ブタの声だけで、良い場面か嫌な場面かをAIが9割当てた。411頭の声を集めた研究

ブタ411頭の鳴き声7414回をAIに学ばせると、良い場面の声か嫌な場面の声かを91.5%当てた。良い場面の声は短かった。

No.144 7分で読めるえっ度 論文 2024年
わらを敷いた明るい豚舎で、母ブタのおなかに子ブタたちが並んでお乳を飲んでいる。そばにマイクが1本立っている。

30秒で読む

  1. 生まれてから出荷まで、19種類の場面でブタの声を集めた
  2. 良い場面の声は、嫌な場面の声より短かった
  3. AIは声だけで、良い場面か嫌な場面かを91.5%当てた

人に話すなら

ブタの鳴き声って、良い場面で出す声のほうが短いんだって。ブタの声をたくさんAIに覚えさせたら、良い場面か嫌な場面かを9割以上当てたらしいよ。農場でブタの気持ちを見守る道具になるかも。

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ブタは、良い場面のほうが長く鳴く

ブタは、よく鳴く動物です。お乳を飲むときも、仲間とはぐれたときも、けんかのときも声を出します。では、その声だけを聞いて、ブタがいま良い場面にいるのか、嫌な場面にいるのかを当てられるでしょうか。

ヨーロッパの5つの研究グループが、この問いに取り組みました。ブタ411頭の鳴き声7414回を集めたのです。生まれた直後から、出荷されてと畜場に行くまでの、19種類の場面の声です。この声をAIに学ばせると、AIは声だけで、良い場面か嫌な場面かを91.5%の確率で当てました。

これまでの研究は、ある年齢のブタの、限られた場面の声だけを調べるものがほとんどでした。それでは、農場の毎日で使える方法にはなりません。一生のさまざまな場面の声をまとめて調べたことが、この研究の新しさです。

01ブタの声には、低い「ブーブー」と高い「キーキー」がある

ブタの鳴き声は、大きく2つに分けられます。低い声と高い声です。低い声は、鼻を鳴らすような「ブーブー」という声です。高い声は、「キーキー」「ギャー」という悲鳴に近い声です。

論文によると、これまでの研究で、高い声は嫌な場面に多く、低い声はふつうの場面や良い場面に多いことが分かっていました。そこで、高い声が多ければ、ブタがつらい思いをしているしるしになると考えられてきました。

けれども、同じ種類の声の中にも、長さや音の細かい特徴に大きな違いがあります。その違いを使えば、もっと細かくブタの状態が分かるかもしれません。研究チームは、そこに目をつけました。

025つの研究グループが、ブタの一生の声を持ち寄った

調べたのは、スイスのチューリッヒ工科大学とデンマークのコペンハーゲン大学のエロディ・ブリーファー(Elodie Briefer)さんたちです。フランスの国立農業・食料・環境研究所のセリーヌ・タレ(Céline Tallet)さんたちも加わりました。チームは、ブタの声を研究してきた5つのグループです。

それぞれのグループが、これまでの研究で録音した声を持ち寄りました。足りない場面は、この研究のために新しく録音しました。集まった声は3万8000回を超えました。その中から、雑音が少なく、声の始まりと終わりがはっきりしたものを選びました。それが411頭の7414回です。

場面は19種類です。良い場面とされたのは、お乳を飲む、仲間と体を寄せ合う、仲間と再会する、ごほうびと結びつけて何かを覚える、などです。嫌な場面とされたのは、1頭だけ離される、けんか、体を押さえつけられる、去勢、と畜場などです。ブタの年齢は、生後1〜25日、32〜43日、85日以上の3つに分けました。

子ブタが2頭、鼻先を寄せ合ってくっついて眠っている。少し離れた場所で、1頭だけの子ブタが口を開けて鳴いている。

ここで大事な点があります。チームは、ブタの気持ちを直接測ったわけではありません。ブタが近づこうとする場面を「良い」、避けようとする場面を「嫌」と、場面から決めたのです。論文は、これを「想定した」良し悪しと書いています。

03良い場面の声は、低い声も高い声も短かった

まず、声の特徴を比べました。チームは声の長さや音の揺れなど、10の特徴を測りました。そのうえで、重なりの少ない4つの特徴にしぼって調べました。

一番はっきりしていたのは、声の長さです。低い声も高い声も、良い場面の声は嫌な場面の声より短くなっていました。声の長さのばらつきのうち、低い声で27%、高い声で30%が、良い場面か嫌な場面かの違いで説明できました。また、良い場面の声は、音の大きさの揺れも少なくなっていました。

論文によると、良い場面の声が短いことは、これまでのブタの研究や、野生のイノシシの研究とも一致しています。調べられたほかの動物でも、よく見られる傾向です。

04声を画像にしてAIに学ばせると、良い場面か嫌な場面かを9割以上当てた

次に、声だけでどの場面かを当てられるかを試しました。方法は2つです。

1つ目は、声の長さなど4つの特徴だけを使う、昔からの統計の方法です。この方法で、分析に使っていない声を当てさせると、良い場面か嫌な場面かの正解は61.7%でした。でたらめに当てたときは50.5%なので、少しだけ上回る程度です。19種類の場面のどれかを当てる問題では、正解は約20%でした(でたらめに当てると約14%)。

2つ目は、AIです。チームは、声の高さと強さの移り変わりを、1回の声ごとに1枚の画像にしました。そして、写真を見分けるために作られたAIに、この画像を追加で学ばせたのです。声の7割で学ばせ、残りの3割で当てさせました。これを10回くり返しました。

結果は、はっきり違いました。AIは、良い場面か嫌な場面かを91.5%、19種類のどの場面かを81.5%の確率で当てたのです。論文によると、このAIは、今のスマートフォンの性能でも1秒に50枚以上の声の画像を分けられます。

05「良い・嫌」は研究者が場面から決めたもので、気持ちそのものではない

この結果には、注意して読むべき点がいくつかあります。

まず、「良い場面」「嫌な場面」は、研究者が場面から決めたものです。同じ授乳の場面でも、すべてのブタが良い気分とは限りません。論文も、AIが分けた結果を図にすると、良い声と嫌な声が混ざり合う部分があったと書いています。場面の良し悪しを取り違えた声が混ざっていたのかもしれない、というのです。

次に、録音した研究グループの違いです。図にすると、「再会」の場面の声が2つのかたまりに分かれていました。この場面は2つのグループが別々に録音していたのです。やり方の違いなのか、まわりの雑音の違いなのかは分かりません。チームは追加の分析で、雑音が結果を左右した可能性は低いとしています。逆に、「良いごほうび」と「嫌なこと」を覚えさせた2つの場面の声は、図の上では見分けがつきませんでした。

そして、場面ごとの声の数には大きな差がありました。「驚き」の場面は17回、「1頭だけ離される」場面は2069回です。論文は、実際の農場で使う前に、別のデータで確かめる必要があると書いています。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

なぜ声に気持ちが表れるのか

論文によると、気持ちは、声を作る体のしくみに影響します。肺、のど(喉頭)、声の通り道です。そのため、声の長さや大きさ、高さなどの特徴が変わります。この考えにもとづいて、ここ10年ほど、いろいろな動物で「気持ちによって声がどう変わるか」が調べられてきました。

声で動物を見守る技術の歴史

牛やブタでは、すでに声を使って体調やストレスを見つける装置が作られています。ただし、それらは悲鳴やせきなど、特定の音を見つけるものでした。論文によると、ブタの気持ちが良いか悪いかを判定できる見守りの技術は、まだありませんでした。以前の研究では、1回の声から「命の危険」「授乳」「その他」の3つの場面を75%の確率で分けていました。論文は、1回の声ではなく、続けて出る10回ほどの声を使えば、良い場面か嫌な場面かの判定は100%近くになりうるとも書いています。

人との関係も、声に表れるらしい

2023年には、フランスのチームが、人とブタの関係と声の関係を調べました。乳離れのころに、人が話しかけたりなでたりして世話をした子ブタ30頭と、必要な世話だけを受けた30頭を比べました。すると、ていねいに世話をされた子ブタのほうが、短い「ブーブー」を出していました。論文は、この短い声が、子ブタの良い気分を表しているのかもしれないと書いています。

声で気持ちを読むことの限界

声の長さは、気持ちの良し悪しだけでなく、興奮の強さでも変わることがあります。論文も、去勢やと畜場のような強い痛みのある場面では、興奮が強くなって声の特徴が変わった可能性を書いています。つまり、声の違いの一部は「嫌な気分」ではなく「強い興奮」によるものかもしれません。気持ちの良し悪しと興奮の強さを分けて調べることが、これからの課題です。

06まとめ

ヨーロッパの5つの研究グループが、ブタ411頭の鳴き声7414回を、生まれてから出荷までの19種類の場面で集めました。良い場面の声は、嫌な場面の声より短くなっていました。

声を画像にしてAIに学ばせると、AIは良い場面か嫌な場面かを91.5%、どの場面かを81.5%の確率で当てました。ただし「良い・嫌」は場面から決めたもので、ブタの本当の気分そのものではありません。

ブタを見る機会があったら、声の長さに耳をすませてみてください。短い「ブッ、ブッ」が続いていたら、そのブタは落ち着いた場面にいるのかもしれません。

RESEARCH FILE

研究カルテ

ヨーロッパ(スイスのチューリッヒなど)

研究チーム
スイスのチューリッヒ工科大学やデンマークのコペンハーゲン大学など、ヨーロッパの5つの研究グループ(第一著者エロディ・ブリーファー)
調べた場所
ヨーロッパ各地の農場と研究施設
調べた動物
家畜のブタ411頭(学名 Sus scrofa domesticus)
調べ方
授乳・再会・去勢・と畜場など19種類の場面の鳴き声7414回を、音の特徴とAIで分けた
分かったこと
良い場面の声は短かった。AIは良い場面か嫌な場面かを91.5%、どの場面かを81.5%当てた
まだ分からないこと
場面から決めた「良い・嫌」が、ブタの本当の気分とどこまで一致するのか
論文
Scientific Reports(2022年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Can a Computer Hear How a Pig Feels?

Pigs make many sounds. They grunt when they drink milk, and they scream when they are scared. Can we tell if a pig is in a good or bad situation from its voice?

Scientists from five groups in Europe collected 7,414 calls from 411 pigs. The calls came from 19 kinds of situations, from birth to the end of life. In good situations, the calls were shorter.

The scientists turned each call into a picture of the sound. Then they taught a computer program with these pictures. The program found good or bad situations correctly 91.5 percent of the time.

But the scientists did not measure the pigs' real feelings. They decided which situations were good or bad. In the future, farmers may use this kind of tool to check on their pigs.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many pigs did the scientists record?研究者たちは何頭のブタの声を記録しましたか。

Q2. What were the calls like in good situations?良い場面の声はどんな声でしたか。

Q3. Who decided if a situation was good or bad?場面が良いか嫌かを決めたのはだれですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Briefer, E. F. et al. (2022) Classification of pig calls produced from birth to slaughter according to their emotional valence and context of production. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-022-07174-8
  2. 2同論文の全文(PubMed Central)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8901661/
  3. 3Villain, A. S. et al. (2023) The use of pigs vocalisation structure to assess the quality of human-pig relationship. Peer Community Journal 論文確認済みdoi:10.24072/pcjournal.260
  4. 4Heseker, P. et al. (2024) Detecting tail biters by monitoring pig screams in weaning pigs. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-024-55336-7

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい