ゾウは鼻で食べ物を吸いこんでいた。吸う空気の速さは計算でくしゃみのしぶきの約30倍

動物園のゾウは、小さな食べ物が多いと鼻で吸いこんだ。鼻の穴は太くなって容積が増え、吸う空気の速さは計算で秒速150mになった。

No.207 7分で読めるえっ度 論文 2022年
アフリカゾウが鼻の先を低く下ろし、板の上に置かれた1枚の薄い丸いチップスに鼻先を近づけている。チップスが鼻先にふわりと吸いよせられている。

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  1. ゾウは小さな食べ物がたくさんあると、鼻で吸いこんで集めた
  2. 薄くて割れやすいチップスも、割らずに吸いつけて持ち上げた
  3. 水を吸うとき、鼻の穴は太くなり、入る量が増えていた

人に話すなら

ゾウって、小さいエサがたくさんあると、鼻で一気に吸いこむんだって。薄いチップスも割らずに吸いつけて持ち上げるらしいよ。

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読む前に予想しよう

ゾウは、どんな食べ物も鼻で吸いこんで食べる

ゾウの鼻は、重さが100kgを超えます。それなのに、ゾウがふだん食べているのは、草や葉のような軽くて小さなものです。アフリカゾウは1日に200kg以上の植物を食べ、1日18時間近くを食べ物探しに使います。あの太くて重い鼻で、小さな食べ物をどうやって集めているのでしょうか。

アメリカのジョージア工科大学のチームは、動物園のアフリカゾウを撮影して調べました。すると、ゾウは小さな食べ物がたくさんあると、鼻で吸いこんで集めていました。水を吸うとき、鼻の穴は太くなり、鼻の中の容積は計算で最大64%増えていました。

吸いこんで食べ物をとる方法は、それまで魚の仲間だけのものと考えられていました。多くの魚は、頭の骨が大きく動く特別なつくりを使って口の中の圧力を急に下げ、近くの獲物を水ごと吸いこみます。こうしたつくりが必要なので、この方法は水の中の動物に限られるだろうとされていたのです。

01動物園のゾウに、大きさの違う野菜を取らせた

研究の舞台は、アメリカのアトランタ動物園です。ジョージア工科大学のアンドリュー・シュルツ(Andrew Schulz)さんたちは、34歳のメスのアフリカゾウ1頭に協力してもらいました。体重は3,360kgです。2018年の夏、2時間ずつ6回に分けて実験しました。

チームは、ゾウの囲いから46cm離れた場所に、押す力を測る板を置きました。その上に、ルタバガという根菜を、1辺6.4cm、3.2cm、1.6cmの立方体に切って並べました。どの回も、食べ物の重さの合計は200gにそろえました。飼育員が声で合図すると、ゾウが鼻を伸ばして食べ物を取ります。その様子を、真上と横から撮影しました。

大きな立方体や、数が10個より少ないときは、ゾウは鼻の先でつまんで取りました。ところが、小さな立方体が10個より多いと、ゾウは鼻で吸いこみ始めました。大きな吸いこみ音がして、食べ物が次々と鼻の先に吸いよせられました。

一方で、1mmほどの細かいふすま(穀物の皮)を山にしたときは、吸いこみませんでした。チームは、細かい粒が鼻につまるのを避けたのだろうと考えています。そのときゾウは、鼻の先でふすまを押し固めて持ち上げました。

02薄いチップスを、割らずに吸いつけて持ち上げた

次にチームは、もっとむずかしい課題を出しました。厚さ0.5mmほどの、薄いトルティーヤチップス1枚です。平らな板の上にあると、つまむのがとてもむずかしい形です。自然の中なら、地面に落ちた広い葉にあたります。

このチップスは、11N(ニュートン)ほどの力で割れます。1kgの物を持つのに必要な力が約10Nなので、それより少し強いくらいの力です。ゾウの鼻の重さの1%にも満たない力です。

ゾウは、まず板のふちに軽くふれ、それからチップスに近づきました。チップスを探すときに押した力は約5Nで、割れる力の半分ほどでした。最初にふれてから持ち上げるまで、約3秒かかりました。

持ち上げ方は2通りありました。1つは、チップスから少し離れたところで吸いこみ、チップスを鼻先に吸いよせる方法です。もう1つは、鼻先をチップスに押し当てたまま吸い、くっつけて持ち上げる方法です。どちらでも、ゾウはたいていチップスを割らずに持ち上げました。

チームが測ると、ゾウがチップスを吸いよせられる距離は、鼻先から約4cmまででした。

03水を吸うと、鼻の穴が太くなっていた

吸う力の強さを知るために、チームはゾウに水を吸わせました。水には、チアシードという小さな種をまぜました。種の動きを見ると、水がどう流れているかが分かります。

ゾウは、約1.5秒で水を吸いこみました。1秒あたり3.7Lの速さです。鼻にためた水は、合わせて5.5Lでした。

ここで、なぞが1つ出てきました。チームは、病気のために安楽死させられた別のメスのアフリカゾウ(38歳)の鼻の標本を使って、鼻の穴の太さを測っていました。その太さから計算した鼻の中の容積は、5.2Lでした。ゾウは、それより多い水を吸っていたのです。

そこでチームは、超音波を使って、ゾウの鼻の壁の厚さを外から測りました。超音波は、体の中を画像にする検査で使われる音です。ふつうに息をしているときは、鼻の穴の太さはほとんど変わりませんでした。ところが水を吸うときは、鼻の壁が薄くなり、そのぶん鼻の穴が広がっていました。ふすまをまぜた水を吸うときには、鼻の穴のまわりの筋肉が縮む様子も画像に写っていました。

鼻の穴の半径は、標本と比べて、水を吸うときに18%、ふすまをまぜた水を吸うときに28%大きくなりました。鼻全体が同じ割合で広がると考えると、鼻の中の容積は40%と64%増える計算です。

アフリカゾウが、透明な水そうに鼻の先を入れて水を吸っている。水の中には小さな粒が浮かび、鼻先へ流れこんでいる。

04吸う空気の速さは、計算するとくしゃみのしぶきの約30倍だった

水を吸った速さと高さから、チームはゾウの肺が作る吸う力を計算しました。答えは、まわりの空気より約20kPa(キロパスカル)低い圧力でした。この力で空気を吸うと、鼻の先を通る空気の速さは秒速150mになる計算です。

論文によると、人がせきやくしゃみをしたときに飛ぶしぶきの速さは秒速4.5mほどです。ゾウの吸う空気の速さは、その約30倍にあたります。ただし、この秒速150mは、空気の速さを直接測った値ではありません。水を吸った実験から計算で求めた値です。

チームは、ゾウがこれほど強く吸える理由として、肺のつくりを挙げています。ゾウの肺は、むねの壁とゆるくつながっていて、動きをじゃまされにくいつくりです。また、むねの内側をおおう膜は、人やウサギ、ネズミの8倍の厚さがあるという研究もあります。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

ゾウの鼻は、空気と水の道具でもある

ゾウが鼻で空気を使うことは、昔から知られていました。1871年、ダーウィンは、ゾウが少し手の届かないところにある物に息を吹きかけて動かすことを書いています。その後の研究では、ゾウが物までの距離に合わせて吹く長さを変えることや、壁に息を当てて跳ね返らせ、物を手前に寄せることも報告されています。

鼻は水の道具でもあります。岩のすき間の水を吸い上げたり、体中に水をかけたりします。深い川を渡るときは、鼻を水面から出して息をします。今回の研究は、そこに「吸いこんで食べ物を集める」使い方を加えました。

つまむ・押し固める・吸いこむを使い分ける

同じチームは2018年、ゾウが小さな食べ物をつかむ別の方法も報告しています。鼻の途中に関節のような曲がり目を作り、その下の部分を高さ11cmまでの柱にして、食べ物を上から押し固めるのです。押す力の最大28%は、その柱の重さだけでまかなっていました。

今回の研究と合わせると、ゾウは食べ物の大きさや数に合わせて、鼻先でつまむ、押し固める、吸いこむを使い分けているようです。細かいふすまは吸わずに押し固め、小さな立方体がたくさんあれば吸いこむ、という具合です。

ほかの動物は鼻で吸いこめるのか

チームは、9種の哺乳類の鼻の穴の大きさを比べ、同じチップスをどこまで吸いよせられるかを計算しました。ゾウの次に体重が重いウシでも、鼻をチップスから1cm以内に近づけないと持ち上げられない計算でした。ブタやバクは0.65cm以内です。

人はどうでしょうか。人の肺もゾウと同じくらいの圧力を作れます。それでも、鼻の穴が小さく、肺の大きさも足りないので、鼻を0.4mm以内まで近づけないとチップスは持ち上がらない計算です。持ち上げられるのは、小さな紙切れくらいだろうと論文は書いています。

研究の限界

この研究には、はっきりした限界があります。実験に協力したゾウは1頭だけです。鼻の中の太さは、別のゾウの標本を使って見積もりました。空気の速さも、直接測ったのではなく、水の実験から計算した値です。ほかの哺乳類との比較も9種だけで、著者たちは、もっと多くの動物を測る必要があると書いています。

05まとめ

アトランタ動物園のアフリカゾウは、小さな食べ物がたくさんあると、鼻で吸いこんで集めました。厚さ0.5mmのチップスも、たいていは割らずに吸いつけて持ち上げました。

水を吸うとき、ゾウの鼻の穴は太くなり、鼻の中の容積は最大64%増える計算でした。吸う空気の速さは、計算で秒速150mになります。魚の仲間だけと思われていた「吸いこんで食べ物をとる」方法を、陸にすむゾウも使っていたのです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

アメリカ(アトランタ動物園)

研究チーム
アメリカのジョージア工科大学のアンドリュー・シュルツ(Andrew Schulz)らのチーム
調べた場所
アメリカのアトランタ動物園
調べた動物
34歳のメスのアフリカゾウ1頭(学名 Loxodonta africana)
調べ方
大きさや数を変えた食べ物を取らせて撮影し、水を吸うときの量と鼻の太さを超音波で測った
分かったこと
小さな食べ物が多いと吸いこんだ。鼻の穴は太くなり、容積は計算で最大64%増えた
まだ分からないこと
調べたのは1頭だけ。吸う空気の速さは測ったのではなく計算で求めた値
論文
Journal of The Royal Society Interface(2021年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Elephants Can Suck Up Their Food

An elephant's trunk weighs over 100 kilograms. But elephants often eat small, light food like grass and leaves. How do they pick up such small things?

Scientists studied an African elephant at a zoo in the United States. When there were many small pieces of food, she sucked them up with her trunk. She also picked up a thin tortilla chip without breaking it.

The team also watched her drink water. She sucked up water at 3.7 liters per second. The inside of her trunk became wider, so it held more water.

The scientists calculated the speed of the air going into the trunk. It was about 150 meters per second. That is about 30 times faster than the spray from a human sneeze. People once thought only fish used suction to get food. Now we know elephants can do it on land.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. When did the elephant suck up her food?ゾウはどんなときに食べ物を吸いこみましたか。

Q2. How fast did she suck up water?ゾウはどれくらいの速さで水を吸いこみましたか。

Q3. What did people once think about suction feeding?吸いこんで食べ物をとることについて、かつてはどう考えられていましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Schulz, A. K. et al. (2021) Suction feeding by elephants. Journal of The Royal Society Interface 論文確認済みdoi:10.1098/rsif.2021.0215
  2. 2Wu, J. et al. (2018) Elephant trunks form joints to squeeze together small objects. Journal of The Royal Society Interface 論文確認済みdoi:10.1098/rsif.2018.0377
  3. 3Schulz, A. K. et al. (2022) Skin wrinkles and folds enable asymmetric stretch in the elephant trunk. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2122563119
  4. 4Georgia Tech College of Engineering(2021)How an Elephant's Trunk Manipulates Air to Eat and Drinkcoe.gatech.edu/news/2021/06/how-elephants-trunk-manipulates-
  5. 5PMC(米国国立医学図書館)Schulz et al. 2021 の全文pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8169210/

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

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