眠るタコの体に、起きているときとそっくりな模様が約1時間おきに次々と現れた

タコの眠りには2つの段階があった。白く静かな眠りの合間に、1分ほど体の模様が次々変わる眠りが来る。脳の働きは起きているときと似ていた。

No.206 7分で読めるえっ度 論文 2023年
巣穴の中で目を閉じて平たく眠る小さなタコの体に、まだらや縞の模様が波のように現れている。体の半分はまだ白っぽい。

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  1. タコの眠りには、静かな眠りと活発な眠りの2段階がある
  2. 活発な眠りでは、起きているときに似た模様が体に次々と出た
  3. そのときの脳の働きも、起きているときに似ていた

人に話すなら

タコって、寝ているあいだに1時間おきくらいで体の色や模様がどんどん変わるんだって。その模様、起きているときに出す模様とそっくりらしいよ。

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読む前に予想しよう

眠っているタコは、ずっと白っぽい色のまま動かない

昼間、巣穴の中で1匹のタコが眠っています。目を閉じ、体を平たくして、全身が白っぽい色になっています。ところが、しばらくすると体に黒っぽいまだらや縞が現れ、模様が次々と入れかわります。目や体がぴくぴく動き、息も速くなります。1分ほどたつと、タコはまた白い姿にもどって、静かに眠り続けます。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)のサムエル・ライター(Sam Reiter)さんたちのチームは、この「活発な眠り」をくわしく調べました。すると、活発な眠りは約1時間おきにやってきて、そのときの脳の働きは起きているときとよく似ていました。体に出る模様も、起きているときの模様とそっくりでした。

人の眠りには、夢を多く見る「レム睡眠」と、それ以外の「ノンレム睡眠」という2つの段階があります。こうした2段階の眠りは、長いあいだ、背骨のある動物だけのものだと考えられてきました。タコは、人と5億年以上前に別の道を歩み始めた動物です。脳のつくりも、私たちとはまったく違います。

01沖縄の潮だまりでとったタコ9匹を、合わせて1,743時間撮影した

研究に使われたのは、ソデフリダコという小さなタコです。胴の長さは3cmほどで、沖縄の潮だまりでとったものです。ソデフリダコは夜に活動し、昼間に眠ります。白い光の下でも眠る様子を撮影でき、眠るときに体が白くなるので模様の変化を見つけやすいことから選ばれました。

チームは、水温22℃の水そうでタコを飼い、上からカメラで撮影しました。9匹分、合わせて1,743時間の映像です。人工知能(AI)にタコの体の場所を見分けさせ、体の明るさの変化を自動で記録しました。

静かな眠りのあいだ、タコは目を閉じ、平たい姿勢で、全身が白くなります。この静かな眠りは、約1時間ごとに、1分ほどの活発な眠りでとぎれました。活発な眠りでは、体の模様がめまぐるしく変わり、目や体が動き、息が速く不規則になりました。

水温22℃では、タコは1日におよそ10回、活発な眠りに入りました。1回の長さは平均75秒ほどでした。水温が1℃上がると、活発な眠りどうしの間隔は約5分短くなりました。一日中明るいままや、暗いままにしても、昼に多いというリズムは3日間続きました。

02弱い振動に反応しないので、本当に眠っていると分かった

体がこれだけ動いていると、本当は起きているのではないか、とも考えられます。そこでチームは、眠りかどうかを確かめる実験をしました。

まず、水そうの壁を機械で軽くたたき、タコの反応を調べました。弱い刺激でも、起きているタコは体を動かしました。ところが、静かな眠りと活発な眠りのタコは、弱い刺激では動きませんでした。強い刺激を与えると、どの状態でもすぐに体を動かしました。弱い刺激には反応せず、強い刺激には反応する。これは、眠りの特徴の1つです。

次に、タコを眠らせない実験をしました。朝7時から夕方5時まで、2〜3分おきに筆でそっと体をなでて、起こし続けたのです。これを2日続けると、その後の2晩、活発な眠りの回数が増えました。

活発な眠りが始まったところで筆でなでて止める実験もしました。すると、次の活発な眠りが、ふだんより約22分早くやってきました。足りなくなった眠りを取りもどそうとする動きです。寝不足を取りもどすこのしくみは、多くの動物の眠りに共通する特徴とされています。

03活発な眠りでは、脳の働きが起きているときに似ていた

次にチームは、眠っているタコの脳の電気の動きを測りました。細い針の形をした電極を脳に差しこみ、たくさんの場所で同時に記録したのです。頭を器具で固定するため、記録の前に、すべての腕の先2〜4cmを手術で短くしました。腕で器具を外してしまわないようにするためです。

頭を固定されたタコも眠りに入り、自由に動けるときと同じように、静かな眠りと活発な眠りをくり返しました。活発な眠りのあいだ、脳の電気の動きは静かな眠りよりずっと大きくなりました。その様子は、起きているときの脳の動きとよく似ていました。記録したのは、学習や記憶にかかわると考えられている脳の場所です。

一方、静かな眠りのあいだ、この場所の電気の動きはほとんど静かでした。ただし、ときどき、長くても1秒ほどの短い波が出ていました。この波は、人などの哺乳類がノンレム睡眠のときに出す「睡眠紡錘波」という波に、速さと長さが似ていました。睡眠紡錘波は、記憶を定着させるのに役立つと考えられています。

水そうの底で眠る小さなタコを、真上から大きなカメラが写している。タコは目を閉じ、体を平たくして、全身が白い。

04眠りの中の模様は、起きているときの模様と重なった

いよいよ体の模様です。チームは、3匹のタコの活発な眠り98回を、8Kという高画質のカメラで真上から撮影しました。そして、模様の特徴をAIで数字に置きかえて比べました。

活発な眠りの模様は、毎回違う順番で変わっていました。決まった順番を、速く流したり遅く流したりしているのではありません。それでも、同じような模様が、別の回の眠りでも、別のタコでも現れました。

起きているタコも、ときどき体を平たくして模様をはっきり見せることがあります。そのときの模様を、眠っているときの模様と重ね合わせると、形がぴったり重なる例が見つかりました。タコは活発な眠りのあいだ、起きているときに使う模様を、次々と体に出していたのです。

タコの体の模様は、皮ふにある無数の色の細胞を、脳が直接動かして作っています。そのため、眠っているあいだの模様を見れば、眠っている脳の働きを外から読み取ることができます。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

眠りながら模様を出すのは何のためか

論文は、2つの可能性を挙げています。1つは、模様を作るしくみを、眠っているあいだに調整しているという考えです。背骨のある動物でも、眠りのあいだに体の動かし方の学習が進むと考えられています。

もう1つは、起きているときの体験を、脳がもう一度たどっているという考えです。ネズミでは、起きているときの脳の活動が、眠っているあいだにもう一度くり返される現象が知られています。記憶の定着にかかわると考えられている現象です。OISTの発表は、狩りや敵から身をかくした体験を眠りの中で再現しているのなら、夢を見るのに近いことが起きている可能性がある、と書いています。ライターさんは、どの説明が正しいのか、そもそもどれかが正しいのかも、今は分からないと述べています。

タコの眠りが調べられてきた歴史

タコが眠ることは、以前から調べられてきました。マダコでは、2011年までの研究で、休むときの決まった場所と姿勢、刺激への反応の鈍さ、寝不足のあとの取りもどしがそろうことが報告されています。ヨーロッパコウイカでも、目や腕がぴくぴく動き、色がすばやく変わる眠りが観察されていました。

ただ、こうした眠りが本当に眠りなのか、静かに目を覚ましているだけなのかは、はっきりしていませんでした。2021年のブラジルの研究は、刺激への反応を調べて、活発な眠りのタコがいちばん反応しにくいことを示しました。2023年のOISTの研究は、そこに脳の電気の記録と、模様の細かい分析を加えたのです。

人のレム睡眠と同じなのか

共通点はたくさんあります。眠りの中に2つの段階があること、活発な段階で目や体がぴくぴく動くこと、脳の働きが起きているときに似ることです。静かな眠りに、睡眠紡錘波に似た波が出ることも似ています。

違いもあります。哺乳類の深い眠りでは、脳の広い範囲がそろってゆっくり波打ちますが、タコの静かな眠りでは、そうした波は見られませんでした。また、人はレム睡眠中に筋肉がほとんど動かなくなります。タコの活発な眠りでも、腕を伸ばすような大きな動きは見られませんでした。ただし、タコと人では筋肉のつくりが違うので、同じしくみとは言い切れません。

別々に進化した2段階の眠り

タコと人の祖先は、5億5000万年ほど前に分かれました。タコの大きな脳は、背骨のある動物とは別に進化したものです。それでも、よく似た2段階の眠りを持っていました。ハエなどの節足動物でも、似た眠りの報告があります。論文は、2段階の眠りは、複雑なことを考える動物がそれぞれ別々にたどり着いた答えなのかもしれない、と書いています。

05まとめ

ソデフリダコの眠りには、白く静かな眠りと、1分ほど体の模様がめまぐるしく変わる活発な眠りがありました。活発な眠りは約1時間おきに来て、そのときの脳の働きは起きているときに似ていました。

体に出る模様には、起きているときの模様とぴったり重なるものがありました。タコは、眠りの中の脳の動きを、体の模様として外に見せてくれる動物です。人のレム睡眠を調べるヒントも、この模様の中にあるかもしれません。

RESEARCH FILE

研究カルテ

日本(沖縄県恩納村)

研究チーム
沖縄科学技術大学院大学(OIST)のサムエル・ライター(Sam Reiter)らと、アメリカのワシントン大学のチーム
調べた場所
沖縄県の研究所の水そう
調べた動物
沖縄の潮だまりでとったソデフリダコ(学名 Octopus laqueus)
調べ方
眠りを長時間撮影し、刺激への反応、脳の電気の動き、体の模様を、起きているときと比べた
分かったこと
活発な眠りでは、脳の働きも体の模様も、起きているときとよく似ていた
まだ分からないこと
模様が出るのは、夢のような体験の再生なのか、模様の練習なのか
論文
Nature(2023年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Octopuses Change Colors While They Sleep

Small octopuses in Okinawa sleep during the day. When they sleep quietly, their bodies turn white and they close their eyes. But about once an hour, something strange happens.

For about one minute, their skin changes color and pattern again and again. Their eyes and bodies move, and they breathe faster. Scientists call this active sleep.

A team in Okinawa filmed nine octopuses for a total of 1,743 hours. The team also kept the octopuses awake during the day for two days. After that, the octopuses had more active sleep. During active sleep, the brain worked in a way similar to when the octopuses were awake. The patterns on their skin were also very similar to patterns from waking time.

Are the octopuses dreaming? Maybe they are practicing their patterns, or remembering what they did. The scientists say they do not know yet. Octopuses and humans are very different, but in some ways their sleep is similar.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How often does active sleep come?活発な眠りはどれくらいの間隔で来ますか。

Q2. What color are the octopuses during quiet sleep?静かに眠っているとき、タコは何色ですか。

Q3. What did the patterns during active sleep look like?活発な眠りのあいだの模様は、どんなものでしたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Pophale, A. et al. (2023) Wake-like skin patterning and neural activity during octopus sleep. Nature 論文確認済みdoi:10.1038/s41586-023-06203-4
  2. 2Medeiros, S. L. S. et al. (2021) Cyclic alternation of quiet and active sleep states in the octopus. iScience 論文確認済みdoi:10.1016/j.isci.2021.102223
  3. 3沖縄科学技術大学院大学(2023)プレスリリース:タコも夢を見る?oist.jp/ja/news-center/news/2023/6/29/octopus-sleep-surprisi
  4. 4PMC(米国国立医学図書館)Pophale et al. 2023 の全文pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10322707/

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい