体長1cm弱で脳のないヒドラも眠るらしい。眠らせないと細胞が増えにくくなった
脳のないヒドラにも眠りに似た状態があった。眠りを奪うと次の日に長く眠り、細胞の増え方も落ちた。人の眠りにかかわる物質で、眠りがふえた。

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- 脳のないヒドラにも、眠りに似た状態があった
- 眠りを奪うと、次の日に眠りがふえ、細胞も増えにくくなった
- 人の眠りにかかわる物質のいくつかが、ヒドラでも効いた
人に話すなら
脳がないヒドラっていう小さな生き物も、眠るんだって。眠らせないと次の日に寝だめして、体の細胞も増えにくくなるらしい。眠りは脳より古いのかも。
読む前に予想しよう
脳がない生き物は、眠ることができない
脳のないヒドラやクラゲにも、眠りに似た状態が見つかっている。
眠りは、脳を休ませるためのもの。多くの人はそう考えています。ところが、脳をまったく持たない生き物も、眠っているらしいことが分かってきました。淡水にすむ、体の大きさ1cm弱のヒドラです。
九州大学などのチームは、ヒドラの動きを5秒ごとに撮影して、何日も調べました。すると、ヒドラは20分以上じっとしていると、光への反応が遅れることが分かりました。眠りを奪うと次の日に長く眠り、体の細胞の増え方も落ちました。人の眠りにかかわる物質のいくつかが、ヒドラの眠りもふやしました。
この研究を中心になって進めたのは、当時理学部の4年生だった学生です。チームは、動物は脳ができるより先に、眠りのしくみを手に入れていたのかもしれないと考えています。眠りの始まりを、ずっと昔までさかのぼらせる発見です。
01脳がなく、神経が体じゅうに散らばった生き物
ヒドラは、クラゲやイソギンチャクと同じ「刺胞動物」の仲間です。刺胞動物は、刺胞という特別な細胞を使って獲物をとらえる生き物のグループです。ヒドラの体は、細い筒の先に触手がついた形をしています。体は2層の細胞だけでできています。体を切っても、それぞれの切れはしが1匹のヒドラにもどるほど、再生する力が強い生き物です。
ヒドラには神経の細胞があります。けれども、神経は体じゅうにあみの目のように散らばっていて、脳のようにまとまった場所はありません。こうした神経のつくりは、動物の神経のはじめの姿に近いと考えられています。
眠りは、ほ乳類や鳥だけでなく、魚、昆虫、線虫という小さな虫でも見つかっていました。どれも、脳を持つ動物です。脳を持たない動物でも眠るのか。それが分かれば、眠りがいつ、何のために生まれたのかに近づけます。この研究の少し前の2017年には、脳のないクラゲでも、眠りに似た状態が報告されていました。
0220分以上じっとしたヒドラは、光への反応が遅れた
研究の中心になったのは、九州大学の金谷啓之さんです。指導したのは、九州大学の伊藤太一さんたちです。韓国の蔚山(ウルサン)科学技術院のチームも加わりました。論文は2020年に発表されました。
チームは、ヒドラを1匹ずつ小さな容器に入れ、12時間明るく12時間暗い部屋で育てました。暗い間も見えるように、目に見えない赤外線の光を当てて撮影しました。5秒ごとの写真を比べ、画像が変わればヒドラが動いたと判断します。2分のうち半分以上の写真で動きがなければ「じっとしている」と数えました。
じっとしているだけでは、眠っているとは言えません。眠りには、外からの刺激に反応しにくくなるという特徴があります。そこでチームは、夜にじっとしているヒドラに、光を当てました。すると、20分以上じっとしていたヒドラは、光に反応するまでの時間が長くなりました。エサの合図になる物質を与えたときも、同じように反応が遅れました。
チームは、この「20分以上じっとして、反応が鈍くなった状態」をヒドラの眠りと決めました。調べると、ヒドラは明るい時間より暗い時間に長く眠っていました。光を当てるとすぐに目をさますので、気を失っているのとも違います。

03眠りを奪うと、次の日に長く眠り、細胞の増え方が落ちた
人は、徹夜をした次の日に長く眠ります。眠りが足りない分を取りもどすこのしくみも、眠りの大事な特徴です。チームは、ヒドラの眠りを奪ってみました。夜の最後の6時間、容器を15分ごとにそっとゆらしたのです。すると、ヒドラは次の日の明るい時間に眠りがふえ、眠りに入るまでの時間も短くなりました。
ゆらすこと自体が負担になっている可能性もあります。そこでチームは、温度を使う方法も試しました。10℃の水に慣らしたヒドラを、6時間だけ20℃にすると、眠りがへります。夜にこれを行うと、その後に眠りがふえました。
さらにチームは、眠りを奪ったヒドラの細胞を調べました。分かれて増えている細胞に目印をつけて数えたところ、36時間眠りを奪ったヒドラでは、増えている細胞がはっきりへっていました。ゆらす方法だけでなく、薬で眠りを減らしても、同じようにへりました。体のどの部分でもへっていました。ほ乳類やショウジョウバエでも、眠りを奪うと細胞が増えにくくなることが知られています。
04人の眠りにかかわる物質が、ヒドラでも効いた
チームは、ヒドラの水にいろいろな物質を入れて、眠りの量を測りました。メラトニンは、人では夜に多く作られ、眠りにかかわるホルモンです。メラトニンを入れると、量が多いほどヒドラの眠りがふえました。神経の働きをおさえるGABAという物質でも、眠りがふえました。
ところが、ドーパミンでは予想と逆のことが起きました。ドーパミンは、多くの動物で目をさまさせる働きを持つ物質です。それなのに、ヒドラではGABAと同じくらい強く眠りをふやしたのです。
眠りを奪ったヒドラでは、212個の遺伝子の働きが変わっていました。その中には、線虫やハエ、ほ乳類で眠りにかかわるPRKG1という遺伝子がありました。この遺伝子が作る物質の働きを薬でおさえると、ヒドラの眠りはへりました。逆に働きを強めると、眠りはふえました。
ヒドラでは遺伝子を操作しにくいので、チームは、同じ仲間の遺伝子をショウジョウバエで働かなくしてみました。すると、いくつかの遺伝子で、ハエの眠りの量が変わりました。オルニチンというアミノ酸は、ハエ(交尾したメス)では眠りをふやしたのに、ヒドラでは眠りをへらしました。眠りのしくみの一部は、動物の進化の中で役割が入れかわったのかもしれないと、チームは考えています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
クラゲの眠りに先をこされた学生
金谷さんは、2017年、学部2年生のころから、脳を持たない動物に眠りがあったら面白いと考えていました。ところが、クラゲにも眠りに似た状態があるという論文が先に出ました。そこで、体のつくりが単純で、実験によく使われてきたヒドラに研究の相手を変えたそうです。金谷さんは学部生の間に、最初の著者として3本の論文を出しています。
その先をこした研究は、アメリカのカリフォルニア工科大学のチームによるものです。浅い海の底でかさを下にして暮らすサカサクラゲの、かさを縮める回数を数えました。23匹を6日間調べると、夜は昼より、20分あたりの回数が平均で約32%少なくなりました。クラゲを水の上のほうへ持ち上げてから落とすと、夜は、最初にかさを動かすまでに平均5.9秒かかりました。昼は平均2.1秒でした。夜に20分ごとに水の流れを当てて眠りを妨げると、次の日の動きがへりました。メラトニンや、背骨のある動物では眠りを引き起こす、ヒスタミンの働きをおさえる薬でも、動きがへりました。
体内時計がなくても、眠りはある
ヒドラの研究では、もう1つの発見がありました。一日中明るくしたり暗くしたりすると、ヒドラの24時間のリズムは消えました。ヒドラは、1日の時間をはかる「体内時計」を持たないらしいのです。そのかわりに、一日中暗くしたときには、約4時間ごとの眠りのリズムが見つかりました。チームは、これが体内時計の生まれる前の姿かもしれないと考えています。
ただし、クラゲについては見方が分かれています。2017年の研究では、一日中暗くしてもクラゲの動きに1日のリズムが残りました。一方、2026年にイスラエルのバル=イラン大学のチームがサカサクラゲの一種(Cassiopea andromeda)を調べると、一日中暗くした条件でリズムは消えました。このチームは、サカサクラゲの眠りは主に明るさで決まると考えています。
眠りは、細胞の傷を直すために生まれたのか
バル=イラン大学のチームは、サカサクラゲとイソギンチャクの一種を調べました。どちらも、1日のおよそ3分の1を眠って過ごしていました。サカサクラゲは夜に眠り、昼にも短い昼寝をしていました。アメリカ・フロリダ州の海で野生のクラゲを調べても、同じでした。
このチームは、神経の細胞のDNAについた傷の数を数えました。すると、起きている間に傷がふえ、眠ると減っていました。眠りを奪ったり、紫外線を当てたりして傷をふやすと、そのあと眠りがふえました。メラトニンで眠らせると、傷はへりました。チームは、神経のDNAの傷を直すことが、眠りが生まれた理由の1つかもしれないと考えています。ヒドラで細胞の増え方が落ちたことも、眠りと細胞の働きのつながりを示す結果です。ただ、眠りがもともと何のためにあったのかは、まだはっきりしていません。
「眠り」は行動で決めている
ヒドラやクラゲには脳がないので、人のように脳波で眠りを確かめることはできません。じっとしていること、反応が鈍いこと、眠りを奪うと取りもどすこと。こうした行動の特徴から「眠りに似た状態」と判断しています。ヒドラの研究で使った撮影の方法では、体を曲げる動きや触手をゆらす動きの一部が見のがされることも、論文に書かれています。散らばった神経が眠りにどうかかわるのかも、まだ分かっていません。
05まとめ
脳を持たないヒドラも、20分以上じっとすると反応が鈍くなる、眠りに似た状態に入っていました。眠りを奪うと次の日に長く眠り、細胞の増え方も落ちました。メラトニンやGABAで眠りがふえる一方、ドーパミンは多くの動物とは逆に眠りをふやしました。クラゲやイソギンチャクでも、眠りは見つかっています。眠りは、脳ができる前からあったのかもしれません。この研究の中心にいたのは、まだ学部4年生だった学生でした。
研究カルテ
日本 福岡県福岡市
- 研究チーム
- 九州大学の金谷啓之(研究当時は理学部4年生)、伊藤太一らと、韓国の蔚山科学技術院のチーム
- 調べた場所
- 九州大学の実験室(福岡市)
- 調べた動物
- 淡水にすむヒドラ(学名 Hydra vulgaris)
- 調べ方
- 5秒ごとに撮影して動きを数え、光への反応、眠りを奪ったあとの変化、薬や遺伝子の働きを調べた
- 分かったこと
- 20分以上じっとすると反応が遅れる「眠り」があり、眠りを奪うと細胞の増え方が落ちた
- まだ分からないこと
- 散らばった神経が眠りにどうかかわるのか。眠りがもともと何のためにあったのか
- 論文
- Science Advances(2020年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Hydra is a small animal that lives in fresh water. It is a relative of jellyfish. It is less than one centimeter long, and it has no brain. Its nerve cells are spread all over its body.
A team led by a student in Japan filmed each hydra every five seconds. When a hydra stayed still for more than 20 minutes, it reacted to light more slowly. The team called this state sleep.
The scientists shook the hydras gently at night to keep them awake. They also kept some hydras awake with warmer water. The next day, the hydras slept more. Their cells also grew in number more slowly.
Melatonin helps people sleep, and it made hydras sleep more too. Dopamine keeps many animals awake, but it made hydras sleep more. Jellyfish also have a state like sleep. So sleep may be older than the brain.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How long did a hydra stay still before it reacted to light more slowly?ヒドラが何分以上じっとしていると、光への反応が遅くなりましたか。
20分以上じっとしていたヒドラは、光への反応が遅くなりました。
Q2. What happened after the hydras were kept awake at night?夜に起きたままにされたヒドラは、どうなりましたか。
眠りを奪われたヒドラは、次の日に前より長く眠りました。
Q3. Which animal also has a state like sleep?眠りに似た状態があるのは、どの動物ですか。
脳のないクラゲにも、眠りに似た状態が見つかっています。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Kanaya, H. J. et al. (2020) A sleep-like state in Hydra unravels conserved sleep mechanisms during the evolutionary development of the central nervous system. Science Advances 論文確認済みdoi:10.1126/sciadv.abb9415
- 2九州大学(2020)プレスリリース「私たちの眠りの起源はどこに?」kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/504/
- 3九州大学理学部(2020)「睡眠メカニズムの形成は脳の獲得に先立つ」sci.kyushu-u.ac.jp/koho/qrinews/qrinews_201208.html
- 4Nath, R. D. et al. (2017) The Jellyfish Cassiopea Exhibits a Sleep-like State. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2017.08.014
- 5Aguillon, R. et al. (2026) DNA damage modulates sleep drive in basal cnidarians with divergent chronotypes. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/s41467-025-67400-5
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





