ヒヨドリに食べさせたナナフシの卵は5〜20%が無傷でフンから出て、ふ化したものもあった

ナナフシの卵をヒヨドリに食べさせると、5〜20%が無傷でフンから出て、一部はふ化した。飛べないナナフシが鳥に運ばれている可能性がある。

No.213 7分で読めるえっ度 論文 2026年
秋の雑木林で、ヒヨドリが細長い緑色のナナフシをくちばしにくわえて枝にとまっている。ナナフシは木の枝にそっくりな細い体で、6本の細長い脚があり、はねはない。

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  1. ナナフシの卵は植物の種のように硬い
  2. ヒヨドリに食べさせると、一部が無傷でフンから出てふ化した
  3. 鳥が、飛べないナナフシを遠くへ運んでいるかもしれない

人に話すなら

ナナフシの卵って種みたいに硬くて、ヒヨドリに食べさせても5〜20%は無傷でフンから出てくるんだって。そこから赤ちゃんがふ化したこともあるらしい。飛べないナナフシが鳥に運ばれてるかもしれないんだよ。

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読む前に予想しよう

鳥に食べさせたナナフシの卵が、フンから出たあとにふ化したことがある

ナナフシは、木の枝にそっくりな細長い体を持つ昆虫です。日本でよく見られるナナフシモドキには、はねがありません。歩くのもゆっくりです。それなのに、ナナフシのなかまには、一度もほかの陸地とつながったことがない島にまで分布しているものが少なくありません。どうやって移動したのでしょうか。

神戸大学の末次健司さんたちは、ナナフシを遠くへ運んでいるのは、ナナフシを食べる鳥かもしれないと考えました。ナナフシの卵をヒヨドリに食べさせる実験をすると、卵の5〜20%が無傷でフンから出てきました。そのうえ、フンから出てきた卵から、ナナフシの子がふ化したのです。

鳥に食べられた昆虫は、おなかの中の卵ごと命を終える。それが、これまでのふつうの考え方でした。植物の種は、果実ごと鳥に食べられ、フンといっしょに遠くへ運ばれます。ナナフシの卵にも、同じことが起きているかもしれないのです。

01ナナフシの卵は、植物の種のように硬い

ナナフシのなかまの卵は、とても変わっています。多くの種で、卵の大きさ・形・色・表面の手ざわりが、植物の種によく似ています。卵のからは硬く、一番外側にはシュウ酸カルシウムという物質の層があります。この層は、強い酸の中(pH2)でしかとけません。

ナナフシには、もう1つ大事な特徴があります。多くの種が、オスなしでメスだけで子を残せるのです。これを「単為生殖」といいます。ふつうの昆虫は、卵を産む直前に、たくわえておいた精子で卵を受精させます。だから、産む前のメスが食べられると、おなかの中の卵は育ちません。

ところが単為生殖のナナフシなら、メスのおなかの中の卵も、そのまま育つ力を持っています。研究チームは、卵が丈夫なら、メスが鳥に食べられても、おなかの卵は消化されずにフンと出てくるのではないかと考えました。ナナフシは鳥によく食べられています。論文には、ヒヨドリの親がナナフシモドキをひなに運んでくる写真ものっています。

02卵をえさにまぜて、ヒヨドリに食べさせた

実験は、東京農工大学(東京都府中市)で行われました。使ったのは、ナナフシモドキ、トゲナナフシ、トビナナフシの3種です。どれも単為生殖ができるナナフシです。鳥は、日本でナナフシを食べるおもな鳥の1つであるヒヨドリです。

研究チームは、メスのおなかから取り出した卵を、人工のえさにまぜました。2015年11月の中ごろ、ナナフシモドキ45個、トゲナナフシ40個、トビナナフシ60個の卵を、それぞれヒヨドリに食べさせました。ヒヨドリは3時間以内にフンをしました。研究チームはフンを集め、顕微鏡でのぞいて、こわれていない卵の割合を数えました。

035〜9%の卵が無傷で出てきたが、最初はふ化しなかった

2015年の実験では、無傷で出てきた卵の割合は、ナナフシモドキで5.0%、トゲナナフシで8.3%、トビナナフシで8.9%でした。卵の多くはこわれていましたが、一部は鳥の消化管を通りぬけたのです。

ところが、この無傷の卵からは、2年たっても1個もふ化しませんでした。ナナフシの卵は、ふつうの条件でもふ化する割合が低いことが分かっています。ただ、見た目は無傷でも、鳥のおなかの中の酸や温度で、中の命が死んでいた可能性も残りました。

鳥のフンのそばに、植物の種のような形の小さなナナフシの卵がいくつか転がり、その1つから細長い脚の小さなナナフシの子が出てきている。

042回目の実験で、フンから出た卵がふ化した

研究チームは、2017年10月下旬に、もう一度実験しました。今度はナナフシモドキの卵70個を、同じ方法でヒヨドリに食べさせました。すると、20.0%にあたる14個が無傷で出てきました。

そして2018年2月下旬までに、その14個のうち2個から、ナナフシモドキの子がふ化しました。鳥に食べられたナナフシの卵の少なくとも一部が、生きたまま外に出られることが、直接確かめられたのです。

ヒヨドリは、平均で時速40〜60kmで飛べます。研究チームは、ナナフシを食べたヒヨドリが、数十km先まで卵を運ぶ可能性があると考えました。また、ナナフシが卵をつくる9〜11月は、ヒヨドリが10羽から数百羽の群れで移動する時期と重なっています。

05日本各地のナナフシの遺伝子に、遠くへ運ばれたあとが残っていた

実験で卵が鳥のおなかを通りぬけても、野生で本当にそれが起きているかは分かりません。そこで末次さんと福島大学の兼子伸吾さんたちは、2023年に、日本各地のナナフシモドキの遺伝子を調べた結果を発表しました。

研究チームは、2014〜2018年に、四国で31匹、本州で36匹の合わせて67匹を集めました。オスはめったに見つからない種で、集まったのはすべてメスでした。母から子に伝わるミトコンドリアのDNAなど、3種類の方法で遺伝子を比べました。

飛べない昆虫は、ふつう山や海でへだてられると行き来できません。そのため、地域ごとに違う遺伝子を持つようになります。日本の昆虫、特に動く力の弱い昆虫の多くは、近い場所どうしでも遺伝子の違いがはっきり出ます。ところがナナフシモドキでは、とれた場所と遺伝子の型の間に、はっきりした関係がありませんでした。同じミトコンドリアDNAの型が、最大で683km離れた場所から見つかったのです。

研究チームは、鳥による長い距離の移動が、この分布を一番うまく説明すると考えています。ヒヨドリのほか、ハシブトガラス、カケス、モズ、ノスリなどもナナフシを食べます。1羽のハシブトガラスの胃から、最大17匹のナナフシが見つかった記録もあります。ただし、東日本の集団では、遠いほど遺伝子が違うという関係が見られました。遠くへの移動はそう頻繁ではないことも示しています。

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なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

種を食べる鳥では、卵はこなごなになる

ナナフシの卵が鳥に運ばれるという考えには、反対の結果もあります。2011年、アメリカのカリフォルニア大学デービス校のマタン・シェロミ(Matan Shelomi)さんは、3種のナナフシの卵をウズラとニワトリに食べさせました。この2種は、地面で種をついばむ鳥です。千個近い卵を食べさせても、こわれずに出てきた卵は1個だけでした。

2026年には、ドイツのキール大学のチームが、ハトでも試しました。ナナフシやコノハムシのなかま7種の卵を50個ずつ食べさせました。すると、1種の卵が8個だけ形を保って出てきましたが、1個もふ化しませんでした。実験室で鳥のおなかの中をまねると、強い酸にひたした2種の卵はすべて死にました。熱や、砂ぶくろ(砂のう)で小石とこすれることも、卵を傷めました。

種を食べる鳥は、砂のうで種をすりつぶします。末次さんたちも、種を食べる鳥が卵を運ぶ見こみは低いと書いています。末次さんたちが考えているのは、虫を食べる鳥が、卵をおなかに持ったメスを丸ごと食べる場合です。キール大学のチームも、虫を食べる鳥や、メスの体の中にある卵がどうなるかは、これから調べる必要があるとしています。

ナナフシは食べられたいわけではない

多くの植物は、甘い果肉や目立つ色で、鳥に果実を食べてもらいます。ナナフシは逆で、枝にそっくりな目立たない姿をしています。研究チームも、ナナフシは鳥に食べられようとしているわけではないと強調しています。鳥に食べられることは、ナナフシの主な広がり方ではありません。たまたま食べられたメスのおなかに硬い卵があったときだけ、生き残るチャンスがある、ということです。

では、卵が硬いのはなぜでしょうか。末次さんたちは、鳥に運ばれるためではなく、卵に寄生するハチから身を守るために進化したのではないかと考えています。ナナフシの卵は、ハチに寄生されて死ぬことが多いからです。鳥のおなかを通りぬけられるのは、その「おまけ」なのかもしれません。この点はまだ分かっていません。

実験の限界と、残る疑問

2018年の実験は、メスのおなかから取り出した卵をえさにまぜたもので、ナナフシを丸ごと食べさせたわけではありません。ふ化したのは、1種の2個だけです。また、鳥のおなかを無傷で通る卵は1割ほどです。研究チームも、鳥に運ばれて子孫を残すことは、めったに起きないだろうと書いています。

それでも、ほとんど動かない昆虫にとっては、まれな遠い移動が大きな意味を持つことがあります。ふ化した子は、自分でえさの植物にたどり着かなければなりません。ただ、ナナフシのメスはもともと、木の上から卵を地面に落とします。ふ化した子が自分でえさを探すのは、ふだんと同じなのです。ニホンザルやテンもナナフシを食べ、テンのフンからはナナフシの卵がよく見つかります。鳥のほかに、けものもナナフシの卵を運んでいるかもしれません。

06まとめ

神戸大学などのチームは、ナナフシの卵をヒヨドリに食べさせ、5〜20%が無傷でフンから出てくることを確かめました。ナナフシモドキでは、フンから出た卵14個のうち2個がふ化しました。日本各地のナナフシモドキの遺伝子にも、遠くへ運ばれたらしいあとが残っていました。

一方で、種を食べるウズラやニワトリ、ハトでは、卵はほとんどこわれ、ふ化しませんでした。鳥が本当にナナフシを運んでいるのは、虫を食べる鳥がメスを丸ごと食べたときだけなのかもしれません。秋の林でナナフシを見つけたら、近くでヒヨドリが鳴いていないか耳をすましてみてください。

RESEARCH FILE

研究カルテ

日本・東京都府中市

研究チーム
神戸大学の末次健司さん、高知大学の伊藤桂さん、東京農工大学の横山岳さんたちのチーム
調べた場所
東京都府中市の東京農工大学
調べた動物
ナナフシモドキ(学名 Ramulus mikado)、トゲナナフシ、トビナナフシの卵と、ヒヨドリ
調べ方
メスのおなかから取り出した卵を、えさにまぜてヒヨドリに食べさせ、フンの中の卵を調べた
分かったこと
卵の5〜20%が無傷でフンから出て、ナナフシモドキでは14個中2個がふ化した
まだ分からないこと
野生の鳥が実際にナナフシを運んでいるのか。種を食べる鳥ではうまくいかないのはなぜか
論文
Ecology(2018年)
ENGLISH BITE

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Stick Insect Eggs Can Travel Inside Birds

Stick insects look like small sticks. A common kind in Japan has no wings and moves slowly. Birds often eat them.

Stick insect eggs are hard, like plant seeds. Scientists in Japan mixed the eggs into bird food. Then they gave the food to a brown-eared bulbul. Five to twenty percent of the eggs came out in its droppings without damage. Two of these eggs later hatched.

Many stick insects can have babies without males. So eggs inside an eaten mother may still be alive. A bird may carry them far away. The same type of DNA was found in stick insects 683 kilometers apart.

But this does not happen often. When quails, chickens, and pigeons ate the eggs, almost all of them broke. None of those eggs hatched.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What are stick insect eggs like?ナナフシの卵はどのようなものですか。

Q2. Which bird ate the eggs in the Japanese study?日本の研究で卵を食べた鳥はどれですか。

Q3. How many eggs hatched after coming out of the bird?鳥から出てきたあと、何個の卵がふ化しましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Suetsugu, K. et al. (2018) Potential role of bird predation in the dispersal of otherwise flightless stick insects. Ecology 論文確認済みdoi:10.1002/ecy.2230
  2. 2東京農工大学・神戸大学・高知大学(2018)ナナフシは鳥に食べられて子孫を拡散させる!?(プレスリリース)tuat.ac.jp/documents/tuat/outline/disclosure/pressrelease/20
  3. 3Suetsugu, K. et al. (2023) Phylogeographical evidence for historical long-distance dispersal in the flightless stick insect Ramulus mikado. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2023.1708
  4. 4福島大学・神戸大学(2023)飛べない昆虫「ナナフシ」の長距離分散の痕跡を遺伝解析で発見(プレスリリース)fukushima-u.ac.jp/news/Files/2023/10/nanahushi.pdf
  5. 5Shelomi, M. (2011) Phasmid eggs do not survive digestion by quails and chickens. Journal of Orthoptera Research 論文確認済みdoi:10.1665/034.020.0203
  6. 6Burack, J. et al. (2026) Can granivorous birds disperse stick and leaf insect eggs? Integrating in vivo digestion trials and in vitro functional experiments. The Science of Nature 論文確認済みdoi:10.1007/s00114-026-02157-5

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい