訓練したアザラシが「きらきら星」など10音のメロディーをまねした。人の母音をまねる子もいた
若いハイイロアザラシ3頭に声のまねを教えると、1頭は最大10音のメロディーを、2頭は人の母音をまねした。口とのどの形を変えて音色を変えていた。

30秒で読む
- 若いアザラシ3頭に、声のまねを1年かけて教えた
- 1頭は、最大10音のメロディーを鳴き声でまねした
- 2頭は、人の母音の並びを聞き分けてまねした
人に話すなら
アザラシって歌をまねできるんだって。研究で育てた子が「きらきら星」とかを10音までまねしたらしい。人の「アー」「ウー」みたいな母音をまねした子もいたって。
読む前に予想しよう
アザラシは、人の母音をまねして鳴くことができる
訓練した若いハイイロアザラシ2頭が、人が聞いて分かる母音の声を出した。
人の言葉をまねる動物というと、オウムや九官鳥が思い浮かびます。では、人に近いサルやチンパンジーはどうでしょう。実は、類人猿に人の言葉の音を出させようとした研究は、ほとんどうまくいっていません。
ところが、イギリスのセント・アンドルーズ大学の研究チームは、サルの仲間とは別の動物で、聞いた音をまねて鳴けることを確かめました。海にすむハイイロアザラシです。訓練した若いアザラシ3頭のうち、1頭は最大10音のメロディーを鳴き声でまねしました。残りの2頭は、人の母音の並びをまねしました。
この研究で調べたのは、アザラシが「どうやって」まねたかです。アザラシは、口やのどの形を変えて声の響きを変えていました。人が「アイウエオ」を言い分けるときと同じしくみです。哺乳類でこのしくみの学習をはっきり示した例は、ほとんどありませんでした。
01人の母音は、口とのどの形でつくる「響き」で決まる
まず、声のしくみを確認しておきましょう。声のもとは、のどにある声帯のふるえです。声帯のふるえ方で、声の高い・低いが決まります。
ところが、同じ高さで「アー」と「イー」を言っても、別の音に聞こえます。違いを生むのは、声帯の上にある、のどや口の中の空間です。舌や唇の位置で空間の形が変わると、特定の高さの音が強く響くようになります。この強く響く音の帯を「フォルマント」といいます。人の母音は、主にこのフォルマントの違いで区別されています。
声をまねして覚える力を持つ動物は、鳥や一部の哺乳類に限られます。しかし、これまでの動物研究の多くは、声の高さの変化を調べたものでした。フォルマントを学んで変えられるかは、哺乳類ではほとんど調べられていませんでした。
023頭の若いアザラシを、1年かけて訓練した
研究を行ったのは、アマンダ・スタンズベリー(Amanda Stansbury)さんとヴィンセント・ヤニク(Vincent Janik)さんです。使ったのは、スコットランドのメイ島で生まれた3頭のハイイロアザラシでした。メスのゾーラは2011年11月、メスのジャニスとオスのガンダルフは2012年に生まれています。
3頭は、生後3週間ほどで乳離れしたあと、大学の海洋哺乳類の施設に移されました。訓練は週に最大5日、12か月続きました。正しくまねできたら、ニシンなどの魚をごほうびにもらいます。訓練は陸の上で行い、アザラシはいつでも水に戻れました。参加するかどうかは、アザラシ自身にまかされていたのです。1年後、3頭は海へ戻されました。
研究チームは比べる材料も用意しました。メイ島で、野生のアザラシの子34頭の鳴き声を、175時間かけて1859回録音したのです。これで「ふつうのアザラシが出す声の範囲」が分かります。

03ゾーラは、聞いたメロディーを最大10音までまねした
最初の実験の主役は、ゾーラです。研究チームは、ゾーラ自身の「モーン」という長くのびる鳴き声を録音しました。そして、音の長さは変えずに、高さだけを変えた音を作りました。ゾーラのふだんの声で一番強く響く高さは、平均で1015ヘルツほどです。そこで、そのまわりの3つの音(音階のラ、ド、レ)を使いました。
訓練では、3つまでの音を並べて聞かせました。ごほうびの条件は、音の数が合っていて、高さの上がり下がりの向きが合っていることです。ぴったり同じ高さまでは求めませんでした。ゾーラが合格の基準に達するまでに、37回の訓練で1576回の練習が必要でした。
本番のテストでは、音の範囲を1オクターブ以上に広げました。最大10音を並べた15種類のメロディーを使い、全部で92通りの音の並びを聞かせました。するとゾーラは、音の数を正確にまねし、音の高さの上がり下がりもよく合わせました。聞かせた10音までのメロディーを、最後までまねできたのです。大学の発表によると、まねた曲には「きらきら星」なども含まれていました。
研究チームは、これを記憶の点からも注目しています。人やサルが、関係のないものを一度に覚えておける数は4〜7個ほどとされます。ところが、人がメロディーとして覚える場合は10音ほどまで増えます。ゾーラは記憶力が高いのか、音の並びをメロディーとして聞いていたのかもしれません。
04ジャニスとガンダルフは、人の母音をまねした
次の実験では、ジャニスとガンダルフが人の母音に挑みました。北アメリカ出身の英語話者に、口や舌の形が大きく違う5つの基本的な母音を発音してもらいます。この録音の高さを、それぞれのアザラシのふだんの声の高さに合わせました。高さは同じでも、響き(フォルマント)が違う5つの音になります。
2頭はまず、5つの母音を決まった順番でまねる練習をしました。テストでは、最大3つの母音をばらばらの順番で並べました。全部で155通りの並びを、それぞれ3回ずつ聞かせました。1頭あたり465回のテストです。
訓練の終わりには、2頭とも、人が聞いてすぐに分かる母音の声を出せるようになりました。ただし、まね方には個性がありました。ガンダルフは、2番目と3番目のフォルマントを変えて手本に近づけました。ジャニスは、主に2番目のフォルマントを変えていました。
05訓練の前には出せなかった声を、新しく出せるようになった
ここで大事な確認があります。アザラシが元から持っていた声を、うまく選んで並べただけかもしれないからです。それなら「新しい声を学んだ」とは言えません。
研究チームは、訓練の最初と最後の声を比べました。どちらも250回分の声を集め、一番強く響く音の高さのばらつきを調べました。3頭とも、訓練のあとはばらつきがはっきり大きくなっていました。訓練前の声にはなかった高さの声が、何度も出ていたのです。その高さは、野生の子どもたちの声よりも高いものでした。つまり3頭は、ふだんのアザラシの声の範囲をこえる、新しい声を出せるようになっていました。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
なぜアザラシなのか
発声学習ができる動物は、鳥ではオウムや歌う小鳥、哺乳類ではイルカ、コウモリ、ゾウなどが知られています。その中でアザラシは、人の言葉の進化を調べるうえで特別な位置にいます。論文によると、アザラシは声を出す器官のつくりや、それを動かす神経が、人ととてもよく似ているからです。
ほかの動物は、声の出し方そのものが人と違います。鳥は「鳴管」という人にはない器官で鳴きます。イルカは、鼻の奥で音を作ります。人と同じ道具を使う動物で、人と同じ技を学べることを示した点に、この研究の価値があります。
アザラシやアシカのなかまは、最近、人の話し言葉の進化を調べる重要な動物として注目されています。歌う鳥の研究と、サルの研究の間をつなぐ存在になるかもしれないからです。大学の発表では、アザラシが言葉の障害を研究するための新しいモデルになる可能性にも触れています。
先にいた「話すアザラシ」と「話すゾウ」
実は、人の言葉をまねたアザラシの報告は前にもありました。飼育されていたゼニガタアザラシのフーバーです。英語の言葉に似た声を出したことが、1985年の論文で報告されています。ただし、フーバーの声が新しく学んだものなのか、元からある声を並べただけなのかは、分かっていませんでした。
2012年には、アジアゾウのコシクが、韓国語の言葉をまねすると報告されました。コシクは、鼻を口の中に入れて口の中の形を変え、人の声に似た響きを作っていました。韓国語を話す人が聞いて、書き取れるほどの正確さでした。ただしこれは、鼻を使った特別な方法です。のどや口そのものを使った学習とは違います。
野生のアザラシは、この力を何に使っているのか
この研究には限界もあります。調べたのは3頭だけで、どれも若い個体でした。聞かせたのも、コンピューターで作った音です。野生のアザラシが、この力をふだんどう使っているかは分かりません。
研究チームは2021年に、その続きを野生で調べています。子育ての時期のハイイロアザラシの集団で、8頭の子どもに、高さを変えた子どもの鳴き声を聞かせました。すると子どもたちは、聞いた音をまね、日がたつにつれて正確になりました。研究チームは、周りの声に合わせる学習が、地域ごとの鳴き声の違いを生んでいるのかもしれないと考えています。
一方で、別の見方もあります。口やのどを細かく動かせるのは、もぐるときの呼吸や、えものを吸いこんで食べることのために進化した結果かもしれない、という考えです。その場合、声のまねは「たまたまできる」能力にすぎないことになります。どちらが正しいかは、まだ決着していません。
06まとめ
スコットランドの大学で、若いハイイロアザラシ3頭が声のまねの訓練を受けました。1頭は最大10音のメロディーを、2頭は人の母音を鳴き声でまねしました。アザラシは、口やのどの形を変えて声の響きを変えていました。人が母音を言い分けるのと同じしくみです。
調べたのは3頭だけで、野生でこの力をどう使っているかは、まだ分かっていません。それでも、類人猿に教えてもうまくいかなかった人の言葉の音を、アザラシは人が聞いて分かるほどにまねできました。
研究カルテ
スコットランド(セント・アンドルーズ大学)
- 研究チーム
- イギリスのセント・アンドルーズ大学(アマンダ・スタンズベリー、ヴィンセント・ヤニク)
- 調べた場所
- スコットランドのセント・アンドルーズ大学の海洋哺乳類の施設
- 調べた動物
- 若いハイイロアザラシ(学名 Halichoerus grypus)3頭。比べるために野生の子34頭の声も録音
- 調べ方
- 声の高さや音色を変えた音を聞かせ、まねできたら魚をあげる訓練をして、声の変化を測った
- 分かったこと
- メロディーを最大10音まね、人の母音もまねた。訓練前や野生にない高さの声も出した
- まだ分からないこと
- 野生のアザラシが、この力をふだん何に使っているのか。大人になっても学べるのか
- 論文
- Current Biology(2019年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Some birds can copy human words. But most mammals cannot do this well. Scientists in Scotland tested three young gray seals. They wanted to know if seals can learn new sounds.
The seals lived at a university in Scotland for one year. The seals listened to sounds and tried to copy them. When a seal copied a sound well, it got a fish. After the study, the seals went back to the sea.
One seal, Zola, copied short songs of up to ten notes. She had to remember the order of the notes. One of the songs was Twinkle Twinkle Little Star. The other two seals copied human vowel sounds. People could easily understand the vowels.
How did they do it? They changed the shape of their mouths and throats. People make vowels in the same way. Only three seals were in the study, so we still have more to learn.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many seals were in the study?研究に参加したアザラシは何頭でしたか。
若いハイイロアザラシ3頭が訓練を受けました。
Q2. What did a seal get when it copied a sound well?うまくまねできたとき、アザラシは何をもらえましたか。
ごほうびは魚でした。研究ではニシンなどが使われました。
Q3. How did the seals change their voices?アザラシたちはどうやって声を変えましたか。
口やのどの形を変えて声の響きを変えていました。人が母音を言い分けるのと同じしくみです。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Stansbury, A. L. & Janik, V. M. (2019) Formant Modification through Vocal Production Learning in Gray Seals. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2019.05.071
- 2University of St Andrews(2019)ニュースリリースnews.st-andrews.ac.uk/archive/grey-seals-copy-human-speech-a
- 3Stansbury, A. L. & Janik, V. M. (2021) The role of vocal learning in call acquisition of wild grey seal pups. Philosophical Transactions of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rstb.2020.0251
- 4Stoeger, A. S. et al. (2012) An Asian elephant imitates human speech. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2012.09.022
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





