ジャンプできないマダニも、動物の静電気に引かれて数ミリのすき間を飛びこえられた
ジャンプできないマダニも、動物の体と同じくらいの静電気を近づけると、空中のすき間を飛びこえて吸いついた。電気の向きはプラスでもマイナスでもよかった。

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- 動物の体は、数百〜数万ボルトの静電気を帯びることがある
- 静電気を近づけると、マダニは空中のすき間を飛んで吸いついた
- 電気がプラスでもマイナスでも、同じように引き寄せられた
人に話すなら
マダニってジャンプできないのに、静電気に引っぱられて数ミリ先まで飛んでいけるんだって。動物の体の静電気くらいの強さで、マダニが空中を飛んで吸いついたらしいよ。
読む前に予想しよう
マダニは、近づいてきた動物の体にジャンプして飛びつく
マダニはジャンプできない。ただし実験では、静電気の力で空中のすき間を引き寄せられた。
冬にセーターをぬぐと、パチッと音がすることがあります。私たちの体や服は、こすれ合うだけで静電気を帯びるからです。人だけではありません。哺乳類や鳥、は虫類の体も、静電気を帯びています。その電圧は、数百ボルトから数万ボルトにもなると報告されています。
2023年、イギリスのブリストル大学の研究チームが、この静電気がマダニを動物の体に引き寄せることを実験で示しました。マダニはジャンプができません。それなのに、動物の体と同じくらいの電圧をかけた電極を近づけると、マダニは空中のすき間を飛びこえて電極についたのです。3mmのすき間を空けた実験では、20匹中15匹が電極まで引き寄せられました。
マダニは、動物や人の血を吸う生き物です。草の上で待ちぶせして、通りかかった動物に取りつきます。けれど、ジャンプできないマダニが、どうやって動物に乗りうつるのかは、よく分かっていませんでした。チームは、目に見えない静電気の力が、その手助けをしていると考えたのです。
01マダニは、草の上で待ちぶせして動物に取りつく
マダニは、昆虫ではなく、クモに近いなかまです。卵からかえったマダニは、幼虫、若虫、成虫と育ちます。それぞれの段階で、動物の血を吸います。今回の実験で使ったのは、ヒツジマダニの若虫です。体長は約1mm、重さは約0.1mgしかありません。
マダニは、近づいてくる動物を、いろいろな手がかりで感じ取ります。体のふるえ、体温の熱、においなどです。前脚の先には、においや湿り気、二酸化炭素、温度などを感じ取る器官があります。こうした手がかりで動物の気配を感じると、マダニは草の上で待ちぶせを始めます。
ところが、マダニには、体の届く範囲より遠くにいる動物に飛びつく方法がありません。ジャンプができないからです。動物が体の届く範囲まで来るのを、待つしかないのです。
ここで研究チームが注目したのが、静電気です。動物の体が静電気を帯びていれば、そのまわりには電気の力が働きます。小さなマダニなら、その力で引き寄せられるかもしれない。チームはそう考えました。
02静電気を帯びたウサギの足に、マダニが吸い寄せられた
研究を進めたのは、ブリストル大学のサム・イングランド(Sam England)さん、ケイティ・リホウ(Katie Lihou)さん、ダニエル・ロバート(Daniel Robert)さんです。チームはまず、ブリストル近くの森で野生のヒツジマダニを集めました。白い綿の布を低い草の上に引きずると、布にマダニがつきます。
最初に、かんたんな試しをしました。乾燥させたウサギの足の標本を、アクリルの板でこすって静電気を帯びさせました。そこに、ピンセットでつまんだマダニを近づけたのです。するとマダニは、数ミリのすき間をこえて、ウサギの足に吸い寄せられました。ウサギの毛でこすったアクリルの板には、数センチのすき間をこえて吸い寄せられました。
次に、チームはコンピューターで、静電気を帯びた動物のまわりの電気の力を計算しました。例として、牛の体の表面が750ボルトだとしました。チームは、この値は動物の体の電圧としては控えめな見積もりだと書いています。計算すると、牛の鼻先やしっぽ、脚のまわりで、電気の力がとくに強くなりました。どれも、草の上で待つマダニに出会いやすい部分です。草の先と動物のあいだのすき間でも、強い電気の力が生まれていました。

03750ボルトの電極の下で、マダニの4分の3が空中を飛んだ
いよいよ本番の実験です。チームは、地面に見立てた金属の板の上に、生きたマダニを1匹置きました。その3mm上に、金属の玉の電極をつるしました。3mmは、マダニの体長の数倍にあたります。
電極には、750ボルトの電圧を20秒間かけました。動物が草の数ミリ先にいるときの、電気の力を再現したのです。比べるために、電圧をかけない試しも同じ数だけ行いました。
結果ははっきりしていました。電圧をかけると、20匹中15匹(75%)が板をはなれ、重力にさからって空中を飛び、電極にくっつきました。もう3匹は、板にしがみついたまま、体が持ち上げられかけていました。電圧をかけないときは、電極までたどり着いたマダニは1匹もいませんでした。電極までたどり着いたマダニは、電圧をかけてから数秒以内に板をはなれました。かかった時間の中央値は、0.79秒でした。
この実験では、マダニは真下から真上へ、重力とは逆向きに引っぱられました。チームは、実際の野外では動物は横や斜めにいることも多く、もっと弱い電気でも引き寄せられるはずだと考えています。
04プラスでもマイナスでも、同じように引き寄せられた
次にチームは、どれくらいの電圧があればマダニが引き寄せられるのかを調べました。この実験では、死んだばかりのマダニを使いました。生きたマダニは、板にしがみついて引き寄せられまいとすることがあるからです。電極までの距離を1.5mmから4mmまで6通りに変え、それぞれ12匹で試しました。電圧は50ボルトずつ上げていきました。
すると、必要な電圧は距離にほぼ比例していました。この結果から、0.1mmのすき間なら、約26〜29ボルトで引き寄せられると計算できます。人の体は3万ボルトもの静電気を帯びることがあると報告されています。その電圧なら、計算の上では数センチ先のマダニも引き寄せられることになります。
最後に、チームはマダニがどうして引き寄せられるのかを調べました。もしマダニの体が、もともとプラスかマイナスの電気を帯びているなら、逆の電気にだけ強く引かれるはずです。そこで、電極をプラスにした場合とマイナスにした場合を、死んだばかりのマダニ12匹ずつで比べました。2.5mmのすき間で必要な電圧の中央値は、マイナスで775ボルト、プラスで675ボルトでした。この差は、偶然の範囲をこえるものではありませんでした。
つまり、マダニは電気の向きに関係なく引き寄せられたのです。チームは、近づいた電気の力によって、マダニの体の中で電気のかたよりが生まれると考えています。マダニの体の、電極に近い側に逆の電気が集まり、引き寄せられるというしくみです。このしくみなら、マダニはプラスの動物にもマイナスの動物にも引き寄せられることになります。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
静電気を使う小さな生き物たち
マダニは、静電気とかかわる生き物の1つにすぎません。ロバートさんは2024年、空気の中の電気を感じ取る生き物の研究をまとめました。電気を感じる力は、これまでおもに水の中の生き物で調べられてきました。ところが最近、ハチやハエ、クモ、イモムシなど、陸の節足動物でも電気を感じ取るものが見つかってきています。
2025年には、アメリカのエモリー大学やジョージア工科大学などのチームが、別の寄生虫での例を報告しました。昆虫に寄生する、ジャンプする小さな線虫です。ショウジョウバエに数百ボルトの静電気を帯びさせると、ジャンプした線虫がハエにくっつきやすくなりました。小さな寄生虫が、動物の静電気を利用して乗りうつる例は、ほかにもあるのかもしれません。
マダニは電気を「感じて」いるのか
この研究で分かったのは、マダニが静電気の力でただ引き寄せられることです。マダニが自分で電気を感じ取って動いているかどうかは、まだ分かっていません。チームは、マダニの脚にある細い毛が、電気の変化を感じ取っているかもしれないと考えています。ほかのクモのなかまでは、同じような毛が電気に反応することが知られているからです。
この研究の限界
実験は研究室の中で、電極を使って行われました。野外で、動物の体の静電気によって実際にどれくらいのマダニが乗りうつっているのかは、この研究では調べていません。また、くわしい実験に使ったのは若虫だけです。幼虫と成虫も引き寄せられることは、予備的な試しで確かめた段階です。
一方、ほかの研究者は解説の中で、毛がふさふさした動物ほど高い静電気を帯びやすいと述べています。動物の種類や毛の状態によって、マダニの引き寄せられやすさも変わるのかもしれません。マダニが動物にうつるときに、静電気がどれだけ大事な役目を果たしているのかは、これからの課題です。
05まとめ
ジャンプできないマダニも、動物の体と同じくらいの静電気が近づくと、空中のすき間を飛びこえて吸いつきました。3mm上の電極に750ボルトをかけると、20匹中15匹が電極まで引き寄せられました。電気がプラスでもマイナスでも、同じように引き寄せられました。
チームは、静電気がたまりにくい服や、静電気をおさえる加工が、マダニ対策になるかもしれないと考えています。日本の厚生労働省は、マダニが活発になる春から秋に草むらに入るときは、長袖や長ズボンで肌を出さないようすすめています。外で活動したあとは、入浴してマダニに刺されていないか確かめるよう呼びかけています。
研究カルテ
イギリス・ブリストル
- 研究チーム
- イギリスのブリストル大学のチーム(第一著者サム・イングランド)
- 調べた場所
- ブリストル大学の研究室(マダニはブリストル近くの森で採集)
- 調べた動物
- ヒツジマダニ(学名 Ixodes ricinus)の若虫。体長約1mm
- 調べ方
- 地面に見立てた金属板にマダニを置き、上の電極に動物の体と同じくらいの電圧をかけて、引き寄せられるかを調べた
- 分かったこと
- 3mm上の電極に750ボルトをかけると、20匹中15匹が空中を飛んで電極についた
- まだ分からないこと
- 野外で実際にどれくらい静電気で動物にうつっているのか。マダニが電気を感じ取れるのか
- 論文
- Current Biology(2023年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Ticks are tiny animals that drink blood. They wait on grass for animals to walk by. But ticks cannot jump. So how do they get onto animals?
Animals often carry static electricity on their bodies. Scientists in the UK wanted to know if this could pull ticks. They put a tick on a metal plate. Then they put a small metal ball 3 millimeters above it.
They gave the ball 750 volts of electricity. This is about the same as the static electricity on an animal's body. Fifteen of the twenty ticks flew up through the air to the ball. Without electricity, no tick reached the ball. More than half of these ticks flew up in less than one second.
Ticks were pulled by both plus and minus electricity. The scientists think clothes with less static electricity might help. But they still need to check this outside the lab.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What can ticks NOT do?マダニにできないことは何ですか。
マダニはジャンプができません。それでも静電気の力で、空中のすき間をこえて引き寄せられました。
Q2. How many ticks flew to the ball with 750 volts?750ボルトのとき、玉まで飛んだマダニは何匹でしたか。
750ボルトをかけると、20匹中15匹が空中を飛んで玉にくっつきました。
Q3. Which electricity pulled the ticks?どちらの電気がマダニを引っぱりましたか。
マダニは、プラスでもマイナスでも同じように引き寄せられました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1England, S. J. et al. (2023) Static electricity passively attracts ticks onto hosts. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2023.06.021
- 2Ortega-Jimenez, V. M. et al. (2023) Ticks' attraction to electrically charged hosts. Trends in Parasitology 論文確認済みdoi:10.1016/j.pt.2023.08.001
- 3Robert, D. (2024) Aerial electroreception. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2024.06.028
- 4Ran, R. et al. (2025) Electrostatics facilitate midair host attachment in parasitic jumping nematodes. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2503555122
- 5厚生労働省:ダニ媒介感染症(マダニ対策)mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164495.html
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





