病気を起こすカビが巣に入ると、アリは自分から仲間と距離をとった。2000匹以上を記録して分かった
外回りのアリにカビの胞子をつけると、そのアリも周りのアリも動き方を変えた。巣全体のつきあい方が組みかわり、女王や若いアリに病気が届きにくくなった。

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- 胞子のついたアリは、自分から巣の仲間をさけた
- 胞子のついていない外回りのアリも、巣の中のアリから離れた
- 巣の中のアリは、幼虫などの子どもを巣の奥へ運んだ
人に話すなら
アリって、巣に病気のカビが入ると、胞子がついたアリも、ついてないアリも、自分から距離をとるんだって。しかも女王や若いアリには病気が届きにくくなるらしいよ。
読む前に予想しよう
アリの巣に病気のカビが入ると、胞子のついていないアリも行動を変える
胞子のついていない外回りのアリも巣の仲間から離れ、巣の中のアリは幼虫などを奥へ運んだ。
かぜをひいた人が学校や会社を休むと、本人が休めるだけでなく、周りの人にもうつりにくくなります。では、たくさんのアリが体を寄せ合ってくらす巣に病気が入ったら、どうなるのでしょうか。アリの巣は、病気がとても広がりやすい場所に見えます。
スイスとオーストリアの研究チームは、アリの巣22個の全員に、1匹ずつ違う小さな目印をつけました。そして、どのアリがどのアリとふれ合ったかを、装置で自動で記録し続けました。記録したアリは、合わせて2000匹以上です。
チームが、外回りのアリの一部に病気のカビの胞子をつけると、巣全体の動きが変わりました。胞子のついたアリだけでなく、ついていないアリまで行動を変えたのです。巣は、女王や若いアリに病気が届きにくい形に、自分たちで組みかわりました。
01アリの巣は、もともと病気が広がりにくい形をしている
研究したのは、スイスのローザンヌ大学のナタリー・ストロイメイト(Nathalie Stroeymeyt)たちです。オーストリア科学技術研究所のシルビア・クレマー(Sylvia Cremer)も加わりました。調べたのは、ケアリの一種です。
アリの巣では、仕事が分かれています。巣の外へエサを探しに行く「外回り」のアリと、巣の中で幼虫などの子どもの世話をする「内勤」のアリです。内勤は主に若い働きアリです。そして巣の奥には、卵を産む女王がいます。
外回りのアリは、巣の外で病気の元を拾いやすい立場にあります。一方、女王と若いアリは、巣の将来にとって大事なメンバーです。研究者たちは以前から、この仕事の分かれ方そのものが、病気から巣を守る働きをしているのではないかと予想していました。
020.7ミリの目印で、全員の「ふれ合い」を記録した
チームは、働きアリの背中に0.7ミリ、女王に1.6ミリの目印をつけました。目印は1匹ずつ違うので、装置はどのアリがどこにいるかを見分けられます。アリの体の向きと位置から、1匹の体の前の端が、もう1匹の体に重なったときを「ふれ合い」として数えました。
こうして、巣の中のつきあいを、だれとだれがどれだけふれ合ったかの「つながりの図」にしました。この図を、つきあう相手をでたらめに入れかえた図と比べます。すると本物の巣は、グループごとにまとまり、全体のつながりはまばらでした。病気が広がりにくい形です。
さらに、巣の外で過ごす時間が長いアリほど、巣の中でふれ合う相手が少ないことも分かりました。病気を持ちこみやすいアリほど、つながりが少ないのです。外回りのアリと、女王や若いアリとの間には、はっきりした距離がありました。
03外回りのアリの1割に、カビの胞子をつけた
次にチームは、病気が入ったときに巣が変わるかを調べました。使ったのは、メタリジウムというカビです。このカビは、このアリが自然の中でかかる病気の元です。胞子はアリどうしがふれ合うとうつり、体の中に入ると病気を起こします。
チームは、11の巣で、巣の働きアリ全体の1割にあたる数のアリを外回りから選び、このカビの胞子をつけました。別の11の巣では、胞子の入っていない液だけをつけ、比べる相手にしました。アリを巣に戻し、2時間後から24時間、全員の動きを記録しました。
この胞子が体の中に入るのは、ふつうはついてから1〜2日後です。つまり記録の間、アリはまだ病気になっていません。もし行動が変わったなら、それはカビにあやつられたのではなく、アリ自身の反応だと考えられます。
04胞子のついたアリも、ついていないアリも、行動を変えた
記録を比べると、胞子のついた外回りのアリは、自分から仲間をさけていました。巣の外で過ごす時間が増え、巣の仲間から離れて過ごし、巣の中で動き回る範囲もせまくなりました。
胞子のついていない外回りのアリも、同じように巣の外で過ごす時間を増やし、仲間から距離をとりました。一方、内勤のアリは子どものそばにいる時間を増やし、子どもを巣の奥へ運びました。その結果、外回りと内勤のアリがふれ合う時間が減りました。
巣全体のつながりの図も変わりました。グループごとのまとまりが強くなり、女王と働きアリの間の距離も広がりました。胞子をつけたアリの「つながりの多さ」も下がりました。どれも、病気が広がりにくくなる方向の変化です。

05女王は守られ、少しだけ胞子を受け取ったアリは得をしたかもしれない
24時間後、チームは1匹ずつ体についた胞子の量を測りました。胞子が一番多く届いていたのは、胞子のついていない外回りのアリでした。内勤のアリや女王に届いた量は、それよりはっきり少なかったのです。
さらに別の11の巣で、9日間、病気が進むのを見守りました。死んだアリは、内勤のアリより外回りのアリに多く出ました。女王は、最後まで1匹も死にませんでした。
コンピューターで病気の広がりを計算すると、巣の組みかえによって、女王や内勤のアリが多い量の胞子を受け取る確率は下がりました。一方で、少しの量を受け取る確率は上がりました。少しの胞子は、命にかかわらないだけでなく、体の守りを強める「予防接種」になることが、近い種類のアリの研究で知られています。多い量を受け取ったと計算されたアリは、少しの量のアリと比べて、約4日後から死ぬ割合が2倍以上になりました。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
進化の理由:なぜアリの巣には病気対策が必要なのか
アリの巣の仲間は、遺伝子がとてもよく似ています。遺伝子が似ていると、巣の中で病気がうつる危険が高まります。しかも、いつも体をふれ合わせてくらしています。病気が入れば、一気に広がるおそれがあります。
そのためアリやハチなどの社会性昆虫は、巣全体で病気を防ぐしくみを進化させてきました。研究者はこれを「社会免疫」と呼びます。こぼれ話で紹介した、少しの胞子をうつし合って体の守りを強めるしくみも、その1つと考えられています。この研究は、つきあい方を変えることも社会免疫になると示しました。
研究の歴史:アリの巣の「全員の動き」を追う技術
この研究を支えたのは、アリ1匹1匹を自動で追う技術です。同じローザンヌ大学のチームは2013年、オオアリの一種の巣6個で、目印をつけた働きアリを41日間追い続けました。900万回をこえるふれ合いを分析し、働きアリが3つのグループに分かれること、年をとると次のグループへ移ることを示しました。
人が目で追えるのは、せいぜい数匹です。全員のふれ合いを何日も記録できるようになって初めて、「巣全体のつきあい方が病気でどう変わるか」という問いに答えられるようになりました。
ほかの動物との比較:自然界の「距離をとる」行動
病気が近くにあるときに、ふれ合い方を変える動物はアリだけではありません。2021年には、ストロイメイトも加わった研究者たちが、動物の「ソーシャル・ディスタンス」をまとめた総説を出しました。病気の動物、病気の元にふれた動物、まだ健康な動物のそれぞれが、つきあい方を変える例を整理しています。
人の社会も同じです。病気のときに家で休むことは、自分のためだけでなく、周りを守ることにもなります。アリの研究は、こうした行動が、病気になる前の早い段階で、しかも健康な仲間の側からも起きることを示しました。
研究方法の工夫と限界
この研究の工夫は、行動の変化を「つながりの図」と「病気の広がりの計算」と「実際の胞子の量」の3つで確かめたことです。計算の結果と、実際に測った胞子の量の傾向は合っていました。
一方で、限界もあります。記録したのは実験室の巣で、胞子をつけてから24時間だけです。また、アリが何を手がかりに胞子に気づいたのかは分かっていません。チームは、胞子にともなう化学物質の手がかりや、さわったときの手がかりの可能性をあげています。さらに、胞子をつけたアリをのぞいて図を作り直すと、変化の一部は小さくなり、はっきりしなくなりました。
06まとめ
スイスとオーストリアのチームは、アリの巣22個の全員に目印をつけ、ふれ合いを自動で記録しました。外回りのアリの1割にカビの胞子をつけると、胞子のついたアリも、ついていないアリも行動を変えました。内勤のアリは子どもを巣の奥へ運びました。
その結果、巣のつきあい方は、病気が広がりにくい形に組みかわりました。女王や若いアリには多くの胞子が届きにくくなり、9日間の観察で女王は1匹も死にませんでした。アリが何に気づいて動き出すのかは、まだ分かっていません。
胞子をつけたのは、働きアリのたった1割でした。それなのに、胞子のついていないアリまで動き方を変えました。この変化は、胞子がアリの体の中に入る前の24時間のうちに、もう起きていたのです。
研究カルテ
スイス(ローザンヌ)
- 研究チーム
- スイスのローザンヌ大学とオーストリア科学技術研究所のチーム(第一著者ナタリー・ストロイメイト)
- 調べた場所
- スイスのローザンヌ大学の実験室
- 調べた動物
- ケアリの一種(学名 Lasius niger)の巣22個
- 調べ方
- 1匹ずつ目印をつけて全員の接触を自動で記録し、外回りのアリの1割にカビの胞子をつけた
- 分かったこと
- 胞子のついたアリも周りのアリも行動を変え、病気が広がりにくい巣のつきあい方に変わった
- まだ分からないこと
- アリが何を手がかりに胞子に気づくのか。実験室の外でも同じことが起きるのか
- 論文
- Science(2018年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Ants live close together in their nests. So a sickness could spread very fast. Scientists in Switzerland wanted to see what ants do about this.
They put a tiny tag on every ant in 22 nests. A machine recorded which ants touched each other. Then they put the seeds of a harmful mold on some ants. These ants worked outside the nest.
The ants with the mold stayed away from the others. Other outside workers stayed away, too. The ants inside the nest moved the young ants deeper into the nest.
After these changes, the queen got less mold than the outside workers. In a nine-day test, no queen died. We still do not know how the ants notice the mold.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many nests did the scientists study?研究者はいくつの巣を調べましたか。
22個の巣のすべてのアリに目印をつけて記録しました。
Q2. What did the ants inside the nest do?巣の中のアリは何をしましたか。
巣の中のアリは子ども(幼虫など)のそばにいる時間を増やし、子どもを奥へ運びました。
Q3. What do we still not know?まだ分かっていないことは何ですか。
アリが胞子に気づく手がかりは、まだ分かっていません。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Stroeymeyt, N. et al. (2018) Social network plasticity decreases disease transmission in a eusocial insect. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.aat4793
- 2Mersch, D. P., Crespi, A. & Keller, L. (2013) Tracking individuals shows spatial fidelity is a key regulator of ant social organization. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.1234316
- 3Konrad, M. et al. (2012) Social transfer of pathogenic fungus promotes active immunisation in ant colonies. PLOS Biology 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pbio.1001300
- 4Stockmaier, S. et al. (2021) Infectious diseases and social distancing in nature. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.abc8881
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