オットセイは海水の中だと、レム睡眠を1日80分から3分に減らしていた
キタオットセイは海水だけのプールにいる間、レム睡眠が1日80分から3分に減った。陸に戻っても、失った分をほとんど取り返さなかった。

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- オットセイのレム睡眠は、海水の中では1日80分から3分に減った
- 海水の中では、脳の片側ずつ眠るやり方がほとんどになった
- 陸に戻っても、失ったレム睡眠をほぼ取り返さなかった
人に話すなら
オットセイって、海水の中にいる間はレム睡眠をほとんどとらないんだって。2週間近くほぼゼロでも、陸に上がってから取り返す様子もなかったらしいよ。
読む前に予想しよう
オットセイは、海水の中でとれなかったレム睡眠を、陸に戻ってからたっぷり取り返す
4頭のうち2頭は増えたが、平均すると失った分の約3%しか取り返さなかった。
人の眠りには、2つの種類があります。深くゆっくり休む「ノンレム睡眠」と、目がすばやく動く「レム睡眠」です。人の夢の多くは、レム睡眠のときに見られます。陸の哺乳類と鳥のほとんどが、この2つの眠りを持っています。
アメリカとロシアの研究者たちは、キタオットセイを海水だけのプールで10〜14日間過ごさせました。すると、レム睡眠は1日80分から、平均3分にまで減りました。陸に戻しても、失った分をほとんど取り返しませんでした。
動物には毎日レム睡眠が必要だと、これまで考えられてきました。奪うとあとで取り返そうとすることも、昔から知られていました。オットセイはその常識に当てはまりません。レム睡眠は、そもそも何のためにあるのでしょうか。
01レム睡眠は、奪うと取り返そうとする眠りだと考えられてきた
眠っている哺乳類を、レム睡眠に入るたびに起こしてみます。すると、そのあとの眠りでレム睡眠が増えます。この「取り返し」は、1960年の研究などから知られていました。体はレム睡眠の量を一定に保とうとしている、と考えられてきたのです。
ラットの実験では、レム睡眠を1週間以上奪うと、体の調子が悪くなりました。体重が減り、皮ふが傷つき、体温が下がって、最後は死んでしまいました。ラットは、実験のあとの1日目に、ふだんの5倍以上のレム睡眠をとりました。
ただし、この実験には弱点がありました。ラットは1日に何百回も起こされます。体の不調が、レム睡眠が足りないせいなのか、何度も起こされるつらさのせいなのか、見分けにくいのです。
02キタオットセイは、陸と海で眠り方を変える動物だった
キタオットセイは、北太平洋にすむアシカの仲間です。アメリカ海洋大気庁(NOAA)によると、大人は1年のうち300日以上を海で過ごします。夏の子育ての季節には、陸に数日いては、最長2週間ほど海へえさをとりに出ます。冬には、最長10か月も陸に上がらずに海を旅します。
キタオットセイは、眠り方も変わっています。多くの哺乳類と同じく、脳の左右が一緒に眠ることができます。それに加えて、脳の片側ずつ眠ることもできます。片側ずつの眠り方は、イルカやクジラで知られていたものです。
オットセイなら、何度も起こさなくても、陸に上がれるかどうかを変えるだけで、レム睡眠の変化を調べられます。陸のある条件と海だけの条件は、野生のオットセイの子育ての季節と、海を旅する季節に近いものです。
03脳波の記録装置を背負わせ、プールから陸を取りのぞいた
研究したのは、アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校のオレグ・リャミン(Oleg Lyamin)さんと、ジェローム・シーゲル(Jerome Siegel)さんたちです。ロシアの研究所の研究者も加わりました。実験は、ロシアの黒海沿岸にある研究所で行われました。
調べたのは、2〜5歳の若いキタオットセイ4頭です。オスが3頭、メスが1頭で、体重は18〜25kgでした。4頭とも、ロシアのコマンドル諸島でつかまえられ、1〜2年かけて人のもとでの暮らしに慣れていました。
チームは、手術で脳の左右に電極をつけました。目の動きや首の筋肉、心臓の動きも記録できるようにしました。記録装置は、水に強い重さ120gの箱に入れて、オットセイの背中にとりつけました。
プールは、たて横4m、深さ1.8mです。最初の2日間は、プールの真ん中に木の台を置き、陸の代わりにしました。そのあと台を取りのぞき、10〜14日間は海水の中だけで過ごさせました。最後に台を戻し、さらに2日間の眠りを記録しました。プールの水は、黒海からくみ上げた海水です。

04海水だけのプールでは、レム睡眠が1日平均3分になった
台の上で眠れる間、オットセイのレム睡眠は1日80分ほどでした。1回のレム睡眠は平均5分、長いと16分続きました。
海水だけになると、様子が一変しました。レム睡眠は1日平均3分になり、ふだんより96%少なくなりました。海水だけになって最初の3〜7日間は、4頭ともレム睡眠がまったく記録されませんでした。1頭は、11日のうち1日しかレム睡眠をとりませんでした。たまに出るレム睡眠も、平均23秒、長くても2分で終わりました。
海水の中のオットセイは、ほとんど水面に横向きに浮いて眠りました。片方の前ひれを水の中で動かしながら、脳の片側だけが眠ります。ノンレム睡眠のうち94%が、この片側だけの眠りでした。陸では61%でした。
05陸に戻っても、失ったレム睡眠をほとんど取り返さなかった
10日間で失ったレム睡眠は、平均12.8時間になりました。ふだんの約10日分にあたる量です。14日間海水の中にいた1頭は、21.5時間を失いました。
ところが、台を戻した1日目、レム睡眠はふだんとはっきりした差がありませんでした。4頭のうち2頭ははっきり増えましたが、残りの2頭はふだんどおりでした。平均すると、取り返したのは失った分の約3%だけでした。14日間海水の中にいた1頭も、陸に戻った2日間のレム睡眠は、ふだんと同じくらいでした。
陸に戻ったオットセイたちは、見た目も、動き方も、体重も、食欲も元気でした。人との関わり方も、ふだんと変わりませんでした。ただし、チームはそれ以上くわしい健康の検査はしていません。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
レム睡眠は「冷えた脳を温め直す」ためかもしれない
チームは、レム睡眠の役目について1つの考えを出しています。脳の左右が一緒に眠るノンレム睡眠では、脳の温度と働きが下がります。レム睡眠は、それを元に戻すためにあるのかもしれない、という考えです。海のオットセイは、脳の左右が一緒に眠る時間がほとんどありません。だから、レム睡眠もいらなくなったのではないか、と考えたのです。
チームは、この考えを支える材料も挙げています。陸の哺乳類の種どうしを比べると、ノンレム睡眠が長い種ほど、レム睡眠も長い傾向がありました。また、脳の一部を手術で切りはなし、体温を調節できなくしたネコの実験があります。脳の温度が25℃まで下がると、記録した時間の最大70%がレム睡眠になりました。ふつうのネコでは13%ほどです。
海でレム睡眠を減らすのは、身を守るためかもしれない
レム睡眠の間は、筋肉の力が抜けて、体温の調節も弱まります。海面で力が抜けると、鼻から海水を吸いこむおそれがあります。敵にも気づきにくくなります。実際、海水の中で起きたまれなレム睡眠では、オットセイの頭が水に沈みました。息が最長75秒止まることもありました。イルカやクジラでは、何度調べてもレム睡眠が見つかっていません。
「温め直す」説には反対の結果もある
この考えには、反対の研究もあります。2020年、ドイツのマックス・プランク鳥類学研究所などのチームは、ハトとフトアゴヒゲトカゲの脳の温度を測りました。ハトでは、レム睡眠のときに脳の温度が上がりました。ただし13〜15秒続く長めのレム睡眠でも、上がり方は平均で0.01℃ほどでした。トカゲでは、レム睡眠に似た眠りに切りかわっても、脳の温度は上がりませんでした。チームは、脳を温めることがレム睡眠の一番の役目だという考えに、疑問を投げかけています。
一方、シーゲルさんは2022年の論文で、さらに別の比べ方を示しました。体温を一定に保つ動物のグループを比べると、体温が低いグループほど、1日のレム睡眠が長い傾向がありました。卵を産む哺乳類が最も長く、鳥が最も短いという順番です。レム睡眠の役目をめぐる議論は、今も続いています。
06まとめ
キタオットセイは、陸では1日80分ほどレム睡眠をとります。ところが海水だけのプールでは、それが平均3分になり、最初の数日はゼロでした。陸に戻っても、失った分の約3%しか取り返しませんでした。研究チームは、レム睡眠は冷えた脳を温め直すためのものかもしれないと考えています。人なら夢の多くを見ているあの眠りを、オットセイは海水の中にいる間、ほとんど手放していたのです。
研究カルテ
ロシア(黒海沿岸)
- 研究チーム
- アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校とロシアの研究所のチーム(第一著者オレグ・リャミン)
- 調べた場所
- ロシアの黒海沿岸にある研究所の屋内プール
- 調べた動物
- 若いキタオットセイ4頭(学名 Callorhinus ursinus)
- 調べ方
- 脳波を記録する装置を背中につけ、陸のある2日間、海水だけの10〜14日間、陸に戻った2日間の眠りを比べた
- 分かったこと
- 海水だけの間、レム睡眠は1日80分から平均3分に減った。陸に戻っても、ほとんど取り返さなかった
- まだ分からないこと
- レム睡眠が本当に脳を温め直すためのものなのか。海で減らしても体に害はないのか
- 論文
- Current Biology(2018年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
People have two kinds of sleep. One kind is called REM sleep. Most of our dreams happen during REM sleep.
Scientists from the United States and Russia studied four young fur seals. They put a small machine on each seal's back. The machine recorded the seals' brain waves. First, the seals could sleep on a dry place in the pool. Then the scientists took the dry place away for 10 to 14 days.
On the dry place, the seals had about 80 minutes of REM sleep a day. In the seawater, they had only about 3 minutes a day. In the water, they mostly slept with only half of the brain at a time.
Later, the seals went back to the dry place. But they got back very little of the REM sleep they lost. The seals still looked healthy and ate well. Why do we need REM sleep? Scientists are still trying to find the answer.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many fur seals did the scientists study?研究者たちは何頭のオットセイを調べましたか。
若いキタオットセイ4頭の眠りを調べました。
Q2. How much REM sleep did the seals have in the seawater?海水の中で、オットセイのレム睡眠はどれくらいでしたか。
陸の代わりの台がある間は1日80分ほど、海水だけの間は1日平均3分でした。
Q3. What happened when the seals went back to the dry place?オットセイが乾いた場所に戻ると、どうなりましたか。
平均すると、失ったレム睡眠の約3%しか取り返しませんでした。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Lyamin, O. I. et al. (2018) Fur Seals Suppress REM Sleep for Very Long Periods without Subsequent Rebound. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2018.05.022
- 2Ungurean, G. et al. (2020) Comparative Perspectives that Challenge Brain Warming as the Primary Function of REM Sleep. iScience 論文確認済みdoi:10.1016/j.isci.2020.101696
- 3Siegel, J. M. (2022) Sleep function: an evolutionary perspective. The Lancet Neurology 論文確認済みdoi:10.1016/s1474-4422(22)00210-1
- 4NOAA Fisheries「Northern Fur Seal」fisheries.noaa.gov/species/northern-fur-seal
- 5アメリカ国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)「Brain Basics: Understanding Sleep」ninds.nih.gov/health-information/public-education/brain-basi
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





