マウスは麻酔で気を失った仲間の舌を引っぱり出し、口に入れられた玉も8割の場面で取り出した

麻酔で動かない仲間を見たマウスは、においをかぎ、毛づくろいし、やがて口をかんで舌を引き出した。仲間はひとりのときより早く歩き出した。

No.040 7分で読めるえっ度 論文 2025年
飼育ケージの中で、白いおがくずの上に1匹のマウスがあおむけに倒れて動かない。もう1匹のマウスが前足でその頭をおさえ、口元に顔を近づけている。

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  1. 動かない仲間を見たマウスは、口をかみ、舌を引っぱり出した
  2. 舌が出ると空気の通り道が広がった。仲間がいると早く目覚めた
  3. 「助けようとしている」と言えるかには、反対の意見もある

人に話すなら

実験用のマウスって、麻酔で動かなくなった仲間を見ると、口をかんで舌を引っぱり出すんだって。舌が出ると空気の通り道が広がるし、そばに仲間がいると目覚めも早いらしいよ。

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読む前に予想しよう

マウスは、麻酔で動かない仲間の口に入った玉を取り出すことがある

人が気を失って倒れたら、周りの人は何とか目を覚まさせようとします。気を失うと舌の筋肉もゆるみ、空気の通り道をふさぐことがあります。そのため応急手当てでは、空気の通り道を確保することが大切だとされています。では、動物は、倒れて動かない仲間を前にしたとき、何をするのでしょうか。

アメリカの研究チームが、実験用のマウスで調べました。麻酔で動かなくなった仲間を見たマウスは、まずにおいをかぎ、毛づくろいをしました。やがて仲間の口をかみ、舌を引っぱり出しました。口に小さな玉を入れておくと、8割の場面でその玉を取り出しました。仲間がそばにいたマウスは、ひとりのときより早く麻酔から覚めて歩き出しました。

サルの仲間やイルカ、ゾウが、倒れた仲間に寄りそい、さわったり押したりする様子は、野外で何度も目撃されてきました。ただ、どれもたまたま見かけた記録でした。その行動に決まった順番があるのか、仲間にどんな効果があるのかは、条件をそろえた実験でないと分かりません。

01麻酔で動かなくなった仲間をケージに戻し、13分間撮影した

研究を行ったのは、アメリカの南カリフォルニア大学のウェンジャン・スン(Wenjian Sun)さんやリー・チャン(Li Zhang)さんたちのチームです。使ったのは、生後2〜3か月の大人のマウスです。

実験の前に、2匹のマウスを3日以上同じケージで暮らさせました。そのうち1匹に麻酔をかけ、足の指をつまんでも反応しないことを確かめてから、元のケージに戻します。そして、もう1匹の行動を13分間撮影しました。比べるために、麻酔をかけずに戻すだけの試しも行いました。

撮影した動画は、AIを使って分析しました。体の各部分の位置を自動で見つけ、「においをかぐ」「毛づくろい」などの行動を区別するのです。こうして、どの行動をいつ、どれだけしたかを記録しました。

結果ははっきりしていました。相手が動かないとき、マウスは13分間のうち平均47.4%を相手とのやりとりに使いました。相手が元気なときは5.8%だけでした。特に増えたのが、相手の顔や口のまわりへの行動で、時間は約15倍になりました。

02においをかぐ→毛づくろい→口をかむ、と行動が強まった

マウスの行動には、はっきりした順番がありました。最初はにおいをかぎます。相手が完全に動かなくなると、毛づくろいが増えます。そして、相手が動かない状態が100秒ほど続くと、口や目のまわりへの行動が始まり、だんだん強くなりました。

この強い行動は、相手が動き出すとすぐに減りました。チームは、すぐ目覚める麻酔を使い、相手が目覚めていく様子も観察しました。相手が最初に体を動かすと、口や目への行動は大きく減り、すっかり目覚めると止まりました。

チームは、ほかの状態の相手でも試しました。二酸化炭素で死なせた直後の仲間に対しても、マウスは麻酔の仲間と同じような行動をしました。一方、眠っている仲間には、少しの毛づくろいはしても、口や目への行動は一度もしませんでした。眠っている仲間は、さわられると体を動かして反応していました。

03舌が引き出されると、空気の通り道が広がった

チームは、高速で撮れるカメラで頭のまわりを横から撮影しました。すると、口をかむ、舌をかむ、舌を引っぱる、目をなめる、といった細かい動きが見分けられました。口や舌への行動は、調べたすべてのマウスに見られました。

半分以上の場面で、動かない仲間の舌は口の外に引き出されました。動かないマウスをひとりにしておいた場合、舌が自然に出てくることは一度もありませんでした。舌が外に出たマウスは、舌が口の中にあるマウスより、空気の通り道が広くなっていました。

横から見た2匹のマウスの頭。動かないマウスの口から舌が少し外に出ていて、もう1匹のマウスがその舌を歯でくわえて引いている。

チームは、偶然ある場面にも気づきました。仲間の口に入っていた物を、マウスが取り出したのです。そこで、動かない仲間の口に、直径4mmほどの、毒もにおいもない玉を入れて試しました。すると、8割の場面で玉が取り出されました。ひとりにしておくと、玉が出てくることはありませんでした。肛門や生殖器のあたりに玉を一部入れた場合は、マウスはそれを取りませんでした。

仲間がそばにいると、目覚めも早まりました。かまれたり舌を引っぱられたりすると、動かない仲間の体がぴくっと動くことがありました。口の中は、体のほかの場所より、弱い刺激で体が反応する場所でした。そして、すぐ目覚める麻酔をかけたマウスは、仲間がそばにいると、ひとりのときより早く歩き出しました。チームは、口への強い刺激が目覚めを助けたのではないかと考えています。

04知らない相手より知り合いに熱心で、脳ではオキシトシンが働いていた

行動の強さは、相手が知り合いかどうかで大きく変わりました。知らない相手の場合、毛づくろいや口への行動はずっと少なく、口や目への行動はほとんど見られませんでした。メスどうしの組み合わせだけは、知らない相手にもある程度この行動をしました。

チームは、脳の中も調べました。動かない仲間を見たマウスでは、脳の視床下部という場所の一部で、オキシトシンを作る神経細胞がよく働いていました。オキシトシンは、仲間とのかかわりに関係することが知られているホルモンです。この神経細胞の働きを光でおさえると、毛づくろいや口への行動が減りました。逆に働きを強めると、知らない相手にも行動が増えました。

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なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

ほぼ同じ時期に、ほかのチームも似た行動を見つけた

2025年には、同じような行動を報告した研究が、ほかにもいくつか出ました。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のウェイジャ・ホン(Weizhe Hong)さんたちは、同じ号のScienceに論文を出しています。動かない仲間の頭や口のまわりに強くふれたり、毛づくろいをしたりする行動を見つけ、それで仲間の回復が早まると報告しました。ただし、このチームの実験では、知り合いかどうかで毛づくろいの量にはっきりした差は出ませんでした。

中国とアメリカのチームは、PNASという学術誌で報告しました。こちらでは、なめる・毛づくろいが中心で、仲間の目覚めが早まり、助ける側のストレスも下がったといいます。このチームは、マウスは死んだ仲間より、麻酔の仲間に強く反応したと書いています。死んだ仲間にも同じ行動をした南カリフォルニア大学の結果とは、ここが違います。舌を引っぱる行動が目立つかどうかも、チームによって違いました。

本当に「助けよう」としているのか

アメリカのミシガン大学のヒロユキ・アラカワ(Hiroyuki Arakawa)さんは、この研究を読んで、注意すべき点を書きました。アラカワさんによると、実験では、動かない仲間はあおむけの姿勢でケージに置かれていました。マウスがあおむけになることは、ふだんほとんどありません。そのめずらしい姿勢が、顔や口に近づくきっかけになった可能性があるといいます。そして、相手の口に近づく行動は、もともとマウスが仲間にする毛づくろいの延長とも考えられる、と指摘しています。また、動画からは本当に舌でなめているかまでは見分けられず、顔にふれている時間を数えている、という測り方の限界もあげています。

アラカワさんは、マウスが仲間を襲ったり食べたりすることもある、とも書いています。行動の結果だけを見て「助けたい」という気持ちがあると考えるのは、慎重であるべきだという意見です。南カリフォルニア大学のチームも、行動の理由を確かめるのは難しいと書いています。分かっているのは、行動の結果が仲間の役に立っていたことです。

日本の研究:筒に閉じこめられた仲間を出すマウス

仲間を助けるようなマウスの行動は、日本でも調べられてきました。2019年、岡山県の川崎医療福祉大学などのチームは、透明な筒に閉じこめられた仲間を、マウスが紙のふたを開けて出すことを報告しました。マウスは、同じケージの仲間だけでなく、知らないマウスにも同じようにふたを開けました。麻酔で動かない仲間の入った筒も開けました。おなかがすいているときは、エサの入った筒を先に開けました。

05まとめ

麻酔で動かなくなった仲間を見たマウスは、においをかぎ、毛づくろいをしたあと、口をかんで舌を引っぱり出しました。舌が出ると空気の通り道が広がり、口に入れた玉も8割の場面で取り出されました。仲間は、ひとりのときより早く歩き出しました。ただし、それが「助けたい」という気持ちから来ているのかは、まだ分かっていません。分かっているのは、動かなくなった知り合いを前にしたマウスが、時間がたつにつれて口元への行動を強めていくということです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

アメリカ ロサンゼルス

研究チーム
アメリカの南カリフォルニア大学のチーム(第一著者ウェンジャン・スン)
調べた場所
アメリカ・ロサンゼルスの南カリフォルニア大学の研究室
調べた動物
実験用のマウス(ハツカネズミ、学名 Mus musculus)の大人のオスとメス
調べ方
麻酔で動かなくした仲間をケージに戻し、13分間の行動を録画してAIで分類した
分かったこと
毛づくろいのあと口をかみ、舌を引き出した。仲間の目覚めが早まり、知らない相手より知り合いに熱心だった
まだ分からないこと
マウスが本当に仲間を助けようとしているのか。野生でも同じことをするのか
論文
Science(2025年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Mice Try to Wake Up Their Friends

What do animals do when a friend falls down and does not move? Scientists in the United States studied this question with lab mice.

They put one mouse to sleep with medicine. Then they put it back in the cage with its cage mate. The awake mouse smelled its friend and cleaned its fur. After a while, it bit its friend's mouth and pulled out its tongue.

With the tongue out, air could pass more easily. The scientists also put a small ball in the mouth of the mouse that did not move. In 80 percent of the tests, the friend took the ball out. Mice with a friend started to walk sooner than mice left alone.

Mice did this much more for friends than for strangers. But some scientists say we cannot be sure the mice want to help.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What did the awake mouse do first?起きているマウスは最初に何をしましたか。

Q2. How often did the friend take out the small ball?仲間が小さな玉を取り出したのは、どのくらいの割合でしたか。

Q3. Which mice started to walk sooner?早く歩き出したのはどのマウスですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Sun, W. et al. (2025) Reviving-like prosocial behavior in response to unconscious or dead conspecifics in rodents. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.adq2677
  2. 2Sun, F., Wu, Y. E. & Hong, W. (2025) A neural basis for prosocial behavior toward unresponsive individuals. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.adq2679
  3. 3Zhang, F.-R. et al. (2025) Distinct oxytocin signaling pathways synergistically mediate rescue-like behavior in mice. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2423374122
  4. 4Arakawa, H. (2025) Interpreting mouse's intention from analysis of prosocial behavior. Lab Animal 論文確認済みdoi:10.1038/s41684-025-01561-0
  5. 5Ueno, H. et al. (2019) Helping-Like Behaviour in Mice Towards Conspecifics Constrained Inside Tubes. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-019-42290-y

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい