コウイカは目の前のエサを食べずに、好物が出てくるまで最長130秒待てた

すぐ食べられるエビと、待てば出てくる好物のエビ。コウイカは好物を待ち、長い個体は130秒待てた。よく待てる個体ほど学習も速かった。

No.038 7分で読めるえっ度 論文 2021年
水そうの中で、ヨーロッパコウイカ(胴のふちにそってうすいひれがあり、8本の腕と、W字形のひとみを持つ)が浮かび、透明な扉のついた黒い小部屋2つをじっと見ている。片方の部屋には大きなエビの切り身、もう片方には生きた小エビが入っている。

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  1. コウイカは、好物が出てくるまで目の前のエサをがまんできた
  2. 待てた時間は個体ごとに違い、50〜130秒だった
  3. 長く待てる個体ほど、ルールの切りかえを速く覚えた

人に話すなら

コウイカの前にエビを2つ置いて、好きなほうは少し待たないと食べられないようにしたら、ちゃんと待ったんだって。長い子は2分以上だよ。寿命が2年もない生き物なのにね。

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読む前に予想しよう

コウイカは、好物のエサのために目の前のエサを食べずに待つことができる

子どもの前にマシュマロを1つ置き、「食べずに待てたら、あとでもう1つあげる」と言って大人が部屋を出ていく。心理学で有名な「マシュマロテスト」です。目の前のごほうびをがまんして、もっとよいものを待つ力を調べる試験です。

この試験に近い実験を、コウイカで行った研究があります。コウイカは、イカやタコの仲間です。結果は、6匹すべてが目の前のエサを食べずに好物を待ちました。待てた時間は個体によって違い、長い個体は130秒待ちました。さらに、長く待てる個体ほど、別の学習の試験でも速く覚えました。

がまんする力が高いことで知られていたのは、チンパンジーなどの類人猿やカラス、オウムといった、脳の大きな動物でした。コウイカの寿命はふつう2年もありません。仲間と協力して暮らす動物でもありません。そんな動物にも、がまんする力があったのです。

01好きなエサを調べ、「待てば開く部屋」を覚えさせた

研究を行ったのは、イギリスのケンブリッジ大学のアレクサンドラ・シュネル(Alexandra Schnell)さんたちのチームです。アメリカのウッズホールにある海洋生物学研究所のロジャー・ハンロン(Roger Hanlon)さんも加わりました。実験に参加したのは、それまで実験を受けたことのない、生後9か月のヨーロッパコウイカ6匹です。

チームはまず、コウイカの好きなエサを調べました。用意したのは、生きた小エビ、大きなエビの生の切り身、カニの3つです。どのコウイカも、生きた小エビを一番好み、次がエビの切り身、最後がカニでした。

次に、実験の道具を作りました。3Dプリンターで作った、黒い小部屋2つです。それぞれの部屋には透明な引き戸がついていて、中のエサが見えます。部屋の前には、形の違う白い目印をつけました。

コウイカは、目印の形と部屋の開き方の関係を覚えていきました。「この形の部屋はすぐ開く」「この形はしばらく待つと開く」「この形は待っても食べられない」の3通りです。最後の部屋は、引き戸を開けても、内側の透明な板でエサがとれないしくみでした。

02待つ時間を10秒ずつのばすと、50〜130秒で限界が来た

本番では、2つの部屋を同時に見せました。すぐ開く部屋には、2番目に好きなエビの切り身を入れます。待つと開く部屋には、一番好きな生きた小エビを入れます。コウイカがどちらかの部屋に近づくと、もう片方のエサはすぐに取り去られます。

ここに大事な工夫があります。待っている間も、エビの切り身はずっと見えていて、いつでも食べられました。一度「待つ」と決めたら終わりではなく、待っている間ずっと誘惑に耐える必要があるのです。チームは、これが本当のがまんを測るために必要だと考えました。

待ち時間は10秒から始め、10秒ずつのばしました。すると、6匹とも好物の小エビを待ちました。待ち時間が長くなると、途中であきらめてエビの切り身を食べることが増えました。待てた最長の時間は、個体によって50秒から130秒でした。

比べるための試しもしました。待っても小エビが食べられない部屋を使った場合です。このとき、コウイカはさっさとエビの切り身を食べました。コウイカは何でも待つように覚えこんだのではなく、待つ意味があるときだけ待っていたのです。

待っている間、コウイカが体の向きを変えて、すぐ食べられるエビの切り身に背を向ける様子も見られました。チンパンジーや犬、オウムも、待つ間に目をそらしたり、ほかのことで気をまぎらわせたりすることが知られています。ただし、水そうの上が一部おおわれていたため、この動きは全部の試しでは記録できませんでした。

03長く待てるコウイカほど、ルールの切りかえも速く覚えた

チームは、別の学習の試験も行いました。水そうに白と濃い灰色の2枚の板を入れ、片方を選ぶとエサがもらえるようにします。コウイカがそれを覚えたら、今度は逆の色を正解に変えます。前に覚えたことを捨てて、新しいルールに切りかえる力を見る試験です。

6匹は平均27回の試しで最初のルールを覚え、平均46回で逆のルールを覚えました。そして、がまんの実験で長く待てた個体ほど、どちらのルールも少ない回数で覚えていました。がまんする力と学習の速さの関係は、人とチンパンジーで報告されてきました。サルの仲間以外の動物で見つかったのは、これが初めてだとチームは書いています。

水そうの奥に、透明な扉のついた小部屋が2つ並んでいる。コウイカは、すぐ開いている部屋のエビから体をそむけ、まだ閉じている部屋の生きた小エビのほうを向いて待っている。

04年をとったコウイカは「いつ・どこで・何を食べたか」を忘れなかった

同じチームは、年をとったコウイカの記憶も調べました。人は年をとると、「いつ、どこで、何をしたか」という出来事の記憶から衰えやすいことが知られています。この衰えには、脳の海馬という部分の働きが弱ることが関係すると考えられています。ところがコウイカの脳には、海馬がありません。

実験には、生後10か月の若いコウイカ6匹と、22か月の年をとったコウイカ6匹を使いました。まず、2か所でエサを出し、片方を食べさせます。2番目に好きなエサは1時間で同じ場所に補充され、一番好きなエサは3時間たたないと補充されません。2回目のエサの時間に正しい場所へ行くには、最初に何を、どこで食べ、それから何時間たったかを覚えている必要があります。しかも、エサの場所は毎日変わりました。

結果は、年をとったコウイカも若いコウイカと同じくらい正しく選べました。決められた成績に達するまでの日数は、年をとったコウイカのほうが短かったほどです。年をとったコウイカたちは、実験を終えた平均およそ26日後に、寿命で死にました。死ぬおよそ1か月前まで、出来事の記憶は保たれていたことになります。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

なぜ、短い命の動物にがまんする力があるのか

チンパンジーやカラスの場合、がまんする力は、仲間と食べ物を分け合う暮らしや、食べ物をかくしてためる習性と結びつけて考えられてきました。けれどもコウイカは、道具をふだん使わず、食べ物をためず、仲間と協力もしません。

チームが考えているのは、狩りのやり方との関係です。野生のコウイカは、海の底でまわりにまぎれて身をかくし、長い時間じっとしています。そして短い時間だけ外に出て、獲物をおそいます。獲物に十分近づくまで待つほうが、狩りはうまくいきやすいだろうとチームは考えています。ケンブリッジ大学の発表では、敵から身をかくすために長くじっとしていることが、がまんする力を育てたのではないかと説明しています。ただし、これは考えの一つで、確かめられたわけではありません。

「いつ・どこで・何を」の記憶を、動物でどう確かめるか

人は、思い出した出来事を言葉で説明できます。動物にはそれができません。そこで、ケンブリッジ大学のニコラ・クレイトン(Nicola Clayton)さんたちは、食べ物をかくすカケスという鳥で、行動から確かめる方法を考え出しました。何を、どこに、いつかくしたかを覚えていないと解けない問題を出すのです。クレイトンさんは、今回のコウイカの2つの研究にも加わっています。

2013年には、フランスのカン大学のクリステル・ジョゼ=アルヴ(Christelle Jozet-Alves)さんたちが、この方法をコウイカに使いました。それまで、この記憶は一部の鳥とけものでしか見つかっていませんでした。コウイカは、背骨のない動物で初めて、この記憶を持つと確かめられた動物になりました。

人のマシュマロテストにも、見直しが入った

人のマシュマロテストは、「幼いころに長く待てた子は、のちに成績がよい」という結果で有名になりました。2018年、アメリカのニューヨーク大学のタイラー・ワッツ(Tyler Watts)さんたちは、この関係を別の子どもたちのデータで調べ直しました。すると、4歳のときの待てた時間と15歳の成績の関係は、元の研究の半分ほどの強さでした。家庭の環境や、幼いころの知能の影響をさし引くと、その関係の強さは、さらに約3分の1にまで小さくなりました。「待てる力」だけで将来が決まるわけではない、ということです。

この研究の限界

どちらの研究も、使ったコウイカは6匹ずつです。記憶の論文でチームは、数を増やせば結果の確かさが上がると書いています。また、2つの試験はどちらも「目印とごほうびの結びつき」を覚えるところから始まります。そのため、がまんする力と学習の速さが本当に結びついているのか、単に結びつきの覚えやすさの差を見ているのかは、完全には区別できません。論文は、同じ待ち時間を何日かくり返してから次の長さへ進んだ実験のやり方が、待てる時間を長く見せた可能性もあると書いています。ただし、くり返しで上達した様子ははっきりとは見られなかったそうです。記憶の研究でも、年をとったコウイカは24時間前に覚えたことを忘れやすい、という別の報告があります。コウイカの記憶がすべて年をとっても衰えないわけではありません。

05まとめ

生後9か月のコウイカ6匹は、すぐ食べられるエビの切り身を見ながら、好物の生きた小エビが出てくるのを待ちました。待てた時間は50〜130秒です。長く待てる個体ほど、ルールの切りかえも速く覚えました。脳に海馬のないコウイカは、年をとっても「いつ・どこで・何を食べたか」を覚えていました。寿命が2年に満たない動物が、死ぬおよそ1か月前まで、何をどこで食べ、それから何時間たったかを覚えていたのです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

アメリカ マサチューセッツ州ウッズホール

研究チーム
イギリスのケンブリッジ大学などのチーム(第一著者アレクサンドラ・シュネル)
調べた場所
アメリカ・ウッズホールの海洋生物学研究所
調べた動物
生後9か月のヨーロッパコウイカ6匹(学名 Sepia officinalis)
調べ方
すぐ食べられるエサと、待つと出てくる好物を同時に見せ、どこまで待てるかを測った
分かったこと
6匹とも好物を待ち、待てた時間は50〜130秒。長く待てる個体ほど学習が速かった
まだ分からないこと
野生のコウイカも狩りのときに同じようにがまんしているのか
論文
Proceedings of the Royal Society B(2021年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

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Cuttlefish Can Wait for a Better Snack

In a famous test, a child gets one marshmallow now or two later. Scientists gave a similar test to six cuttlefish.

Each cuttlefish saw two small rooms with clear doors. One room had a piece of prawn that it could eat at once. The other room had a live shrimp, its favorite food, but that door opened later. The scientists made the wait longer, ten seconds at a time.

All six cuttlefish waited for the shrimp. Some waited for 50 seconds, and the longest wait was 130 seconds. While they waited, some turned their bodies away from the prawn. When the shrimp was never given, they ate the prawn quickly.

The cuttlefish that waited longer also learned a new rule faster. Cuttlefish usually live for less than two years. Still, they can control themselves to get better food.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many cuttlefish took the test?試験を受けたコウイカは何匹ですか。

Q2. What was in the room that opened later?あとで開く部屋には何が入っていましたか。

Q3. What was true about the cuttlefish that waited longer?長く待てたコウイカについて正しいのはどれですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Schnell, A. K. et al. (2021) Cuttlefish exert self-control in a delay of gratification task. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2020.3161
  2. 2Schnell, A. K. et al. (2021) Episodic-like memory is preserved with age in cuttlefish. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2021.1052
  3. 3University of Cambridge(2021)Cuttlefish show their intelligence by snubbing sub-standard snackscam.ac.uk/research/news/cuttlefish-show-their-intelligence-b
  4. 4Jozet-Alves, C. et al. (2013) Evidence of episodic-like memory in cuttlefish. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2013.10.021
  5. 5Watts, T. W. et al. (2018) Revisiting the Marshmallow Test: A Conceptual Replication Investigating Links Between Early Delay of Gratification and Later Outcomes. Psychological Science 論文確認済みdoi:10.1177/0956797618761661

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい