ネコは、目の錯覚で見えるだけの四角にも座った。座った回数は本物の四角8回、錯覚の四角7回
欠けた丸を4つ並べて四角に見せた図形を床に貼ると、ネコは本物の四角と同じくらいそこに座った。ただし座ったのは9匹だけ。

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- 4分の1が欠けた丸を4つ並べると、人には線のない四角が見える
- ネコはその「錯覚の四角」に、本物の四角と同じくらい座った
- ただし最後までやった30組のうち、図形を選んだのは9匹だけ
人に話すなら
ネコって、床にテープで四角を作るとそこに座るよね。欠けた丸を4つ並べて四角に見せただけの図形でも、本物の四角と同じくらい座ったんだって。ただ、選んだのは9匹だけの小さな実験らしいよ。
読む前に予想しよう
ネコは、目の錯覚で見えるだけの四角にも座ることがある
9匹の記録で、錯覚の四角は本物の四角と同じくらい選ばれた。
2017年、ネコの飼い主たちが、ある様子をSNSに次々と投稿しました。床にテープで四角いわくを作ると、ネコがその中に座るのです。写真には「#CatSquare(ネコの四角)」という目印がつけられ、話題になりました。この話題の投稿は、合わせて8万2000回以上リツイートされました。
では、線がなくても四角に「見える」だけの図形だったら、ネコはどうするのでしょうか。アメリカのハンター大学のガブリエラ・スミス(Gabriella Smith)さんたちは、2020年に飼い主の家で実験をしました。すると、図形を選んだ9匹のネコは、線のない四角を7回選びました。本物の四角が選ばれたのは8回で、ほとんど変わりませんでした。
ネコが目の錯覚を見るかどうかは、これまで主に実験室で調べられてきました。ネコに何度も練習させて、答えを選ばせるやり方です。この研究は、ネコが自分から四角に入りたがる性質を使い、ふだんの家で調べた点が新しいところです。
014分の1が欠けた丸を4つ並べると、人の目には線のない四角が見える
この実験で使ったのは「カニッツァの四角」という有名な目の錯覚です。黒い丸から4分の1を切り取った形を、4つ用意します。欠けたところが内側を向くように、四角の角の位置に並べます。
すると人の目には、4つの部品をつなぐ四角が見えてきます。実際には、部品と部品の間に線は1本もありません。それでも、四角のふちがあるように見えるのです。
研究チームは、図形を3種類用意しました。1つ目は、細い線で描いた本物の四角です。2つ目は、カニッツァの四角です。3つ目は、同じ4つの部品を、欠けたところが外側を向くように並べた図形です。この「くずした図形」は、人の目には四角に見えません。
3つの図形は、大きさも面積もほぼそろえました。本物の四角の1辺は約20センチです。どの図形も、ネコが手足を全部入れて座れる大きさにしてありました。
02飼い主が図形を印刷し、サングラスをかけて見守った
実験の時期は、新型コロナウイルスの流行で多くの人が家にいた2020年6〜8月でした。研究チームはSNSなどで参加者を呼びかけました。参加した飼い主には、毎日1回分ずつ、その日の図形がメールで届きました。
飼い主は毎日、その日の図形を2つ印刷して切り取り、床に貼りました。2つの図形は、約60センチ離して置きます。準備の間、ネコは部屋の外に出しておきました。
準備ができたら、飼い主はサングラスをかけてからネコを部屋に入れました。飼い主がどちらかの図形を見つめると、ネコがその視線につられるかもしれないからです。飼い主はネコに話しかけたりさわったりせず、そのまま動画を撮りました。
ネコが手足を全部、どちらかの図形の中に入れて座るか立つと、そこで1日の実験は終わりです。5分たってもどちらにも入らなければ、それで終わりにしました。あとで研究者2人が全部の動画を見直しました。手足を全部入れて3秒以上いた場合だけを「選んだ」と数えました。
03561組が申しこみ、最後までやり通したのは30組だった
参加の申しこみは561組ありました。ところが、1日目の実験を終えて報告したのは121組でした。2日目は53組、3日目は43組と、日を追うごとに減っていきました。6日目まで全部やり通したのは30組です。
その30匹のうち、6日間のどこかで図形を選んだネコは9匹でした。残りの21匹は、6日間とも、図形の中に手足を全部入れて3秒以上とどまることはありませんでした。この研究の結果は、この9匹の合計16回の選択にもとづいています。
04錯覚の四角は、本物の四角と同じくらい選ばれた
16回の内わけは、本物の四角が8回、錯覚の四角が7回、くずした図形が1回でした。錯覚の四角は、本物の四角とほぼ同じくらい選ばれていたことになります。
ペアごとに見ると、もっとはっきりします。錯覚の四角とくずした図形を並べた日には、ネコは5回とも錯覚の四角を選びました。この差は、たまたまでは起きにくい差でした。
研究チームは、四角に見える2つの図形をまとめても比べました。くずした図形と、四角に見える図形のどちらかを並べた場面で、ネコが選んだのは9回です。そのうち8回が四角に見える図形で、くずした図形は1回だけでした。
研究チームは、ネコは線のない錯覚の四角を、本物の四角と同じように扱っているのかもしれないと考えています。ネコが人と同じように、部品の間に見えない線を見ている可能性があるということです。

05どんでん返し:本物の四角とくずした図形の差も、はっきりしなかった
ただし、この結果には大きな弱点があります。研究チームが出ると予想していた差が、はっきり出なかったのです。
本物の四角とくずした図形を並べた日には、ネコは本物の四角を3回、くずした図形を1回選びました。本物の四角のほうが多いものの、回数が少なすぎて、たまたまの差かもしれません。錯覚の四角と本物の四角を並べた日は、本物が5回、錯覚が2回でした。この差も、はっきりしたものではありませんでした。
つまり、3つのペアのうち、はっきりした差が出たのは1つだけです。研究チーム自身も、データが少ないことを一番の弱点にあげています。6日間も続く実験だったため、途中でやめる飼い主が多かったのだろうと考えています。
部屋の明るさも、家ごとにそろえられていませんでした。錯覚の見え方には、明るさもかかわります。研究チームは、同じ実験を実験室など条件をそろえた場所でくり返す必要があると書いています。
06実験室では、1988年にネコが錯覚の線を見ることが示されていた
ネコが錯覚の線を見るかどうかは、これが最初の研究ではありません。1988年、アメリカのノースウェスタン大学の研究チームが、実験室でネコを訓練して調べました。
その実験では、ネコは、線のない図形に反応するよう練習しました。図形をだんだん複雑にしても、ネコは錯覚で見える形に反応し続けました。調べたのは2匹のメスのネコです。この結果は、人以外の動物が錯覚の線を見る、初めての直接の証拠とされました。
2021年の家での実験は、訓練をせず、ネコが自分から選ぶ行動で同じ問いを確かめようとしたものです。調べ方はまったく違いますが、答えは同じ方向を向いていました。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
見えない線を見る力は、多くの動物にある
2002年に出された研究のまとめによると、サル、ネコ、フクロウ、ミツバチなどが、錯覚の線を本物の境目のように扱います。どの動物でも、脳の中で、見えない線に反応する神経細胞が見つかっています。
このまとめでは、そうした神経細胞が、目から入った情報を処理する早い段階の脳の場所にあることが指摘されています。哺乳類、鳥、虫は、それぞれ別々に目と脳を進化させてきました。それでも同じ錯覚を見るのは、明るさの差がない所でも「ふち」を見つける力が、目の働きの基本にあるからだろうと考えられています。
スミスさんたちの論文でも、ものの輪郭をつかむ力は、物の形を理解するために進化の上で大事だったと考えられている、と紹介されています。
ネコは、ほかの錯覚にもだまされる
2019年、メキシコの研究チームは、18匹のネコで「デルブーフ錯視」を調べました。同じ量のえさを、大きいお皿と小さいお皿にのせます。人には、小さいお皿のほうが量が多く見える錯覚です。
この実験では、どのネコも、小さいお皿のえさを選ぶことのほうが多くなりました。グループ全体で見ると、ネコも錯覚にだまされていたと考えられます。ただし、1匹ずつ見ると、でたらめに選んだ場合と、はっきりした差のあるネコはいませんでした。
研究方法の工夫と限界
ネコは、慣れない場所に連れて行かれると緊張して、ふだんどおりに動かないことがあります。家での実験なら、その心配が少なくなります。たくさんの飼い主に参加してもらえれば、実験室では集められない数のネコを調べられるはずでした。
研究チームは、実験の前に「ネコが四角そのものをどれくらい好むか」を測る下調べをしませんでした。前もって四角を見せると、ネコがその形に慣れてしまうおそれがあったからです。
一方で、家ごとに部屋の広さも明るさも違います。飼い主が図形の向きをまちがえることもありました。まちがいをすぐに報告しなかった組は、データから外されました。そして、6日間という長さが、参加者を大きく減らしました。研究チームは、1日で終わる形にすれば、もっと多くのデータが集まっただろうと振り返っています。
ネコはなぜ、囲まれた場所に入りたがるのか
論文によると、ネコが箱のような囲まれた場所に入りたがる理由は、まだ分かっていません。これまでの研究では、実験室や保護施設のネコに隠れられる箱を与えると、ストレスが減ることが報告されています。今回の研究は、その性質が、立体の箱だけでなく、床の平らな図形にまで及ぶことを確かめようとしたものでもありました。
07まとめ
4分の1が欠けた黒い丸を4つ並べただけの「錯覚の四角」に、ネコは本物の四角と同じくらい座りました。ネコも人と同じように、ないはずの線を見ている可能性があります。
ただし、調べられたのは9匹、16回の選択だけでした。本物の四角と、くずした図形の差すら、はっきりしませんでした。4分の1を切り取った黒い丸を4つ作って床に貼れば、同じ実験は家でも試せます。
研究カルテ
アメリカ・ニューヨーク(研究チームの大学。実験は各家庭)
- 研究チーム
- アメリカのハンター大学(ニューヨーク市立大学)のガブリエラ・スミスさんら
- 調べた場所
- 参加した飼い主それぞれの家(2020年6〜8月)
- 調べた動物
- 飼いネコ(学名 Felis silvestris catus)
- 調べ方
- 飼い主が3種類の図形のうち2つを床に貼り、ネコの様子を5分間撮影。6日間くり返した
- 分かったこと
- 図形を選んだ9匹の計16回のうち、本物の四角8回、錯覚の四角7回、くずした図形1回
- まだ分からないこと
- 本物の四角とくずした図形の差もはっきりしなかった。実験室での確認が必要
- 論文
- Applied Animal Behaviour Science(2021年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Many cats like to sit inside boxes. Some cats even sit inside a square of tape on the floor.
Scientists in New York wanted to know more. They used a famous picture that tricks the eye. Four black circles with a piece cut out make people see a square. But the square has no lines.
Cat owners put two shapes on the floor at home. They wore sunglasses and made videos of their cats. Thirty owners finished all six days of the test. Nine cats sat in a shape at least once.
The cats chose the real square eight times and the trick square seven times. So cats may see the lines that are not there. But nine cats is a very small number. The scientists say more tests are needed.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. Why did the owners wear sunglasses?飼い主たちは、なぜサングラスをかけたのですか。
飼い主の視線で、ネコがどちらかの図形に誘われないようにするためでした。
Q2. How many owners finished all six days?6日間を最後までやり終えた飼い主は何人ですか。
561組が申しこみましたが、最後までやり終えたのは30組でした。
Q3. How many times did the cats choose the trick square?ネコは錯覚の四角を何回選びましたか。
錯覚の四角は7回、本物の四角は8回選ばれました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Smith, G. E. et al. (2021) If I fits I sits: A citizen science investigation into illusory contour susceptibility in domestic cats (Felis silvestris catus). Applied Animal Behaviour Science 論文確認済みdoi:10.1016/j.applanim.2021.105338
- 2Bravo, M. et al. (1988) Cats see subjective contours. Vision Research 論文確認済みdoi:10.1016/0042-6989(88)90095-8
- 3Nieder, A. (2002) Seeing more than meets the eye: processing of illusory contours in animals. Journal of Comparative Physiology A 論文確認済みdoi:10.1007/s00359-002-0306-x
- 4Szenczi, P. et al. (2019) Perception of the Delboeuf illusion by the adult domestic cat (Felis silvestris catus) in comparison with other mammals. Journal of Comparative Psychology 論文確認済みdoi:10.1037/com0000152
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