水族館のシャチが、初めて聞いた人の言葉「ハロー」を、1回目の試しでまねしてみせた

水族館のシャチに知らない音を聞かせて「まねして」と合図すると、人の言葉までまねできた。完ぺきではないが、聞いた人が分かるほど似ていた。

No.037 7分で読めるえっ度 論文 2018年
水族館のプールで、シャチが頭を水面から出し、頭のてっぺんの鼻の穴を空気にさらしている。プールのふちには、手で合図を出すトレーナーの後ろ姿がある。

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  1. シャチに知らない音を聞かせると、11種類すべてをまねできた
  2. 人の言葉「ハロー」「ワン・ツー・スリー」は1回目でまねた
  3. 野生のシャチの群れごとの鳴き方も、まねで伝わるのかもしれない

人に話すなら

フランスの水族館のシャチに「ハロー」って聞かせて、まねしてって合図したら、1回目でまねしたんだって。シャチは口じゃなくて頭の鼻の穴の奥で音を出すのにだよ。

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読む前に予想しよう

シャチは、聞いたことのない人の言葉もまねできた

オウムや九官鳥が人の言葉をまねすることは、よく知られています。では、けものはどうでしょう。耳で聞いた音を、自分の声で写しとる力を持つけものは、実はとても少ないのです。サルの仲間でこの力がはっきりあるのは、人間だけだと考えられています。

2018年、フランスの水族館にいるシャチが、人の言葉をまねできることが報告されました。トレーナーが「ハロー」と言い、「まねして」の合図を出すと、シャチは1回目で「ハロー」に似た音を出したのです。シャチは、聞いたことのない音を11種類聞かされ、そのすべてを、聞き分けられるほどまねしました。

野生のシャチには、群れごとに違う鳴き方があります。その鳴き方は、親から子へ遺伝で伝わるのか、まねして覚えるのか。それを実験で確かめた証拠は、これまでほとんどありませんでした。

01「まねして」の合図を、シャチは4年たっても覚えていた

研究を行ったのは、チリの大学のホセ・アブラムソン(José Abramson)さんたちのチームです。スペインのマドリード・コンプルテンセ大学の研究者や、イギリスのセント・アンドルーズ大学のジョゼップ・コール(Josep Call)さんも加わりました。

主役は、実験当時フランスのアンティーブにある水族館マリンランドで暮らしていた、14歳のメスのシャチ「ウィキー」です。手本の役をつとめたのは、ウィキーの3歳の子ども「モアナ」でした。

チームは4年前にも、同じシャチたちで実験をしていました。トレーナーが手で「まねして」の合図を出し、ほかのシャチの動きをまねさせる実験です。今回はまず、その合図をもう一度教え直そうとしました。ところがウィキーは、4年ぶりの合図に、最初の1回から正しく反応しました。

02仲間の知らない声と人の言葉、11種類を聞かせた

実験では、ウィキーが聞いたことのない音を使う必要があります。そこでチームは、このシャチたちの鳴き声の録音278個を調べました。さらに、シャチたちが自由に過ごす時間の声を28時間録音しました。その中に、これから使う音と似た声がないことを確かめたのです。

用意した新しい音は11種類です。5つはシャチが出した音を手本にしたもので、「きしむドア」や「オオカミ」と名づけられた音などでした。「オオカミ」は、サイレンのように高く鳴る音です。残りの6つは人の声です。笑い声の「アハハ」と、「ハロー」「バイバイ」、人の名前の「エイミー」、「ワン・ツー」「ワン・ツー・スリー」の言葉でした。

音を出すのは、子どものモアナ、スピーカー、またはトレーナーです。ウィキーは頭を水から出し、頭のてっぺんの鼻の穴を空気にさらした状態で音を聞き、まねをしました。つまり、空気中の音のまねです。

チームは、ほめ方にも気をつけました。新しい音のまねをしたときは、うまくても下手でも、魚などのごほうびをあげなかったのです。ごほうびで少しずつ形を整えたのではなく、聞いただけでまねできるかを見るためでした。

03「ハロー」と「ワン・ツー・スリー」は1回目でまねた

結果は、11種類すべてで「まねできた」でした。人の言葉のうち、「ハロー」と「ワン・ツー・スリー」は1回目でまねしました。人の声6つの中で一番時間がかかった笑い声の「アハハ」でも、17回目までにまねしています。シャチの声を手本にした音では、「きしむドア」は2回目、「オオカミ」は17回目まででした。

「まねできた」の判定は、まず実験をした2人が録音を聞いて行いました。それを、何の音の試しか知らされていない6人の判定役が確かめました。判定役は、手本の音とウィキーの音を組にして聞き、似ているかどうかを答えました。判定役どうしの答えは、9割が一致しました。

コンピューターでも比べました。音の高さの変わり方や、音の強さのリズムを取り出し、手本とまねの「ずれ」を数字にしました。すると、同じ音どうしの組は、違う音どうしの組よりはっきり似ていました。音の区切りの数も、手本とまねで一致していました。

まねの出来は、音によってばらつきました。最初にまねできたあとも、毎回うまくいったわけではありません。「ハロー」では、最初にまねできてからの試しのうち55%が成功でした。「アハハ」では14%にとどまりました。チームは、新しい音を出すこと自体の難しさや、日によるやる気の違いが影響したのではないかと考えています。

ウィキーのまねは、完ぺきではありませんでした。それでも「ハロー」「エイミー」「アハハ」の3つは、ウィキーが前から出せたシャチの音のまねの一部より、手本に近かったのです。

シャチの頭の断面。頭のてっぺんの鼻の穴から奥へ続く空気の通り道と、その途中にある、音を出す左右一対のひだが見える。

04鼻の奥で音を出すシャチが、人の声の形をなぞった

人は、のどにある声帯をふるわせて音を出し、のどや口、鼻の中の空間で響きを整えます。シャチの音の出し方は、まったく違います。シャチなどのハクジラの仲間は、頭のてっぺんの鼻の穴から続く空気の通り道で音を出します。そこには左右一対のひだがあり、それぞれが別々に音を出せます。

これほど体のしくみが違うのに、ウィキーは人の声に似た音を作りました。手本が人の場合、ウィキーの音の高さは人の声とかなり違うことがありました。それでも、音の高さが上がったり下がったりする形は、よく似ていました。人の声のような、高さのはっきりした音を聞いたときには、ウィキーも同じような響きを持つ音を出しました。

チームは、もう一つの確かめもしています。手本の音が流れても、トレーナーが「まねして」の合図を出さず、別の芸を指示する試しを混ぜたのです。ウィキーは、そのときは指示された芸をして、音のまねはしませんでした。聞こえた音に思わずつられて出したのではなく、合図があったときにだけまねしていたことになります。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

野生のシャチには、群れごとの「方言」がある

野生のシャチは、母親を中心にした家族の群れで暮らしています。論文によると、群れごとに独自の鳴き方の組み合わせがあり、これは「方言」とも呼ばれます。この方言は、親から子へだけでなく、別の家族の群れどうしでも伝わると考えられています。ただ、野生の群れで「まねして覚えたのか」を確かめるのは、とても難しいことでした。

これまでにも手がかりはありました。論文が紹介している例を挙げます。アイスランド生まれのメスのシャチは、別の地域の群れ出身のメスと数年一緒に飼われるうちに、相手の鳴き方に合わせた声を出すようになりました。野生では、生まれた群れからはぐれた若いシャチ2頭が、アシカのほえ声に似た声を出していたという観察もあります。また、アメリカでは、バンドウイルカと一緒に飼われていたシャチ3頭が、イルカに近い声の出し方をするようになった例が報告されています。そのうち1頭は、イルカに教えた人工の「チャープ」という音を、教えられないまま覚えて出しました。ただし、どれも思いがけず生まれた状況での観察で、実験で条件をそろえたものではありませんでした。今回の研究は、合図を使った実験で、シャチが聞いた音をまねできることを示しました。

声をまねできるけものは、なぜ少ないのか

鳥では、聞いた音をまねて鳴き方を覚える種がたくさんいます。一方、けものでは、この力はとても珍しいものです。これまで実験で確かめられてきたのは、主にバンドウイルカとシロイルカでした。2012年には、シロイルカが人の話し声に似た音を自分から出した録音も報告されています。

クジラやイルカに、この力が多い理由はまだはっきりしません。論文は一つの考えを紹介しています。水にもぐると、水の圧力で音を出す器官が縮みます。深さが変わっても同じ音を出すには、音の出し方を自分で細かく調節する力が必要です。この必要が、まねる力を育てたのかもしれない、という考えです。

この実験の限界

まず、ウィキーが言葉の意味を分かっていたわけではありません。セント・アンドルーズ大学の発表によると、チームはウィキーにとって意味のない音を、わざと選んでいます。知らない音をまねできるかを調べるためです。

調べたシャチは、水族館の1頭だけです。まねしたのは空気中の音で、シャチがふだん仲間とやりとりする水中の音ではありません。チームも、野生の方言がまねで伝わることを確かめるには、水中の声で実験する必要があると書いています。また、コンピューターで比べるときに選んだ音の特徴は、試しに選んだものでした。比べ方が本当に正しいかは、これからの研究で確かめる必要があります。

05まとめ

フランスの水族館のシャチ「ウィキー」は、聞いたことのない11種類の音を、どれも聞き分けられるほどまねしました。「ハロー」と「ワン・ツー・スリー」は1回目でまねしています。口ではなく、頭のてっぺんの鼻の穴の奥で音を出す動物が、人の声の上がり下がりをなぞったのです。野生のシャチの群れごとの鳴き方も、こうしたまねで受けつがれているのかもしれません。

RESEARCH FILE

研究カルテ

フランス アンティーブ

研究チーム
チリやスペイン、イギリスの大学などのチーム(第一著者ホセ・アブラムソン)
調べた場所
フランス・アンティーブの水族館マリンランド
調べた動物
14歳のメスのシャチ「ウィキー」(学名 Orcinus orca)。手本は3歳の子ども
調べ方
手本の音を聞かせて「まねして」と合図し、出した音を録音して人とコンピューターで比べた
分かったこと
聞いたことのないシャチの声5つと人の声6つを、どれも聞き分けられるほどまねできた
まだ分からないこと
野生のシャチが水中で、仲間の声をまねで覚えているのか
論文
Proceedings of the Royal Society B(2018年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

A Killer Whale Copies the Word "Hello"

Parrots can copy human words, but very few mammals can copy new sounds. Scientists tested a killer whale named Wikie at an aquarium in France.

A trainer or another whale made a new sound, and then the trainer gave a sign for "Copy this!" Wikie heard eleven sounds that she had never heard before. Six of them were human sounds, like "hello," "bye bye," and "one, two, three."

Wikie made copies of all eleven sounds. She copied "hello" on her first try. Her copies were not perfect, but listeners could recognize them.

Killer whales make sounds in the air passages under the hole on top of their heads. Wild groups of killer whales have their own calls. This study shows that whales may learn these calls by copying.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Where was Wikie tested?ウィキーはどこで調べられましたか。

Q2. How many new sounds did Wikie hear?ウィキーは新しい音をいくつ聞きましたか。

Q3. Which sentence is true?正しい文はどれですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Abramson, J. Z. et al. (2018) Imitation of novel conspecific and human speech sounds in the killer whale (Orcinus orca). Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2017.2171
  2. 2University of St Andrews(2018)Killer whale can mimic human speechnews.st-andrews.ac.uk/archive/killer-whale-can-mimic-human-s
  3. 3Ridgway, S. et al. (2012) Spontaneous human speech mimicry by a cetacean. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2012.08.044
  4. 4Musser, W. B. et al. (2014) Differences in acoustic features of vocalizations produced by killer whales cross-socialized with bottlenose dolphins. JASA 論文確認済みdoi:10.1121/1.4893906

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい