都会のアライグマは、田舎より鼻先が約3.6%短かった。家畜化の始まりかもしれない
市民が撮ったアライグマの写真で顔を測ると、都会の個体は田舎より鼻先が約3.6%短かった。家畜に多い変化と同じ向きだった。

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- 市民がネットに投稿したアライグマの写真で、顔の形を測った
- 都会のアライグマは、田舎より鼻先が約3.6%短かった
- 鼻が短くなるのは、家畜によく見られる変化と同じ向きだった
人に話すなら
都会のアライグマって、田舎のより鼻先がちょっと短いんだって。みんながネットに投稿した写真で測ったらしいよ。鼻が短くなるのは犬とかの家畜によくある変化だから、家畜化の始まりかもって言われてる。
読む前に予想しよう
都会のアライグマの鼻の長さは、写真を使って調べられた
市民が投稿した写真から横顔がよく写ったものを選び、鼻先と頭の長さの比を測った。
人に飼われるようになった動物、つまり家畜は、祖先の野生の動物より顔が短くなっていることがよくあります。鼻先が短くなるのは、家畜によく見られる変化の1つです。では、人に飼われていない野生の動物でも、人のそばで暮らすだけで同じ変化が起きるのでしょうか。
アメリカの大学の先生と学生たちが、アライグマでこれを調べました。使ったのは、市民がネットに投稿したアライグマの写真です。横顔の写真で鼻先の長さを測ると、都会のアライグマは田舎のアライグマより、鼻先が約3.6%短くなっていました。
家畜化は、人が動物を選んで育てることから始まった、と思われがちです。けれども論文は、始まりはもっと自然なものだったと考えています。人の近くで生ゴミをあさる暮らしに慣れた動物が、少しずつ家畜らしくなっていった、という考えです。都会のアライグマは、その始まりの段階を今まさに見せているのかもしれません。
01家畜には、鼻が短い・耳がたれるなどの共通点がある
家畜になった動物には、種類が違っても似た特徴があります。論文によると、巻いた尾、たれた耳、白いぶち模様、小さな脳、短い顔などです。これらはまとめて「家畜化症候群」と呼ばれています。
なぜ違う動物に同じ変化が起きるのか。それを説明する考えの1つが、「神経堤細胞」の仮説です。神経堤細胞は、おなかの中の赤ちゃんの時期に体のあちこちへ移動していく細胞です。顔の骨、毛の色を作る細胞、ストレスにかかわるホルモンを出す部分などのもとになります。
この仮説によると、人をあまりこわがらない動物が選ばれると、神経堤細胞の数や移動が少し減ります。すると、顔が短くなったり、毛の色が抜けたりする変化も一緒に起きる、というのです。
02都会のアライグマは、家畜化のごく初めの段階にいるかもしれない
アライグマは、アメリカ本土の広い地域にすんでいます。田舎にも、人が多い都会にもいます。食べ物は、植物、虫、カニやザリガニのなかま、魚、小さな動物、そして人のゴミです。
都会のアライグマは、人のすぐそばで暮らし、ゴミを食べ物にしています。論文は、こうした暮らしでは、人をあまりこわがらない個体のほうが得をすると考えています。人が来るたびに逃げていては、ゴミを十分に食べられないからです。犬やネコの祖先も、こうした人のそばの暮らしから家畜になっていったと考えられています。
もし神経堤細胞の仮説が正しければ、都会のアライグマは鼻先が短くなっているはずです。チームは、これを確かめることにしました。
0310万枚を超える写真から、横顔がよく写った249枚を選んだ
調べたのは、アメリカのアーカンソー大学リトルロック校のラファエラ・レッシュ(Raffaela Lesch)さんです。著者には、2024年秋の統計の授業を受けた学生16人が並んでいます。
使ったのは、生き物の写真を投稿できるサイトです。だれでも撮った生き物の写真を投稿でき、ほかの人が種類の見分けを手伝います。チームはここから、2000年から2024年8月までにアメリカで撮られたアライグマの写真を集めました。その数は10万5722枚です。

同じ人が同じアライグマを何枚も撮っていることがあります。そこで、1人の投稿者につき写真を1枚だけにしました。これで1万9495枚になりました。この写真を17人で分け、1人約1140枚ずつ見ていきました。このとき、それぞれの写真が都会のものか田舎のものかは、見る人に知らせませんでした。ただし1人は途中で抜けたため、実際に見終えたのは16人分です。残った写真は、最後に1人の学生がもう一度確かめました。
使える写真の条件は厳しいものでした。生きたアライグマが写っていること。頭が真横を向いていること。頭全体が写っていること。鼻先や目の位置が見分けられるほど、はっきりしていること。この条件をすべて満たしたのは、わずか249枚でした。そのうち田舎の写真は38枚、都会の写真は211枚です。
写真には、長さの目安になる物差しが写っていません。そこでチームは、長さそのものではなく「比」を測りました。鼻の先から目頭の涙の出口までを「鼻先の長さ」とします。鼻の先から耳のつけ根までを「頭の長さ」の目安にします。そして、鼻先の長さを頭の長さで割ったのです。
04都会のアライグマは鼻先が短く、暖かい地域ほど鼻先は短かった
写真を撮った郡が都会か田舎かは、アメリカの国勢調査と農務省の分類で決めました。人口が多く、大都市に近い郡が「都会」です。チームは、その場所の冬の寒さも、農務省の地図で調べて分析に入れました。
古い年の写真には、田舎のものがとても少ししかありませんでした。そのため最後の分析は、2020〜2024年の172枚で行いました。
結果は、予想どおりでした。都会のアライグマは、田舎のアライグマより鼻先が短かったのです。差は約3.6%でした。この差は、気候の違いを考えに入れても残りました。
気候も鼻先の長さに関係していました。都会でも田舎でも、暖かい地域のアライグマほど鼻先が短くなっていました。そのため、寒い地域の都会のアライグマは、とても暑い地域の田舎のアライグマより鼻先が長い場合もありえます。緯度そのものは、鼻先の長さと関係していませんでした。
05都会のキツネやネズミでも、似た変化が報告されている
人のそばで鼻先が短くなる例は、アライグマが初めてではありません。2020年、イギリスのグラスゴー大学などのチームは、アカギツネの頭の骨111個を比べました。1971〜1973年に集められた骨です。ロンドンのキツネは、まわりの地域のキツネより、鼻先が短く幅が広い傾向がありました。脳が入る部分も小さくなっていました。
2018年には、スイスの納屋にすむ野生のハツカネズミの研究も出ています。人によく出会う環境で暮らした群れでは、10年の間に、白いぶちのある個体が増え、頭の長さが短くなりました。
ただし、どの動物でも鼻先が短くなるわけではありません。論文によると、ネコでは家畜化しても鼻先は短くなっていません。論文は、ネコはもともと鼻先が比較的短く、そのぶんかむ力が強い動物だからではないか、と考えています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
家畜化は「人が選んだ」ことから始まったのか
論文の前書きは、家畜化を「人が自然に逆らって起こしたもの」と見るのは不正確だと書いています。人のまわりには生ゴミがあり、大きな天敵が少ない。そこは動物にとって、うまく使えば得をする場所でした。そこで得をするのは、人に出会っても逃げ出しすぎない個体です。論文は、家畜化の始まりは、こうした自然の選び分けだったと考えています。人が見た目で品種を選ぶようになったのは、ずっと後のことだというのです。
「家畜化症候群」への反論
ただし、家畜化症候群そのものを疑う研究者もいます。2020年、別の研究者たちが、ロシアで行われた有名なキツネの実験を調べ直しました。人に慣れやすいキツネだけを選んで交配させると、家畜によく似た特徴をいくつも持つキツネが生まれた、という実験です。研究者たちは、実験に使われたキツネの来歴をカナダ東部までさかのぼって調べました。そして、この実験の結論も、家畜化症候群がどの家畜にも見られるという考えも、言いすぎだったと述べています。2021年には別の研究者たちが、神経堤細胞の仮説では家畜化の変化をまとめて説明できない、と反論しました。
この研究の弱点
この研究には、論文自身が認めている弱点もあります。まず、写真の測り方の一致度です。13枚の同じ写真を複数の人が測ったとき、測った値の一致度は68%でした。次に、田舎の写真が38枚と少ないことです。年ごとの変化も入れた分析は、計算上の問題が大きかったため、論文は年を外した分析で結論を出しています。最後の分析でも、都会か田舎かと気候で説明できた鼻先の長さのばらつきは、ごく一部でした。
まだ分からないこと
鼻先が短いのは、遺伝の変化なのか、それとも都会で育つうちに変わったのか。この研究の写真からは区別できません。また、都会のアライグマが本当に人をこわがりにくいのかも、この研究では測っていません。論文は、アライグマは家畜とまじり合う心配がないので、家畜化の始まりを調べるのに向いた動物だと書いています。
06まとめ
アメリカの大学の先生と学生たちが、市民の投稿したアライグマの写真で顔の形を測りました。10万枚を超える写真のうち、測れたのは249枚でした。都会のアライグマは、田舎のアライグマより鼻先が約3.6%短くなっていました。
鼻先が短くなるのは、家畜によく見られる変化と同じ向きです。ただし、写真が少ないことや、遺伝なのかどうか分からないことなど、まだ弱い点も多い研究です。
もし近所でアライグマやタヌキの写真を撮る機会があれば、横顔を撮ってみてください。あなたの1枚が、いつか家畜化の始まりを調べるデータになるかもしれません。
研究カルテ
アメリカ本土
- 研究チーム
- アメリカのアーカンソー大学リトルロック校のラファエラ・レッシュと、授業を受けた学生たち
- 調べた場所
- アメリカ本土(市民が投稿した写真の撮影地)
- 調べた動物
- アライグマ(学名 Procyon lotor)
- 調べ方
- 写真共有サイトから横顔の写真を選び、鼻先の長さを頭の長さとの比で測って、都会と田舎で比べた
- 分かったこと
- 都会のアライグマは田舎より鼻先が約3.6%短かった。暖かい地域ほど鼻先は短かった
- まだ分からないこと
- 遺伝で変わったのか、育つ環境で変わったのか。人をこわがらない性格と関係があるのか
- 論文
- Frontiers in Zoology(2025年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Many farm animals and pets have shorter faces than their wild ancestors. Can wild animals change in the same way when they live near people?
A teacher and her students in the United States studied raccoons. They used photos that people had shared online. They started with more than 100,000 photos. Only 249 photos showed the side of a raccoon's head clearly.
The team measured the nose and compared it with the length of the head. City raccoons had noses about 3.6 percent shorter than country raccoons. Raccoons in warm places also had shorter noses.
City raccoons eat food from trash cans. The scientists think calm raccoons may do better in cities. This may be the first step toward becoming a farm animal or pet. But the study used only a small number of photos from the country.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What did the team use to study raccoons?チームはアライグマを調べるのに何を使いましたか。
市民がネットに投稿したアライグマの写真を使いました。
Q2. How many photos showed the side of the head clearly?横顔がはっきり写っていた写真は何枚でしたか。
10万枚を超える写真のうち、測れたのは249枚だけでした。
Q3. Which raccoons had shorter noses?鼻先が短かったのはどのアライグマですか。
都会のアライグマは、田舎より鼻先が約3.6%短くなっていました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Apostolov, A. et al. (2025) Tracking domestication signals across populations of North American raccoons (Procyon lotor) via citizen science-driven image repositories. Frontiers in Zoology 論文確認済みdoi:10.1186/s12983-025-00583-1
- 2同論文の全文(PubMed Central)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12492588/
- 3Parsons, K. J. et al. (2020) Skull morphology diverges between urban and rural populations of red foxes mirroring patterns of domestication and macroevolution. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2020.0763
- 4Geiger, M. et al. (2018) A longitudinal study of phenotypic changes in early domestication of house mice. Royal Society Open Science 論文確認済みdoi:10.1098/rsos.172099
- 5Johnsson, M. et al. (2021) The neural crest cell hypothesis: no unified explanation for domestication. Genetics 論文確認済みdoi:10.1093/genetics/iyab097
- 6Lord, K. A. et al. (2020) The history of farm foxes undermines the animal domestication syndrome. Trends in Ecology & Evolution 論文確認済みdoi:10.1016/j.tree.2019.10.011
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





