サバンナの動物は、ライオンの声より人のおしゃべりを聞いたときに2倍逃げやすかった
南アフリカの水場で声を流す実験をすると、野生動物はライオンより人のおしゃべりで逃げやすかった。ゾウやサイも人の声で水場を早く離れた。

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- 人の話し声を聞くと、ライオンの声のときより2倍逃げやすかった
- 調べた19のグループのうち18で、人の声のほうが強くこわがられた
- 犬の声や銃声より、人の声そのものが一番こわがられた
人に話すなら
サバンナの水場で、ライオンのうなり声と人のふつうのおしゃべりを流したら、動物は人の声のほうで2倍も逃げやすかったんだって。銃声よりも人の声のほうがこわいらしいよ。
読む前に予想しよう
サバンナの動物は、銃声より人のおしゃべりのほうをこわがった
人の話し声への反応は、犬の声や銃声への反応よりはっきり強かった。
アフリカのサバンナで、動物たちが一番こわがっているものは何でしょう。多くの人はライオンと答えると思います。ライオンは体が大きく、群れで狩りをします。ほとんどのけものをしとめることができ、子どものゾウがおそわれることもあります。
ところが、南アフリカの国立公園で行われた実験では、答えが違いました。水場で人のふつうのおしゃべりを流すと、動物たちはライオンのうなり声のときより2倍逃げやすかったのです。キリンもシマウマもヒョウも、人の声のほうでよく走って逃げました。
人間がこわがられていることは、昔から何となく知られていました。けれども、「百獣の王」と言われるライオンとくらべて、どちらがこわいのか。それを実験で確かめた研究は、まだありませんでした。
01水場の木にカメラとスピーカーを取りつけ、5種類の音を流した
研究を行ったのは、カナダのウェスタン大学のリアナ・ザネット(Liana Zanette)さんたちのチームです。アメリカのミネソタ大学のクレイグ・パッカー(Craig Packer)さんたちも加わりました。舞台は、南アフリカのグレーター・クルーガー国立公園です。ここには、世界でも有数の大きなライオンの集団がすんでいます。
チームは、たがいに2km以上はなれた水場21か所を選びました。実験をしたのは、雨の少ない乾季の6週間(6〜8月)です。水場のそばの木に、カメラとスピーカーを1組ずつ取りつけます。動物が近づくとカメラが動き出し、3秒後にスピーカーから10秒間だけ音が流れるしくみです。人はその場にいません。
流した音は5種類です。①人の話し声 ②ライオンのうなり声 ③犬のほえ声 ④銃声 ⑤比べるための鳥の鳴き声。人の声は、現地で使われるツォンガ語や英語などで、男女がおだやかに会話しているものでした。ライオンの声も、ほえる声ではなく、仲間どうしで低くうなり合う声を選びました。
音の大きさは、どれも同じにそろえました。10m先で60デシベルです。動物に聞こえるけれど、びっくりはしない大きさを選びました。音の種類は16分ごとに切りかわるようにして、昼も夜も全部の音がまんべんなく流れるようにしました。
02人の声を聞くと、逃げる割合は2倍、水場を離れるのは4割早かった
録画した動画は1万720本になりました。同じ水場で同じ種が60分以内に同じ音を続けて聞いた分を1回とまとめると、反応の記録は4,238回です。動画を見て反応を記録する人には、音を消した動画を見せました。どの音が流れたか知らないまま判定するためです。
結果ははっきりしていました。動物全体で見ると、人の話し声を聞いたときに逃げる割合は、ライオンの声のときの2倍でした。ここでの「逃げる」は、速い足どりで4歩以上かけ出すことです。人の声を聞いた動物は、水場を離れるまでの時間も、ライオンのときより4割短くなりました。
調べた動物は19のグループに分けられました。18種と、小型の肉食動物8種をまとめた1グループです。そのうち18のグループで、人の声を聞いたほうが、よく逃げるか、早く水場を離れるかのどちらかでした。キリン、ヒョウ、ハイエナ、シマウマ、クーズー、イボイノシシ、インパラは、人の声のほうで逃げる割合がはっきり高くなりました。サイとゾウは、人の声のほうで水場をはっきり早く離れました。
03ゾウはライオンの声には立ち向かうこともあったが、人の声からは立ち去った
ゾウだけは、少し変わった動きを見せました。走る割合だけを見ると、ゾウは人よりライオンの声で多く走りました。ところが動画をよく見ると、その走り方は逃げるためのものではありませんでした。
ライオンの声を聞いたゾウは、何度か、仲間どうしで走り寄ってかたまり、群れで声のほうへ近づいていきました。ライオンの声を流しているスピーカーに向かって走り、攻撃したこともありました。大人のゾウは、ライオンを群れで追いはらうことができるからだと、チームは考えています。人の声を聞いたゾウが、こうした動きをすることは一度もありませんでした。ゾウは人の声を聞くと、ライオンの声のときより早く水場を立ち去りました。

ゾウが人の声を聞き分けることは、別の研究でも知られていました。イギリスのサセックス大学のカレン・マッコム(Karen McComb)さんたちは、ケニアの国立公園で野生のゾウに人の声を聞かせました。すると、ゾウにとって危険の大きいマサイの男性の声を聞いたときに、ゾウは身を寄せ合ったり、鼻でにおいを確かめたりしました。同じマサイでも、女性や男の子の声では、こうした反応は少なかったのです。
04犬のほえ声や銃声より、人の話し声のほうがこわがられた
この国立公園でも、許可を受けた狩りや、法律に反する密猟が行われています。狩りでは、犬に獲物を追い立てさせたり、銃を使ったりします。それなら、犬の声や銃声のほうがこわいはずだと思うかもしれません。
ところが結果は逆でした。犬のほえ声や銃声への反応は、ライオンの声と同じくらいか、それより弱かったのです。人のおだやかな話し声だけが、ほかのどの音よりはっきり強い反応を引き出しました。チームは、動物たちが「本当の危険は人そのものだ」と受け止めているのだろうと考えています。
人の声へのこの強い反応は、自然を守る仕事にとって悩みの種にもなります。アフリカの保護区の多くは、観光客が払う入園料に頼って運営されています。写真をとりに来た人と、狩りに来た人の区別が動物につかないなら、観光客の声でも動物は水場を離れてしまいます。
一方で、役に立つ使い道もあります。サイは人の声を聞くと水場から逃げ去りました。クルーガーでは、2008年からサイの密猟が急に増えています。人の声を流して、密猟の危険が高い場所からサイを遠ざける。そんな守り方が考えられると、チームは書いています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
人間が「スーパー捕食者」と呼ばれる理由
カナダのビクトリア大学のクリス・ダリモント(Chris Darimont)さんたちは、2015年に世界中のデータを集めて調べました。人の狩りや漁と、ほかの肉食動物の狩りをくらべたのです。人は、大人の獲物をほかの捕食者よりずっと高い割合でとっていました。割合の中央値でくらべると、差は最大14倍でした。大人の獲物は、子どもを産んで数を保つ役目をになっています。チームは人間を「スーパー捕食者」と呼びました。
ダーウィンも気づいていた「人へのおそれ」
野生動物が人をこわがることは、新しい発見ではありません。論文によると、チャールズ・ダーウィン(Charles Darwin)も『ビーグル号航海記』でこの話題にふれています。新しいのは、そのおそれがどれだけ強く、どれだけ広くいきわたっているかを、数字で比べられるようになったことです。
そのカギは、実験の組み立て方にあります。今回の実験では、こわがられて当然のライオンの声と、こわがられないはずの鳥の声を、人の声と一緒に流しました。一番こわがられるはずの音と、こわがられないはずの音の両方とくらべられるので、人の声への反応がどのくらい強いのかが分かります。
同じ形の実験が、世界の各地でくり返されてきた
人の声とほかの捕食者の声をくらべる実験は、今回が初めてではありません。2016年には、同じ研究グループがイギリスでアナグマに声を聞かせました。人の声を聞いたアナグマは、食べ物に近づくまでの時間も、食べている時間も大きく変わりました。犬やクマの声の影響はずっと小さく、オオカミの声では変化が見られませんでした。論文によると、北アメリカのピューマや、オーストラリアのカンガルーでも、人の声のほうがこわがられました。今回の研究は、その答えがライオンのいる土地でも同じだったことを示しました。
この実験で分からないこと
まず、実験の条件には限りがあります。調べたのは乾季の水場だけで、6週間の結果です。水がたくさんある季節や、水場から遠い場所で同じ反応になるかは分かりません。
次に、こわがることの影響です。動物が水場を早く離れれば、水を飲む時間は減ります。けれども、それが動物の数や暮らしにどこまで響くかは、この実験では調べていません。著者たちも、影響があるかどうかは、まず実験で確かめる必要があると書いています。
最後に、ライオン自身の反応です。ライオンは、ライオンの声を聞いても人の声を聞いても、一度も走って逃げませんでした。こわがり方を「逃げるかどうか」で測る方法では、ライオンのような動物の反応は測れません。
05まとめ
南アフリカの水場21か所で、ライオンのうなり声と人のおしゃべりを同じ大きさで流した実験では、野生動物は人の声のほうで2倍逃げやすくなりました。19のグループのうち18で、人の声のほうが強くこわがられました。犬のほえ声や銃声よりも、人の話し声そのものが一番の危険の合図になっていたのです。ライオンのスピーカーに向かっていったゾウでさえ、人の声を聞くと水場から立ち去りました。
研究カルテ
南アフリカ グレーター・クルーガー国立公園
- 研究チーム
- カナダのウェスタン大学などのチーム(第一著者リアナ・ザネット)
- 調べた場所
- 南アフリカのグレーター・クルーガー国立公園の水場21か所
- 調べた動物
- キリン・ゾウ・サイ・ヒョウなど、水場に来た野生のけもの(19のグループ)
- 調べ方
- 自動のカメラとスピーカーで、人・ライオン・犬・銃声・鳥の声を流し、反応を録画した
- 分かったこと
- 人の話し声のときに逃げる割合はライオンの2倍、水場を離れる時間は4割早かった
- まだ分からないこと
- 乾季の水場以外でも同じか。こわがることが動物の数にどこまで響くか
- 論文
- Current Biology(2023年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Many people think lions are the scariest animals in Africa. Scientists tested this idea at 21 waterholes in South Africa.
They put a camera and a speaker on a tree near each waterhole. When an animal came close, the speaker played a sound for ten seconds. The sounds were people talking calmly, lions growling, dogs barking, gunshots, or birds.
The animals were twice as likely to run from human voices as from lions. Giraffes, zebras, and leopards all ran more often from people. Even gunshots and barking dogs were not as scary as human voices.
Elephants sometimes ran toward the lion sounds and attacked the speaker. But when they heard people, they left the waterhole sooner. The scientists think wild animals see humans as the real danger.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many waterholes did the scientists use?研究者たちは水場をいくつ使いましたか。
南アフリカの国立公園にある21か所の水場で実験をしました。
Q2. Which sound made the animals run the most?動物たちが一番逃げたのはどの音ですか。
人のおだやかな話し声で、ライオンの声のときの2倍逃げやすくなりました。
Q3. What did elephants do when they heard people?人の声を聞いたゾウはどうしましたか。
スピーカーを攻撃したのはライオンの声のときでした。人の声では水場を早く離れました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Zanette, L. Y. et al. (2023) Fear of the human "super predator" pervades the South African savanna. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2023.08.089
- 2Clinchy, M. et al. (2016) Fear of the human "super predator" far exceeds the fear of large carnivores in a model mesocarnivore. Behavioral Ecology 論文確認済みdoi:10.1093/beheco/arw117
- 3Darimont, C. T. et al. (2015) The unique ecology of human predators. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.aac4249
- 4McComb, K. et al. (2014) Elephants can determine ethnicity, gender, and age from acoustic cues in human voices. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.1321543111
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