ラットも音楽の拍に合わせて頭を動かしていた。乗りやすい速さは人と同じ1分間120〜140拍
ラットの頭に小さなセンサーをつけてモーツァルトを聞かせると、約半数が拍に合わせて頭を動かした。脳も、人が乗りやすい速さの拍を一番はっきりとらえた。

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- ラットに曲を聞かせると、約半数が拍に合わせて頭を動かした
- 拍に乗りやすい速さは、人と同じ1分間120〜140拍だった
- 速さを決めるのは体ではなく、脳の「慣れ」のしくみらしい
人に話すなら
ネズミも音楽に合わせて頭を動かすんだって。しかも乗りやすいテンポは、人と同じ1分間120〜140拍くらい。体の大きさじゃなくて、脳のしくみで決まるらしいよ。
読む前に予想しよう
ネズミが音楽の拍に乗りやすい速さは、人よりずっと速い
ラットも人と同じ1分間120〜140拍ほどで、拍に合わせた動きや脳の反応がはっきりした。
人は音楽を聞くと、知らないうちに足でリズムを取ったり、首を小さく縦に振ったりします。では、ネズミはどうでしょうか。動物も音楽の拍に乗れるのかは、今も研究者の間で議論が続いている問いです。
東京大学の研究チームは、ラットの頭に小さな加速度計をつけて、モーツァルトの曲を聞かせました。すると、10匹のうち約半数が、曲の拍に合わせて頭を小さく動かしていました。拍に乗りやすい速さは、人と同じ1分間120〜140拍でした。
ラットは人よりずっと体が小さく、歩くテンポも速い動物です。もし体の大きさで乗りやすいテンポが決まるなら、ラットはもっと速い曲に乗るはずでした。結果はそうなりませんでした。チームは、乗りやすいテンポを決めているのは体ではなく、脳のしくみだと考えています。
01体が小さい動物ほど速い曲に乗る、という予想があった
人が音楽に合わせて体を動かすとき、一番乗りやすいのは1分間に120〜140拍の速さです。多くの曲も、この速さで作られています。
なぜこの速さなのか。研究チームは2つの説を立てました。
1つめは「体が決める」説です。人がふつうに歩くと、1分間に約120歩になります。この説が正しければ、歩くテンポの速い小さな動物は、もっと速い曲に乗りやすいはずです。体が小さい動物ほど、心臓の拍動や呼吸も速くなることが知られています。
2つめは「脳が決める」説です。脳の神経の反応の速さは、動物の種類が違ってもよく似ています。この説が正しければ、ラットも人と同じ速さの曲に乗りやすいはずです。
チームを率いたのは、東京大学大学院情報理工学系研究科の高橋宏知さん(研究当時は准教授)です。論文の第一著者は、当時は大学院生だった伊藤圭基さんです。ラットが音楽の拍に合わせて動くという報告は、それまでありませんでした。
024つの速さで聞かせると、ラットの約半数が拍に合わせて頭を動かした
実験に使ったのは、実験用のラット10匹です。チームはまず、麻酔をかけたラットの頭の骨に、小さなホルダーを手術で固定しました。そこに、電池こみで6.5グラムの無線の加速度計を差しこみます。加速度計は、物の動きがどう変わるかを測る小さな機械です。
ラットは、横と奥行きが70センチ、高さ80センチの薄暗い箱に入れられました。上のスピーカーから流したのは、モーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448」の60秒分です。元の速さは1分間132拍です。
チームは、同じ曲を4つの速さで流しました。元の0.75倍(99拍)、元の速さ(132拍)、2倍(264拍)、4倍(528拍)です。音の高さは変えていません。1分間の静けさをはさみ、ばらばらの順で2回ずつ流しました。これを3日続けました。
頭の動きは、ほんの小さなものでした。そこでチームは、動きが急に変わる瞬間に注目しました。拍のところで、拍のないところより、動きの急な変化が大きいかを調べたのです。
拍に合わせた動きがはっきり見られたラットは、10匹中、0.75倍で6匹、元の速さで5匹、2倍で3匹、4倍で1匹でした。曲が速くなるほど、拍に合わせられるラットは減りました。ラットどうしで同じタイミングに頭を動かす度合いは、元の速さの1分間132拍で一番高くなりました。
03人とラットは、曲の同じところで大きく動いた
チームは人でも同じ実験をしました。20人が参加し、ヘッドホンに同じ加速度計をつけて曲を聞きました。人は、曲に合わせて頭を動かすように頼まれていました。ラットと比べた12人は、元の速さで全員が拍に合わせて頭を動かしました。
人もラットも、曲が速くなるほど頭の動きは小さくなりました。さらにチームは、曲の中のどの拍で頭が大きく動いたかを、1拍ずつ比べました。すると、人が大きく動いた拍では、ラットも大きく動く傾向がありました。この重なりが見られたのは、元の速さのときだけでした。
頭の動きの急な変化は、ラットのほうが人の約10倍大きくなりました。チームは、ラットの頭が軽いためだと説明しています。
ラットを後ろ足で立たせると、動きは目で見て分かりやすくなりました。チームは水の飲み口を高い所に置き、ラットが立ち上がって水を探すようにしました。そこにモーツァルトのほか、レディー・ガガやクイーン、マイケル・ジャクソンなどの曲も流しました。

04脳の音を聞く場所も、人が乗りやすい速さの拍を一番はっきりとらえた
チームは次に、脳を調べました。使ったのは、頭の動きを測ったのとは別のラット13匹です。麻酔をかけたラットの脳の、音を聞く部分(聴覚野)に、4ミリ四方に電極が並んだ板をさしこみました。
まず、同じモーツァルトの曲を5つの速さで聞かせました。聴覚野は、拍の音と拍でない音とで、反応の強さが違います。その差が一番大きくなったのは、元の速さの1分間132拍でした。
もっと単純な音でも試しました。「カチ、カチ、カチ、休み」をくり返す音を、1分間に60、120、240、480拍の速さで聞かせました。すると、120拍のあたりで、1つめの「カチ」への反応が一番目立ちました。
05音のあと約250ミリ秒、脳は次の音への反応をおさえていた
なぜ120拍前後なのでしょうか。チームが目をつけたのは「順応」です。脳は音を聞いた直後、次の音への反応を弱めます。
チームは、いろいろな間かくのカチカチ音への反応から、この弱まり方を計算で取り出しました。すると、音のあと約250ミリ秒のあいだ、脳の反応が強くおさえられていました。この性質を入れた計算モデルは、120拍のあたりで拍が一番目立つという実験の結果を再現できました。
チームは、クラシック音楽の楽譜のデータベースも調べました。東京大学の発表によると、曲の中の音と音の間かくは、平均で約200ミリ秒でした。チームの計算モデルが脳の反応を一番よく当てたのも、音の間かくが平均約200ミリ秒のときでした。
こうした結果から、チームは「脳が決める」説を支持しました。拍に乗りやすい速さは、体の大きさではなく、動物の種類をこえて似ている脳の性質で決まる、という考えです。
06ラットは拍を先読みしていたのか、まだ決着していない
この研究には、大事な限界があります。人は音楽に合わせるとき、次の拍を予想して、少し早めに体を動かします。ところがラットの動きは、人より拍のあとにずれていました。拍を聞いてから反応していた可能性があるのです。
チームもこの点を認めています。ただし、音に驚いてびくっとしただけとも言い切れない、と述べています。元の速さでは、1拍めの動きが拍の少し前から大きくなり始めていました。また、3拍めは音が比較的大きいのに、そこでは動きがそろいませんでした。
もう1つの限界は、動きが長続きしなかったことです。元の速さでの拍に合わせた動きは、1日めにはっきりしていましたが、2日めには弱まりました。チームは、曲が珍しいうちだけ動きが大きくなった可能性や、曲に慣れて驚かなくなった可能性を挙げています。
2024年には、香港城市大学などのチームが別の方法で調べました。ラット8匹に、メトロノームの拍の近くで水をなめると水がもらえるように訓練しました。すると、ラットは拍と拍の間になめるのをひかえ、次の拍を待つようにふるまいました。チームは、ラットが拍を先読みしていると結論しています。ただし、これは水というごほうびで訓練した結果です。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
「音まねができる動物だけが拍に乗れる」という説
音楽に合わせて体を動かせる動物は、とても少ないと考えられてきました。有力なのが、アメリカのタフツ大学の心理学者アニルッド・パテル(Aniruddh Patel)さんの説です。聞いた音をまねして声を変えられる動物だけが、拍に乗れるという考えです。
音をまねするには、耳と体を動かす脳の部分が強くつながっている必要があります。そのつながりが、拍に合わせて体を動かす力にもつながった、というのです。パテルさんは2024年の論文で、次の拍を先読みし、テンポが変わってもついていく形で、自分から音楽に合わせて動くと知られている人以外の動物は、オウムの仲間だけだと書いています。ラットは声まねをする動物ではありません。
サルは訓練すれば曲の拍に合わせてたたけた
2025年には、メキシコ国立自治大学のチームが、アカゲザルの結果を発表しました。サルも声まねをしない動物です。訓練を受けたサルは、本物の音楽を聞きながら、拍に合わせて決まった場所をたたけるようになりました。チームはこれを、声まねの説とくい違う結果だとしています。
ただし、サルはごほうびをもらうために、この作業をしていました。チームは、拍に合わせる力は、ごほうびと結びつけることで引き出されるものだと考えています。訓練なしで乗るのか、訓練すれば乗れるのか。この違いが、今の議論の大きな分かれ目です。
研究の歴史
進化論のチャールズ・ダーウィンは、人が音楽のリズムを感じる力は、祖先から受けついだものだと考えました。これまで拍に合わせた動きが報告された動物の多くは、訓練を受けたか、音楽の多い環境で育った動物でした。高橋さんたちは、訓練なしで生まれつき拍に合わせる動物を、人以外で報告したのは自分たちが知るかぎり初めてだと書いています。
小さな動きが見落とされてきた理由
チームは、ラットの「乗り」がこれまで見つからなかったのは、動きが小さすぎて目で見えなかったからだろうと考えています。4本足で立つラットの体は、リズムに合わせた動きを大きくしにくいつくりです。一方で、静かな部屋で1人で音楽を聞く人の頭の動きの加速度は、ラットと同じくらいでした。人の「乗り」も、いつも目に見えるほど大きいわけではないのです。
07まとめ
東京大学のチームは、ラットに小さな加速度計をつけてモーツァルトを聞かせ、約半数が拍に合わせて頭を動かすことを見つけました。人もラットも、拍に乗りやすい速さは1分間120〜140拍でした。脳の音を聞く部分も、この速さの拍を一番はっきりとらえていました。
ただし、ラットの動きは人より拍のあとにずれていて、2日めには弱まりました。ラットが次の拍を先読みしているのかは、まだ決着していません。
1分間120拍は、1秒に2拍の速さです。時計の秒針が1つ進むあいだに、2回うなずく速さです。
研究カルテ
日本・東京(東京大学)
- 研究チーム
- 東京大学大学院情報理工学系研究科の高橋宏知さん(研究当時は准教授)、伊藤圭基さんらのチーム
- 調べた場所
- 東京大学の実験室(東京都文京区)
- 調べた動物
- 実験用のラット(学名 Rattus norvegicus、ウィスター系)。頭の動きは10匹、脳の活動は別の13匹
- 調べ方
- 頭に小さな加速度計をつけ、モーツァルトの曲を4つの速さで聞かせた。脳の音を聞く部分の活動も測った
- 分かったこと
- 約半数のラットが拍に合わせて頭を動かした。1分間120〜140拍で、動きも脳の反応もはっきりした
- まだ分からないこと
- ラットが次の拍を先読みしているのか、拍を聞いてから反応しているだけなのか
- 論文
- Science Advances(2022年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
People often move their heads when they listen to music. Can rats do the same thing?
Scientists in Tokyo put a tiny sensor on the heads of ten rats. Then they played a piece by Mozart at four different speeds. About half of the rats moved their heads with the beat. When the music got faster, fewer rats followed the beat.
The scientists also checked the part of the brain that hears sounds. It followed the beat best at about 120 to 140 beats a minute. Humans also move to music best at this speed. So the best speed may come from the brain, not the body.
But the rats moved a little after each beat. People usually move a little before the beat. Scientists still do not know if rats can guess the next beat.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What music did the scientists play?研究者はどんな音楽を流しましたか。
モーツァルトの曲を4つの速さで流しました。
Q2. What happened when the music got faster?曲が速くなると、どうなりましたか。
曲が速くなるほど、拍に合わせられるラットは減りました。
Q3. When did the rats move?ラットはいつ動きましたか。
ラットは拍の少しあとに動いていました。人はふつう拍の少し前に動きます。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Ito, Y. et al. (2022) Spontaneous beat synchronization in rats: Neural dynamics and motor entrainment. Science Advances 論文確認済みdoi:10.1126/sciadv.abo7019
- 2東京大学大学院情報理工学系研究科(2022)プレスリリース「ラットも音楽のビートに合わせて身体を動かすことを発見」i.u-tokyo.ac.jp/news/press/2022/202211122136.shtml
- 3Rajendran, V. G. et al. (2024) Rats synchronize predictively to metronomes. iScience 論文確認済みdoi:10.1016/j.isci.2024.111053
- 4Patel, A. D. (2024) Beat-based dancing to music has evolutionary foundations in advanced vocal learning. BMC Neuroscience 論文確認済みdoi:10.1186/s12868-024-00843-6
- 5Rajendran, V. G. et al. (2025) Monkeys have rhythm. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.adp5220
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





