寄生バチを見たハエの母は、アルコール入りのえさに卵を産む。ハチがいなくなっても4日間続いた
寄生バチを見たハエのメスは、アルコールの多いえさに卵を産んだ。アルコールはハチの子を弱らせる。ハチがいなくなっても、この行動は何日も続いた。

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- 寄生バチを見たハエのメスは、アルコールの多いえさに卵を産んだ
- アルコールのえさで育つと、ハエの子はハチに負けにくくなった
- ハエは目でハチを見つけ、ハチがいなくなっても何日も覚えていた
人に話すなら
ショウジョウバエのお母さんって、寄生バチを見るとアルコール入りのえさに卵を産むんだって。アルコールがハチの子に効くかららしいよ。ハチがいなくなっても、何日も覚えてるんだって。
読む前に予想しよう
ショウジョウバエは寄生バチを見ると、アルコール入りのえさに卵を産む
アルコールはハチの子を弱らせる。ハチがいないときは、ハエはアルコールの少ないえさを選ぶ。
腐りかけた果物に、小さなハエが集まっていることがあります。そうしたハエの一つが、キイロショウジョウバエです。このハエのメスは、腐りかけた果物に卵を産みます。
アメリカのエモリー大学のチームは、このハエのメスに寄生バチを見せました。ハエの幼虫に卵を産みつける、小さなハチです。するとハエのメスは、アルコールの多いえさを選んで卵を産むようになりました。アルコールは、ハエの体の中で育つハチの子を弱らせます。
ハチを取りのぞいたあとも、ハエはアルコール入りのえさを選び続けました。実験では、4日間この行動が続きました。チームはこの行動を、親が子に前もって「薬」を用意するものだと考えています。
01ハエの幼虫は、寄生バチに体の中から食べられる
キイロショウジョウバエの幼虫は、腐った果物の中でえさを食べて育ちます。その幼虫をねらうのが、寄生バチです。ハチのメスは、ハエの幼虫の体に卵を産みつけます。ハチの子はハエの体の中で育ち、やがてハエを殺してしまいます。
寄生バチは、ハエにとって大きな脅威です。ドイツのマックス・プランク化学生態学研究所のチームによると、自然の中では、ハエの幼虫の最大8割が寄生されます。
ハエの幼虫にも、体の中で守る力があります。ハチの卵を血液の細胞で包みこんで殺すのです。けれどもエモリー大学のチームが2012年の実験で使った寄生バチは、ふつうこの守りを完全に止めてしまう強いハチでした。
02アルコールのえさは、ハチの子を弱らせる
ハエが育つ腐った果物の中では、酵母がアルコールを作ります。果物の中のアルコールの濃さは、6%くらいまでになります。ハエはアルコールに強い虫です。少しのアルコールはハエの成長を助けますが、4%をこえると死ぬハエが増えていきます。
エモリー大学のチームは、2012年にまず幼虫で調べました。アルコールが6%入ったえさで育ったハエの幼虫では、体の中のハチの子が死にやすくなりました。アルコールのえさで育ったハエの中のハチの子は、動かないことが多く、内臓の形もくずれていました。
その結果、ハエが生きのびて大人になる割合は上がりました。さらに、ハチに寄生されたハエの幼虫は、アルコールの入ったえさの方へ自分から移動しました。チームはこれを、ハエの幼虫が自分で「薬」を飲む行動だと考えました。
03ハチを見たハエは、アルコールの多いえさに卵を産んだ
では、親のハエは子のために何かするのでしょうか。2013年、チームのバリント・カチョー(Balint Kacsoh)さんたちは、大人のハエで実験しました。責任者は、トッド・シュレンキー(Todd Schlenke)さんです。
まず、大きな飼育かごにハエのメスを300匹入れました。かごの中には、えさの皿を2枚置きました。1枚はアルコールなし、もう1枚はアルコールが6%入ったえさです。半分のかごには、ハエを入れる2時間前に寄生バチのメスを50匹入れておきました。
24時間後と48時間後に、それぞれの皿に産まれた卵を数えました。ハチのいないかごでは、ハエはアルコールなしの皿に多く卵を産みました。ハチのメスがいるかごでは、アルコールの皿に産んだ卵の割合がはっきり増えました。
ハチのオスを入れたかごでは、こうした変化はありませんでした。ハエの幼虫に卵を産みつけるのは、ハチのメスだけです。

次に、アルコールの濃さを0%から15%まで6段階に変えた皿を並べました。ハチのいないハエは、3%の皿を好みました。ハチのいるハエは、12%と15%の皿を強く好みました。論文によると、これは自然の中で見られる一番高いくらいの濃さです。
アルコールのえさには、代わりに損もあります。ハチのいないかごでは、6%のえさに産まれた卵のほうが、大人のハエになる割合が下がりました。一方でハチがいるときは、アルコールのえさを選べたハエの子のほうが、大人になる割合が高くなりました。
04アルコールのえさを選ぶきっかけは、目で見たハチだった
ハエは、ハチをどうやって見つけているのでしょうか。チームは、体の一部が働かないハエを使って確かめました。においを感じる力の大部分が働かないハエは、ハチがいるとアルコールの皿を選びました。
ところが、目がほとんどないハエや、目の光を感じる物質を作れないハエは、ハチがいてもアルコールの皿を選びませんでした。チームは、ハエが目でハチを見つけていると結論づけました。
ハエは、ハチを細かく見分けていました。チームは、ほかに5種類の寄生バチでも試しました。幼虫に卵を産む4種のハチのメスがいると、ハエはどの種でもアルコールの皿を選びました。一方、さなぎに卵を産む1種のハチへの反応は弱くなりました。ハエの幼虫は、さなぎになる前にえさの場所から離れることが多いからかもしれないと、論文は書いています。
脳の中では、神経ペプチドFという物質が関わっていました。脳の中で信号を伝える物質の一つです。ハチを見たハエでは、脳の一部でこの物質が減っていました。人工的にこの物質を増やしたハエは、ハチを見てもアルコールの皿を選びませんでした。
05ハチがいなくなっても、ハエは覚えていた
チームは、ハエのメスを24時間だけハチと一緒にしてから、ハチのいないかごに移しました。それでもハエは、4日間にわたってアルコールの皿を強く選び続けました。
ハチと一緒にいたときのえさは、アルコール入りでも、まったく別のえさでも、結果は同じでした。つまりハエは、「このえさの所にハチがいた」と結びつけて覚えたのではありません。ハチを見たこと自体を覚えていました。
長く覚えるのに必要な遺伝子が働かないハエも調べました。このハエは、ハチがいる間はアルコールの皿を選びました。でもハチを取りのぞくと、アルコールの皿を選ばなくなりました。
カチョーさんたちは、その後、アメリカのダートマス大学に移って研究を続けました。2015年の研究では、ハチを取りのぞいたあとも行動を続けるには、少なくとも14時間続けてハチと一緒にいる必要がありました。
06別のチームは、においでハチをさけることも見つけた
ハエはハチを目だけで見つけているのでしょうか。2015年、マックス・プランク化学生態学研究所のシマー・エブラヒム(Shimaa Ebrahim)さんたちは、においに注目しました。
この研究では、ハエの幼虫も大人も、寄生バチのにおいがする場所をさけました。大人のハエは、寄生バチが出す3種類のにおいを感じ取りました。そのにおいだけに反応する、専用の神経の通り道があることも分かりました。
エモリー大学の研究が調べたのは、アルコールのえさに卵を産む行動です。この行動は、目が働かないハエでは起きませんでした。一方、エブラヒムさんたちが調べたのは、においのする場所をさける行動です。ハエは、行動によって目とにおいを使い分けているのかもしれません。
また、エモリー大学の実験は、すべて実験室のかごの中で行われました。野生のハエが自然の果物の上で同じように卵を産み分けているかは、まだ確かめられていません。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
アルコールに強い種だけが、この行動をもっていた
チームは、キイロショウジョウバエ以外のショウジョウバエ6種でも同じ実験をしました。そのうち3種は、ハチがいるとアルコールの皿に多く卵を産みました。残りの種は、ハチがいてもいなくても、アルコールの皿をさけました。
チームは、それぞれの種がどれくらいアルコールに強いかも測りました。すると、アルコールに強い種ほど、ハチを見たときにアルコールの皿へ切りかえる度合いが大きくなりました。種どうしの親せき関係を考えに入れても、この関係は残りました。
アルコールのえさは、ハエの子にとっても毒です。アルコールに強い体と、アルコールを「薬」に使う行動は、一緒に進化してきたと論文は考えています。
子どもや孫にまで伝わった
ダートマス大学のジュリアナ・ボズラー(Julianna Bozler)さんたちは、2019年に続きの研究を発表しました。ハエのメスを寄生バチと4日間一緒にしてから、その卵を集めました。子どもたちは、ハチにも親にも会わずに育ちました。
大学の発表によると、ハチと一緒にいた親のハエは、卵の約94%をアルコールのえさに産みました。ハチを見たことのないその子どもも、卵の73%をアルコールのえさに産みました。この好みは5世代にわたって続き、だんだんもとに戻っていきました。
チームは、親の脳で神経ペプチドFが減ったことが、この受けつぎに必要だったと報告しています。ボズラーさんは、これは遺伝子が永久に変わったのではなく、もとに戻る性質だと説明しています。
仲間に「教える」ハエもいた
カチョーさんたちは2015年、別の行動も調べました。ハエのメスは寄生バチを見ると、産む卵の数を大きく減らします。ハチを見たハエと、見ていないハエを一緒にすると、見ていないハエも卵を減らしました。論文では、ハチを見たハエを「先生」、見ていないハエを「生徒」と呼んでいます。
人と比べると
ハエの脳の神経ペプチドFには、人やほかのほ乳類に、よく似た物質があります。ほ乳類では、この物質がアルコールを飲む量や、薬物への依存と関わることが知られています。ダートマス大学のチームは、人でも親の経験が子に伝わる例があるかもしれないと述べています。ただし、これはまだ可能性の話です。
07まとめ
キイロショウジョウバエのメスは、寄生バチのメスを目で見ると、アルコールの多いえさに卵を産むようになりました。アルコールはハチの子を弱らせ、ハエの子が大人になる割合を上げました。
ハチがいないとき、ハエはアルコールの少ないえさを選びます。アルコールはハエの子にとっても毒だからです。ハエは危険を見たときだけ、卵を産む場所を切りかえていました。
ハチを取りのぞいても、ハエは4日間アルコールのえさを選び続けました。小さなハエが、敵の姿を目で見分け、何日も覚えていたことになります。
研究カルテ
アメリカ・ジョージア州アトランタ
- 研究チーム
- アメリカのエモリー大学のチーム(第一著者バリント・カチョー、責任者トッド・シュレンキー)
- 調べた場所
- アメリカ・ジョージア州アトランタのエモリー大学の実験室
- 調べた動物
- キイロショウジョウバエ(学名 Drosophila melanogaster)と寄生バチ(学名 Leptopilina heterotoma など)
- 調べ方
- ハエのメス300匹の入ったかごに、アルコール入りとなしのえさを置き、寄生バチがいるときといないときで卵の数を比べた
- 分かったこと
- ハチのメスを見たハエは、アルコール入りのえさに多く卵を産んだ。ハチを取りのぞいても4日間続いた
- まだ分からないこと
- 野生のハエが自然の中で同じことをしているか。実験はすべて実験室で行われた
- 論文
- Science(2013年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Fruit flies lay their eggs on old fruit. Some small wasps lay their eggs inside young flies. The baby wasps grow inside and kill them.
Scientists put 300 female flies in a big box. The box had two dishes of food. One dish had no alcohol, and the other had some alcohol. When female wasps were in the box, the flies laid more eggs on the alcohol food.
Alcohol makes the baby wasps weak. So more young flies grew up into adults. But without wasps, alcohol was bad for the young flies.
The flies found the wasps with their eyes. Flies that could not see did not change their choice. After the wasps were taken away, the flies still chose the alcohol food for four days.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many female flies were in the box?かごの中には、何匹のハエのメスがいましたか。
1つのかごに、ハエのメスを300匹入れました。
Q2. How did the flies find the wasps?ハエはどうやってハチを見つけましたか。
目の見えないハエは、ハチがいてもえさの選び方を変えませんでした。
Q3. What did alcohol do to the baby wasps?アルコールはハチの子にどんな影響を与えましたか。
アルコールのえさで育ったハエの中では、ハチの子が弱りました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Kacsoh, B. Z., Lynch, Z. R., Mortimer, N. T. & Schlenke, T. A. (2013) Fruit flies medicate offspring after seeing parasites. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.1229625
- 2Kacsoh, B. Z. et al. (2015) Social communication of predator-induced changes in Drosophila behavior and germ line physiology. eLife 論文確認済みdoi:10.7554/eLife.07423
- 3Milan, N. F., Kacsoh, B. Z. & Schlenke, T. A. (2012) Alcohol consumption as self-medication against blood-borne parasites in the fruit fly. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2012.01.045
- 4Kacsoh, B. Z. et al. (2015) A novel paradigm for nonassociative long-term memory in Drosophila: predator-induced changes in oviposition behavior. Genetics 論文確認済みdoi:10.1534/genetics.114.172221
- 5Ebrahim, S. A. M. et al. (2015) Drosophila avoids parasitoids by sensing their semiochemicals via a dedicated olfactory circuit. PLOS Biology 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pbio.1002318
- 6Dartmouth Geisel School of Medicine(2019)プレスリリース:Parental 'Memory' is Inherited Across Generations in Fruit Fliesgeiselmed.dartmouth.edu/news/2019/dartmouth-study-finds-that
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





