最後のマンモスは、10頭足らずから増えて島で6000年生きのびた。21頭のDNAで分かった

島に取り残されたマンモスは、10頭足らずから約300頭に増え、6000年続いた。害の大きい遺伝子の変化は減り、小さい変化はたまっていった。

No.142 7分で読めるえっ度 論文 2024年
北極海の島の短い夏、低い草とコケが広がるツンドラを、ケナガマンモス(全身が茶色の長い毛でおおわれ、大きく曲がった長いきば、小さな耳、盛り上がった頭と肩を持つ)の小さな群れが歩いている。遠くに海と流氷が見える。

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  1. 約1万年前、海面が上がって、マンモスの群れが島に取り残された
  2. 10頭足らずから約300頭に増え、6000年ほど数が安定していた
  3. 絶滅は急に起きたらしく、その原因はまだ分かっていない

人に話すなら

マンモスって、氷河期の終わりに全部いなくなったと思うでしょ。実は北極海の島で、4000年前ごろまで生きてたんだって。10頭足らずから増えて、6000年も続いたらしいよ。

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読む前に予想しよう

最後のマンモスは、近親交配で少しずつ弱って絶滅したことが分かった

マンモスは、氷河期の終わりとともに姿を消した動物だと思われがちです。けれども、北極海に浮かぶウランゲル島では、約4000年前までマンモスが生きていました。島に取り残された群れは、そこで何千年も暮らし続けていたのです。

スウェーデンの研究チームは、マンモス21頭のDNAを読み、この最後の群れに何が起きたのかを調べました。島の群れは、10頭足らずから約300頭まで増えました。そして、そのまま約6000年も、数が安定していました。

数が少ない動物は、親せきどうしで子どもを作りやすくなります。それが積み重なって、弱って絶滅したのではないか。マンモスの最後については、そう考える研究者もいました。今回の研究は、DNAの変化を時代ごとに追うことで、その考えが正しいかを確かめようとしました。

01海面が上がって、マンモスの群れが島に閉じこめられた

ケナガマンモスは、長い毛におおわれたゾウのなかまです。かつては北半球の広い地域にすんでいました。けれども、氷河期の終わりには、ほとんどの場所から姿を消しました。

その中で、最後まで残ったのがウランゲル島の群れです。ウランゲル島は、シベリアの北の北極海にある島です。論文によると、マンモスがこの島に閉じこめられたのは約1万年前でした。氷河期が終わって海面が上がり、島が大陸から切り離されたのです。

この島でマンモスの歯がたくさん見つかったと報告されたのは、1993年のことです。歯の年代は、約7000〜4000年前でした。それまでは、マンモスは約9500年前までにどこでも絶滅したと考えられていました。この発見で、その常識がくつがえりました。

0221頭のDNAを読み、5万年分の変化を時代ごとに並べた

調べたのは、スウェーデンの古遺伝学センターのマリアンヌ・デハスク(Marianne Dehasque)さんたちです。同じセンターで進化ゲノム学を研究するラブ・ダレン(Love Dalén)教授も、論文の著者に加わりました。

チームは、マンモス21頭のゲノムを読みました。ゲノムとは、その生き物が持つDNAの情報の全体のことです。DNAを取り出したのは、放射性炭素で年代を測った骨などです。21頭は、最近5万年のさまざまな時代にまたがっていました。シベリア本土のマンモスと、ウランゲル島のマンモスの両方が含まれています。

雪の残る川岸の土から、大きく曲がったマンモスのきばと歯がのぞいている。そばに研究者の手と、骨を入れる小さな袋が見える。

これで、島に閉じこめられる前と後のDNAを比べられます。島で何千年も暮らすうちに、DNAがどう変わったのかを、時代の順に追えるのです。

03島の群れは10頭足らずから増え、約300頭で安定していた

まず、シベリア本土のマンモスです。ストックホルム大学の発表によると、本土のマンモスのDNAの多様さは、約1万年前までほぼ安定していました。気候が大きく変わった時代や、現代の人類がやってきた時代も、数は保たれていたようです。

次に、ウランゲル島です。島ができたとき、生き残ったマンモスは10頭に満たなかったと、チームは見積もりました。ところが群れはすぐに数を取り戻し、子どもを残せるマンモスが約300頭になりました。そしてその後の約6000年、数はほぼ安定していました。世代にすると、200世代を超えます。

では、群れは安定したまま静かに続いたのでしょうか。DNAを細かく見ると、別の姿が見えてきました。

04害の大きい変化は消えていき、小さい変化はたまっていった

DNAには、ときどき変化(変異)が起きます。その中には、体に害のあるものもあります。研究チームは、害のある変化を「とても害が大きいもの」と「害が小さいもの」に分けて、時代ごとの量を比べました。

すると、2つは逆の動きをしていました。とても害の大きい変化は、時代がたつにつれて減っていました。害の小さい変化は、少しずつたまっていきました。

とても害の大きい変化を持つ個体は、子どもを残しにくくなります。そのため、こうした変化は世代を重ねるうちに群れから取り除かれていったと考えられます。一方、害の小さい変化は、子どもを残すのをあまりじゃましません。そのため、数の少ない群れでは、取り除かれずに残っていきます。

論文は、島の群れが数百世代にわたって「近親交配による弱り」を抱えていた可能性を示しています。親せきどうしで子どもを作ると、害のある変化が子どもに表に出やすくなるのです。数は回復しても、DNAはすぐには回復しませんでした。

05それでも、絶滅の原因は近親交配ではなかったらしい

論文の著者2人が書いた解説によると、島の群れの近親交配の度合いは、6000年の間ほとんど変わっていませんでした。群れの数も、絶滅のほんの数世代前まで約300頭で安定していました。

もし近親交配で少しずつ弱っていったのなら、数もだんだん減っていくはずです。ところが、そうではありませんでした。チームは、絶滅はとても急に起きたと考えています。ダレンさんたちは、病気がはやった、ひどい天候に見舞われた、といった急な出来事が原因かもしれないと書いています。著者たちの解説によると、この島で人間がマンモスと同じ時代に暮らしていたことはありませんでした。

ストックホルム大学の発表で、ダレンさんはこの謎を「殺人ミステリー」にたとえています。何かが絶滅を引き起こしたことは分かっていても、それが何かはまだ分かっていません。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

「島のマンモスはDNAが壊れて滅びた」という説

2015年、ウランゲル島の約4300年前のマンモスと、本土の約4万4800年前のマンモスのゲノムが読まれました。島のマンモスは、DNAの多様さが本土より約20%少なくなっていました。2017年には、別の研究者2人がこの2頭のゲノムを比べ直しました。島のマンモスには、遺伝子の一部が欠けたり、働かなくなったりした変化が多く見つかりました。2人は、これを「ゲノムの崩壊」の状態に合うと考えました。においを感じる遺伝子が多く失われていたことも報告しています。

今回の研究が新しかった点

2015年と2017年の研究は、島のマンモスを1頭しか見ていませんでした。1頭だけでは、DNAが時代とともにどう変わったのかは分かりません。今回は島と本土の21頭を時代順に並べたので、変化の向きが見えました。とても害の大きい変化は減っていた。害の小さい変化はたまっていた。そして数は安定していた。だから、「DNAが壊れて滅びた」という単純な話ではなさそうだ、というのが今回の結論です。著者たちの解説によると、取り除かれた害の大きい変化の中には、耳や目などの感覚を育てる遺伝子に関わるものが含まれていたかもしれません。人の病気との比べから推測したものです。

小さな島で生きる動物の弱さ

島は、外から新しい個体が入ってきません。数が少ないまま長く続くと、害の小さい変化が少しずつたまります。論文の要旨は、数が回復しても、DNAの回復には時間がかかると書いています。1993年の論文は、島のマンモスが生きのびられたのは、島の地形や気候のおかげで、草原の植物が残ったからかもしれないと考えていました。

今の動物を守るために

この研究は、絶滅しかけた今の動物を守ることにもつながります。一度数が激しく減った動物は、数が戻っても、何百世代もDNAに影響が残ることがあるからです。ストックホルム大学の発表は、数が戻ったあとも、DNAの状態を長く見守ることが大事だと述べています。

06まとめ

約1万年前、海面が上がって、ケナガマンモスの群れがウランゲル島に取り残されました。21頭のDNAを調べると、群れは10頭足らずから約300頭に増え、約6000年も安定して暮らしていました。

とても害の大きい遺伝子の変化は減り、害の小さい変化はたまっていきました。それでも、群れは絶滅の直前まで数を保っていました。約4000年前に何が最後のマンモスを消したのかは、まだ分かっていません。

1993年に島で歯が見つかるまで、マンモスは約9500年前までに絶滅したと考えられていました。実際には、その後も5000年以上、北極海の小さな島でマンモスは生きていたのです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

ロシア・ウランゲル島

研究チーム
スウェーデンの古遺伝学センター(ストックホルム大学など)のチーム(第一著者マリアンヌ・デハスク)
調べた場所
ロシアのシベリア本土と、北極海のウランゲル島で見つかったマンモスの骨など
調べた動物
ケナガマンモス21頭(学名 Mammuthus primigenius)
調べ方
年代を測った骨などからDNAを取り出し、21頭分のゲノムを読んで、時代ごとに比べた
分かったこと
島の群れは少数から増えて6000年安定していた。害の大きい変化は減り、小さい変化はたまった
まだ分からないこと
約4000年前に、島のマンモスを急に絶滅させたのは何だったのか
論文
Cell(2024年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

The Last Mammoths Lived on a Small Island

Most woolly mammoths died out at the end of the Ice Age. But some lived on Wrangel Island in the Arctic Ocean until about 4,000 years ago. The sea rose about 10,000 years ago, and they were trapped there.

Scientists in Sweden read the DNA of 21 mammoths. Fewer than ten mammoths were left on the island at first. Then the group grew to about 300 adults that could have babies. It stayed that size for about 6,000 years.

Very bad changes in their genes slowly went away. But small bad changes slowly grew in number.

So why did the last mammoths die? The group stayed the same size until a few generations before the end. The scientists think something sudden, like a disease or bad weather, may have happened. Nobody knows the answer yet.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many mammoths did the scientists study with DNA?研究者たちは何頭のマンモスのDNAを調べましたか。

Q2. How long did the island group stay the same size?島の群れは、どれくらいの間同じ大きさのままでしたか。

Q3. What do the scientists think killed the last mammoths?研究者たちは、最後のマンモスを死なせたのは何だと考えていますか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Dehasque, M. et al. (2024) Temporal dynamics of woolly mammoth genome erosion prior to extinction. Cell 論文確認済みdoi:10.1016/j.cell.2024.05.033
  2. 2Stockholm University(2024)New genetic study reveals the woolly mammoths' journey towards extinctionsu.se/english/news/new-genetic-study-reveals-the-woolly-mamm
  3. 3Dehasque, M. & Dalén, L. (2024) Did inbreeding cause the woolly mammoth’s extinction? Our research suggests it was more sudden than that(論文の著者2人による解説) 論文確認済みdoi:10.64628/ab.uv7x36r3j
  4. 4Palkopoulou, E. et al. (2015) Complete genomes reveal signatures of demographic and genetic declines in the woolly mammoth. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2015.04.007
  5. 5Rogers, R. L. & Slatkin, M. (2017) Excess of genomic defects in a woolly mammoth on Wrangel island. PLOS Genetics 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pgen.1006601
  6. 6Vartanyan, S. L. et al. (1993) Holocene dwarf mammoths from Wrangel Island in the Siberian Arctic. Nature 論文確認済みdoi:10.1038/362337a0

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい