コウイカに3Dめがねをかけさせたら、映像のエビとの距離を両目で測って狩りをした
3Dめがねをかけたコウイカに、左右でずらしたエビの映像を見せると、ずれに合わせて構える位置を変えた。両目で距離を測っていて、そのしくみは人と違うらしい。

30秒で読む
- コウイカは、左右の目に見える像のずれから、エビまでの距離を測っていた
- 片方の目にしか映像が届かないと、狩りに時間がかかった
- 白黒を左右で反転させた模様でも、コウイカはエビの位置が分かった
人に話すなら
コウイカに赤と青の3Dめがねをかけさせて、画面のエビを見せた実験があるんだって。映像を左右でずらすと、エビが画面から飛び出して見えてるみたいに、手前で構えて腕をのばしたらしいよ。
読む前に予想しよう
コウイカは、左右の目の像のずれを使って、獲物までの距離を測っている
3Dめがねで左右に違う映像を見せると、ずれの大きさに合わせて構える位置を変えた。
3D映画を見るときにかける、赤と青のめがねがあります。左右の目にわざと少しずれた映像を届けて、画面のものを手前に飛び出して見せるしかけです。このめがねを、イカの仲間のコウイカにかけさせた実験があります。
イギリスのケンブリッジ大学とアメリカのミネソタ大学のチームは、コウイカの頭に手作りの3Dめがねをつけ、画面に歩くエビの映像を映しました。左右の目に見せるエビの位置を少しずらすと、コウイカは、ずれに合わせて構える位置を変えました。そして、エビが見えているはずの場所に向かって触腕をのばしました。触腕は、獲物をつかまえるための2本の長い腕です。ずれを2cmにしたとき、コウイカはずれがないときより約2cm長く触腕をのばしていました。
コウイカの目は、レンズや網膜をもち、人の目とよく似たつくりです。けれども、脳のつくりは人とまったく違います。左右の目に映った像のずれから距離を読み取る力を「立体視」と言います。コウイカがこの力を使っているのか、使っているならどう計算しているのかは、分かっていませんでした。
01頭に面ファスナーを貼り、手作りの3Dめがねをかけさせた
研究を行ったのは、ケンブリッジ大学のレイチェル・フィオード(Rachael Feord)さんと、ミネソタ大学のトレバー・ワーディル(Trevor Wardill)さんたちです。実験は、アメリカのウッズホールにある海洋生物学研究所で行いました。使ったのは、イギリス南部で集めた卵からかえった、生後22〜24か月のヨーロッパコウイカ11匹です。
チームはまず、コウイカに画面のエビを狩るよう教えました。水そうの横に画面を置き、白い背景の上を歩く黒いエビの映像を流します。コウイカが映像に近づくと、ごほうびに生きたエビをあげました。慣れてきたら、触腕をのばして映像を打ったときだけ、ごほうびをあげるようにしました。
次に、めがねをつける準備です。コウイカを水から出し、頭の皮ふの水けをペーパータオルでふき取ります。そこに、瞬間接着剤をつけた1cm四方ほどの面ファスナーを、10秒間押し当てて貼りました。面ファスナーは、くっつけたりはがしたりできるテープです。めがねの裏にも面ファスナーがあり、つけ外しが簡単にできます。めがねをつけて数時間で狩りを再開する個体もいれば、慣れるのに2日かかる個体もいました。
めがねには、左右で色の違うフィルムを2枚ずつ重ねて貼りました。画面に映すエビの色を選ぶと、片方の目にだけエビが見えるようにできます。左右の目に別々の位置のエビを見せれば、左右の目のずれから距離を測る動物には、エビが画面の手前や奥にいるように見えるはずです。
02映像のずれを大きくすると、コウイカは画面から離れて構えた
本番では、左右の目に見せるエビの位置を、−1cmから+3cmまでずらしました。プラスのずれは、エビが画面より手前に見えるずらし方です。マイナスは、画面より奥に見えるずらし方です。ずれの大きさは、毎日ばらばらの順番で変えました。
結果ははっきりしていました。ずれが大きいほど、コウイカは画面から離れた位置で構えてから、触腕をのばしました。チームは、両目の位置とずれの大きさから、コウイカに「エビが見えているはずの位置」を計算しました。すると、どのずれのときも、コウイカはその位置から同じくらいの距離で構えていました。
触腕ののび方にも違いが出ました。ずれがないとき、触腕は画面の前の水そうの壁にぶつかって止まります。ずれが2cmのときは、触腕がその先までのびていました。のびた長さの平均は、ずれがないときが約25mm、ずれが2cmのときが約46mmです。コウイカには、エビが画面より手前にいるように見えていたと考えられます。
03片方の目にしか映像が届かないと、狩りに時間がかかった
次にチームは、片方の色のエビだけを画面に映しました。こうすると、エビは片方の目にしか、ほぼ見えません。完全に片目にならないのは、めがねのフィルムが光を少しもらすからです。
片方の目にしか映像が届かないコウイカ3匹と、両目で見たコウイカ5匹を比べました。エビを見つけるまでの時間は、どちらも変わりませんでした。違いが出たのは、見つけてから触腕を打つ位置まで近づく段階です。片目のコウイカは、打つまでに時間がかかり、長い距離を泳ぎ、エビにより近づいてから打ちました。両目が使えると、速く、遠くから狩りができたのです。
ただし、片目でも狩りはできました。1968年、ジョン・メッセンジャー(John Messenger)さんが、片方の目を手術で見えなくしたコウイカの狩りを調べています。狩りが成功した割合は、両目のコウイカの91%に対して、56%に下がりました。それでも、半分以上は成功したわけです。コウイカは、両目のずれ以外の手がかりも使って距離を測っていると考えられます。

04白黒を反転させた模様でも、コウイカはエビの位置を読み取った
最後にチームは、コウイカがどんな計算で立体を見ているのかを探りました。白と黒の点をでたらめに散らした背景の上に、同じような点の模様でぬったエビを歩かせます。片方の目の映像だけを見ても、エビは背景にまぎれて見えません。左右の目の映像を比べたときにだけ、エビの形がうかび上がるしかけです。
この映像を、3通りに作りました。1つめは、左右の目に同じ点の模様を見せるものです。2つめは、片方の目だけ白と黒を反転させるものです。3つめは、左右でまったく違う点の模様を見せるものです。点の模様のエビを狩ったのは、11匹のうち6匹でした。残る5匹は、点の模様のエビをまったく追わなかったため、この実験からは外しました。
6匹は、1つめと2つめの映像では、エビが見えているはずの位置に向かって正しく触腕を打ちました。ところが、3つめの映像では、狩りを始めても、一度も触腕を打ちませんでした。
人の場合、点の模様の白黒を左右で反転させると、立体感がなくなったり、奥行きが逆に感じられたりすることが知られています。コウイカは、その反転した映像でもエビの位置を読み取りました。チームは、コウイカの立体視は、人とは違う計算のしかたで行われている可能性が高いと結論づけています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
コウイカの前に3Dめがねをかけたのは、カマキリだった
カマキリが立体視をしていることは、以前から報告されていました。けれども、昆虫の立体視を調べる方法がなく、30年ほど研究が進みませんでした。2016年、イギリスのニューカッスル大学のチームは、昆虫用の小さな3Dめがねを作り、カマキリにかけさせました。色のフィルムで左右の映像を分ける方法で、カマキリに「手前にあるように見える」映像を見せることに成功しました。カマキリは2022年の時点でも、立体視が確かめられたただ1つの昆虫とされています。コウイカのチームは、このカマキリの実験をヒントにしました。
人・カマキリ・コウイカで、立体の見方が違う
2018年、ニューカッスル大学のチームは、カマキリの立体視が人と違うことを示しました。人は、左右の目の像の明るさの模様そのものを比べて、ずれを見つけます。カマキリは、像の中で「動いて変わっている部分」を比べます。そのため、カマキリは止まった映像では立体を見ているという証拠がありません。一方、動く獲物なら、左右で模様が合わない映像でも距離を読み取れ、その成績は人を上回りました。
コウイカは、左右で白黒が反転した模様なら、エビの位置が分かりました。これは人と違う点です。けれども、左右でまったく違う模様では、狩りを始めても触腕を一度も打ちませんでした。これはカマキリとも違う点です。コウイカは、人ともカマキリとも違うやり方で立体を見ているのかもしれません。
目が左右別々に動いていた
人などのけものでは、立体視と、両目の動きをそろえることが強く結びついています。ところがコウイカの目は、狩りの途中で左右ばらばらに動くことがありました。触腕を打つ瞬間でも、左右の目の向きに10度以上の差がある例がありました。チームは、この動き方をカメレオンの目と比べています。ただし、コウイカの網膜は人よりきめが粗いため、10度の差でも、見え方への影響は人の場合ほど大きくないかもしれないとチームは書いています。
この研究の限界
めがねは、反対側の目に光を少しもらします。チームの計算では、そのもれは1〜24%でした。そのため、「片目」の実験は完全な片目ではありません。また、ずれの実験に使ったのは5匹、片目の実験は3匹と、数は多くありません。コウイカの脳のどこで、どんな計算をして立体を見ているのかは、これから調べる必要があるとチームは書いています。
05まとめ
ヨーロッパコウイカに3Dめがねをかけさせ、左右でずらしたエビの映像を見せると、コウイカはずれに合わせて構える位置を変えました。両目が使えると、片目のときより速く、遠くから狩りができました。左右で白黒を反転させた模様でもエビの位置が分かった点は、人とは違います。人と似たつくりの目を持つコウイカですが、その目で見た像から距離を計算するしくみは、人とは別のものらしいのです。
研究カルテ
アメリカ マサチューセッツ州ウッズホール
- 研究チーム
- イギリスのケンブリッジ大学とアメリカのミネソタ大学のチーム(第一著者レイチェル・フィオード)
- 調べた場所
- アメリカ・ウッズホールの海洋生物学研究所
- 調べた動物
- 生後22〜24か月のヨーロッパコウイカ11匹(学名 Sepia officinalis)
- 調べ方
- 頭に3Dめがねをつけ、左右でずらしたエビの映像を画面に映して、狩りの位置や時間を測った
- 分かったこと
- 像のずれに合わせて構える位置を変えた。両目が使えると狩りが速く、遠くから打てた
- まだ分からないこと
- 脳のどこで、どんな計算をして立体を見ているのか
- 論文
- Science Advances(2020年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Have you ever worn red and blue glasses at a 3D movie? Scientists put tiny glasses like these on cuttlefish.
The cuttlefish watched a video of a walking shrimp on a screen. The glasses showed a slightly different picture to each eye. This can make the shrimp look like it is in front of the screen. The cuttlefish moved back and shot out their long arms at that place.
So cuttlefish use both eyes to judge distance. When only one eye could see the shrimp, they needed more time to catch it.
The scientists also used patterns of black and white dots. For one eye, they changed black dots to white and white dots to black. People lose the 3D effect with this kind of picture, but cuttlefish still found the shrimp. Their eyes are like ours, but their brains may work in a different way.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What did the cuttlefish watch?コウイカは何を見ましたか。
画面に映した、歩くエビの映像を見せました。
Q2. What happened when only one eye could see the shrimp?片方の目にしかエビが見えないとき、どうなりましたか。
片目のときは、打つ位置まで近づくのに時間がかかりました。
Q3. What did the scientists change for one eye in the dot pattern?点の模様で、研究者は片方の目に見せるものの何を変えましたか。
片方の目だけ、点の白と黒を反転させました。コウイカはそれでもエビの位置が分かりました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Feord, R. C. et al. (2020) Cuttlefish use stereopsis to strike at prey. Science Advances 論文確認済みdoi:10.1126/sciadv.aay6036
- 2Nityananda, V. et al. (2018) A Novel Form of Stereo Vision in the Praying Mantis. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2018.01.012
- 3Nityananda, V. et al. (2016) Insect stereopsis demonstrated using a 3D insect cinema. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/srep18718
- 4Read, J. C. A. (2022) Stereopsis without correspondence. Philosophical Transactions of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rstb.2021.0449
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





