クモは空の電気を感じて飛ぶ準備をする。風を止めた箱で36匹を調べて分かった

風を止めた箱で、空にあるのと同じくらいの電気をかけると、小さなクモは糸を出して飛び立つ準備を始めた。ただし別の実験では、風のほうが大きな役割だった。

No.215 8分で読めるえっ度 論文 2021年
晴れた朝の草地で、小さな黒いクモが草の先でおしりを空に向けて高く上げ、細い糸を何本も扇のように空へのばしている。8本の脚で草の先をしっかりつかんでいる。

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  1. クモは糸を出して風に乗り、空を旅することができる
  2. 風のない箱で電気をかけると、クモは飛ぶ準備を始めた
  3. ただし別の実験では、飛び立つには風のほうが大事だった

人に話すなら

羽のないクモって、糸を出して空を飛ぶんだけど、空にある電気も感じてるらしいよ。風のない箱で電気をかけたら、飛ぶ準備を始めたんだって。

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空を飛ぶクモは、空気中の電気に反応することがある

クモには羽がありません。それなのに、上空4kmで見つかったことがあり、何百kmもはなれた場所まで移動すると報告されています。クモは、草や枝の先にのぼり、おしりから糸を出して、ふわりと空へ浮かび上がります。この空の旅は「バルーニング」と呼ばれています。

イギリスのブリストル大学のチームは、風がほとんど起きない箱の中にクモを入れ、くもりや嵐の日の空にあるのと同じくらいの電気をかけました。すると、クモは飛び立つ準備の動きを始め、糸でぶら下がる回数もふえました。実験に使った36匹のクモは、電気を感じとっていたのです。

クモの空の旅は、長く「風まかせ」だと考えられてきました。けれども、風だけでは説明しきれない点がいくつもありました。2018年の研究は、200年近く前からある「電気で飛ぶのでは」という古い考えを、初めて実験で調べたものです。

01風だけでは説明できない、クモの空の旅

19世紀のはじめには、クモがどうやって空に浮かぶのかについて、2つの考えがありました。1つは、風が糸を引っぱるという考えです。もう1つは、空気中の電気の力が糸に働くという考えです。その後、風の考えが主流になりました。

ところが、風の考えには説明しにくい点がありました。研究チームは論文の中で、次のような点を挙げています。

  • クモは、風の速さが秒速3mより弱いときにしか飛び立たない。とても弱いそよ風なのに、大きめのクモも飛ぶ
  • 何本も出した糸が、からまらずに扇の形に広がる
  • 晴れた日だけでなく、くもりや雨の日にも飛ぶことがある

糸が扇のように開くのは、糸どうしが電気の力でしりぞけ合っているからではないか、という指摘もありました。それでも、電気がクモの空の旅にかかわるかどうかは、それまで一度も実験で確かめられていませんでした。

02空には、いつも弱い電気がある

地面と空の間には、晴れた日でも電圧の差があります。論文によると、晴れた日の平らな野原では、高さが1m違うと電圧が約120V違いました。この「高さ1mあたりの電圧の差」で表すものを「電場」と呼びます。電場の強さは、天気でかわります。雨雲や霧があると、高さ1mにつき数千Vになることもあります。

電場は、とがった物の先で強くなります。木や草は地面とつながっているので、葉や枝の先のまわりでは電場がとくに強まります。チームの計算では、少し天気がくずれた日に、高さ35mの木のこずえの約10m上で、電場が高さ1mにつき2,000Vをこえました。葉や枝の先では、高さ1mあたり何万Vという強さになります。

クモが飛び立つのは、まさにこうした草や枝の先です。クモの糸は電気を通しにくく、マイナスの電気をおびやすい素材です。もしクモが電場を感じとれるなら、飛び立つのによい時を、電気から知ることができるかもしれません。チームはそう考えました。

03風のない箱で電気をかけると、クモは飛ぶ準備を始めた

研究を行ったのは、エリカ・モーリー(Erica Morley)さんとダニエル・ロバート(Daniel Robert)さんです。2016年の7月から10月に、ブリストル大学のラングフォードのキャンパスで、空を飛んできた小さなクモをわなでつかまえました。サラグモ科のエリゴネ属(Erigone)のクモです。

実験の箱は、1辺0.9mのプラスチックの箱です。中の空気がほとんど動かないようにしてあります。箱の天井と床には、アルミの板を0.8mはなして置きました。この板に0V、1,000V、5,000Vの電気をかけると、箱の中に上下方向の電場ができます。強さは、高さ1mにつき0V、1,250V、6,250Vです。くもりや霧、嵐の日の空や、木や草のまわりの電場にあたる強さです。

箱の真ん中には、細長い紙の台を立てました。紙は、電気をためにくい素材を選びました。台のまわりには浅く水をはって、クモが歩いてにげないようにしました。箱ごと、外の電気や音をさえぎる部屋に置きました。

クモは1匹ずつ台の先に置き、5分間落ち着かせてから電気を入れ、2分間撮影しました。1匹のクモに3つの強さを、1日1つずつ、順番を変えて試しました。電気なしの回でも、電源のスイッチは同じように入れたり切ったりしました。人が近づくことによる影響を、同じにそろえるためです。動画は、どの条件か分からない状態で数えました。

透明な四角い箱の中に、細長い紙の台が立っている。台の先で小さなクモがおしりを上げ、糸を出して、ふわりと浮き上がり始めている。箱の上と下には平らな金属の板がある。

数えたのは、2つの動きです。1つは「つま先立ち」です。脚をのばし、おしりを空に向けて上げ、糸を出す姿勢です。つま先立ちは、バルーニングの直前にだけ見られる動きです。もう1つは、糸でぶら下がって下へおり、そこから飛ぶための糸を出す動きです。

結果ははっきりしていました。電気をかけると、糸でぶら下がる動きは、1,250Vの条件でも6,250Vの条件でもふえました。つま先立ちは、6,250Vの条件でふえました。さらに、空中に浮かんだクモは、電気を入れると上に、切ると下に動きました。

04脚の毛が、電気に引っぱられて動いた

クモは、どこで電気を感じているのでしょうか。チームが目をつけたのは、脚に生えている細い毛です。クモの脚には「トリコボスリア」という、とても敏感な毛があります。ごくわずかな空気の動きや音にも反応する毛です。マルハナバチでも、体の毛が電気を感じているのではないかと考えられています。

チームは、オスのクモの前脚の毛にレーザーの光を当てて、毛の動きを測りました。すると、電場をかけると毛が動きました。風(秒速0.5m)を当てたときとは、動き方が違いました。風のときは、風が当たっている間ずっと毛がかたむいたままでした。電場のときは、電気を切りかえた瞬間に大きく動き、30秒ほどかけて元にもどりました。

比べるために、脚にあるトゲも測りました。トゲは、電場をかけても動きませんでした。このことから、毛の動きは、クモの体全体のゆれや空気の流れではなく、電気の力によるものだと考えられます。風と電気で動き方が違うので、クモは同じ毛で2つを区別できるのかもしれないと、チームは書いています。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

ダーウィンも見た「凪の日のクモ」

クモの空の旅には、長い研究の歴史があります。チャールズ・ダーウィンは、ビーグル号で航海していたとき、風の弱い日に、海の上で何百匹ものクモが船に降りてくるのを見ました。ダーウィンは、上に向かう空気の流れが力になっているのではないかと考えました。ただ、その観察だけでは、風と電気のどちらが正しいかは決められませんでした。クモの糸は電気を通しにくく、電気の研究で有名なマイケル・ファラデーが、電気の量を測る実験に使ったこともあります。

風のない箱で、クモは本当に浮き上がった

2020年、モーリーさんはアメリカのハワイ大学の物理学者ピーター・ゴーラム(Peter Gorham)さんと、続きの研究を発表しました。同じ箱の中で、エリゴネ属のクモが浮き上がった3回の様子を、くわしく分析したものです。箱の中では、目立った空気の流れは起きない条件でした。動き方から計算すると、糸には少なくとも1.15ナノクーロン(ナノは10億分の1)のマイナスの電気がたまっていたと見積もられました。2人は、風の力がなくても、電気の力だけでクモが浮くことができると結論づけています。

「やはり風が主役」という反対の実験

一方、2021年にドイツのコブレンツ・ランダウ大学などのチームは、別の結果を報告しました。ドイツとフランスの草地でつかまえた、サラグモ科の3種、合わせて140匹のクモを調べた実験です。電気なし、電気だけ(高さ1mあたり6,250V)、扇風機の風だけ(秒速1.3〜2.3m)、電気と風の両方、の4つの条件を、1匹ずつすべて試しました。

その結果、電気だけでも、つま先立ちはふえました。けれども、風の効果は電気の2倍以上強いものでした。実際に飛び立つ回数は、電気ではふえず、風があるかどうかで決まっていました。電気だけでクモが浮き上がったのは、全部の試行の中でたった1回でした。チームは、電気は「補助的な役割」で、風がいちばん大きな要因だとまとめています。

さらにこのチームは、ひらけた野原での電場は、高さ1mあたり50〜300Vほどだと指摘しています。草の先でも、計算では1,000Vほどです。実験の6,250Vは、それよりずっと強い値です。

大きなクモは、細い糸の束で風をつかむ

2018年には、ドイツのベルリン工科大学のチームが、体重16〜20mgのカニグモの仲間を野外と風洞で観察しました。風洞とは、風を人工的に起こして調べる装置です。このクモは、太さ121〜323ナノメートル(1ナノメートルは100万分の1mm)のとても細い糸を50〜60本出し、その長さは平均3mほどでした。チームは、これほど細くて長い糸の束なら、弱いそよ風の中にある上向きの流れで、大きなクモも浮かぶと計算しています。クモは前脚で風の様子を確かめ、よい風を待ってから飛び立っていました。

この研究の第一著者のムンソン・チョウ(Moonsung Cho)さんは、2021年のまとめの論文で、風と電気のどちらで説明するかの論争は長く続いていると書いています。風も電場も目に見えず、クモの細い糸も肉眼ではほとんど見えないことが、研究を難しくしています。モーリーさん自身も、電気は飛ぶのに「十分」だが、いつも「必要」とは限らず、風と電気が一緒に働いているのだろうと書いています。

05まとめ

羽のないクモは、糸を出して空を旅します。イギリスのブリストル大学のチームが、風を止めた箱でクモに電気をかけると、クモはつま先立ちや糸でぶら下がる動きを始め、脚の毛も電気で動きました。一方で、ドイツなどのチームの実験では、実際に飛び立つかどうかは風で決まっていました。クモの空の旅は、風と空の電気の両方がからむ、まだ答えの出きっていない問題です。晴れた日に、草の先や柵の上で、おしりを空に向けて立つ小さなクモを探してみてください。

RESEARCH FILE

研究カルテ

イギリス ブリストル

研究チーム
イギリスのブリストル大学のエリカ・モーリーとダニエル・ロバート
調べた場所
イギリス・ブリストル大学の実験室(クモは大学のラングフォードのキャンパスでつかまえた)
調べた動物
サラグモ科エリゴネ属(Erigone)のおとなのクモ36匹
調べ方
空気が動かない箱で、0・1.25・6.25kV/mの電気を上下にかけ、2分間の動きを撮影した
分かったこと
電気をかけると、つま先立ちや糸でぶら下がる動きがふえた。脚の毛も電気で動いた
まだ分からないこと
野外で電気がどれほど役に立っているか。風とどう組み合わさるのか
論文
Current Biology(2018年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Spiders Can Feel Electricity in the Air

Spiders have no wings, but some of them can fly. They climb to the top of a plant and let out silk. Then they float away into the sky.

There is always weak electricity between the sky and the ground. Scientists in the UK put 36 small spiders in a box with almost no wind. Then they made an electric field like the one in the sky. The spiders raised their bodies and let out silk more often.

Small hairs on their legs moved in the electric field. The hairs moved in a different way in the wind. So spiders may feel both wind and electricity with the same hairs.

But another team in Germany found a different result. In their test, wind was much more important than electricity. Spiders almost never took off without wind. Maybe wind and electricity work together.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many spiders did the UK scientists put in the box?イギリスの研究者は、箱に何匹のクモを入れましたか。

Q2. What moved in the electric field?電場の中で動いたのは何ですか。

Q3. In the German test, what was more important?ドイツの実験では、何のほうが大事でしたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Morley, E. L. & Robert, D. (2018) Electric Fields Elicit Ballooning in Spiders. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2018.05.057
  2. 2Morley, E. L. & Gorham, P. W. (2020) Evidence for nanocoulomb charges on spider ballooning silk. Physical Review E 論文確認済みdoi:10.1103/PhysRevE.102.012403
  3. 3Narimanov, N. et al. (2021) Disentangling the roles of electric fields and wind in spider dispersal experiments. Journal of Arachnology 論文確認済みdoi:10.1636/JoA-S-20-063
  4. 4Cho, M. et al. (2018) An observational study of ballooning in large spiders: Nanoscale multifibers enable large spiders' soaring flight. PLOS Biology 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pbio.2004405
  5. 5Cho, M. (2021) Aerodynamics and the role of the earth's electric field in the spiders' ballooning flight. Journal of Comparative Physiology A 論文確認済みdoi:10.1007/s00359-021-01474-6

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい