ゾウはマルーラの実で酔っぱらう?人の体で計算すると実だけでは足りないが、決着はまだ
人の体をもとにした計算では、ゾウが実だけで酔うのは難しいとされた。だがゾウは、人が持つアルコール分解の遺伝子の1つが壊れていて、計算の前提が問われている。
グレー判定の対象ゾウはマルーラの実を食べて酔っぱらう
30秒で読む
- 人の体をもとに計算すると、ゾウが実だけで酔うのは難しいとされた
- ゾウは、人が持つアルコール分解の遺伝子の1つが壊れていた
- 一方で、ゾウの肝臓の酵素は特に弱くはないという研究も出た
人に話すなら
アフリカには、マルーラの実を食べたゾウが酔っぱらうって話があるんだって。人の体で計算すると実だけじゃ足りないらしいけど、ゾウは人が持つアルコール分解の遺伝子の1つが壊れてるから、まだ決着してないんだって。
読む前に予想しよう
研究で、ゾウがマルーラの実で酔っぱらうことは確かめられている
計算と遺伝子の研究で意見が分かれ、野生のゾウで直接確かめた研究は見当たらない。
アフリカには、マルーラという木があります。黄色い実は甘く、ジャムやお酒の材料にもなります。この実を食べたゾウが酔っぱらってふらふらになる、という話が昔から語られてきました。
2006年、イギリスのブリストル大学のチームが、この話を計算で確かめました。もとにしたのは、人の体でお酒が効く量です。体重3000kgのゾウが酔うには、7%のお酒を短い時間に10〜27Lも飲む必要があります。ふつうに実を食べるだけでは、その半分ほどにしかならないという結果でした。
ところが2020年、カナダのチームが、この計算の前提に疑問を出しました。ゾウは、人が持つアルコール分解の遺伝子の1つが壊れていたのです。さらに2026年には、北海道大学などのチームが、ゾウの肝臓の酵素は特に弱くはないと報告しました。話は、まだ決着していません。
01酔っぱらうゾウの話は、180年以上前から語られてきた
ブリストル大学の発表によると、この話は少なくとも1839年ごろの旅行者の記録にさかのぼります。ズールー人の話として、ゾウが発酵した実で「頭を温める」、つまりほろ酔いになると書かれていました。
論文を書いたのは、ブリストル大学のスティーブ・モリス(Steve Morris)さんたちです。論文によると、この話は今ではアフリカの観光の定番です。旅行記や新聞、さらには学術的な本にまで出てくるといいます。
ゾウがお酒に引かれること自体は、モリスさんたちも認めています。問題は、自然の中でマルーラの実を食べたゾウが、本当に酔うほどのアルコールをとっているかどうかです。
02ゾウにお酒を飲ませた実験では、ふらつくゾウが出た
ゾウとお酒の関係を、実験で調べた研究もあります。1984年、アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校のロナルド・シーゲル(Ronald Siegel)さんたちが実験しました。使ったのは、アフリカゾウ7頭です。
実験の日には、選ばれたゾウに12時間水を与えませんでした。そのあと、アルコール7%の液体を30分間自由に飲ませました。飲んだ量は多いときで75Lになりました。ただし鼻で吸った液体を地面にまいたこともあり、実際に飲みこんだ量は正確には分かりません。
お酒を飲んだゾウは、群れから離れることがありました。食べる、水を飲む、水浴びをするといった行動は、多くのゾウで減りました。動きがにぶくなったり、ふらついたりする行動は、すべてのゾウで増えました。
つまり、ゾウもお酒をたくさん飲めば、ふらつくなどの変化が出ます。分からないのは、マルーラの実だけでそこまでのアルコールをとれるのかという点です。
03人の体をもとに計算すると、実だけではお酒が足りなかった
モリスさんたちは、人の体でアルコールが効く量をもとに、ゾウに当てはめて計算しました。体重3000kgのゾウが目に見えて酔うには、7%のお酒を短い時間に10〜27L飲む必要があるという結果でした。
ブリストル大学の発表では、こう説明しています。ゾウが少し酔うには、純粋なアルコールで約1.9Lが必要です。7%の実の汁なら27Lになります。マルーラのお酒1Lを作るには、実が200個いります。つまり、よく発酵した実を1400個以上、一度に食べなければなりません。
チームは、わざとゾウが酔いやすくなる方向の仮定も置きました。マルーラの実に3%のアルコールが入っているという、現実的とはいえない多めの仮定です。それでも、ふつうに実を食べたゾウがとれるアルコールは、体重1kgあたり0.3gでした。酔うのに必要な量の、半分ほどです。

そもそもゾウが腐った実を食べるとは考えにくい、とチームは指摘しています。ゾウは木から直接実をもぎ取り、ときには木を押したおして実を食べます。地面に腐った実が落ちていても、木の実のほうを食べるといいます。
おなかの中で実が発酵するという説にも、チームは反対しています。食べ物はゾウの消化管を12〜46時間で通りぬけるので、発酵する時間が足りません。実の糖分は、お酒になる前に脂肪に変えられるといいます。
04ゾウは、人が持つアルコール分解の遺伝子の1つが壊れていた
2020年、カナダのカルガリー大学のマレイケ・ヤニアク(Mareike Janiak)さんたちは、モリスさんたちの計算に疑問を出しました。計算は、人と同じ速さでゾウがアルコールを分解できることが前提になっています。ところが、人のアルコールの分解は、ほ乳類の中では特別なのです。
人の体には、アルコールを分解する酵素がいくつかあります。その1つが、口や食道、胃で働く「アルコール脱水素酵素4型」です。食べたアルコールに最初に働く酵素です。約1000万年前、人とチンパンジーやゴリラの共通の祖先で、この酵素の遺伝子に変化が起きました。この変化で、酵素がアルコールを分解する効率は40倍に上がりました。
ヤニアクさんたちは、85種のほ乳類で、この酵素の遺伝子を調べました。すると、遺伝子が壊れて働かなくなった例が、少なくとも10回別々に起きていました。アフリカゾウとアジアゾウも、この遺伝子が壊れていました。
チームは、モリスさんたちの計算は誤っていた可能性が高いと書いています。酔うゾウの話は、本当かもしれないというのです。人の体をもとにほかの動物を考えるのはまちがいだ、というのがチームの主張です。
ただしチームも、ゾウがほかの方法でアルコールを分解している可能性は認めています。決着をつけるには、ゾウに決まった量のアルコールを与えて、血液中の濃さを測る必要があると書いています。
05肝臓の酵素を調べると、ゾウは特に弱くはなかった
2026年、北海道大学とタイの大学などのチームが、別の角度から調べました。アルコールの分解で大きな役目をするのは、肝臓です。チームは、ゾウの肝臓で働くアルコール分解の酵素を、遺伝子と酵素の働きの両方から調べました。
すると、ゾウの肝臓では、人と同じタイプの酵素の遺伝子が3つ働いていました。酵素は、少ないアルコールでもよく反応しました。アルコールを分解する効率は、人やハムスター、ラットと同じくらいでした。
チームは、ゾウの肝臓のアルコール分解の力が、特別に低い可能性は小さいと結論づけました。ただし、分解の2段階目で働く酵素のうち、一部はまだ測れていないとも書いています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
マルーラの実には、お酒を作る酵母がたくさんいた
2023年、ボツワナ国際科学技術大学などのチームは、マルーラの実にすむ酵母を調べました。酵母は、糖分からアルコールを作る小さな生き物です。ボツワナの約800kmの範囲の21か所で実を集め、106の酵母の株を取り出しました。
その中には、パンやビールに使われる酵母の仲間もいました。選んだ酵母でマルーラの汁を発酵させると、アルコールの濃さは1.67〜4.19%になりました。チームは、酔うゾウの話を否定するだけの証拠はまだないと書いています。
ゾウは、においで甘い実をかぎ分けていた
ゾウがどんな実を選ぶかも調べられています。2020年、南アフリカで5頭のゾウにマルーラの実を選ばせる実験がありました。熟し具合のちがう実を2つ並べると、ゾウは熟した黄色い実を、茶色くなりすぎた実より96%の割合で選びました。
次に、実を見えない容器に入れて、においだけで選ばせました。するとゾウは、同じ黄色い実の中でも、より甘い実を選びました。手がかりになっていたらしいのは、実の糖が発酵してできるアルコールと、もう1つのにおいの物質です。ゾウは、実が発酵して出るにおいを、甘さの目印に使っているのかもしれません。
ほかの動物は、お酒にどれくらい強いのか
ヤニアクさんたちの論文は、ほかの動物の例もあげています。ハネオツパイという小さなほ乳類は、発酵した花のみつを飲みます。人なら酔うほどのアルコールをふくむのに、酔った様子を見せません。エジプトルーセットオオコウモリは、アルコールが1%をこえるえさを食べると、影響が出ます。飛ぶ力や、超音波で周りを知る力が落ちるのです。
マダガスカルのアイアイは、人と同じ方向の遺伝子の変化を、別々に進化させていました。アイアイは、アルコールの濃いさとう水を好むことが知られています。
研究方法の限界
遺伝子が壊れていても、ほかの酵素がその働きを補っているかもしれません。酵素の働きを試験管で測っても、生きたゾウの体全体で同じ速さになるとは限りません。
ヤニアクさんたちは、最後は生きたゾウで確かめる必要があると考えています。ただし、野生のゾウの血液をとって調べるのは簡単ではありません。北海道大学などのチームも、試料を集めるのが難しかったと書いています。
06まとめ
マルーラの実を食べたゾウが酔っぱらうという話は、1839年ごろの記録にさかのぼります。2006年の計算は、人の体をもとにしたものでした。7%のお酒が10〜27L必要で、実だけでは足りないとされました。
2020年には、ゾウは胃などで働くアルコール分解の遺伝子の1つが壊れていると分かりました。計算の前提が問われたのです。2026年には、ゾウの肝臓の酵素は特に弱くはないという研究も出ています。野生のゾウで直接確かめた研究は、まだ見当たりません。
ブリストル大学の発表によると、マルーラはマンゴーと同じ仲間の木です。実はジャムやワイン、ビール、リキュールの材料になります。
研究カルテ
南部アフリカ
- 研究チーム
- イギリスのブリストル大学のチーム(第一著者スティーブ・モリス)
- 調べた場所
- 計算による研究。対象はアフリカのゾウとマルーラの木
- 調べた動物
- アフリカゾウ(学名 Loxodonta africana)と、マルーラ(学名 Sclerocarya birrea)の実
- 調べ方
- 人の体でお酒が効く量をもとに、体重3000kgのゾウが酔うのに必要なアルコールの量を計算した
- 分かったこと
- 7%の酒を短い時間に10〜27L飲む必要があり、ふつうに実を食べても必要な量の半分ほどにしかならない
- まだ分からないこと
- ゾウがアルコールを分解する速さ。実を食べた野生のゾウの血中アルコールを測った研究は見当たらない
- 論文
- Physiological and Biochemical Zoology(2006年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
In Africa, there is an old story about elephants and the marula tree. People say elephants eat its fruit and get drunk.
In 2006, scientists in Britain checked the story with math. They used the way alcohol works in the human body. A big elephant would need 10 to 27 liters of a 7 percent drink in a short time. Eating fruit alone did not seem to give enough alcohol.
But in 2020, scientists in Canada found a problem. Elephants have a broken gene for breaking down alcohol in the stomach. They said we cannot use the human body to answer the question.
In 2026, a team in Japan and Thailand studied the elephant liver. Its enzymes broke down alcohol about as well as human enzymes. Scientists still need to test wild elephants after they eat the fruit. The answer is still not clear.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What did the scientists in 2006 use to check the story?2006年の研究者たちは、何を使って話を確かめましたか。
人の体でアルコールが働くしくみをもとに、計算で確かめました。
Q2. What did the team in Canada find?カナダのチームは何を見つけましたか。
胃などで働くアルコール分解の遺伝子の1つが、ゾウでは壊れていました。
Q3. Is the answer to the story clear now?この話の答えは、今はっきりしていますか。
計算と遺伝子と肝臓の研究で意見が分かれ、まだ決着していません。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Morris, S., Humphreys, D. & Reynolds, D. (2006) Myth, marula, and elephant: An assessment of voluntary ethanol intoxication of the African elephant (Loxodonta africana) following feeding on the fruit of the marula tree (Sclerocarya birrea). Physiological and Biochemical Zoology 論文確認済みdoi:10.1086/499983
- 2University of Bristol(2006)Drunken elephants and the marula fruit mythbristol.ac.uk/news/2006/11363083475.html
- 3Janiak, M. C. et al. (2020) Genetic evidence of widespread variation in ethanol metabolism among mammals: revisiting the 'myth' of natural intoxication. Biology Letters 論文確認済みdoi:10.1098/rsbl.2020.0070
- 4Morita, A. et al. (2026) Elephant alcohol dehydrogenase and aldehyde dehydrogenase: Genomic, transcriptomic, and enzymatic analyses raise questions about anecdotal inebriation. Comparative Biochemistry and Physiology Part C 論文確認済みdoi:10.1016/j.cbpc.2026.110604
- 5Siegel, R. K. & Brodie, M. (1984) Alcohol self-administration by elephants. Bulletin of the Psychonomic Society 論文確認済みdoi:10.3758/BF03333758
- 6Makopa, T. P. et al. (2023) The marula and elephant intoxication myth: assessing the biodiversity of fermenting yeasts associated with marula fruits. FEMS Microbes 論文確認済みdoi:10.1093/femsmc/xtad018
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





