アリが仲間の脚をかみ切って命を救っていた。脚を切られた21匹は全員生き残った

太ももをケガしたアリの脚を、仲間が付け根からかみ切った。切られたアリは生き残りやすかった。すねのケガでは切らず、傷をなめ続けた。

No.004 8分で読めるえっ度 論文 2024年
巣の中で、1匹の働きアリが、ケガをした仲間の後ろ脚の付け根を大あごでしっかりかんでいる。ケガをしたアリはじっとしている。

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  1. 太ももをケガした仲間の脚を、アリが付け根からかみ切った
  2. 脚を切られたアリは、細菌がついていても生き残りやすかった
  3. すねのケガでは切らず、傷を長い時間なめて手当てした

人に話すなら

アリってさ、仲間が太ももをケガすると、脚を付け根からかみ切っちゃうんだって。それで命が助かるらしい。しかも、すねのケガなら切らずに傷をなめるだけ。場所で手当てを変えてるんだよ。

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読む前に予想しよう

アリは、ケガをした仲間の脚を、ケガの場所にかかわらず必ず切る

1匹の働きアリが、後ろ脚の太ももにケガをしています。仲間がやってきて、まず傷口をなめます。それから口を脚の付け根まで動かし、そこを何度もかみ始めました。数時間後、ケガをした脚は根元から切り落とされていました。

スイスのローザンヌ大学などのチームは、フロリダオオアリでこの行動を見つけ、実験で確かめました。太ももをケガして細菌がつき、仲間に脚を切られたアリは21匹いました。その21匹は全員生き残りました。切られなかった3匹は死にました。

さらに、ケガがすねなら、仲間は脚を切りませんでした。そのかわり、傷をなめる手当てを長く続けました。研究チームは、人間以外の動物が、仲間の命を救うために脚を切る例を見つけたのは初めてだとしています。

01傷を消毒する腺を持たないアリは、どう感染を防ぐのか

多くのアリは、細菌などの病原体をおさえる液を出す腺を持っています。アリはこの液を使って、病気と戦っています。ところが、オオアリのなかまは、進化の中でこの腺をなくしました。

論文の第一著者は、ドイツのヴュルツブルク大学のエリック・フランク(Erik Frank)さんです。フランクさんたちは2023年、アフリカのマタベレアリというアリを調べていました。このアリは、ケガをした仲間の傷に腺から出す液をぬり、感染したアリの死亡を90%減らしていました。

では、液を出す腺のないフロリダオオアリは、ケガをした仲間をどう扱うのでしょうか。チームがこれを調べていたところ、脚のケガが、仲間による「切断」につながることに気づきました。

02太ももを傷つけると脚を切り、すねでは切らなかった

チームは、アメリカのフロリダ州で採集した女王から育てた群れを、ローザンヌ大学で飼っていました。実験に使ったのは、体長5.5〜7ミリの小型の働きアリです。

まず、アリを2分間氷で冷やして動きをにぶくします。次に、消毒したハサミで、右の後ろ脚を切ります。切る場所は、太ももの真ん中か、すねの真ん中のどちらかです。それから、アリを群れに戻して、仲間の行動を赤外線カメラで撮影しました。

結果ははっきり分かれました。太ももを傷つけたアリは、17匹のうち76%が仲間に脚を切られました。すねを傷つけた9匹は、1匹も脚を切られませんでした。

脚を切るまでの流れは、いつも同じでした。仲間はまず傷口をなめます。次に、口を脚の付け根まで動かします。そこで何度もかんで、脚を切り落とします。切り終わるまでには、ケガをしてから平均240分、つまり4時間ほどかかりました。

アリの後ろ脚を横から見た拡大図。付け根に近い太い太ももの中には筋肉がびっしり詰まり、その先の細いすねの中は筋肉が少なく、体液の通り道が広い。

03細菌をつけると、脚を切られたアリは生き残った

脚を切ることは、本当に命を救っているのでしょうか。チームは、細菌を使って確かめました。

使ったのは、アフリカの土からとった細菌です。この細菌をすねの傷につけると、72時間で95%のアリが死にました(48匹で確認)。この細菌は、アリにとって命にかかわるものなのです。

チームは、太ももかすねにケガをさせたアリを、4つのグループに分けました。①消毒した液だけをつけて1匹で置く。②細菌をつけて1匹で置く。③細菌をつけて、200匹の群れに戻す。④細菌をつけて1時間後に、研究者が脚の付け根を切り、1匹で置く。グループごとに24匹ずつ、72時間生き残りを記録しました。

太もものケガでは、②の生き残りが、ほかの3つより少なくなりました。研究者が脚を切った④は、仲間の手当てを受けた③と同じくらい生き残りました。③の24匹のうち21匹は仲間に脚を切られ、その21匹は全員生き残りました。切られなかった3匹は死にました。

一方、すねのケガでは結果が違いました。研究者が1時間後に脚を切っても、生き残りは増えませんでした。それでも、群れに戻した③は、1匹で置いた②より生き残りが多くなりました。すねの傷では、切断ではなく、なめる手当てが効いていたことになります。

04太ももの筋肉が、脚を切るための時間をかせいでいるらしい

なぜ、太ももなら切ると助かり、すねなら助からないのでしょうか。チームは、沖縄科学技術大学院大学にある、X線で中を細かく撮る装置を使いました。働きアリ1匹の後ろ脚を撮影し、脚の断面を調べたのです。

昆虫の脚の中には、血液にあたる体液が流れています。この体液を脚の中で動かす筋肉は、主に太ももにあります。フロリダオオアリでも、太ももの真ん中の筋肉の断面積は、すねの約10倍ありました。逆に、体液の通り道は、すねのほうが約2倍広くなっていました。

太ももをケガすると、筋肉がこわれて、体液の流れが弱まると考えられます。そのため、細菌が体じゅうに広がるのも遅くなるとみられます。研究チームは、この遅れが、仲間が脚を切るための時間をかせいでいると考えています。

すねのケガで確かめた実験もあります。研究者が脚を切るまでの時間を、0分、5分、10分、30分、60分と変えました。すると、すねのケガでは、細菌がついた直後に切ったときだけ、死亡が減りました。太もものケガでは、どの時間に切っても死亡が減りました。一方、仲間が脚を切り終えるのには、いつも40分以上かかっていました。すねのケガでは、仲間の切断は間に合わないと考えられます。

05アリは、細菌がついているかどうかは見分けていなかった

フロリダオオアリが脚を切る割合は、細菌のない傷で76%、細菌のある傷で88%でした。この差は、統計で見ると意味のある違いではありませんでした。つまり、アリは傷に細菌がいるかどうかで、扱いを変えてはいませんでした。

これは、マタベレアリとは違います。マタベレアリは、細菌に感染した仲間のほうに、より多く手当てをしていました。研究チームは、フロリダオオアリの暮らす自然の中では、脚の傷は感染する危険がとても高いのだろうと考えています。どの傷も感染していると見なして切ってしまうほうが、結果として得なのかもしれません。

ほかにも、分かっていないことがあります。アリが、ケガの場所が太ももかすねかをどうやって見分けているのかは、この研究では調べていません。また、この研究のケガは、研究者がハサミで切った、きれいな傷でした。野生のアリが、どれくらいの頻度で仲間の脚を切っているのかも、まだ分かっていません。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

マタベレアリの研究から、フロリダオオアリの研究へ

フランクさんたちは、フロリダオオアリの前に、マタベレアリでケガの手当てを調べてきました。マタベレアリは、シロアリだけをおそって食べるアリです。シロアリには戦い専門の兵隊がいて、狩りのたびにケガをするアリが出ます。ケガをしたアリは、たいてい脚などを失っているか、シロアリにかみつかれたままです。

2017年の研究では、マタベレアリは、戦いでケガをした仲間を巣まで運んで帰ることが分かりました。研究者が、ケガをしたアリを助けなしで帰らせると、32%が死にました。運んでもらったアリは、巣の中で回復できました。2023年には、同じアリが傷に薬になる液をぬることが分かりました。そして2024年、液を持たないフロリダオオアリでは、「切断」という別の方法が見つかったのです。

なぜ仲間を助けるのか

アリは、たくさんの働きアリが仕事を分け合う群れで暮らしています。ケガをした1匹を治して働き手に戻せれば、群れの働き手が減らずにすみます。2017年のマタベレアリの研究では、ケガをした仲間を助けることで、群れの大きさを28.7%大きく保てると計算されました。

人間の切断の歴史と比べる

論文によると、人間は3万年以上前から、医療として手足の切断をしてきました。人間の医者は、傷の状態を見て、切るか切らないかを判断します。フロリダオオアリも、ケガの場所によって切るか切らないかを変えていました。

論文は、アリの切断を「目的のある切断」と表現しています。ただし、アリの頭の中で何が起きているのかは、この研究では調べていません。どんなしくみで切るか切らないかが決まるのかは、これからの課題です。

研究方法の工夫と限界

この研究の工夫は、仲間による切断と、研究者による切断を比べた点です。仲間が脚を切るときは、傷をなめる手当ても同時に受けます。これでは、助かった理由が切断なのか、なめる手当てなのかが分かりません。そこで研究者が自分で脚を切り、1匹だけで置いたアリの生き残りを調べました。

チームは、ケガから35時間後に、アリの体の中の細菌の量も測りました。太もものケガでは、研究者が脚を切ったアリの細菌の量は、群れに戻したアリと差がありませんでした。切断だけで、細菌の増え方をおさえられたことになります。

論文の動画には、近い種類のオオアリ(学名 Camponotus maculatus)が、仲間の脚を付け根から切る様子も収められています。ほかのオオアリのなかまにも同じ行動が広くあるのかは、この論文では調べられていません。

06まとめ

フロリダオオアリは、太ももをケガした仲間の脚を付け根からかみ切りました。細菌がついた傷でも、脚を切られたアリは生き残りました。すねのケガでは脚を切らず、傷をなめる手当てを長く続けました。

この違いは、脚の中の筋肉の量で説明できそうです。研究チームの考えでは、太ももの筋肉がこわれると体液の流れが弱まり、細菌の広がりが遅れます。その間に、仲間が4時間ほどかけて脚を切り落とします。

実験で細菌をつけ、群れに戻した太もものケガのアリは24匹いました。そのうち、仲間に脚を切られなかった3匹だけが死にました。

RESEARCH FILE

研究カルテ

スイス(ローザンヌ)

研究チーム
スイスのローザンヌ大学、ドイツのヴュルツブルク大学、沖縄科学技術大学院大学のチーム(第一著者エリック・フランク)
調べた場所
ローザンヌ大学の実験室(アリはアメリカ・フロリダ州で採集した女王から育てた群れ)
調べた動物
フロリダオオアリ(学名 Camponotus floridanus)の小型の働きアリ
調べ方
後ろ脚の太ももかすねを切って群れに戻し、仲間の行動を撮影。細菌をつけて生き残りを比べ、脚の中をX線で撮った
分かったこと
太もものケガでは仲間が脚を切り、生き残りが増えた。すねのケガでは切らず、傷を長くなめた
まだ分からないこと
アリがケガの場所をどうやって見分けているのか。野生でもよく起きているのか
論文
Current Biology(2024年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Ants Save Friends by Cutting Off Their Legs

Florida carpenter ants live in big groups. Scientists in Switzerland hurt the back legs of some ants. Then they watched the other ants in the group.

When the cut was on the upper leg, other ants cleaned it first. Then they bit the leg off at the top. This took about four hours. In one test, 21 ants lost a leg this way, and all 21 lived.

When the cut was on the lower leg, the ants did not bite the leg off. Instead, they cleaned the cut for a long time. Why are the two cuts different?

The upper leg has many muscles. These muscles seem to move body liquid through the leg. The scientists think a cut there slows the liquid. Then bad bacteria spread more slowly. This may give other ants enough time to remove the leg.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What did the ants do to a cut on the upper leg?アリは、脚の上のほうの傷にどうしましたか。

Q2. How long did it take to bite a leg off?脚をかみ切るのにどれくらいかかりましたか。

Q3. Where are many of the leg muscles?脚の筋肉の多くはどこにありますか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Frank, E. T. et al. (2024) Wound-dependent leg amputations to combat infections in an ant society. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2024.06.021
  2. 2Frank, E. T. et al. (2023) Targeted treatment of injured nestmates with antimicrobial compounds in an ant society. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/s41467-023-43885-w
  3. 3Frank, E. T. et al. (2017) Saving the injured: Rescue behavior in the termite-hunting ant Megaponera analis. Science Advances 論文確認済みdoi:10.1126/sciadv.1602187

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい