年をとったチンパンジーのオスほど、おたがいに選び合う友だちが多かった。40歳は15歳の3倍

野生のオスのチンパンジーは、年をとるほどおたがいに選び合う友だちが増え、けんかが減った。人の年のとり方とよく似ている。

No.074 8分で読めるえっ度 論文 2021年
森の地面に、年をとった2頭のオスのチンパンジーが並んで座り、片方がもう片方の背中の毛をていねいに毛づくろいしている。少し離れた木の上に、若いチンパンジーが見える。

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  1. 年をとったオスほど、おたがいに選び合う友だちが多かった
  2. 若いオスは、相手からは選ばれない「片思い」の相手が多かった
  3. 年をとるほど、けんかは減り、毛づくろいは同じくらい続いた

人に話すなら

チンパンジーのオスって、年をとるほど「おたがいに好き同士」の友だちが増えるんだって。けんかも減るらしい。人のおじいさんと似てるよね。

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野生のチンパンジーのオスは、年をとるほど乱暴な行動が増える

人は年をとると、付き合う相手が少なくなるといわれます。ただ、相手の数が減るだけではありません。心理学の研究では、年をとった人ほど、気心の知れた大切な相手との付き合いを選ぶ傾向が知られています。いやなことより、楽しいことに目を向けやすくなるともいわれます。

では、チンパンジーはどうでしょうか。アメリカのミシガン大学などのチームが、ウガンダの野生のチンパンジーのオス21頭を調べました。使ったのは、1995年から2016年までの、約7万8000時間の観察記録です。すると、年をとったオスほど、おたがいに選び合う友だちが多くなっていました。けんかも年とともに減っていました。

心理学では、人のこの変化を「残りの人生が限られている」と感じることで説明する考えが有力です。けれど、チンパンジーが自分の死や遠い将来を考えている証拠はありません。そのチンパンジーで同じ変化が見つかれば、説明を見直す必要が出てきます。

01人の「年のとり方」の説明を、チンパンジーで試した

人の年のとり方を説明する考えとして、アメリカの心理学者ローラ・カーステンセン(Laura Carstensen)さんたちの「社会情動的選択性理論」が知られています。名前は難しいですが、中身はこうです。人は、将来の時間がたっぷりあると感じると、新しい人と知り合うことを大事にします。反対に、残りの時間が短いと感じると、すでにある大切な関係を大事にします。

この考えでは、自分の将来の時間を意識することが、変化のきっかけになっています。チームを率いたアレクサンドラ・ロサティ(Alexandra Rosati)さんは、ここに目をつけました。もしチンパンジーにも同じ変化があれば、将来を意識しなくても変化は起こりうることになります。

チンパンジーは、この問いを確かめるのに向いた動物です。人にもっとも近い動物の1つで、野生では50〜60年生きます。群れの中で、誰と一緒に過ごすかを自分で選べます。チンパンジーの群れは、いつも全員で動くわけではありません。その日その時で、1頭から群れのほとんどまで、いろいろな大きさの小さなグループに分かれて動きます。

0222年分の記録から、「片思い」と「両思い」を見分けた

調べたのは、ウガンダのキバレ国立公園にすむ野生のチンパンジーの群れ「カニャワラ」です。研究者たちは20年以上、この群れをほぼ毎日観察してきました。論文の著者には、1987年からこの公園でチンパンジーを調べている「キバレ・チンパンジー・プロジェクト」の研究者も入っています。

対象は、15歳から58歳までのオス21頭です。15歳は、オスの体が大人になり、群れの順位争いに加わる年齢です。1頭あたり平均10.6年分の記録がありました。オスを選んだのは、オスどうしの方が結びつきが強く、付き合いの回数も多いからです。

チームはまず、2頭が同じグループにいるとき、5m以内にどれくらい近づいているかを数えました。近くにいることは、サルのなかまでは仲のよさの大切なしるしです。そして、2頭の関係を3つに分けました。

  • おたがいに選び合う友だち:2頭とも、ふだんよりも相手の近くにいることを好んでいた
  • 片思いの友だち:片方は相手の近くにいたがるが、相手はそうでもない
  • 友だちではない:どちらも、相手の近くにいることを特に好んでいない
森の中で、何頭かのチンパンジーがばらばらの場所に座っている。年をとったオス2頭は体を寄せ合い、若いオス1頭が少し離れた所から2頭の方を見ている。

チームは、年齢のほかに、群れの中での順位の影響も分けて計算しました。年をとると順位が下がることが多いので、順位のせいで付き合いが変わった可能性を除くためです。

03年をとるほど「おたがいに選び合う友だち」が増え、片思いは減った

結果ははっきりしていました。年をとるほど、おたがいに選び合う友だちの数が増えました。反対に、片思いの友だちは減りました。

たとえば15歳のオスでは、片思いの友だちが平均2.1頭、おたがいに選び合う友だちが0.9頭でした。40歳のオスでは、片思いが0.6頭に減り、おたがいに選び合う友だちが3.0頭に増えていました。

おたがいに選び合う友だちは、中身のある関係でした。どの年齢のオスも、おたがいに選び合う友だちとは、ほかの相手より長く毛づくろいをしていました。1回の毛づくろいも長く続きました。しかも、毛づくろいを「してあげる」と「してもらう」が、より公平でした。

関係の組み合わせにも特徴がありました。おたがいに選び合う友だちは、年をとったオスどうしで多く見られました。一方、片思いの多くは、若いオスが働き盛りのオスや年上のオスに近づこうとするものでした。年をとって順位が下がっても、年上のオスは若いオスから人気があったのです。

04ひとりの時間は少し増えたが、大事な相手のそばにいた

付き合いの量はどうでしょうか。オスがひとりでいることはめったになく、観察時間の1%にも満たないほどでした。それでも、年をとるほど、ひとりでいる割合は少しずつ増えていました。

ところが、誰かと一緒にいるときは違いました。年をとったオスほど、ほかの大人のオスがいるグループにいることが多くなりました。15歳のオスがいたグループには、ほかのオスが平均5.8頭いました。40歳のオスでは6.6頭でした。ほかのオスのすぐ近くにいた割合も、15歳では観察の36.6%でしたが、40歳では53.7%に増えていました。

けんかについても調べました。チームは、相手をたたく、かむ、追いかけるといった攻撃と、特定の相手を持たない威嚇の行動を数えました。すると、年をとるほど攻撃は減っていました。一方で、毛づくろいをしてあげる時間は、年をとってもほぼ変わりませんでした。攻撃は減り、仲よくする行動は保たれる。この変わり方は、年をとった人に見られる変化とよく似ています。

05人と同じ変化でも、理由まで同じとは限らない

この結果は、人の年のとり方の説明を見直すきっかけになります。チンパンジーには、残りの人生を意識している証拠がありません。それでも、付き合う相手をしぼり、おだやかな関係を大事にする変化が見られました。論文は、将来を考える複雑な力がなくても、こうした変化は起こりうると結論しています。

ただし、何がこの変化を起こしているのかは、まだ分かっていません。チームは、気持ちの動き方が年とともに変わる可能性を挙げています。たとえば、すぐにかっとなりにくくなるといった変化です。けれど、これはこれから確かめるべき仮説です。

この研究には限界もあります。調べたのはオスだけで、群れも1つだけです。また、観察の記録から分かるのは行動であって、チンパンジーの気持ちそのものではありません。

2021年には、同じカニャワラの群れで、別の角度から調べた研究も出ました。メス22頭とオス16頭の毛づくろいのつながりを、2009〜2017年の記録で分析したものです。すると、オスもメスも、年をとると毛づくろいでの直接のつながりが弱くなっていました。一方で、年をとったオスは、群れのつながりの中心近くにいることが多くなっていました。年をとると付き合いが減る面と、大事な関係の中心にいる面の両方があるのです。

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なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

ほかのサルは、年をとると引きこもることが多い

論文によると、いくつかのサルのなかまでは、年をとると付き合い全体が減ります。大事な相手にしぼるというより、全体から引いていく変化です。仲よくする行動は減るのに、攻撃は同じくらい続くという報告もあります。チンパンジーと人は、この点でほかのサルと違っていました。

チームは、理由を群れのしくみに求めています。多くの動物では、仲間関係は血のつながりが中心です。年をとって身内が死ぬと、新しい関係を作るのは難しくなります。チンパンジーや人では、血のつながりがなくても長く続く関係を作れます。そのため、年をとってからも、しっかりした友だち関係が頼りになるのかもしれません。

サルでも「友だちへの関心」は年をとっても残る

2016年には、ドイツ霊長類センターなどのチームが、フランスのラ・フォレ・デ・サンジュという施設で暮らすバーバリーマカクというサルを調べました。年齢のさまざまなサルに、新しい物を見せる実験をしました。すると、新しい物への興味は、大人になってまもなく下がっていました。一方、仲間の声や写真を見せると、年をとったサルも興味を示しました。特に友だちや大事な相手への関心は、年をとっても残っていました。

ただし、年をとったメスは、付き合いの回数が減っていました。それでも、ほかのサルたちはそのメスとの関係を続けていました。この研究も、残りの人生を意識しなくても、関心の向け方は年とともに変わりうると結論しています。

順位が下がっても、年上のオスが若いオスに好かれるのはなぜか

チンパンジーのオスは、年をとると順位が下がります。それでも、若いオスは年上のオスに近づこうとしていました。論文は、長生きする動物では、年をとった個体が多くの知識を持つことに注目しています。クジラやゾウでは、年をとった個体の知識が群れの役に立つことが知られています。チンパンジーでも、長い人生で身につけた仲間付き合いの知識が、年上のオスを魅力的な相手にしているのかもしれません。これも、まだ仮説です。

06まとめ

ウガンダの野生のチンパンジーのオス21頭を、22年分の記録で調べると、年をとるほど、おたがいに選び合う友だちが増えていました。片思いの関係は減り、攻撃も減りました。毛づくろいは年をとってもほぼ同じだけ続きました。

この変化は、人が年をとると大切な相手を選ぶようになる様子とよく似ています。ただ、チンパンジーが自分の将来を考えている証拠はなく、何がこの変化を生むのかは、まだなぞです。

この研究では、40歳のオスは、15歳のオスの3倍以上の「おたがいに選び合う友だち」を持っていました。

RESEARCH FILE

研究カルテ

ウガンダ(キバレ国立公園)

研究チーム
アメリカのミシガン大学などのチーム(第一著者アレクサンドラ・ロサティ)
調べた場所
ウガンダのキバレ国立公園(カニャワラの群れ)
調べた動物
野生のチンパンジー(学名 Pan troglodytes)のオス21頭(15〜58歳)
調べ方
1995〜2016年の約7万8000時間の観察記録から、誰と近くにいたか、毛づくろい、攻撃を調べた
分かったこと
年をとるほど、おたがいに選び合う友だちが増え、攻撃は減った。順位の影響を除いても同じだった
まだ分からないこと
何がこの変化を起こしているのか。メスでも同じなのか
論文
Science(2020年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Old Chimpanzees Keep Close Friends

When people get old, they often spend time with fewer friends. They choose the friends who are most important to them. Do chimpanzees do the same thing?

Scientists studied 21 wild male chimpanzees in Uganda. They used records from 1995 to 2016. They checked which chimpanzees liked to sit near each other.

Older males had more friends who liked them back. A 40-year-old male had about three such friends on average. A 15-year-old male had fewer than one. These friends groomed each other more and for longer.

Older males also fought less. This is very similar to old people. But there is no sign that chimpanzees think about the end of their lives. So the reason for this change is still a mystery.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Where did the chimpanzees in this study live?この研究のチンパンジーはどこにすんでいましたか。

Q2. What happened to fighting as the males got older?オスが年をとると、けんかはどうなりましたか。

Q3. How many close friends who liked them back did 40-year-old males have on average?40歳のオスには、相手からも好かれている友だちが平均で何頭いましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Rosati, A. G. et al. (2020) Social selectivity in aging wild chimpanzees. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.aaz9129
  2. 2Rosati, A. G. et al.(2020)同論文の著者版全文(PMC)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7668794/
  3. 3Thompson González, N. et al. (2021) Age-related change in adult chimpanzee social network integration. Evolution, Medicine, and Public Health 論文確認済みdoi:10.1093/emph/eoab040
  4. 4Almeling, L. et al. (2016) Motivational Shifts in Aging Monkeys and the Origins of Social Selectivity. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2016.04.066
  5. 5Emery Thompson, M. et al. (2020) The Kibale Chimpanzee Project: Over thirty years of research, conservation, and change. Biological Conservation 論文確認済みdoi:10.1016/j.biocon.2020.108857

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

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