い

アラスカ州の部局の記事によると、映画のナレーションは、レミングが7〜10年ごとに海に飛びこむかのように語っていました。実際に調べられた波の間隔は、3〜4年ほどです。また、研究で数の増減と結びついていたのは、天敵や冬の雪の状態でした。数が減るのは、レミング自身の選択ではありません。

06まとめ

「レミングが集団で海に飛びこむ」という話は、1958年の記録映画で作られた場面から広まりました。実際のレミングは、数が増えると散らばって移動し、水をわたるときにおぼれることはあります。でも、自分から死を選ぶわけではありません。

レミングの数は、3〜4年ごとに大きく増えて減ります。グリーンランドでは、4種の天敵の食べ方だけで約4年の波が再現できました。ノルウェーでは、冬の雪の状態の変化で大きく増える年がなくなりました。研究から見えてきたのは自殺ではなく、天敵や冬の雪がレミングの数を動かしている姿でした。

RESEARCH FILE

研究カルテ

グリーンランド・トレイル島

研究チーム
フランス・フィンランド・ドイツの研究機関のチーム(第一著者オリヴィエ・ジルグ)
調べた場所
グリーンランド北東部のトレイル島
調べた動物
クビワレミング(学名 Dicrostonyx groenlandicus)と、それを食べる4種の天敵
調べ方
野外で天敵それぞれの食べ方と数の変わり方を調べ、計算の模型でレミングの増減を再現した
分かったこと
天敵4種の食べ方だけで、約4年ごとの増減が再現できた。食べ物や場所の不足は必要なかった
まだ分からないこと
カナダの研究では、オコジョは周期を生む決め手ではないという結果も出ている
論文
Science(2003年)
ENGLISH BITE

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Do Lemmings Jump into the Sea?

Lemmings are small animals like mice. They live in cold places near the North Pole. Many people believe that lemmings jump into the sea together.

This idea spread from a nature film made in 1958. But the scene in the film was not real. The film makers made it with a few dozen lemmings and a river. When there are too many lemmings, they move to new places. Lemmings can swim, and some drown when they cross water.

The number of lemmings goes up and down every three or four years. In Greenland, four kinds of animals eat lemmings. Scientists used a computer model and showed that these hunters could explain the four-year change. Food and space were not the main problem there.

Snow is also important. Lemmings have babies under the snow in winter. When the snow melts and freezes again, life under it becomes hard. So lemmings do not kill themselves. Hunters and snow change their numbers.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Where did the idea of lemmings jumping into the sea come from?レミングが海に飛びこむという考えは、どこから来ましたか。

Q2. How often does the number of lemmings go up and down?レミングの数は、どのくらいの間隔で増えたり減ったりしますか。

Q3. Where do lemmings have babies in winter?レミングは冬、どこで子どもを産みますか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Gilg, O., Hanski, I. & Sittler, B. (2003) Cyclic Dynamics in a Simple Vertebrate Predator-Prey Community. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.1087509
  2. 2Kausrud, K. L. et al. (2008) Linking climate change to lemming cycles. Nature 論文確認済みdoi:10.1038/nature07442
  3. 3Schmidt, N. M. et al. (2012) Response of an arctic predator guild to collapsing lemming cycles. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2012.1490
  4. 4Gauthier, G. et al. (2024) Taking the beat of the Arctic: are lemming population cycles changing due to winter climate? Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2023.2361
  5. 5Bolduc, D. et al. (2025) Seasonal role of a specialist predator in rodent cycles: Ermine-lemming interactions in the High Arctic. Ecology 論文確認済みdoi:10.1002/ecy.4512
  6. 6Alaska Department of Fish and Game(2003)Lemming Suicide Myth: Disney Film Faked Bogus Behavioradfg.alaska.gov/index.cfm?adfg=wildlifenews.view_article&art

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

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