絶滅したニホンオオカミが、犬にいちばん近いオオカミだった。標本9頭のDNAで分かった

絶滅したニホンオオカミのDNAを骨の標本から読むと、世界のオオカミの中で犬にいちばん近かった。日本犬のDNAの3〜4%は、その祖先から来ていた。

No.048 8分で読めるえっ度 論文 2024年
霧のかかった杉林の斜面に、ニホンオオカミが1頭立ち、遠くを見ている。体は小がらで脚は短め、灰色がかった茶色の毛をしている。

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  1. 絶滅したニホンオオカミのDNAを、骨の標本から読み取った
  2. 世界のオオカミの中で、犬にいちばん近いことが分かった
  3. 東アジアの犬には、その祖先のDNAが少し混ざっていた

人に話すなら

絶滅したニホンオオカミって、世界のオオカミの中で犬にいちばん近いんだって。しかも柴犬や秋田犬のDNAの3〜4%は、ニホンオオカミの祖先から来てるらしいよ。

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ニホンオオカミは、世界のオオカミの中で犬にいちばん近いオオカミだと分かった

犬は、人間が最初に家畜にした動物です。犬の祖先がオオカミであることも、DNAの研究で分かっています。ところが、「どこのオオカミから犬が生まれたのか」は、長い間なぞのままでした。今いる世界のオオカミの中に、犬に特に近い集団が見つからなかったからです。

2024年、日本の研究チームが、この問題に新しい答えを出しました。材料は、明治時代に絶滅したニホンオオカミ9頭分の標本です。そこからDNAを取り出し、ゲノム(全部の遺伝情報)を読みました。世界のオオカミや犬と比べると、ニホンオオカミは犬にいちばん近いオオカミでした。

さらに、日本犬を含む東アジアの犬のDNAには、ニホンオオカミの祖先のDNAが数%混ざっていました。日本の山から消えたオオカミが、犬の誕生のなぞを解く手がかりになっているのです。

01本州・四国・九州にいたオオカミは、明治時代に姿を消した

ニホンオオカミは、本州、四国、九州にすんでいたオオカミです。世界に広く分布するハイイロオオカミの亜種(同じ種の中の地域ごとのグループ)にあたります。そして明治時代に絶滅しました。論文には、今から100〜120年ほど前のことだと書かれています。

犬もハイイロオオカミと同じ種に分類されます。これまでのDNA研究で、犬は一つのまとまったグループをつくることが分かっていました。そして、ユーラシア大陸のオオカミに近いことも分かっていました。しかし、今いるオオカミの中に、犬に特に近い集団は見つかっていませんでした。そこで研究者たちは、犬は「すでに絶滅したオオカミの集団」から生まれたのではないかと考えてきました。

02骨の粉から、江戸・明治時代のDNAを読み取った

研究の中心は、総合研究大学院大学(神奈川県)のチームです。寺井洋平さんと五條堀淳さんたちが進めました。岐阜大学なども加わりました。調べたのは、江戸時代から明治時代のニホンオオカミの標本9頭分です。

9頭分のうち6頭分は、個人が持っていた標本です。1頭分は、ドイツのベルリンの博物館の標本です。

残りの2頭分は、オランダのライデンにある博物館の標本です。今のナチュラリス生物多様性センターです。江戸時代に長崎の出島にいたシーボルトやその助手たちが、オランダへ送ったものです。ただ、この2頭分は読めたDNAの範囲がせまかったので、一部の分析にだけ使いました。

DNAは、あごや頭、鼻の中の骨から取り出しました。あごや頭の骨は表面を削ってから、電動ドリルで0.1〜0.3グラムの粉を取ります。この粉からDNAを取り出して、ゲノムを何度も読みました。同じ場所を何回読んだかを「深度」といい、多く読むほど読み間違いが減ります。今回は深度7.5〜100回分で、最も多い個体は100回分読みました。

比べる相手として、柴犬、紀州犬、秋田犬の日本犬11頭のゲノムも読みました。さらに、データベースにあるゲノム約100頭分も合わせて分析しました。世界の犬やオオカミ、古代の犬などです。

博物館の作業台で、手袋をした手がオオカミの下あごの骨の標本を押さえ、表面を削ったところに小さな電動ドリルを当てて、ほんの少し粉を取っている。そばに小さな試験管が並んでいる。

03系統樹をつくると、犬のすぐ隣にニホンオオカミがいた

研究チームは、DNAの違いから系統樹をつくりました。系統樹は、生き物がどの順番で枝分かれしてきたかを表す図です。

ユーラシア大陸のオオカミは、西から東の順に枝分かれしていました。まずヨーロッパや中東のオオカミが分かれ、次に東アジアのオオカミが分かれます。最後に残った枝が二つに分かれて、片方が犬、もう片方がニホンオオカミになっていました。つまり、世界のオオカミの中で、犬といちばん近い枝にいたのがニホンオオカミでした。

この並び方から、研究チームは、犬の祖先が分かれたのは東アジアだった可能性が最も高いと考えています。ただし、研究チームは大事な注意も書いています。この研究で分かるのは、DNAの上で犬の祖先がいつどこで分かれたかです。人が犬を飼い始めた場所や時期を示したわけではありません。それを知るには、人と犬の関係を示す考古学の証拠が必要です。

04日本犬のDNAの3〜4%は、ニホンオオカミの祖先から来ていた

研究チームは、犬のDNAの中に、ニホンオオカミの祖先から入りこんだ部分がないかも調べました。すると、その部分は特にユーラシア大陸の東側の犬に多く見つかりました。

最も多かったのは、ニューギニアの高地の野犬とオーストラリアのディンゴで、約5.5%でした。次に多かったのが日本犬で、3〜4%でした。一方、アフリカの犬など、西のグループの犬では割合が低くなっていました。

では、混ざったのはいつ、どこでしょうか。研究チームは、約9500年前のシベリアのそり犬のゲノムに注目しました。この犬には、ニホンオオカミの祖先のDNAがすでに入っていました。割合は約2%で、今のそり犬と同じくらいです。日本でいちばん古い犬の骨(夏島貝塚から出たもの)も、ほぼ同じころのものです。

このことから研究チームは、混ざり合いは犬が日本列島に来る前に起きたと考えています。場所は、大陸の東アジアのどこかです。ニホンオオカミの祖先がまだ大陸にいたころ、東の犬の祖先と交わったと考えられています。そのあと、東と西の犬が混ざり合ったため、地域によって割合に差が出たと説明しています。

05江戸時代の「ヤマイヌ」の標本は、オオカミと犬の雑種だった

研究では、思わぬことも分かりました。調べた9頭分のうち、シーボルトが送った「ヤマイヌ」と呼ばれていた1頭は、ニホンオオカミと犬の雑種でした。この個体のゲノムの39%は、柴犬に近い犬のものでした。

柴犬という品種が決まったのは1930〜40年代です。そのため研究チームは、19世紀に日本にいた在来の犬と交わったものと考えています。少なくとも江戸時代には、日本列島にオオカミと犬の雑種がいたことになります。

ただし、ニホンオオカミ全体のゲノムには、犬から入ったDNAはほとんど見つかりませんでした。日本列島の中では、雑種を通してオオカミと犬のDNAが広く混ざることはなかったようです。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

ニホンオオカミの起源をめぐる、三つの研究の食い違い

ニホンオオカミのゲノム研究は、今回が初めてではありません。2021年には、海外の研究チームが、19世紀のニホンオオカミ1頭のゲノムを読んでいます。その結果は、氷河期の終わりに絶滅したと考えられていたシベリアのオオカミの系統に近い、というものでした。また、日本の犬との間で、DNAのやりとりがはっきり見られたと報告しています。

2022年には、別の研究チームが、日本で見つかった古いオオカミの骨を調べました。約3万5000年前のオオカミと、約5000年前のニホンオオカミです。こちらは、ニホンオオカミは、日本にいた氷河期のオオカミと、大陸から来たオオカミの系統が交わって生まれた、と結論づけました。

今回の2024年の研究は、ニホンオオカミは他のオオカミとの交雑の歴史を持たない、独自のグループだとしています。研究チームは、2021年の研究と結果が違う主な理由を、調べた頭数の違いだと説明しています。1頭だけで分析すると、ニホンオオカミの特徴が正しく見えにくい、というのです。一方で、2022年の研究との食い違いがすべて解決したわけではありません。ニホンオオカミがどこから来たのかは、まだ議論が続いています。

世界の古代オオカミ72頭を調べた研究との関係

2022年には、国際的な研究チームも、犬の起源を調べた大きな研究を発表しています。過去10万年にわたる古代のオオカミ72頭分のゲノムを、ヨーロッパ、シベリア、北アメリカから集めて分析しました。

その結果、犬は全体として、西のオオカミより東ユーラシアの古代オオカミに近いことが分かりました。これは、犬が東で生まれたという今回の結果と同じ向きです。ただしこの研究は、中東やアフリカの犬は、祖先の最大半分を別のオオカミの集団から受け継いでいることも示しました。犬は別の場所でも生まれたのかもしれませんし、あとからその土地のオオカミと交わったのかもしれません。さらに、調べた古代オオカミの中に、犬の祖先とぴったり一致するものはありませんでした。

ニホンオオカミは、その「まだ見つかっていない祖先」に最も近い親戚かもしれません。ただし、ニホンオオカミそのものが犬の祖先だったわけではありません。犬とニホンオオカミは、共通の祖先から分かれた二つの枝です。

系統の近さと、家畜になった時期は別の問題

犬とユーラシアのオオカミの系統が分かれたのは、2万〜4万年前と見積もられています。しかし、DNAの上で分かれた時期と、人と一緒に暮らし始めた時期は、同じとは限りません。今回の研究チームも、自分たちの分析では人と犬がいつ関わり始めたかは分からないと書いています。研究チームは今後、日本列島で出土する古いオオカミや犬の骨のDNAを調べる計画です。日本列島は大陸の端にあり、古い系統が残りやすい地域だからです。

06まとめ

明治時代に絶滅したニホンオオカミの標本9頭分から、DNAを読み取った研究がありました。世界のオオカミや犬と比べると、ニホンオオカミは犬にいちばん近いオオカミでした。犬の祖先は、東アジアでニホンオオカミとの共通の祖先から分かれた可能性が高いと考えられています。

ただし、ほかの古いゲノム研究とは食い違う点もあり、ニホンオオカミの起源は議論が続いています。それでも、柴犬や秋田犬のDNAの3〜4%は、もう日本の山にはいないオオカミの祖先から来ていました。

RESEARCH FILE

研究カルテ

日本(総合研究大学院大学・神奈川県葉山町)

研究チーム
総合研究大学院大学・岐阜大学などのチーム(中心は寺井洋平さん、五條堀淳さん)
調べた場所
日本の研究室で、国内外の博物館や個人が持つ標本を分析
調べた動物
ニホンオオカミ(学名 Canis lupus hodophilax)9頭と日本犬11頭
調べ方
骨の粉からDNAを取り出してゲノムを読み、世界の犬やオオカミ約100頭分と比べた
分かったこと
ニホンオオカミは犬にいちばん近いオオカミ。東アジアの犬にはその祖先のDNAが入っていた
まだ分からないこと
人が犬を飼い始めた場所と時期。ほかの古いゲノム研究との食い違い
論文
Nature Communications(2024年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

The Lost Japanese Wolf and the First Dogs

Dogs came from wolves a very long time ago. But which wolves were they? Scientists still do not know the full answer.

The Japanese wolf once lived in Honshu, Shikoku and Kyushu. It died out more than 100 years ago. A team in Japan took DNA from the old bones of nine Japanese wolves. Three of the bones came from museums in Europe.

The team compared the DNA with dogs and wolves from around the world. Of all the wolves, the Japanese wolf was the closest to dogs. Dogs and Japanese wolves probably came from the same ancestor in East Asia.

Japanese dogs like the Shiba and the Akita have some DNA from this wolf's ancestors. It is about three or four percent of their DNA. Other studies do not agree on every point, so scientists are still asking questions.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Where did the Japanese wolf live?ニホンオオカミはどこにすんでいましたか。

Q2. What did the team take from the old bones?チームは古い骨から何を取り出しましたか。

Q3. How much of a Japanese dog's DNA came from this wolf's ancestor?日本犬のDNAのうち、どのくらいがこのオオカミの祖先から来ていましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Gojobori, J. et al. (2024) Japanese wolves are most closely related to dogs and share DNA with East Eurasian dogs. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/s41467-024-46124-y
  2. 2総合研究大学院大学・岐阜大学(2024)プレスリリースgifu-u.ac.jp/about/publication/press/20240301_1.pdf
  3. 3Bergström, A. et al. (2022) Grey wolf genomic history reveals a dual ancestry of dogs. Nature 論文確認済みdoi:10.1038/s41586-022-04824-9
  4. 4Segawa, T. et al. (2022) Paleogenomics reveals independent and hybrid origins of two morphologically distinct wolf lineages endemic to Japan. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2022.04.034
  5. 5Niemann, J. et al. (2021) Extended survival of Pleistocene Siberian wolves into the early 20th century on the island of Honshu. iScience 論文確認済みdoi:10.1016/j.isci.2020.101904

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい