チンパンジーは葉で傷を手当てし、仲間にからまったわなを外す例もあった。30年分の記録から
ウガンダの森のチンパンジーの記録から、傷をなめる・葉で押さえるなどの手当てが41件見つかった。7件は仲間への世話だった。

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- 傷をなめる、葉で押さえる、かんだ植物をぬる手当てが見つかった
- 仲間の傷をなめる、わなを外すなど、仲間への世話も7件あった
- 交尾やうんちのあとに、葉で体をふく行動も記録された
人に話すなら
チンパンジーって、けがをすると葉っぱで傷を押さえたり、かんだ葉をぬったりするんだって。仲間の傷をなめたり、わなを外してあげたりした例もあるらしいよ。
読む前に予想しよう
チンパンジーは、血のつながらない仲間の傷をなめることがある
ブドンゴの森では、血縁のない仲間の傷をなめた例が記録された。
2021年10月、アフリカのウガンダの森で、子どものオスのチンパンジーが左のひざにけがをしていました。彼は低木の茎の皮をかみ、その皮を口で傷に当てました。それから傷をなめ、同じ木の葉で傷をトントンと押さえました。この様子は、研究者のカメラに動画で残っています。
イギリスのオックスフォード大学のエロディ・フレイマン(Elodie Freymann)さんらは、この森のチンパンジーについて、30年以上分の記録を集め直しました。すると、傷やわなへの対応、体を清める行動が41件見つかりました。そのうち7件は、自分ではなく仲間に向けた世話でした。
傷の手当ては、めったに起きず、人が見ていないところで起きることも多い行動です。各地の森のチンパンジーの行動を比べた1999年の研究では、この森では「葉で傷を押さえる行動」は見られないとされていました。この森で仲間への世話として論文になっていたのは、わなを外した1件だけでした。
0130年分の観察日誌と動画を、1件ずつ読み直した
舞台は、ウガンダのブドンゴの森です。ここには、人に慣れて近くで観察できるチンパンジーの群れが2つあります。ソンソの群れ(約68頭)と、ワイビラの群れ(約105頭)です。ソンソでは1990年から、ワイビラでは2011年から観察が続いています。
研究チームは、4種類の資料を使いました。1つ目は、ソンソの群れの観察日誌です。毎日群れを追うスタッフや研究者が、目立った出来事を書きとめてきたものです。そのうち1993〜2021年の分を調べました。2つ目は、研究者に呼びかけて集めた目撃の報告です。
3つ目は、類人猿の動画を集めたデータベースです。約3万5000本の動画のうち、1万3806本がブドンゴで撮られたものでした。その中から、傷の手当てが映っている動画を選び出しました。
4つ目は、研究チーム自身の観察です。2021年の6〜10月にソンソで、2022年の6〜10月にワイビラで、4か月ずつ群れを追いました。毎日、どの個体にけがや下痢があるかも記録しました。この期間だけで、ソンソでは12件のけがが見つかり、ワイビラではけがをした5頭が見つかりました。
02自分の傷には、なめる・押さえる・葉を当てるなどの方法を使っていた
自分の体への行動34件のうち、23件が傷の手当てでした。やり方は大きく4つです。傷を直接なめる。指をなめてから傷に押し当てる。葉で傷をトントンと押さえる。かんだ植物を傷にぬる。1回のけがで、いくつもの方法を続けて使うこともありました。
たとえば2008年、大人のメスは、群れの仲間に襲われて陰部にけがをしました。彼女は葉をちぎって折りたたみ、ていねいにかみました。そして、その葉で傷を何度も押さえ、指をなめては傷に当てました。
2011年には、大人のオスが額から血を流していました。彼は葉のついた枝を折り取り、葉を口で折りたたみました。そして、その葉を額に当てて血を止めようとしていました。
わなへの対応もありました。2015年、大人のオスが、自分にからまったワイヤーのわなを自分で外しています。2019年には、若いオスが、わなで傷ついた手首に葉をゆっくり当てていました。
体を清める行動は10件ありました。9件は、オスやメスが葉で性器をふく行動です。そのうち8件は、交尾のすぐあとでした。残りの1件は、大人のメスがうんちのあとに葉でおしりをふいた例でした。研究チームは、これらに病気を防ぐ働きがあるかもしれないと考えています。ただし、まだ確かめられてはいません。
03仲間の傷をなめ、仲間のわなを外した例もあった
仲間に向けた世話7件は、すべてソンソの群れの記録でした。内わけは、わな外しが2件、傷の手当てが4件、交尾のあとに相手を葉でふいた例が1件です。
2008年には、大人のオスが、血のつながらない大人のメスからナイロンのわなを外すのを手伝いました。翌2009年には、母親が子どものわなをかみ切ったらしい場面が記録されています。娘の手がナイロンのひもに引っかかったあと、母親がそのひもをかんでいたのです。
2008年11月には、もっとこまやかな場面が動画に残りました。けがをした母親が、かんだ葉を自分の傷に当てていました。それを見ていた子どもの娘が、同じように葉をかんで、母親の傷に当てたのです。娘は指をなめて母親の傷に押し当てることもしました。
傷をなめた例は、家族の間だけではありませんでした。2012年には、若いオスが、血縁のない別の若いオスの脚の深い切り傷を吸っていました。2018年には、大人のオスが、赤ちゃんを連れて襲われたメスの傷をなめています。7件のうち4件は、血のつながりがない相手への世話でした。

04わなの多い森で、仲間への世話が記録された
ブドンゴの森では、人が仕掛けたわなが、チンパンジーの大けがの一番の原因になっています。わなにかかると、血の流れが悪くなったり、傷がうんだりします。手足の一部を失うこともあります。
研究期間中にも、ワイビラの群れで、子どものメスの右足にワイヤーのわなが付いているのが見つかりました。足ははれて、傷はうんでいるように見えました。その後、母子はしばらく姿を見せませんでした。84日後に母親だけが群れに戻り、子どもは死んだと考えられています。
研究チームは、わなの危険が、群れの助け合いを強めているのかもしれないと考えています。1991年には、天敵が多い場所ほどチンパンジーの協力が強まるという説が出されています。人のわなも、それと同じ働きをしている可能性があるというのです。ただし、これは確かめられていない考えです。
05使われた植物の一部は、人の薬草にも使われている
研究チームは、手当てに使われた植物の種類も調べました。たとえばアカリファの仲間の葉は、かんで傷にぬる手当てに使われていました。この仲間の植物には、これまでの実験で、細菌をおさえる働きや傷の治りを助ける働きが報告されています。
ほかにも、傷に当てた葉の中には、アフリカで足の裏のただれの手当てに使われてきた植物がありました。交尾のあとにふくのに使われた木の葉には、かびや細菌をおさえる働きが報告されています。
チンパンジーが、薬になる植物を選んでいる可能性はあります。ただし、チンパンジーの傷が、その植物で早く治ったかどうかは調べられていません。41件のうち18件は、植物を使わない手当てでした。なめるだけの手当ては、だ液で汚れを落とす働きがあると考えられています。
06まだ分からないこと:記録には、かたよりがある
この研究の大部分は、たまたま見かけた出来事の記録です。だれかが見ていなければ、手当ては記録に残りません。ワイビラの群れでは、仲間への世話が1件も見つかりませんでした。研究チームは、これは本当にないのではなく、観察の機会が少なかったためだろうと考えています。
もう一つの謎は、わなが多いのに、仲間のわなを外した例がとても少ないことです。ソンソでは約4割のチンパンジーにわなのけがが確認されています。それでも、仲間がわなを外した記録は2件だけでした。なぜ少ないのかは分かっていません。
手当てのやり方を、子どもが親や仲間から学んでいるのかどうかも、まだ分かりません。娘が母親のまねをして葉を当てた場面は、そのヒントになるかもしれません。ただし、1件の観察から学びの仕組みまでは言えません。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
ほかの類人猿でも、傷の手当てが見つかり始めた
2022年、ドイツなどの研究チームが、アフリカのガボンにすむチンパンジーの記録を発表しました。チンパンジーが、虫を自分の傷に当てていたのです。自分の傷への例が19回、仲間の傷への例が3回観察されました。虫を傷に当てる行動の報告は、これが初めてでした。
2024年には、インドネシアのスマトラ島で、オスのスマトラオランウータンの例が報告されました。彼は顔にけがをした3日後、つる植物の葉をかみ、その汁を傷に何度もぬりました。最後は、かんだ葉で傷をすっかりおおいました。この植物は、人の伝統的な薬にも使われているものです。
ブドンゴの研究は、こうした報告の流れの上にあります。1つの森だけの話ではなく、いくつもの森で似た行動が見つかってきたことが大事な点です。
血のつながらない仲間を助けるのは、なぜか
家族の傷を手当てすることは、進化で説明しやすい行動です。家族は自分と同じ遺伝子を多く持っているからです。家族が生き残れば、その遺伝子も次の世代に残りやすくなります。
血のつながらない仲間を助ける理由は、それだけでは説明できません。研究チームは、チンパンジーに、相手の痛みに反応する心の働きがあるのかもしれないと考えています。人では「共感」と呼ばれるものです。
助ける側には損もあります。他人の傷をなめれば、病気がうつるかもしれません。わなに近づけば、自分もけがをするかもしれません。研究チームは、仲のよい相手ほど、この危険を引き受けやすいのではないかと予想しています。これは今後、確かめるべき予想です。
研究の歴史:昔の考えは「家族の間だけ」
チンパンジーの研究で有名なジェーン・グドール(Jane Goodall)さんは、1986年に、仲間の傷の世話は母と子など近い家族の間で起きると述べていました。その後、ウガンダやガボンの森で、血縁のない相手への世話が報告されるようになりました。今回のブドンゴの記録も、その例を増やすものです。
研究方法の工夫と限界
めったに起きない行動を調べるには、長い年月の記録が必要です。この研究は、日誌・聞き取り・動画・直接観察という性質の違う資料を合わせることで、件数を集めました。
その一方で、資料ごとに記録のしかたは違います。日誌に書かれるのは、記録した人が「めずらしい」と思った出来事です。そのため、どの行動がどれくらいの割合で起きるかを、この研究から正確に言うことはできません。
07まとめ
ブドンゴの森のチンパンジーは、自分の傷をなめ、葉で押さえ、かんだ植物をぬっていました。仲間の傷をなめたり、わなを外したりする例もありました。1つ1つはめったにない出来事ですが、30年分を集めると41件になりました。
植物が本当に効くのか、手当てを学んで受けつぐのかは、まだ分かっていません。1999年に「この森では見られない」とされた、葉で傷を押さえる行動は、記録を読み直すと何度も見つかったのです。
研究カルテ
ウガンダ・ブドンゴの森
- 研究チーム
- イギリスのオックスフォード大学のエロディ・フレイマンさんらの国際チーム(長崎大学の研究者も参加)
- 調べた場所
- ウガンダのブドンゴの森(ソンソとワイビラの2つの群れ)
- 調べた動物
- 野生のチンパンジー(学名 Pan troglodytes)
- 調べ方
- 1993〜2024年の観察日誌、研究者からの報告、動画の記録、合わせて8か月の直接観察を集めた
- 分かったこと
- 自分への手当てが34件、仲間への世話が7件。41件のうち23件で植物を使っていた
- まだ分からないこと
- 使われた植物が本当に傷に効くのか。手当てのやり方を仲間から学ぶのかどうか
- 論文
- Frontiers in Ecology and Evolution(2025年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
In a forest in Uganda, a young chimpanzee had a cut on his knee. He chewed some bark and put it on the cut with his mouth. Then he pressed leaves on the wound.
Scientists from the University of Oxford studied records from more than thirty years. They used notebooks, videos, and their own watching in the forest. They found 41 cases of wound care, snare removal, and cleaning.
Chimpanzees licked their wounds and pressed leaves on them. In seven cases, they helped other chimpanzees. One adult male helped a female take off a snare. Some helpers were not family members.
Some of the plants are also used as medicine by people in Africa. But nobody knows yet if the plants really help the wounds heal. Scientists want to learn more by watching the chimpanzees for many years.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many cases did the scientists find?研究者たちは何件の例を見つけましたか。
傷の手当て、わな外し、体を清める行動を合わせて41件見つかりました。
Q2. What did the young chimpanzee put on his cut first?若いチンパンジーは、まず何を傷に当てましたか。
木の皮をかんで、口で傷に当てました。そのあと葉を押し当てました。
Q3. What is still unknown?まだ分かっていないことは何ですか。
植物が本当に傷を治すのを助けるかは、まだ確かめられていません。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Freymann, E. et al. (2025) Self-directed and prosocial wound care, snare removal, and hygiene behaviors amongst the Budongo chimpanzees. Frontiers in Ecology and Evolution 論文確認済みdoi:10.3389/fevo.2025.1540922
- 2Mascaro, A. et al. (2022) Application of insects to wounds of self and others by chimpanzees in the wild. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2021.12.045
- 3Laumer, I. B. et al. (2024) Active self-treatment of a facial wound with a biologically active plant by a male Sumatran orangutan. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-024-58988-7
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