イルカは遊ぶとき、相手に見える位置で口を開ける。見た相手は3回に1回、すぐ口を開け返した

仲間と遊ぶバンドウイルカは、相手に見える位置で口を開けていた。それを見た相手は、3回に1回、1秒以内に口を開け返した。

No.084 7分で読めるえっ度 論文 2024年
青い水の中で、2頭のバンドウイルカが向かい合い、1頭が口を大きく開けて相手に見せている。相手のイルカも口を開けはじめている。

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  1. イルカは仲間と遊ぶときに、口を大きく開ける
  2. 口を開けるのは、ほとんどが相手に見える位置だった
  3. 見た相手は3回に1回、1秒以内に口を開け返した

人に話すなら

イルカって、仲間と遊ぶときに口をパカッと開けて見せるんだって。それを見た相手も、3回に1回はすぐ口を開け返すらしいよ。サルの遊びの顔に似てるんだって。

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読む前に予想しよう

イルカがひとりで遊んでいるときにも、口を開ける合図がたくさん見られた

イルカの顔は、いつも笑っているように見えます。けれど、あれは口の形がもともとそうなっているだけです。イルカは顔の筋肉の動きがかぎられていて、人のように表情を大きく変えることはできません。では、イルカは顔を使って気持ちを伝えることがないのでしょうか。

イタリアのピサ大学のヴェロニカ・マリエーリ(Veronica Maglieri)さんとエリザベッタ・パラージ(Elisabetta Palagi)さんたちは、イルカの遊びをビデオで調べました。すると、仲間と遊ぶバンドウイルカは、口を大きく開けて見せていました。その約9割は、相手に見える位置でした。しかも、それを見た相手は3回に1回、1秒以内に自分も口を開けました。

人の笑い顔や、サルやクマが遊ぶときに見せる口を開けた顔は、「これは遊びだよ」という合図だと考えられています。こうした遊びの顔は、陸の動物では多く調べられてきました。一方で、海の動物の遊びの合図は、ほとんど調べられていませんでした。この研究は、イルカにも目で見る遊びの合図があることを示しました。

012つの施設のイルカ22頭の遊びを、水中から80時間撮影した

研究チームが調べたのは、2つの施設で飼われているバンドウイルカです。イタリアのローマ近くの海洋パークの11頭と、フランス西部の動物公園の11頭、合わせて22頭です。年齢は1歳から38歳まででした。

撮影は、イタリアでは2020年の9月から11月、フランスでは2023年の8月から9月に行いました。大きなプールには、水中が見える大きなガラス窓があります。研究者はその前を動きながら、イルカの自由な時間を撮影しました。訓練やエサの時間は、撮影からのぞきました。

撮ったビデオは、合わせて80時間、60日分です。研究者はそこから837回の遊びを取り出し、専用のソフトで1コマずつ見ていきました。ひとりで遊ぶ、人と遊ぶ、イルカどうしで遊ぶ、の3種類に分け、それぞれで何が起きたかを記録しました。

02口を開ける合図は、仲間との遊びの最中にばかり出た

研究チームが注目したのは、口を大きく開けて相手に見せる動きです。研究チームは、これを「口開け」とよびました。記録された口開けは1288回で、17頭のイルカが見せました。

口開けは、ほぼすべてが、だれかと遊んでいる最中でした。ひとりで遊んでいるときの口開けは、たった1回でした。そして、人と遊ぶときより、イルカどうしで遊ぶときに多く出ました。

本当のけんかでは、口開けは見られませんでした。研究チームが記録した本気の攻撃は15回で、どの攻撃でも、攻める側にも攻められる側にも口開けはありませんでした。のんびり並んで泳いでいるときにも、口開けは出ませんでした。

03口を開けるのは、ほとんどが相手に見える位置だった

バンドウイルカの目で見える範囲は、およそ120度です。研究チームは、口を開けたイルカが、相手の見える範囲の中にいたかどうかを調べました。

くらべたのは、口を使う3つの動きです。口開けのほかに、口先で相手の体にさわる動きと、遊びでかみつこうとする動きです。3つとも口を動かす点は同じですが、相手に見える位置で行われた割合が違いました。口開けは89.17%が相手に見える位置で、ほかの2つよりはっきり多かったのです。

研究チームは、イルカが相手の注意がどこに向いているかに気をくばって、口開けを見せていると考えています。

水中で遊ぶ2頭のバンドウイルカを上から見た絵。1頭の頭の前に、扇のように広がった見える範囲がうすい色でえがかれ、その中でもう1頭が口を開けている。

04見た相手は3回に1回、1秒以内に口を開け返した

研究チームは次に、口開けを見た相手がどうするかを調べました。人では、相手の表情を見てから0.5秒以内に、自分も同じ表情になることがあります。自分で意識してまねるより速い反応です。研究チームは、口開けのあと1秒以内に相手も口を開けたかどうかを見ました。

よく遊ぶ2頭の記録が多すぎたので、研究チームはその分を減らしてから数えました。その中で、相手に見える位置での口開けは199回ありました。そのうち66回、33.16%で、相手が1秒以内に口を開け返しました。相手に見えない位置での口開けは25回で、開け返したのは1回、4%だけでした。相手に見えたときのほうが、ずっと開け返しやすかったのです。

同じように口を開け返す反応は、ミーアキャットでは27%、マレーグマでは39%と報告されています。イルカの33%は、そのあいだに入ります。

05かみつく準備なのでは? 研究チームが確かめたこと

口を開けるのは、ただのかみつく準備ではないか、という疑問もありえます。研究チームはこの点も調べました。

口開けを見せても、相手が開け返さなかった場合は全体の66.84%ありました。その場合でも、口を開けたイルカが相手にかみつくことは一度もありませんでした。また、遊びのかみつきは567回ありましたが、口先から胸びれの前までの、顔のあたりをねらったものは25回だけでした。

もう一つ、口を開けるのは音を出すためではないか、という考えもあります。けれど、イルカの声は口ではなく、頭の中の鼻の通り道で作られます。エコーロケーションという音を使った探りの音も、口を閉じたまま出します。研究チームは、口を開けても音の向きが変わるという証拠はない、としています。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

遊びの顔は、かみつく動きから生まれたと考えられている

動物の合図の多くは、もとは別の目的の動きが、形を変えて生まれたと考えられています。オランダ生まれの動物行動学者ニコ・ティンバーゲンが唱えた考え方です。遊びのときに口を開ける顔は、かみつく動きのうち、相手にふれる部分がなくなり、口を開ける準備だけが残ったものだとされています。

この考え方では、肉食の動物が遊びで見せる口を開けた顔、サルの遊びの顔、人や類人猿の笑いは、どれも同じように生まれた合図です。2022年の論文では、肉食の動物の6つのグループについて、遊びの顔でどの筋肉が動くかを調べました。その結果、肉食の動物の遊びの顔は、サルなどの遊びの顔と共通の祖先から受けついだものだと考えられました。

なぜ遊びに合図が必要なのか

遊びの中には、追いかける、かみつく、尾で打つなど、けんかと同じ動きがたくさん出てきます。合図がなければ、遊びが本当のけんかになってしまうおそれがあります。だから遊ぶ動物には、「これは遊び」と細かく伝え合う力が必要だ、と研究チームは説明しています。

イルカは、声で仲間とやりとりすることでよく知られています。それでも顔の合図を使うのはなぜでしょうか。研究チームは、声を出すと敵に見つかったり、ほかのイルカに聞かれたりするおそれがある点をあげています。水がすんでいて、相手がすぐ近くにいるときは、目で見る合図のほうが向いているのかもしれません。

イルカの口開けは、サルの遊びの顔と同じ起源なのか

イルカの口開けが、サルやクマの遊びの顔と同じ祖先から受けつがれたものかどうかは、まだ分かりません。別々に同じような合図を進化させた可能性もあります。

クジラやイルカのなかまは、カバやシカと近いなかまだと考えられています。もし遊びの顔の起源を調べるなら、カバやシカの遊びの合図を調べる必要があります。ところが、そうした動物の遊びの合図は、まだ調べられていません。

ほかの動物の「口を開け返す」研究

相手の表情をすばやくまねる反応は、これまでサルやクマ、ミーアキャットなどで見つかっています。2019年のミーアキャットの研究では、仲のよい相手ほど、遊びの顔をまねしやすいことが分かりました。まねが起きた遊びは、長く続きました。同じ2019年のマレーグマの研究では、クマは相手の表情の細かい違いまでまねていました。また、相手が自分を見ているときに、口を開けた顔をよく見せていました。

この研究の限界

研究チームは、いくつかの限界をあげています。調べたのは飼われているイルカで、口を開け返す反応を確かめたのは3つの群れだけです。音は録音していないので、口開けが声と一緒に使われているかは分かりません。イルカの口先は水の動きに敏感なので、さわる感覚が合図にかかわっている可能性もあります。口開けの中には、身を守るためのものがまじっている可能性も消せません。

06まとめ

バンドウイルカは、仲間と遊ぶときに口を大きく開けて見せていました。口開けの約9割は相手に見える位置で、見た相手は3回に1回、1秒以内に口を開け返しました。ひとり遊びや本気のけんかでは、口開けはほとんど出ませんでした。

ただし、これは飼われているイルカでの結果で、声やさわる感覚とのかかわりもまだ分かっていません。口開けが、サルやクマの遊びの顔と同じ祖先から受けつがれたものかどうかも、これからの研究を待つ必要があります。

この研究で記録されたイルカの口開け1288回のうち、ひとりで遊んでいる最中のものは、たった1回でした。

RESEARCH FILE

研究カルテ

イタリア・ローマ近郊

研究チーム
イタリアのピサ大学のヴェロニカ・マリエーリさん、エリザベッタ・パラージさんと、トリノ大学などのチーム
調べた場所
イタリア・ローマ近くの海洋パークとフランス西部の動物公園
調べた動物
2つの施設で飼われているバンドウイルカ22頭(学名 Tursiops truncatus)
調べ方
訓練やエサの時間以外の遊びをガラスごしに水中から80時間撮影し、1コマずつ分析した
分かったこと
口を開けるのは仲間との遊びの最中で、相手に見える位置が多く、見た相手は口を開け返しやすかった
まだ分からないこと
音や体のふれ合いも合図に使っているのか。野生のイルカでも同じなのか
論文
iScience(2024年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Dolphins Open Their Mouths to Say "Let's Play"

Dolphins always seem to smile, but that is just the shape of their mouths. Scientists in Italy and France wanted to know if dolphins use their faces to send messages.

They filmed 22 dolphins at two parks in Italy and France. They filmed the dolphins under the water through a big glass window. They watched about 80 hours of video very carefully. When dolphins played together, they often opened their mouths wide. They almost never did this when they played alone.

Most of the time, the dolphin opened its mouth where its partner could see it. When the partner saw it, the partner opened its mouth too in one of three cases. This happened within one second.

Monkeys, bears, and meerkats also show open mouths when they play. Scientists do not know yet if the dolphin signal has the same origin.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many dolphins did the scientists film?研究者は何頭のイルカを撮影しましたか。

Q2. When did dolphins open their mouths the most?イルカが一番よく口を開けたのはどんなときですか。

Q3. How fast did the partner open its mouth back?相手はどれくらいの速さで口を開け返しましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Maglieri, V. et al. (2024) Smiling underwater: Exploring playful signals and rapid mimicry in bottlenose dolphins. iScience 論文確認済みdoi:10.1016/j.isci.2024.110966
  2. 2Davila-Ross, M. & Palagi, E. (2022) Laughter, play faces and mimicry in animals: evolution and social functions. Philosophical Transactions of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rstb.2021.0177
  3. 3Taylor, D. et al. (2019) Facial complexity in sun bears: exact facial mimicry and social sensitivity. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-019-39932-6
  4. 4Palagi, E. et al. (2019) Sharing playful mood: rapid facial mimicry in Suricata suricatta. Animal Cognition 論文確認済みdoi:10.1007/s10071-019-01269-y

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい