ネコは声だけで、見えない飼い主の居場所を思い描いているらしい。50匹の実験
部屋の外から5回聞こえた飼い主の声が、2.5秒後に部屋の奥から聞こえると、ネコは一番驚いた。声から居場所を思い描いているらしい。

30秒で読む
- 録音した飼い主の声で、部屋の外からネコの名前を5回呼んだ
- その直後、同じ声を部屋の奥から流すと、ネコは一番驚いた
- ほかのネコの声や機械の音では、同じ驚き方はしなかった
人に話すなら
ネコに飼い主の呼ぶ声を部屋の外から何回か聞かせて、すぐに部屋の反対側から同じ声を流した実験があってね。ネコはそれに一番驚いたんだって。見えない飼い主の居場所を、声で思い描いてるらしいよ。
読む前に予想しよう
ネコは、飼い主の声がありえない場所から聞こえると驚く
京都大学の実験で、飼い主の声が瞬間移動したように聞こえる条件で、ネコは一番驚いた。
となりの部屋から、家族があなたの名前を何度か呼んでいます。ところが次の瞬間、同じ声が、あなたの真後ろから聞こえました。きっと、びっくりしてふり返るはずです。その人がそんなに速く移動できるはずはないからです。
ネコも同じように驚くのでしょうか。京都大学などのチームが、家やネコカフェで暮らすネコで確かめました。部屋の外のスピーカーから、録音した飼い主の声でネコの名前を5回呼びました。すぐ後に、部屋の奥のスピーカーから同じ声を流したのです。50匹で調べると、ネコはこの条件のときに一番驚いた様子を見せました。
研究チームは、ネコは「飼い主は部屋の外にいる」と思っていたから驚いた、と考えています。姿が見えなくても、声から相手の居場所を頭の中に描いているらしいのです。研究チームは、これまで知られていなかったネコの力だとしています。
012つのスピーカーで、飼い主の声を「瞬間移動」させた
研究したのは、当時京都大学にいた高木佐保さんたちのチームです。京都大学と上智大学の研究者が加わり、2021年に発表しました。
実験は、ネコがふだん暮らしている場所で行いました。飼い主の家か、ネコカフェです。ネコカフェでは、主にそのネコの世話をしている店の人を「飼い主」としました。
まず、飼い主に、いつもどおりにネコの名前を呼んでもらい、その声を録音しました。1回の呼び声は1秒ほどです。
次に、スピーカーを2つ置きました。1つめは実験する部屋の外、ドアの近くです。2つめは部屋の中の、反対側のドアか窓の近くです。2つのスピーカーは、少なくとも4メートル離しました。人が2.5秒では移動できない距離です。部屋にはカメラを5台置き、実験者は部屋から出ました。3分待って、ネコが落ち着いてから実験を始めます。
025回呼んだ後、最後の1回だけ場所や声を変えた
実験の流れはこうです。まず、部屋の外のスピーカーから、飼い主の声でネコの名前を5回流します。間は2.5秒ずつです。ネコは「飼い主が部屋の外で呼んでいる」と聞くことになります。
その2.5秒後に、6回目の声を1回だけ流します。この6回目を、4つの条件で変えました。
- 同じ飼い主の声を、同じ部屋の外から流す
- 知らない人の声を、同じ部屋の外から流す
- 同じ飼い主の声を、部屋の奥から流す
- 知らない人の声を、部屋の奥から流す
3つめの条件では、飼い主が2.5秒で4メートル以上「瞬間移動」したことになります。チームは、ネコが飼い主の居場所を思い描いているなら、このときに一番驚くはずだと考えました。知らない人の声は、飼い主と同じ性別の人に、同じようにネコの名前を呼んでもらったものです。
1匹のネコは、2つの条件を受けました。2回の間は3分以上あけ、その間ネコは部屋を自由に動けました。

03飼い主の声が部屋の奥に移ったとき、ネコは一番驚いた
驚き方は、人が動画を見て点数をつけました。耳の動き、頭の向き、ふり返り、体の動きなどを合わせて、0点(驚いていない)から4点(とても驚いた)までの5段階です。
点数をつけたのは8人で、男女4人ずつです。8人には、どの条件の動画かが分からないようにしました。動画の中の最後の声は、どの条件でも同じ「ピー」という音に差しかえました。8人は、どの声がどこから流れたのかを知らないまま、ネコの反応だけを見て点数をつけたのです。8人の点数は、よくそろっていました。
最初の実験に参加したのは、50匹です。27匹が5軒のネコカフェのネコ、23匹が家のネコでした。分析した動画は82本です。
結果は、チームの予想どおりでした。同じ飼い主の声が部屋の奥から聞こえたとき、ネコは一番大きく驚いていました。同じ声が同じ場所から聞こえたときより、はっきり大きく驚いていました。知らない人の声が部屋の奥から聞こえたときよりも、大きく驚きました。
04ネコの声や機械の音では、同じ驚き方はしなかった
ネコは、ただ「音が急に別の場所から聞こえた」ことに驚いただけではないのでしょうか。チームは、それを確かめるために、あと2つの実験をしました。
2つめの実験では、飼い主の声の代わりに、同じネコカフェで暮らす顔見知りのネコの鳴き声を使いました。45匹で調べると、同じネコの声が部屋の奥に移っても、一番驚くことはありませんでした。違うネコの声が部屋の奥から聞こえたときのほうが、大きく驚いていました。
3つめの実験では、インターネットのサイトから取った電子音を使いました。47匹で調べると、ネコは、音が部屋の奥から聞こえると、同じ音でも違う音でも同じくらい驚きました。同じ音が瞬間移動したときだけ特に驚く、ということはありませんでした。
つまり、「同じものが移動した」ときに特に強く驚く反応は、飼い主の声のときにしか出ませんでした。チームは、ネコが飼い主の声を聞いて、見えない飼い主の居場所を頭の中に描いていたと考えています。
05ネコは何に驚いたのか、まだ分からないこともある
この研究にも、まだ分からない点があります。研究チームは、ネコが何に驚いたのかを、2通りに分けられないと書いています。「いないはずの場所に飼い主がいた」ことに驚いたのかもしれません。あるいは「いるはずの場所から飼い主がいなくなった」ことに驚いたのかもしれません。
これを見分けるには、もう1つ条件が必要です。最後の声の前に、飼い主が移動できるだけの時間をあける条件です。それでも驚くかどうかを調べれば、どちらなのかが分かるかもしれません。
また、驚き方は点数で比べました。点数をつけた8人は、動物の行動の専門家ではありませんでした。ネコが部屋の奥のスピーカーをふり返るまでの時間も、動画のコマを数えてはかりました。こちらは、飼い主の声が瞬間移動したときだけ早くふり返る、という差は出ませんでした。ネコによって、もとの場所を見つめる子もいれば、部屋を歩き回る子もいたからだと、チームは考えています。
3つめの実験で使った電子音も、くらべる相手として十分ではなかったかもしれません。チームは、おもちゃの音のように、物と結びついた音で確かめるべきだとしています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
「見えないものを覚えておく力」
見えなくなったものが、そこにあり続けると分かる力を、心理学では「物の永続性」と呼びます。人の赤ちゃんも、生まれてしばらくすると、この力を身につけます。チンパンジーやイヌ、カケスなど、多くの動物でも確かめられてきました。ネコも、目の前でかくされた物を正しくさがせることが分かっています。
ただ、これまでの実験は、ほとんどが目で見せるものでした。今回の研究は、音だけで、見えない相手を思い描けるかを確かめた点が新しいところです。研究チームは、ネコの結果は、少なくとも「目の前でかくした物」を追える力に当たると書いています。
サルやミーアキャットでも、同じ実験が行われていた
この実験には、もとになった研究があります。2014年、フランスのストラスブール大学のロナルド・ノエ(Ronald Noë)さんたちは、野生のベルベットモンキーで調べました。群れの仲間の声を流し、ありえない移動をしたように聞かせると、サルは強く反応しました。ミーアキャットや、ある鳥の仲間でも、似た結果が出ています。
これらの動物は、群れで暮らしています。見通しの悪い草むらや森で、仲間がどこにいるかを声から思い描ければ、群れから離れずにすみます。一方、イエネコの祖先のリビアヤマネコは、1匹で暮らす動物です。大人のネコどうしが鳴き合うのは、けんかと恋の季節くらいだとされています。
研究チームは、ネコの声で同じ結果が出なかった理由を、ほかにもいくつか挙げています。大人のネコの「ニャー」は、主に人に向けた声だということ。使った声が、ひとりきりのときに出る鳴き声だったこと。人のためのスピーカーでは、ネコに聞こえる高い音を出しきれないことなどです。
ネコは、飼い主の声を聞き分けている
ネコが人の声を聞き分けることは、日本の研究で少しずつ明らかにされてきました。2013年、東京大学の齋藤慈子さんたちは、20匹のネコに、知らない人3人の声で名前を呼ぶ声を順に聞かせました。20匹のうち15匹は、だんだん反応が小さくなりました。そこで飼い主の声を聞かせると、反応がまた大きくなったのです。ネコは鳴き返したりしっぽをふったりはせず、耳や頭を動かす反応を見せました。
2019年には、高木さんたちが、声と顔の組み合わせを調べました。飼い主か知らない人の声で名前を呼んだ後、どちらかの顔を画面に出したのです。すると、ネコカフェのネコは、声と顔が合わないときに画面を長く見ました。声を聞いて、その人の顔を思いうかべていたと考えられます。ただし、家のネコでは、はっきりした差は出ませんでした。今回の居場所の研究は、こうした積み重ねの上にあります。
06まとめ
京都大学などのチームは、部屋の外から飼い主の声でネコの名前を5回呼び、すぐ後に同じ声を部屋の奥から流しました。ネコ50匹で調べると、この「ありえない移動」のときに、ネコは一番驚きました。顔見知りのネコの声や電子音では、同じ驚き方はしませんでした。ネコは、見えない飼い主の居場所を、声から思い描いているらしいのです。
ただし、ネコが何に驚いたのかは、まだ2通りに分けられていません。それでも、2.5秒前に部屋の外から聞こえた飼い主の声が部屋の奥から聞こえたとき、ネコはふり返ったり耳を動かしたりして、大きな反応を見せたのです。
研究カルテ
日本・京都府
- 研究チーム
- 京都大学などのチーム(第一著者 高木佐保)
- 調べた場所
- 日本の飼い主の家と、5軒のネコカフェ
- 調べた動物
- 家やネコカフェで暮らすネコ(学名 Felis catus)。最初の実験は50匹
- 調べ方
- 部屋の外のスピーカーから飼い主の声で名前を5回呼び、次に部屋の外か奥から1回だけ声を流して、ネコの驚き方を比べた
- 分かったこと
- 同じ飼い主の声が、ありえない速さで部屋の奥に移ったときに、ネコは一番驚いた
- まだ分からないこと
- 「いないはずの所にいた」のか「いるはずの所にいない」のか、どちらに驚いたのかは分からない
- 論文
- PLOS ONE(2021年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Scientists in Kyoto did a test with 50 cats. They put one speaker outside the room and one inside the room. The two speakers were at least four meters apart.
First, the outside speaker played the owner's voice. The recorded voice called the cat's name five times. Then, after only 2.5 seconds, the same voice came from inside the room. No person can move that fast.
The cats looked most surprised at this time. They did not react the same way to other cats' voices or to electronic sounds.
So cats may keep a picture in their mind of where their owner is. But we do not know one thing yet. Were the cats surprised by the new place, or by the empty old place?
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many times did the owner's voice call the cat's name first?最初に飼い主の声は何回ネコの名前を呼びましたか。
部屋の外のスピーカーから、飼い主の声で名前を5回呼びました。
Q2. When did the cats look most surprised?ネコが一番驚いた様子を見せたのはいつですか。
飼い主の声が、ありえない速さで部屋の中に移ったように聞こえたときでした。
Q3. What sounds did NOT make the same reaction?同じ反応を起こさなかった音はどれですか。
電子音やほかのネコの声では、同じ驚き方は見られませんでした。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Takagi, S. et al. (2021) Socio-spatial cognition in cats: Mentally mapping owner's location from voice. PLOS ONE 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pone.0257611
- 2Noë, R. & Laporte, M. (2014) Socio-spatial cognition in vervet monkeys. Animal Cognition 論文確認済みdoi:10.1007/s10071-013-0690-3
- 3Saito, A. & Shinozuka, K. (2013) Vocal recognition of owners by domestic cats (Felis catus). Animal Cognition 論文確認済みdoi:10.1007/s10071-013-0620-4
- 4Takagi, S. et al. (2019) Cats match voice and face: cross-modal representation of humans in cats (Felis catus). Animal Cognition 論文確認済みdoi:10.1007/s10071-019-01265-2
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





