17匹のラットが車の運転を練習した。遊び道具の多い部屋で育ったラットのほうが早く上達した

ラットが小さな車を運転して、えさの所まで行けるようになった。遊び道具の多い部屋で育ったラットのほうが早く覚えた。ふんのホルモンも変わった。

No.145 7分で読めるえっ度 論文 2025年
実験室の床の上を、透明なプラスチックの入れ物に車輪をつけた小さな車が走っている。中にはラットが1匹乗り、前足で車の前にある細い金属の棒をつかんでいる。

30秒で読む

  1. ラットは小さな車を運転して、えさの所まで行けるようになった
  2. 遊び道具や仲間の多い部屋で育ったラットのほうが、運転を早く覚えた
  3. 練習を重ねると、ふんの中のホルモンの割合がストレスに強い向きに変わった

人に話すなら

アメリカの大学で、ネズミに車の運転を教えたんだって。プラスチックの入れ物に車輪をつけた車で、ちゃんとえさの所まで走らせたらしいよ。遊び道具の多い部屋で育ったネズミのほうが、覚えるのが速かったんだって。

ポストLINE

読む前に予想しよう

ラットは練習すると小さな車を運転して目的地まで行ける

実験室の床を、小さな車が走っています。透明なプラスチックの入れ物に車輪をつけた車です。運転席にいるのは、1匹のラットです。

アメリカのリッチモンド大学のチームは、ラットに車の運転を教えました。大学の発表によると、運転を練習したラットは合わせて17匹です。ラットは車を前に進め、曲がりながら、ごほうびのえさの所まで走らせられるようになりました。

ラットは、迷路を通りぬけたり、レバーを押したりできることは前から知られていました。でも、自分の乗った乗り物を動かして目的地へ向かうのは、もっと複雑な課題です。しかもこの研究では、育った部屋のちがいで、運転の上達の速さが変わりました。

01ネズミの車は、食べ物の入れ物と銅の棒でできていた

研究の中心にいたのは、リッチモンド大学で脳と行動を研究するケリー・ランバート(Kelly Lambert)さんです。論文の第一著者は、同じ大学で心理学を教えていたエリザベス・クロフォード(Elizabeth Crawford)さんです。ランバートさんによると、始まりはクロフォードさんの「ラットに車の運転を教えられる?」という質問でした。

ここで言うラットは、実験用に飼われているドブネズミのことです。大学の発表によると、チームは透明なプラスチックの食べ物の入れ物に車輪をつけて、車を作りました。車の床はアルミニウムです。そして、3本の銅の棒がハンドルの役目をしました。

論文では、この車を「ネズミが動かす乗り物」という意味の英語の頭文字をとって、ROVと呼んでいます。

練習の場所は、長方形の囲いの中です。ごほうびは、甘いシリアルでした。

02ラットには、まっすぐ進むことから少しずつ教えた

ラットは、最初から車を運転できたわけではありません。学生たちは、ラットが車に近づく、ハンドルのしかけを動かす、目的地へ向かう、と少しずつ段階を分けて教えました。1つできるたびにごほうびをあげて、次の段階へ進めるやり方です。

論文の要旨によると、チームはまず予備の研究で、ラットが車を前にまっすぐ進められることを確かめました。次に、もっと複雑な道すじで曲がることも教えられると分かりました。ランバートさんは大学の発表で、ラットは今までしたことのない曲がり方を使って、ごほうびにたどり着いたと話しています。

大学の2022年の記事によると、運転を教えるには何か月もかかります。ランバートさんは、この長い練習を支えたのは学生たちだと話しています。

2つの飼育部屋が並んでいる。片方は広くて、トンネルやボール、何匹ものラットがいるにぎやかな部屋。もう片方は、ラットが1匹か2匹だけの小さくて何もないケージ。

03遊び道具の多い部屋で育ったラットのほうが、運転を早く覚えた

本番の実験では、育て方のちがう2つのグループを比べました。1つは、広い場所に遊び道具がたくさんあり、仲間も多い部屋で育ったラットです。このような部屋を、研究では「豊かな環境」と呼びます。もう1つは、実験室のふつうのケージで育ったラットです。

論文の要旨によると、豊かな環境で育ったラットのほうが、運転の成績がしっかり上がりました。ランバートさんは、ふつうのケージのラットは運転を覚えるのに苦労し、「運転の試験に落ちた」と表現しています。

チームは、ごほうびを出すのをやめた練習もしました。ごほうびがなくなると、ふつう動物はその行動を少しずつしなくなります。それでも、豊かな環境で育ったラットは、車への関心が続きました。

ランバートさんは、いろいろな物にふれて育ったことで、脳が新しいことに合わせて変わりやすくなったと考えています。脳が経験に合わせて変わる性質は、専門の言葉で「神経可塑性」と呼ばれます。

04運転の練習で、ふんの中のホルモンの割合が変わった

チームは、ラットのふんも集めて調べました。ふんには、体の中で使われたホルモンが分解されて出てきます。調べたのは、2種類のホルモンです。

1つはコルチコステロンです。体がストレスを受けたときに増えるホルモンです。もう1つはDHEAで、ストレスの働きを打ち消す側のホルモンです。人の研究でも、DHEAとストレスホルモンの割合は、ストレスへの強さと関係する目安とされています。

論文の要旨によると、練習を重ねるにつれて、ふんの中のDHEAの割合が増えました。これは、豊かな環境のラットだけでなく、すべてのラットで見られました。チームはこの結果から、運転の練習そのものが、ストレスに強い体の状態につながった可能性があると考えています。

大学の発表には、これより前に行った別の実験の話も出てきます。運転するラットと、同じ道のりをリモコンの車で運ばれるだけの「乗客」のラットを比べたものです。この実験では、自分で運転したラットのほうがDHEAが多かったといいます。ただしこの結果は、2019年の夏に学会で発表したもので、この論文の中身ではありません。

05ホルモンが変わった原因が運転なのかは、まだ確かではない

この研究には、気をつけて読むべき点もあります。まず、ホルモンの変化は、両方のグループで練習につれて起きました。練習のほかにも、毎日人にさわられることや、時間がたつことなど、いっしょに変わったことはあります。運転するラットと乗客のラットを比べた実験は、学会での発表の段階です。

次に、「豊かな環境」という言葉の使い方です。カナダのブリティッシュコロンビア大学のアンナ・ラトゥスキ(Anna Ratuski)さんたちは、2022年に実験用のラットとマウスの飼い方についての総説29本を読み比べました。その結果、「豊かな環境」が何を指すのかは、研究ごとにばらばらでした。

そのため、この言葉をひとまとめに使うのはさけるべきだ、という意見が多くの総説で出ていました。おもちゃの数、部屋の広さ、仲間の数のうち、どれが運転の上達に効いたのか。この研究だけでは分けられません。

最後に、脳の中で何が起きたのかは、この論文ではまだ調べていません。大学は次の研究として、運転を覚えたラットの脳がどう変わるのかを調べると発表しています。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

「育つ環境で脳が変わる」という研究の歴史

育つ環境が脳を変えるという考えは、1960年代のアメリカの研究で大きく注目されました。カリフォルニア大学バークレー校のマリアン・ダイヤモンド(Marian Diamond)さんたちは、1964年に、豊かな環境で育てたラットの脳の表面の組織を調べた論文を出しました。

ランバートさんの2025年の文章によると、ダイヤモンドさんたちは、複雑な環境で育ったラットでは、脳の表面の層が厚くなったと報告しました。当時は、生まれたあとの脳は変わらないという考えが強くありました。学会では、大人の脳は変わらないと反対する人もいました。ダイヤモンドさんは、同じ実験をくり返しても同じ結果になったと答えたそうです。

今では、豊かな環境が脳のつながりを強めたり、けがからの回復を早めたりすることが、多くの研究で報告されています。運転するラットの研究は、この流れの上にあります。

なぜ「運転」で調べるのか

ラットの研究では、迷路やレバー押しがよく使われてきました。運転は、目で見て、体を動かし、タイミングを合わせて、目的地へ向かう課題です。論文の要旨は、こうした長い練習が、考える力と体を動かす力をまとめて調べる機会になると書いています。

要旨はさらに、運転のような課題は、脳の神経が弱っていく病気や心の病気の研究にも役立つとしています。動物のやる気や反応の小さな変化を、運転の成績から読み取れるからです。

ほかの動物も「乗り物」を運転した

ラットの研究のあと、イスラエルのネゲブ・ベングリオン大学のチームは、金魚に車を運転させました。水そうを車輪のついた台にのせ、中の金魚の泳ぎ方に合わせて車が動くしくみです。ランバートさんは2025年の文章で、この金魚の研究を、自分たちの研究から広がった例として紹介しています。

2024年には、ネズミのなかまの感情と考える力についての総説が、アメリカの科学雑誌に出ました。ランバートさんによると、この総説は運転するラットの研究を、目的に向かって自分から行動する力を調べる例として取り上げました。

06まとめ

アメリカのリッチモンド大学のチームは、食べ物の入れ物で作った車で、ラットに運転を教えました。ラットは車を前に進め、曲がりながら、ごほうびの所まで走らせられるようになりました。

遊び道具や仲間の多い部屋で育ったラットのほうが、運転をよく覚えました。練習を重ねると、ふんの中のホルモンの割合は、ストレスに強い向きに変わりました。

ランバートさんが実験室に入ると、運転を練習したラットはケージの壁をのぼりおりして、前足をのばしてきたそうです。運転が楽しみなのか、えさが楽しみなのかは、まだ分かっていません。

RESEARCH FILE

研究カルテ

アメリカ・バージニア州リッチモンド

研究チーム
アメリカのリッチモンド大学のチーム(第一著者エリザベス・クロフォード、責任者ケリー・ランバート)
調べた場所
アメリカ・バージニア州のリッチモンド大学の実験室
調べた動物
実験用のオスのラット(学名 Rattus norvegicus)。大学の発表では合わせて17匹が運転を練習した
調べ方
遊び道具の多い部屋と、ふつうのケージで育てたラットに車の運転を練習させ、上達とふんのホルモンを比べた
分かったこと
遊び道具の多い部屋で育ったラットのほうが運転をよく覚え、どちらのグループも練習でホルモンの割合が変わった
まだ分からないこと
運転を覚えたとき、脳のどこがどう変わるのか。大学は次の研究で調べると発表している
論文
Behavioural Brain Research(2020年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Rats Learned to Drive Tiny Cars

Scientists at a university in the United States taught rats to drive. They made a small car from a clear plastic food box on wheels. Three copper bars worked as the steering wheel.

Students trained the rats step by step. The rats learned to move the car forward and turn it. When they reached the goal, they got a piece of sweet cereal.

Some rats lived in a big room with many toys and friends. Other rats lived in small, plain cages. The rats from the big room learned to drive better.

The scientists also checked hormones in the rats' poop. After the driving lessons, all the rats had more of a hormone that works against stress. The team thinks learning a new skill may help animals handle stress.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What did the scientists use to make the car?研究者たちは、車を何で作りましたか。

Q2. Which rats learned to drive better?どのラットのほうが運転をよく覚えましたか。

Q3. What did the scientists check in the rats' poop?研究者たちは、ラットのふんの中の何を調べましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Crawford, L. E. et al. (2020) Enriched environment exposure accelerates rodent driving skills. Behavioural Brain Research 論文確認済みdoi:10.1016/j.bbr.2019.112309
  2. 2PubMed:上の論文の要旨pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31629004/
  3. 3University of Richmond(2019)プレスリリース:Research Scientists at University of Richmond Teach Rats to Drivenews.richmond.edu/releases/article/-/16721/research-scientis
  4. 4University of Richmond(2022)Driving rats redux: New cars, new capabilities, and a Netflix appearanceurnow.richmond.edu/features/article/-/21734/driving-rats-red
  5. 5Lambert, K. G. (2025) Illuminating the Shadows of Neuroscience: How Curiosity and Courage Redefine Research Models and Mentorship. eNeuro 論文確認済みdoi:10.1523/ENEURO.0056-25.2025
  6. 6Ratuski, A. S. & Weary, D. M. (2022) Environmental Enrichment for Rats and Mice Housed in Laboratories: A Metareview. Animals 論文確認済みdoi:10.3390/ani12040414

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい