ネコののどは脳の合図なしでもゴロゴロの音を出せた。取り出したのど8つすべてで
体から取り出したネコののどに、温かくしめった空気を送った。脳も筋肉も働いていないのに、8つすべてがゴロゴロと同じ1秒に25〜30回の低い音を出した。

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- 取り出したネコののどに空気を送ると、ゴロゴロと同じ高さの音が出た
- 脳の合図も筋肉の動きもないのに、8つのどすべてで音が出た
- 声帯の中にある最大4mmのやわらかいかたまりが、低い音を出す助けになるらしい
人に話すなら
ネコのゴロゴロって、脳が筋肉を細かくふるわせて鳴らしてると思われてたんだって。でも、取り出したのどに空気を送るだけで、同じ低い音が出たらしいよ。声帯の中に小さいクッションがあるんだって。
読む前に予想しよう
ネコののどは、脳からの合図がなくてもゴロゴロと同じ高さの音を出せる
取り出したのどに空気を送ると、8つすべてが1秒に25〜30回ふるえる音を出した。
ネコをなでていると、のどの奥から「ゴロゴロ」と低い音が聞こえてきます。体の小さなネコが、どうしてあんなに低い音を出せるのでしょうか。
これまでの答えは、「脳が、のどの筋肉を1秒に20〜30回ずつ動かしているから」というものでした。ところがオーストリアのウィーン大学などのチームが、体から取り出したネコののどに空気を送ってみました。すると、脳も筋肉も働いていないのに、8つののどすべてがゴロゴロと同じ高さの音を出しました。
ゴロゴロのしくみについては、1972年に出された説が、はっきりした証拠の少ないまま定説になっていました。研究チームは論文に、この説を定説としたのは早すぎたと書いています。
01ゴロゴロは「脳が筋肉を細かく動かして鳴らす」と考えられてきた
ほとんどのほ乳類は、のどの声帯をふるわせて声を出します。声帯は、のどにある2枚のやわらかいひだです。肺から送り出した息が声帯の間を通ると、声帯は自然にふるえ続けます。人が話すときも、ネコがニャーと鳴くときも、このしくみです。
ところが、ゴロゴロだけは別のしくみだと考えられてきました。1972年、アメリカのダートマス大学のジョン・レマーズ(John Remmers)さんたちが、ゴロゴロのしくみを説明する考えを論文で出しました。その後に広まった考えはこうです。脳から1秒に20〜30回の合図が出て、のどの筋肉がそのたびに縮み、空気の流れを細かく止めたり通したりする。
この考えを、ここでは「筋肉説」と呼びます。ウィーンのチームの論文によると、筋肉説を実験で直接確かめた証拠は、実はあまり多くありませんでした。
ゴロゴロの低さも、ふしぎな点でした。1秒に25回ふるえる音は、人の声よりずっと低い音です。ウィーン獣医科大学の発表は、この高さは人が声で出せる一番低い音よりはるかに低いと説明しています。小さな体ののどで、どうやってこんなに低い音が出るのかも、はっきりしていませんでした。
02取り出したのどに、温かくしめった空気を送った
研究したのは、ウィーン大学のクリスチャン・ハーブスト(Christian Herbst)さんたちです。声のしくみの研究者で、ウィーン獣医科大学などの研究者と一緒に実験しました。
もし筋肉説が正しいなら、脳の合図がないのどは、ゴロゴロの音を出せないはずです。チームは、ここを確かめることにしました。
使ったのは、8匹のイエネコののどです。ウィーンの動物病院で、呼吸とは関係のない重い病気のため安楽死させたネコでした。飼い主は、亡くなったあとにのどを研究に使うことに同意していました。ネコの年齢は生後半年から18歳まで、オスが3匹、メスが5匹です。
のどは亡くなってすぐに取り出し、液体の窒素でいっきに凍らせて保存しました。実験の前の晩に、部屋の温度でゆっくりとかしました。
実験の日、チームはのどを、下から空気が出る管の上に取りつけました。管から送るのは、37℃に温めて、しめり気を100%にした空気です。のどを支える台は、ブロックのおもちゃと、3Dプリンターで作った部品で組みました。左右の声帯は、細い器具で真ん中に寄せました。

声帯のふるえは、いくつもの方法で記録しました。声帯の近くと管の中にマイクを置きました。のどの左右には小さな電極をつけ、声帯どうしがふれている面積の変化を測りました。1つののどでは、1秒に6000コマ撮れるカメラで、声帯の動きを撮影しました。
038つののどすべてが、ゴロゴロと同じ高さでふるえた
結果は、筋肉説の予想とは逆でした。8つののどは1つの例外もなく、空気を送るだけで声帯がふるえ続け、音を出しました。その高さは、生きたネコのゴロゴロと同じ1秒に25〜30回か、それより低い音でした。
ここには脳の合図も、筋肉の動きもありません。音は、息の流れで声帯が自然にふるえるしくみだけで出ていました。ネコがニャーと鳴くのと同じしくみです。
8つのうち6つでは、実験の中で、音の高さが1秒に約15回から約200回までなめらかに変わりました。チームは、この結果が、ゴロゴロとほかの鳴き声のあいだにはっきりした境目がないことを示すと考えています。
カメラの映像では、声帯が開いたり閉じたりするたびに音が出ていました。ゴロゴロの高さのとき、声帯はふるえる時間の80%から95%以上もぴったり閉じていました。人でも、とても低くきしむような声を出すとき、声帯は同じように長く閉じています。論文は、ゴロゴロのふるえ方がこの声に似ていると書いています。
04声帯の中の小さなクッションが、低い音の助けになっているらしい
小さなのどから、なぜこんなに低い音が出るのでしょうか。チームは、1つののどを薄く切って顕微鏡で調べました。すると、声帯の内側のふちにそって、やわらかい組織のかたまりがうめこまれていました。
このかたまりは膜に包まれておらず、細胞や、水分をたくわえる物質、のびちぢみする細い線維などでできていました。ウィーン獣医科大学の発表は、これを「クッションのようなつくり」と呼んでいます。論文が引用した以前の研究によると、このかたまりはネコの年齢や性別に関係なく見つかり、大きいもので4mmほどになります。
チームの考えはこうです。弱い息で声帯がふるえるとき、ふるえるのは声帯の一番内側の部分だけです。その部分にとてもやわらかいかたまりがあると、声帯はゆっくりふるえます。ゆっくりふるえれば、音は低くなります。チームは、簡単なコンピューターの模型でも、この考えに合う結果を得ました。
05それでも、脳の役目がなくなったわけではない
この研究は、筋肉説を完全に否定したわけではありません。論文自身が、そう書いています。ウィーン獣医科大学のゲラルト・ヴァイセングルーバー(Gerald Weissengruber)さんも、発表の中で同じことを述べています。
1つめの理由は、脳の働きです。ネコの脳を電気で刺激した1990年の研究では、ゴロゴロと、ニャーやうなり声などのほかの声は、はっきり分かれて出てきました。チームはこうした結果から、生きたネコでは脳がゴロゴロのリズムを作っている可能性も残ると考えています。
2つめは、実験のやり方です。生きたネコのゴロゴロは、息を吐くときと吸うときの両方で続きます。今回の実験で送ったのは、下から上へ吐く向きの空気だけでした。吸う向きでも同じように鳴るかは、この実験では分かりません。
そこでチームは、新しい考えを出しています。のどの筋肉の細かい動きと、息の流れによる声帯のふるえが、生きたネコの中で同じリズムにそろって働いているのではないか。そろって働けば、少ない力で安定したふるえを続けられるかもしれません。ただし、これはまだ確かめられていない考えです。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
「ほえるネコ」と「ゴロゴロ鳴くネコ」
ネコの仲間の声の研究は、190年ほど前にさかのぼります。論文によると、1833年にイギリスの解剖学者リチャード・オーウェン(Richard Owen)さんが、のどの骨のつくりのちがいを示しました。ライオンやトラのように「ほえる」ネコと、イエネコのように「ゴロゴロ鳴く」ネコのちがいです。
その後の研究で、ほえるネコの大きな声は、声帯の変わったつくりによることが分かってきました。今回のネコの声帯のクッションは、ほえるネコの声帯のつくりと働きがよく似ている、と論文は書いています。
ゾウの超低音も、同じしくみだった
ハーブストさんたちは、2012年にもよく似た実験をしています。調べたのはゾウです。ゾウは、人の耳に聞こえないほど低い、1秒に20回より少ないふるえの声を出します。
この低い声も、ゴロゴロのように筋肉を細かく動かして出していると考える人がいました。チームは、取り出したゾウののどに空気を送り、高速カメラで声帯を撮りました。すると脳の合図なしで声帯がふるえ続け、低い音が出ました。チームは、この息の流れのしくみが、体の大きさがまったく違う多くのほ乳類で働いていると書いています。
低い声を出す助けになるかたまりは、ほかの動物にもある
論文は、ネコの声帯のクッションに似た働きをするものを、ほかの動物にもあげています。ハクジラの仲間が音を出す器官にある脂肪のかたまりや、トゥンガラガエルというカエルののどにある線維のかたまりです。
論文は、人の声帯がむくむ病気でも、似たことが起きている可能性があると書いています。
この研究の工夫と限界
この研究の強みは、脳の働きをまったく入れずに確かめられる点です。体から取り出したのどなら、音が出れば、それは息の流れだけで出た音だと言えます。
一方で、取り出したのどは、生きたのどと同じではありません。今回ののどは凍らせて保存したものでした。声帯の張り具合は、人が手で調整しました。生きたネコの体の中で何が起きているかは、これから調べる必要があります。
06まとめ
ネコのゴロゴロは、脳が筋肉を1秒に20〜30回動かして鳴らすと考えられてきました。ところが、取り出した8つののどに温かい空気を送るだけで、すべてがゴロゴロと同じ高さの音を出しました。
声帯の中には、最大4mmのやわらかいかたまりがあります。このかたまりが、小さなのどで低い音を出す助けになっているらしいと、チームは考えています。脳がゴロゴロにどう関わっているかは、まだ分かっていません。
ネコがゴロゴロ鳴いているとき、胸の動きを見ながら耳をすませてみてください。ゴロゴロは、息を吐くときにも吸うときにも鳴っています。
研究カルテ
オーストリア・ウィーン
- 研究チーム
- オーストリアのウィーン大学などの国際チーム(第一著者クリスチャン・ハーブスト)
- 調べた場所
- オーストリア・ウィーンの大学の実験室
- 調べた動物
- イエネコ8匹ののど(学名 Felis catus)。重い病気で安楽死した飼いネコで、飼い主が研究に同意した
- 調べ方
- 取り出したのどを管に取りつけ、温かくしめった空気を送って、声帯のふるえと音を記録した
- 分かったこと
- 8つすべてが、ゴロゴロと同じ1秒に25〜30回の低い音を、脳の合図なしで出した
- まだ分からないこと
- 生きているネコが、のどのふるえと筋肉の動きをどう組み合わせてゴロゴロを出しているか
- 論文
- Current Biology(2023年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Cats purr with a very low sound. For many years, scientists thought the brain made this sound. They believed the brain moved small muscles in the throat 20 to 30 times a second.
A team in Austria tested this idea. They used the throats of eight pet cats. The cats were very sick and had died. The scientists sent warm, wet air through each throat.
All eight throats made a low sound like a purr. There was no brain and no moving muscle. The air alone made the vocal folds shake.
The team found small, soft pads inside the vocal folds. These pads may help a small cat make a low sound. But the brain may still play a part in living cats.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many cat throats did the team use?チームはネコののどをいくつ使いましたか。
8匹の飼いネコののどを使いました。
Q2. What did the scientists send through the throats?研究者たちは、のどに何を送りましたか。
37℃に温めて、しめり気を100%にした空気を送りました。
Q3. What did the team find inside the vocal folds?チームは声帯の中に何を見つけましたか。
声帯の中に、最大4mmのやわらかいかたまりがありました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Herbst, C. T. et al. (2023) Domestic cat larynges can produce purring frequencies without neural input. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2023.09.014
- 2上の論文の全文(ウィーン獣医科大学のリポジトリ)phaidra.vetmeduni.ac.at/detail/o:3419
- 3University of Veterinary Medicine Vienna(2023)プレスリリース:Purring: more complex than previously thoughtvetmeduni.ac.at/en/universitaet/infoservice/presseinformatio
- 4Remmers, J. E. & Gautier, H. (1972) Neural and mechanical mechanisms of feline purring. Respiration Physiology 論文確認済みdoi:10.1016/0034-5687(72)90064-3
- 5Herbst, C. T. et al. (2012) How low can you go? Physical production mechanism of elephant infrasonic vocalizations. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.1219712
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





