コウモリの赤ちゃんの声の練習は、人の赤ちゃんの「ダダダ」と8つの点で同じだった

野生のコウモリの子20匹の声を3か月録音すると、同じ音のくり返しやリズムなど、人の赤ちゃんの喃語と同じ8つの特徴があった。

No.025 7分で読めるえっ度 論文 2025年
熱帯の森の薄暗い休み場所に、背中に2本の白っぽい波線がある黒っぽい小さなコウモリが数匹とまっている。そのうち子どもの1匹が、母親のそばで口を開けて声を出している。

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  1. 野生のコウモリの子20匹を、生まれてから3か月録音した
  2. 子の長いおしゃべりは、人の赤ちゃんの喃語と8つの点で同じだった
  3. 子はこの練習の中で、大人のオスの歌をまねして覚える

人に話すなら

中米のコウモリの赤ちゃんって、人の赤ちゃんの「ダダダ」みたいに、同じ音をくり返す声の練習をするんだって。長いと43分も続けて、大人のオスの歌を覚えていくらしいよ。

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声の練習のような「おしゃべり」をするのは、オスの子どもだけである

生まれて数か月たった人の赤ちゃんは、「マ」「ダ」のような音を出し始めます。やがて「ママ」「ダダ」と、同じ音をくり返すようになります。意味のある言葉ではありません。でも、この「喃語(なんご)」が、話せるようになるための大事な一歩だと考えられています。

その喃語に、はっきり似た声を出す動物が見つかりました。中米から南米にすむ小さなコウモリです。ドイツの研究チームが、野生の子20匹の声を生まれてから3か月録音しました。すると、子どもたちのおしゃべりは、人の赤ちゃんの喃語と同じ8つの特徴を持っていました。

鳥では、ヒナが歌を練習することが知られています。でも、人と同じほ乳類では、喃語の証拠はとても少ないものでした。そのため、人とほかの動物の声の育ち方を比べることが、なかなかできませんでした。

01このコウモリの子は、大人のオスの歌をまねして覚える

主役は、サックウイングコウモリというコウモリです。英語では「翼に袋のあるコウモリ」という意味の名前で呼ばれます。中米から南米の熱帯の森にすみ、昼間は決まった休み場所に集まって過ごします。

このコウモリは、翼に袋のあるコウモリのなかまの中でも、とくにおしゃべりな種として知られています。大人は、さまざまな鳴き声や歌を使い分けます。大人のオスは、なわばりを守るために、毎日の明け方と夕方に歌います。

そして、子どもは大人のオスの歌をまねして覚えます。2009年に発表された研究では、オスの子もメスの子も、大人のオスの歌をまねしていました。はじめは歌の「下書き」のような声で、だんだん本物の歌に近づいていきました。声のまねをして覚える力は、動物の中ではとても珍しいものです。

02研究者は、野生のコウモリの前に何か月も座り続けた

調べたのは、ドイツのベルリン自然史博物館のアハナ・フェルナンデス(Ahana Fernandez)さんと、ミリアム・クネルンシルト(Mirjam Knörnschild)さんたちです。舞台は、パナマとコスタリカの森です。

フェルナンデスさんは、コウモリが昼間休む場所のすぐ近くで、静かに座り続けました。コウモリが人のいることに慣れるまで、時間をかけたのです。こうして、コウモリをじゃましない状態で、声と行動を何か月も記録しました。コウモリの研究では、飼育したコウモリや、機械で自動的に追う方法を使うことが多いので、これは珍しいやり方です。

チームは、野生の子20匹を、生まれてから約3か月追いかけました。そして、子どもたちのおしゃべりを録音し、人の赤ちゃんの喃語の特徴と1つずつ比べました。

休み場所にとまるコウモリの母と子。子が口を開けて声を出し、母がその前で短く羽ばたいて浮かんでいる。少し離れた所で、大人のオスが木の幹にとまったまま口を開けて歌っている。

03同じ音のくり返しとリズムなど、8つの特徴がそろっていた

結果、子どものおしゃべりには、人の喃語を特徴づける8つの点がすべてそろっていました。中でも目立ったのが、2つです。

1つ目は、同じ音のくり返しです。人の赤ちゃんの「ダダダ」のように、子コウモリも同じ音を何度も続けて出していました。2つ目は、リズムです。おしゃべりには、決まった拍子がありました。

おしゃべりの中身も、人の赤ちゃんと似ていました。大人が使う音に近いものと、子どもだけが出す、まだ形の定まらない音がまざっていたのです。人の赤ちゃんも、大人の言葉の音の一部と、まだ言葉にならない音をまぜて喃語を話します。

また、オスの子もメスの子も、同じようにおしゃべりをしました。これは、鳥とは違う点です。歌を練習する鳥の多くでは、練習するのは主にオスのヒナです。

04おしゃべりは長いと43分。お母さんを呼ぶ声とは別のものだった

子コウモリのおしゃべりは、とても長く続きます。1回の長さは平均で約7分、長いときは43分にもなりました。7週間ほどの練習の時期に、子どもは起きて活動している昼間の時間の30%近くを、このおしゃべりに使っていました。

では、このおしゃべりは、お母さんを呼んで世話をねだる声ではないのでしょうか。研究によると、違います。お母さんに世話をしてほしいとき、子コウモリは別の決まった声を、速くくり返して出します。おしゃべりは、音の中身も、出す場面も、ねだる声とは違いました。子どもは、ひとりのときにもおしゃべりをしていました。

05お母さんのかかわりが、練習の長さを変えていた

2025年には、同じチームが続きの研究を発表しました。パナマとコスタリカの6つの群れで、19匹の子を2年にわたって調べたものです。

子がおしゃべりをしていると、お母さんが近くに来て、目の前で羽ばたいて浮かんだり、体にふれたりします。こうした動きをよくするお母さんの子ほど、1回のおしゃべりが長く、おしゃべりをする期間も長くなりました。歌を覚えるときに大人のオスの歌に近い音を出す割合も、高くなっていました。

フェルナンデスさんは、最初の調査の年から、お母さんと子のやりとりに気づいていました。子がおしゃべりの練習をしているあいだ、お母さんが、決まった種類の声を出していたのです。また、お母さんが子の前で浮かんだりする動きは、おしゃべりの場面の外では見られないと、続きの研究は書いています。

一方、近くで歌う大人のオスの数は、練習の長さにも、歌の覚えぐあいにも関係していませんでした。人の赤ちゃんが言葉を覚えるときも、まわりの大人のほほえみやしぐさなどの反応が影響することが知られています。コウモリでも、相手からの反応が声の練習を後押ししているようです。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

喃語はなぜ必要なのか

人の赤ちゃんは、喃語を出しながら、まわりの大人の声による反応を聞き、音と意味を結びつけていくと考えられています。耳が聞こえない赤ちゃんは、「ダダ」のようなはっきりした音のくり返しの段階に、なかなか進まないことが知られています。喃語には、聞くことと声を出すことを結びつける面があると考えられます。このコウモリの子も、大人のオスの歌を聞き、まねをしながら声を育てます。声をまねして覚える動物では、長い練習の時期が、まねをして覚えるための時間になっているのかもしれません。

研究の歴史:「声をまねるコウモリ」から「喃語のコウモリ」へ

このコウモリの子が歌をまねして覚えることは、2009年に報告されていました。その研究は、子の声が大人のオスの歌に似ていくのは、体が育ったからだけではないことを示しました。耳で聞いた経験が欠かせないということです。2021年の研究は、そこからさらに進み、子の練習全体を人の喃語の物差しで測りました。

「喃語らしさ」はどう測るのか

動物の声を人の喃語と比べるには、共通の物差しが必要です。2023年に出た別のチームの論文は、フェルナンデスさんたちの研究などをもとに、人の喃語の主な特徴を次の7つにまとめています。生まれ育った場所に関係なく、どの子も出すこと。大人の言葉の音の一部をふくむこと。話しかける相手がいなくても出し、決まった意味を持たないこと。リズムがあり、同じ音をくり返すこと。いくつかの音を組み合わせて長く続けること。早い時期に始まり、そのあと新しい音が一気に増える時期があること。そして、世話をする大人とのやりとりに使われることです。こうした物差しを使うことで、サルやコウモリなど、ちがう動物どうしを同じ基準で比べられるようになりました。

ほかの動物ではどうか

喃語のような声は、ほかの動物でも探されています。サルのなかまのマーモセットでは、子どもの声に喃語と似た特徴があると報告されてきました。2023年には、ドイツのチームが、小さなサルのなかまのハイイロネズミキツネザルを調べました。この子どもたちは、上の7つの特徴のうち5つを持っていました。ただ、比べ方は研究によって少しずつ違います。2021年のコウモリの研究は、特徴を8つに分けて比べていました。

反対の見方と、研究方法の限界

動物の「喃語」には、慎重な見方もあります。子どもの声が大人に近づくのは、耳で聞いて練習したからとは限らないからです。肺が大きくなれば長い声が出せますし、体が大きくなれば声は低くなります。体が育っただけで、声が変わって見えることがあるのです。また、2021年の研究で調べた子は20匹です。人とコウモリで、喃語を生み出す脳や遺伝子のしくみまで似ているのかは、まだ分かっていません。論文は、それを比べることがこれからの課題だとしています。

06まとめ

中米の野生のコウモリの子20匹の声を、生まれてから3か月録音しました。子どものおしゃべりは、同じ音のくり返しやリズムなど、人の赤ちゃんの喃語と同じ8つの特徴を持っていました。子どもはこの練習の中で、大人のオスの歌をまねして覚えます。

ただし、脳のしくみまで人と似ているのかは分かっていません。体が育つことによる声の変化と、どう見分けるかも議論があります。

このコウモリの子のおしゃべりは、長いときには43分も続きます。お母さんがよくかかわる子ほど、その練習が長くなっていました。

RESEARCH FILE

研究カルテ

パナマ(ほかにコスタリカ)

研究チーム
ドイツのベルリン自然史博物館などのチーム(第一著者アハナ・フェルナンデス)
調べた場所
パナマとコスタリカの、野生のコウモリが昼間休む場所
調べた動物
野生のサックウイングコウモリの子20匹(学名 Saccopteryx bilineata)
調べ方
子が生まれてから約3か月、声を録音し、人の赤ちゃんの喃語の特徴と比べた
分かったこと
子のおしゃべりには、同じ音のくり返しやリズムなど、人の喃語と同じ8つの特徴があった
まだ分からないこと
人とコウモリで、喃語を生み出す脳や遺伝子のしくみが似ているのか
論文
Science(2021年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Baby Bats Babble Like Human Babies

Human babies say sounds like "dadada" before they can talk. This is called babbling. Scientists found that some baby bats babble too.

A scientist sat quietly near wild bats in Panama and Costa Rica. She waited until the bats got used to her. Her team recorded 20 baby bats for about three months. The baby bats repeated the same sounds again and again. Their babbling also had a rhythm.

The team found eight features that human babbling also has. Both boy and girl bats babbled. Some sounds were like adult sounds, and some were only baby sounds. One babbling time lasted about seven minutes on average. The longest one was 43 minutes.

While they babble, young bats learn songs from adult males. Mothers also help. Pups with very active mothers practiced for a longer time. But scientists do not know yet if bat brains and human brains work in the same way.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many baby bats did the team record?チームは何匹のコウモリの赤ちゃんを録音しましたか。

Q2. How long was the longest babbling time?一番長い喃語は何分続きましたか。

Q3. Who do young bats learn songs from?子どものコウモリは、だれから歌を学びますか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Fernandez, A. A. et al. (2021) Babbling in a vocal learning bat resembles human infant babbling. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.abf9279
  2. 2Fernandez, A. A. et al. (2025) Maternal behavior influences vocal practice and learning processes in the greater sac-winged bat. eLife 論文確認済みdoi:10.7554/eLife.99474
  3. 3Knörnschild, M. et al. (2009) Complex vocal imitation during ontogeny in a bat. Biology Letters 論文確認済みdoi:10.1098/rsbl.2009.0685
  4. 4Langehennig-Peristenidou, A. et al. (2023) Features of animal babbling in the vocal ontogeny of the gray mouse lemur (Microcebus murinus). Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-023-47919-7
  5. 5Smithsonian Tropical Research Institute(2021)「Similar to Human Babies, This Bat Species Learns to Communicate Through Babbling and Vocal Imitation」smithsonianmag.com/blogs/smithsonian-tropical-research-insti

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい