ジンベエザメの目玉は、歯と同じつくりのうろこ約2900個でおおわれていた

ジンベエザメの目玉の表面には、歯と同じつくりの小さなうろこが約2900個並んでいた。危ないときは、目玉を直径の半分ほど奥へ引っこめることもできた。

No.195 9分で読めるえっ度 論文 2023年
青い海の中で、巨大なジンベエザメの頭を横から大きく描く。四角く平たい頭の角に、小さな目玉が少し飛び出していて、目玉のまわりが細かいうろこでざらざらしている。灰色がかった青い体には、白い点のもようが並んでいる。

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  1. ジンベエザメの目玉の表面に、小さな歯のようなうろこが並んでいた
  2. 目玉のうろこは、体のうろこと違い、こすれから守るタイプに似た形だった
  3. 目玉を、直径の半分ほども奥へ引っこめることができた

人に話すなら

ジンベエザメの目玉って、小さな歯みたいなうろこで、びっしりおおわれてるんだって。しかもダイバーが近づくと、目玉を1秒もかからずに奥へ引っこめるらしいよ。

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ジンベエザメの目玉の表面は、歯と同じつくりの小さなうろこでおおわれている

ジンベエザメは、世界でいちばん大きな魚です。全長は18mをこえることがあります。それほど大きな体なのに、目はとても小さく、直径は全長の1%もありません。しかも、その小さな目は、まぶたもないまま頭の角から少し飛び出しています。海を泳ぐあいだに、ただよう物にぶつかったら、目はどうなるのでしょうか。

2020年、沖縄美ら海水族館などの研究チームが、その答えを発表しました。ジンベエザメの目玉の表面は、歯と同じつくりの小さなうろこでおおわれていたのです。死んだジンベエザメの目玉1つを調べると、その数は約2900個にもなりました。さらに、生きたジンベエザメは、ダイバーが近づくと1秒もかからずに目玉を奥へ引っこめました。引っこめる深さは、目玉の直径の約半分でした。

目玉をうろこで守る背骨のある動物は、これまで知られていませんでした。ジンベエザメの研究は、これまでなかなか進みませんでした。生きたジンベエザメに近づける機会がとても少なかったからです。何年もジンベエザメを飼い続けてきた水族館だからこそ、この発見ができました。

01サメの肌は、歯と同じつくりの小さなうろこでおおわれている

まず、サメの肌のつくりを確かめておきましょう。サメの肌をさわると、ざらざらしています。サメの肌は、何千もの小さなうろこでおおわれているからです。このうろこを「皮歯(ひし)」と呼びます。

皮歯は、名前のとおり歯とよく似たつくりをしています。外側は、歯の表面に似たかたい層と、象牙質(ぞうげしつ)という層でできています。中には、歯と同じように空洞があります。形はサメの種類や体の場所によってさまざまです。

ふつう、目の表面は皮歯におおわれていません。目は光を受け取る器官なので、体の表面に出ていなければなりません。脊椎動物(背骨のある動物)の多くは、まぶたで目を守っています。サメの中には、3枚目のまぶたのような膜を持つ種類もいます。メジロザメやシュモクザメのなかまは、えさを食べるときにこの膜で目をすっかりおおいます。この膜の外側には皮歯があります。

ところがジンベエザメには、まぶたがありません。ジンベエザメの目は、どうやって守られているのでしょうか。それを確かめたのが、沖縄美ら島財団の冨田武照(とみた・たけてる)さんたちのチームです。チームには、アメリカのジョージア水族館の研究者も加わりました。

02死んだジンベエザメの目玉をCTで調べると、約2900個の皮歯が並んでいた

チームはまず、死んだジンベエザメの目玉を調べました。このジンベエザメは、沖縄の漁師の網に、ほかの魚と一緒にかかってしまった個体です。漁師から水族館に研究用に寄付され、2017年に水族館のスタッフが解剖しました。取り出した目玉は、薬で保存してありました。目玉の前後の直径は65.0mmです。

チームは、この目玉を沖縄科学技術大学院大学にある「マイクロCT」で調べました。マイクロCTは、X線で物の中や表面を細かく立体的に写す装置です。

すると、黒目のまわりの目玉の表面に、皮歯がたくさん並んでいることが分かりました。チームはこれを「目の皮歯」と呼んでいます。コンピューターで数えると、1つの目玉に約2900個ありました。

03目の皮歯は、体の皮歯とは形が違い、こすれから守るタイプに似ていた

チームは、目の皮歯の形を1つずつ細かく調べました。目の皮歯には、まん中を縦に走る1本の筋があります。そこから、横に6〜8本ほどの筋が枝分かれしています。上から見ると、カシの葉のような形です。

一方、頭や胴、ひれをおおう皮歯は違う形でした。上の面に3本の筋が平行に並んでいます。チームは、この形は水の抵抗を減らすタイプだと書いています。

サメの皮歯は、形から4つのタイプに分けられてきました。身を守るタイプ、こすれから守るタイプ、光を出すタイプ、水の抵抗を減らすタイプです。目の皮歯によく似た形は、ネコザメのなかまの体の皮歯に見られます。そしてネコザメのなかまの皮歯は、こすれから守るタイプの代表とされています。チームはこの似かたから、目の皮歯の主な役目は、目の表面を傷から守ることだと考えています。

ジンベエザメに近いオオテンジクザメやトラフザメでは、目の皮歯は見つかっていません。チームは、目の皮歯はジンベエザメだけの特徴らしいと書いています。

ダイバーの手元のカメラが近づいたとき、ジンベエザメの目玉が頭の中へぐっと沈みこみ、下向きに回っている様子。目玉があった場所を白っぽい組織がうめている。

04ダイバーが近づくと、目玉は1秒もかからず、直径の半分ほど奥へ引っこんだ

次にチームは、生きたジンベエザメの目の動きを調べました。調べたのは3匹です。2匹は、沖縄美ら海水族館の大きな水槽で飼われていました。全長8.7mのオスは1996年から、全長8.1mのメスは2012年から飼われています。もう1匹は、全長5.54mのオスです。水族館の近くの海に作ったいけすで飼われていました。

チームの研究者の1人は、このジンベエザメと一緒に泳ぎました。そして、目から約30cmのところから、水中カメラで目の動きを撮影しました。

目の奥の動きは、外からは見えません。そこでチームは、水圧に強い防水ケースに入れた、持ち運べる超音波の装置を使いました。超音波を使うと、体の外から中の様子を見ることができます。陸の動物では、装置を肌にぴったり当てなければなりません。水は超音波をよく伝えるので、水中では目から0.5cmはなして調べることができました。

3匹とも、物が近づくと目玉を奥へ引っこめました。引っこめ始めてから、引っこめ終わるまでは1秒もかかりませんでした。目玉は引っこみながら、下向きに回っていました。目玉があった場所の一部は、奥から出てきた白っぽい組織でうまりました。

超音波で測ると、いちばん深く引っこめたときの深さは、2匹でそれぞれ3.3cmと2.8cmでした。これは目玉の直径の50.4%と49.8%にあたります。

チームは、ほかの動物とも比べています。目玉を大きく引っこめられる動物として知られるヒョウガエルのなかまは約50%、バンドウイルカのなかまは40〜60%です。ジンベエザメは、こうした動物と同じくらい深く目玉を引っこめていました。チームが知るかぎり、サメのなかまで目玉を引っこめる深さを測ったのは、これが初めてです。

アメリカのジョージア水族館では、もっと長い記録もあります。2006年6月、台湾から運ばれてきたばかりの全長5mのメスが、約10日のあいだ目を引っこめたままでした。それでも、水槽の中を問題なく泳いでいるように見えたそうです。やがて目は、急に元の位置に戻りました。

05「目にあまり頼らない魚」という考えに、疑問が出てきた

ジンベエザメは、目にあまり頼らない魚だと考えられてきました。理由の1つは、体の大きさのわりに目がとても小さいことです。もう1つは、脳の中で目からの情報を処理する部分が小さいことです。そのため、目よりもにおいなど、ほかの感覚を使っていると考えられてきました。

ただしチームは、この考えは十分に確かめられたものではないと書いています。目をここまでしっかり守っているのなら、ジンベエザメにとって目は大事なのかもしれません。チームはそう考えました。

ほかの観察も、この考えに合っています。以前の観察では、ジンベエザメの目が3〜5m先を泳ぐダイバーを目で追っていたと報告されています。沖縄美ら海水族館とジョージア水族館でも、ジンベエザメが目で物を追う様子が見られています。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

目の守り方は、サメのなかまでもさまざま

サメやエイのなかまには、目を守るいろいろな方法があります。メジロザメやシュモクザメのなかまは、皮歯のついた膜で目をおおいます。ホホジロザメは、目玉を後ろへ回して目をかくします。シビレエイやサカタザメのなかまは、目玉を頭の中へ引っこめます。中でも、エイのなかまの大型の魚「ジャイアント・ギターフィッシュ」は、目玉の直径の101%も引っこめると報告されています。背骨のある動物の中で最も深い記録です。ジンベエザメは、皮歯でおおうことと、引っこめることの2つを組み合わせていました。

研究の歴史:長く「個人の観察」だけだった

ジンベエザメが目を守るしくみについて、それまでの記録は1つだけでした。ある研究者が、ジンベエザメは目玉を頭の中へ回しこんで目を守ると書いていたのです。ただし、それは本人の観察で、数字などのデータはありませんでした。しかも、その記録では目玉は後ろ向きに回るとされていました。今回の研究では、目玉は下向きに回っていました。大きな海の動物は数が少なく、泳ぐ力も強いので、研究の多くは少ない死体に頼ってきました。水族館でジンベエザメを長く飼えるようになって、生きた体で確かめられるようになったのです。

深い海で、弱い光を見るための目

2023年には、理化学研究所や大阪公立大学、沖縄美ら島財団、国立遺伝学研究所などのチームが、ジンベエザメの目の別の特徴を報告しました。ジンベエザメは海面近くでえさを食べる一方で、2000m近い深さまでもぐることがあります。暗い所でものを見るときに働く目のたんぱく質を「ロドプシン」といいます。ジンベエザメのロドプシンは、青い光をよく受け取るように変わっていることが、以前の研究で分かっていました。深い海までよく届くのは、青に近い光です。そのためこの特徴は、深い海に合わせて変わった目の印だと考えられています。2023年のチームは、なぜ青い光に合うように変わったのかを調べました。

このロドプシンの変化は、アミノ酸がたった1か所入れかわったことで、主に起きていました。人では、同じ場所のアミノ酸が変わると、生まれつき暗い所で見えにくくなる病気の原因になります。そのたんぱく質は熱に弱くなるからです。ジンベエザメのロドプシンも、熱に弱くなっていました。チームは、冷たい深海なら熱に弱くても困らないのかもしれないと考えています。

この研究の限界

皮歯を数えた目玉は、死んだ1匹の1つだけです。目の動きを調べたのも3匹で、引っこめる深さを測れたのは2匹でした。また、皮歯が本当に目を傷から守っているのかは、形から考えた説明です。こすれる実験で確かめたわけではありません。ジンベエザメがどれくらいよく見えているかも、まだ分かっていません。チームは、見える範囲や細かさ、色の見え方などを調べることが次の課題だと書いています。

06まとめ

ジンベエザメの目玉の表面には、歯と同じつくりの小さなうろこ、皮歯が約2900個並んでいました。その形は体の皮歯とは違い、こすれから守るタイプによく似ていました。さらにジンベエザメは、物が近づくと、目玉を直径の約半分の深さまで1秒以内に引っこめました。

体のわりに小さな目なので、目には頼っていないと考えられてきました。けれど、ここまでしっかり守られている目が、役に立っていないとは考えにくいでしょう。水族館でジンベエザメに会ったら、頭の角にある目をよく見てください。目玉が、こちらの動きを追っているかもしれません。

RESEARCH FILE

研究カルテ

日本・沖縄県本部町

研究チーム
沖縄美ら島財団(沖縄美ら海水族館など)と、アメリカのジョージア水族館などのチーム(第一著者 冨田武照)
調べた場所
沖縄美ら海水族館(沖縄県本部町)と、沖縄科学技術大学院大学のCT装置
調べた動物
ジンベエザメ(学名 Rhincodon typus)。死んだ個体の目玉1つと、生きた3匹
調べ方
目玉をマイクロCTで立体的に調べた。生きたジンベエザメの目の動きを、水中カメラと水中で使える超音波装置で記録した
分かったこと
目玉の表面に約2900個の皮歯が並んでいた。目玉を直径の約半分の深さまで1秒以内に引っこめられた
まだ分からないこと
ジンベエザメがどれくらいよく見えているのか(見える範囲、細かさ、色)
論文
PLOS ONE(2020年)
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英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Whale Sharks Protect Their Eyes with Tooth-Like Scales

The whale shark is the biggest fish in the world. But its eyes are very small, and it has no eyelids. So how does it keep its eyes safe?

Scientists at an aquarium in Okinawa studied the eye of a dead whale shark. They found about 2,900 tiny scales on the eye. These scales are like very small teeth. The scientists think their shape helps stop scratches.

The scientists also studied three living whale sharks. When a diver came close, a shark pulled its eye back into its head. This took less than one second. The eye went back about half of its own size.

Many people thought whale sharks did not need their eyes much. But these strong guards show that their eyes may be important.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What does the whale shark NOT have?ジンベエザメに、ないものは何ですか。

Q2. How many tiny scales did the scientists find on one eye?研究者は、1つの目に小さなうろこをいくつ見つけましたか。

Q3. What did a shark do when a diver came close?ダイバーが近づいたとき、サメは何をしましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Tomita, T. et al. (2020) Armored eyes of the whale shark. PLOS ONE 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pone.0235342
  2. 2Yamaguchi, K. et al. (2023) Whale shark rhodopsin adapted to deep-sea lifestyle by a substitution associated with human disease. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2220728120
  3. 3Gabler-Smith, M. K. et al. (2021) Dermal Denticle Diversity in Sharks: Novel Patterns on the Interbranchial Skin. Integrative Organismal Biology 論文確認済みdoi:10.1093/iob/obab034

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい