野生のイルカの合図で、漁師が網を投げる。イルカがいると、とれるボラは4倍近くに

ブラジルの漁師は、野生のイルカの合図で網を投げる。イルカがいると、とれるボラは4倍近くに増え、イルカも網のボラを取っていた。

No.024 8分で読めるえっ度 論文 2023年
浅い水路で、灰色のバンドウイルカが背びれを見せて急にもぐり、そのすぐ先の水ぎわで、漁師の後ろ姿が丸い網を投げ広げている。

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  1. イルカがボラの群れを岸へ追い、合図を出すと漁師が網を投げる
  2. イルカがいると、漁師がとるボラの数は4倍近くになった
  3. 漁師と協力するイルカは、生き残る割合が約13%高かった

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ブラジルには、野生のイルカの合図で網を投げる漁師がいるんだって。イルカがいると、とれるボラが4倍近くになって、イルカも網にかかったボラを横取りしてるらしいよ。

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ブラジルの協力漁では、得をしているのは漁師だけで、イルカは損をしている

ブラジル南部の町の浜で、漁師たちが網を手に、水の中に並んで立っています。目の前の濁った水の中は、魚が見えません。漁師たちが見ているのは、水面に出るイルカの動きです。イルカが急に深くもぐると、それを合図に漁師が網を投げます。

この町では、野生のイルカと漁師の協力漁が100年以上続いています。研究チームがドローンや水中の音を使って調べると、イルカがいるとき、漁師がとったボラの数は、いないときの4倍近くでした。そして、イルカの側にも得があることが、数字で確かめられました。

人と野生動物が協力し合う例は、世界でもほとんど残っていません。漁師がイルカを利用しているだけなのか、イルカも得をしているのか。それは長いあいだ、はっきりしていませんでした。

01水路の浜で、イルカがボラを岸へ追ってくる

舞台は、ブラジル南部のラグーナという町です。広い潟(かた)が広がり、その水路ぞいの浜で漁が行われます。主にねらうのは、海を回遊してくるボラです。

ここのイルカは、バンドウイルカのうち、南アメリカの南部にすむ亜種です。調査地のイルカは、平均すると55頭ほどでした。そのうち一部のイルカだけが、漁師と一緒に漁をします。

漁師は、丸く広がる投網(とあみ)を使います。でも、水が濁っていて、魚の群れは見えません。そこで、イルカの動きを手がかりにします。イルカが岸の近くでボラを追い、合図の動きをしたら網を投げるのです。合図として多いのは、急に深くもぐる動きです。

02研究チームは、空・水中・漁師の手首から同時に記録した

調べたのは、ブラジルのサンタカタリーナ連邦大学などのマウリシオ・カントール(Mauricio Cantor)さんたちです。チームは2018年と2019年のボラの季節に、合わせて44日間、浜にはりつきました。直接観察した時間は、267時間にのぼります。

チームは、いくつもの道具を同時に使いました。上空からはドローンで、イルカと漁師の動きを撮影しました。水中では、音で像を映すソナーのカメラで、濁った水の中のボラの群れをとらえました。水中マイクでは、イルカがえものを探すときに出す音を録音しました。

漁師には、GPSのついたリストバンドをつけてもらいました。これで、漁師がいつ水に入り、どこに立っていたかが分かります。さらに、漁師の網に何匹かかったかを数え、イルカは背びれの形で1頭ずつ見分けました。

上から見た浅い水路。イルカがボラの群れを岸の方へ追いこみ、水に入って並んで立つ漁師たちのすぐ前で、イルカが体を返してもぐろうとしている。

03イルカがいると、漁師がとるボラの数は4倍近くになった

まず分かったのは、漁師がイルカに強く引きつけられていることです。イルカがやって来ると、漁師はすぐに水に入りました。そして、イルカがいるときのほうが、網を投げる回数が多くなりました。

網を投げた751回について、ボラがとれたかどうかを比べました。イルカがいるときは、いないときに比べて、ボラが1匹でもとれる見込みが、はっきり高くなりました。とれたボラの数は、4倍近くになりました。

ただし、イルカがいるだけでは足りません。チームは、ドローンの映像から、漁のやりとり2805回を4つの型に分けました。イルカが近づいて合図をし、漁師がすぐに網を投げる「息の合った」型は、45.8%でした。

息の合った型では、イルカは漁師から平均12メートルほどのところまで来ていました。漁師は合図から平均8秒ほどで網を投げていました。一方、合図に気づくのが遅れたり、イルカから離れた所に投げたりする型もありました。

漁師がボラをとれたやりとり433回のうち74%は、息の合った型でした。とれたボラ4955匹で数えると、86%が息の合った型からでした。ソナーの映像では、息の合った型のときだけ、岸の近くのボラが増えていました。イルカが本当に、ボラを漁師の前へ追いこんでいたのです。

04イルカも、網にかかったボラを取っていた

では、イルカは何を得ているのでしょうか。イルカがとった魚を数えるのは、漁師の網を数えるよりずっと難しいことです。そこでチームは、3つの手がかりを集めました。

1つ目は、音です。イルカは、えものに近づくと、短い間かくで「ブーッ」とつながる音を出します。息の合った漁のあとほど、この音が多く録音されました。

2つ目は、もぐる時間です。息の合った漁で漁師がボラをとれたとき、イルカは合図のあと平均2分ほどもぐっていました。網が水に落ちてからボラの上で閉じるまでは、約20秒です。イルカはそのあいだも水中に残って、ボラを追っていたと考えられます。

3つ目は、映像です。ドローンとソナーの映像に、イルカが網にかかったボラを直接取り出す様子が映っていました。漁師への聞き取りでも、61%が「イルカが網からボラを1、2匹引っぱっていくのを感じる」と答えています。

05協力するイルカは生き残りやすいが、協力はへりつつある

チームは、船からのイルカの調査を12年分まとめて分析しました。漁師と漁をするイルカは、ときどき漁をするイルカもふくめて、漁をしないイルカより生き残る割合が約13%高くなっていました。

理由の1つとして、チームは「網へのからまり」を挙げています。この地域では、禁止されている刺し網などがあちこちに張られています。2016〜2018年に浜に打ち上げられたイルカ12頭のうち、6頭が網にからまっていました。協力しないイルカは、からまる危険が3.3倍でした。協力するイルカは浜の近くにとどまるので、危ない網のある場所を通ることが少ないのだろう、と考えられています。

ただし、この協力は弱まっています。調査の年月のあいだに、イルカが漁師と漁をする回数はへってきました。その動きは、ボラの量がへってきたことと重なっていました。イルカと漁をした経験の長い漁師も、少なくなっています。

チームは、この先を計算で予測しました。ボラが大きくへる最悪の場合、この協力漁は40〜60年で消えてしまいます。漁師が漁を続けるための支え。危ない網のとりしまり。この2つを組み合わせたときだけ、協力が続くという結果でした。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

なぜイルカは人と組むようになったのか

イルカにとって、岸に追いこんだボラの群れに網が投げこまれると、群れが乱れます。論文は、イルカが網で乱れたボラをとらえやすくなったり、網から直接取ったりできる可能性を挙げています。つまり、漁師の網はイルカにとって「えものを取りやすくする道具」になっているのかもしれません。さらに、浜の近くで漁をすることで、危ない網から離れていられます。えさと安全の両方が、協力を続ける得になっていると考えられます。

研究の歴史:イルカの「協力派」は仲間どうしで集まっていた

この協力漁は、地元では昔から知られていました。漁師たちは、イルカによって漁に加わる度合いが違うことにも気づいていました。2012年には、同じ研究者たちが、ラグーナのイルカの付き合い方を調べました。すると、漁師と漁をするイルカどうしは、ほかのイルカより一緒にいることが多いと分かりました。イルカの群れは、漁をするイルカとしないイルカで、別々のまとまりに分かれていたのです。チームは、協力のやり方が仲間から仲間へ学んで伝わっている可能性を指摘しています。

ほかの動物と人の協力

人と野生動物の協力は、昔はほかの土地にもありました。オーストラリア国立大学の発表によると、オーストラリアの先住民も、19世紀までバンドウイルカと協力してボラをとっていた証拠があります。今も続く有名な例は、アフリカのミツオシエという鳥です。この鳥は、人をハチの巣まで案内します。モザンビークで行われた実験では、人が決まった呼び声を出すと、鳥に案内してもらえる確率が約33%から約66%に上がりました。

協力がへったのは、イルカがへったからではない

協力の回数がへったと聞くと、イルカの数がへったのかと思うかもしれません。でも、12年の調査で、イルカの数はほぼ変わっていませんでした。へったのは、1頭1頭が漁師と漁をする回数です。それに合わせて、イルカどうしの付き合い方や、動き回る範囲も変わってきました。動く範囲が広がると、危ない網のある場所と重なりやすくなります。論文は、このイルカの集団が小さく、遺伝的にもほかと区別される集団であることにもふれています。だからこそ、協力が消えることはイルカの未来にも関わるのです。

研究方法の工夫と限界

この研究の強みは、空と水中と漁師の動きを同時に記録したことです。それによって、「合図」と「網」と「ボラ」の順番を、秒の単位で追えました。一方で、イルカが実際に何匹食べたかは、直接は数えられていません。音やもぐる時間、映像からの推定です。また、「4倍近く」は、イルカがいるときといないときを比べた数字です。漁師が網を投げた回数やボラの多さもからむので、チームは統計でそれらの影響を考えに入れて計算しています。

06まとめ

ブラジルのラグーナでは、野生のイルカがボラを岸へ追い、合図を出すと漁師が網を投げます。イルカがいると、漁師がとるボラの数は4倍近くになりました。イルカも網のボラを取り、協力するイルカは生き残る割合が約13%高くなっていました。

ただし、ボラがへり、協力の回数も少なくなっています。最悪の場合、この漁は40〜60年で消えると予測されています。

漁師たちが網を投げる合図にしているのは、イルカが急に深くもぐる動きです。合図から網を投げるまでの時間は、平均で約8秒でした。

RESEARCH FILE

研究カルテ

ブラジル・ラグーナ

研究チーム
ブラジルのサンタカタリーナ連邦大学などのチーム(第一著者マウリシオ・カントール)
調べた場所
ブラジル南部の町ラグーナの水路ぞいの浜
調べた動物
野生のバンドウイルカ(南米南部にすむ亜種、学名 Tursiops truncatus gephyreus)と、網を投げる漁師
調べ方
ドローン、水中ソナー、水中マイク、漁師のGPSを同時に使って漁を記録。さらに12年分のイルカの調査を分析した
分かったこと
合図とタイミングが合うと、漁師はボラを多くとり、イルカも網のボラを取っていた
まだ分からないこと
ボラが減り続けたとき、この協力がいつまで続けられるのか
論文
Proceedings of the National Academy of Sciences(2023年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Dolphins and Fishers Work as a Team

In a town in southern Brazil, people fish with wild dolphins. The dolphins push fish called mullet toward the shore. Then a dolphin makes a sudden deep dive. This is the signal, and the fishers throw their nets.

Scientists used drones, sound recorders, and underwater cameras to study this. They watched the fishing for 44 days in 2018 and 2019. With dolphins around, the fishers caught almost four times more mullet. But the timing had to be right. In good teamwork, the fishers threw their nets about eight seconds after the signal.

The dolphins also get something. Videos showed dolphins taking fish out of the nets. Dolphins that often fish with people had about 13 percent higher survival.

This teamwork has continued for more than 100 years. But there are fewer mullet now. The scientists say the teamwork may disappear if nothing changes.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What is the dolphins' signal?イルカの合図は何ですか。

Q2. What did the videos show?映像には何が映っていましたか。

Q3. Why may the teamwork disappear?この協力はなぜ消えてしまうかもしれないのですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Cantor, M. et al. (2023) Foraging synchrony drives resilience in human–dolphin mutualism. Proceedings of the National Academy of Sciences 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2207739120
  2. 2同論文の全文(PubMed Central)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9963516/
  3. 3Daura-Jorge, F. G. et al. (2012) The structure of a bottlenose dolphin society is coupled to a unique foraging cooperation with artisanal fishermen. Biology Letters 論文確認済みdoi:10.1098/rsbl.2012.0174
  4. 4Spottiswoode, C. N. et al. (2016) Reciprocal signaling in honeyguide-human mutualism. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.aaf4885
  5. 5Australian National University(2023)プレスリリースanu.edu.au/news/all-news/fishing-in-tandem-brings-benefits-f

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい