チンパンジーとボノボの身ぶりの意味を、ふつうの人が4択で半分以上当てた
チンパンジーとボノボの身ぶりの動画を見せると、類人猿にくわしくない人でも、意味を4択で半分以上当てた。でたらめなら25%だ。

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- 類人猿の身ぶりの動画を見て、意味を4つから選ぶ実験をした
- 5656人の答えの正解率は5割をこえ、でたらめの25%を上回った
- 場面の説明を足すと少し上がったが、はっきりした差ではなかった
人に話すなら
チンパンジーの身ぶりの動画を見せて意味を4択で当てさせたら、ふつうの人でも半分以上当たったんだって。体を大きくかく身ぶりは「毛づくろいして」の意味らしいよ。
読む前に予想しよう
類人猿の身ぶりの意味は、研究者でないと少しも当てられない
習ったことのない人でも、4択で半分以上の正解率だった。
野生のチンパンジーが、仲間の前で、自分の体をガリガリと大きな音を立ててかきます。この身ぶりは「毛づくろいをして」という意味で使われています。では、類人猿のことをよく知らない人がこの動画を見たら、意味が分かるでしょうか。
イギリスのセント・アンドルーズ大学の研究者が、これをインターネット上のゲームで確かめました。チンパンジーとボノボがよく使う10種類の身ぶりの動画を見せ、意味を4つの答えから選んでもらいます。最後までやった5656人の正解率は、5割をこえました。でたらめに選んだ場合の25%を、はっきり上回ったのです。
チンパンジーなどの類人猿は、80種類をこえる身ぶりを使い分けることが知られています。そのほとんどは、ほかの類人猿の種とも共通です。それなら、同じ類人猿のなかまである人間にも、この身ぶりが残っていてもおかしくありません。ところが、大人の人間の身ぶりの中に、類人猿と同じものを見つけるのはとても難しいのです。そこで研究者は、人が身ぶりを「使う」かではなく、「分かる」かを調べることにしました。
01身ぶりの「意味」は、相手の反応で決めた
まず、類人猿の身ぶりの意味をどうやって決めたのかを説明します。研究したのは、カースティ・グラハム(Kirsty Graham)さんとキャサリン・ホベイター(Catherine Hobaiter)さんです。2人は長年、野生の類人猿の身ぶりを記録してきました。
身ぶりの意味を決める手がかりは、身ぶりを受けた相手の反応です。ある個体が身ぶりをして、相手が何かをしたとします。それで身ぶりをした側が満足して、身ぶりをやめたとします。そのときの相手の行動が、その身ぶりの意味だと考えるのです。たとえば、体を大きくかいたあと、相手が毛づくろいを始め、かいた側がやめた。それなら意味は「毛づくろいして」です。
ボノボの身ぶりは、形の上ではチンパンジーの身ぶりと約9割が共通することが、すでに知られていました。では、意味も同じなのでしょうか。2018年の研究で、グラハムさんたちはボノボの身ぶりを2321回分調べました。すると、意味もチンパンジーとよく一致していました。その一致は、偶然で起きる程度よりずっと大きいものでした。
0210種類の身ぶりを、4つの答えから選ぶゲーム
2023年の実験に使ったのは、チンパンジーとボノボの両方で意味が確かめられている、よく使う10種類の身ぶりです。動画は、ウガンダのブドンゴの森のチンパンジーと、コンゴ民主共和国のワンバのボノボを撮ったものでした。
身ぶりには、こんなものがあります。
- 体を大きな音を立ててかく → 「毛づくろいして」。
- 相手の口もとをなでる → 「その食べ物ちょうだい」。
- 相手を押す → ボノボでは「背中に乗って」、チンパンジーでは「場所を移って」。
- 物をゆする → 「交尾しよう」「毛づくろいして」「離れて」など、いくつかの意味に使われる。
ゲームは2017年の7月から10月まで、インターネットで公開されました。参加者は、1人につき20本の動画を見ます。チンパンジーが10本、ボノボが10本です。動画は身ぶりの部分だけを切り出してあり、1本は7〜33秒です。ふつうの速さで1回、ゆっくりで1回流れます。動作が分かりやすいように、身ぶりの簡単な絵もそえられました。何回見直してもかまいません。
そして画面の下に、4つの意味の答えが並びます。参加者は1つを選び、どれくらい自信があるかも答えます。答えが合っていたかは、最後に点数で分かるだけでした。

参加者は、くじで2つのグループに分けられました。1つは動画だけを見るグループです。もう1つは、動画の下に1行の場面の説明も表示されるグループでした。説明があれば、意味を当てやすくなるかを比べるためです。
03でたらめなら25%のところ、正解は52〜57%だった
参加したのは、全部で1万7751人でした。そのうち、サルや類人猿と関わる仕事をしたことのある人や、2回目の参加の人などは、分析から外しました。最後までやりとげた5656人の答え、11万2648回分を調べました。
結果は、どちらのグループも偶然を大きく上回りました。動画だけのグループの正解率は平均52.1%でした。場面の説明があったグループは平均57.3%でした。4つから選ぶので、でたらめなら25%です。
10種類のうち9種類の身ぶりで、正解率は偶然より高くなりました。ただ1つだけ、物をゆする身ぶりは、偶然と区別できませんでした。いくつもの意味に使われるこの身ぶりは、もともとの意味もほかの意味も、参加者はうまく選べませんでした。
場面の説明の効果は、はっきりしませんでした。説明があると正解率は平均で約5ポイント高くなりました。でも統計で確かめると、この差は「はっきりした差」と言える基準に届きませんでした。人は、主に身ぶりそのものを見て意味を選んでいたと考えられます。
04人に分かる理由は「祖先から受けついだから」か。反論もある
チームは論文で、人と類人猿の共通の祖先が使っていた身ぶりを、人がいまも理解できるのかもしれない、と書いています。人とチンパンジー・ボノボの祖先が分かれたのは、600万〜700万年前とされています。
けれど、チーム自身も、なぜ分かるのかはまだ分からないと認めています。考えられる説明はいくつもあります。身ぶりが生まれつき受けつがれているのかもしれません。あるいは、体のつくりや、したいことが似ているので、自然に意味が通じるのかもしれません。身ぶりの動きが、相手にしてほしい動作そのものに似ている可能性もあります。
この論文と一緒に、審査の記録も公開されています。そこでは、審査にかかわった研究者が厳しい意見を出していました。人が意味を分かるのは、昔の記憶ではなく、人もいまだに似た身ぶりを使っているからではないか、というのです。「人が類人猿の身ぶりの理解を受けついでいる」という言い方は控えるべきだ、という指摘もありました。
実験のやり方にも限界があります。たとえば口もとをなでる身ぶりでは、動画に食べ物が映りこむことがありました。身ぶりだけを見せたつもりでも、場面の手がかりを完全には消せなかったのです。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
「使う」ではなく「分かる」を調べた工夫
人の身ぶりを観察して、類人猿と同じものを探すのは大変です。人は言葉と一緒に、指さしやまねなど、さまざまな身ぶりを使います。文化によっても身ぶりは違います。その中に類人猿と同じ身ぶりがあっても、まぎれて見えなくなってしまいます。
そこでチームは、動物の研究でよく使われる方法をひっくり返しました。ふつうは、動物に音や映像を聞かせたり見せたりして、反応を調べます。今回は人に類人猿の映像を見せ、人の反応を調べたのです。インターネットのゲームにしたことで、何千人もの答えを集められました。
人の赤ちゃんは、類人猿の身ぶりを使っている
大人では見つけにくい類人猿の身ぶりも、言葉を話す前の子どもでは見つかっています。論文が紹介する研究によると、1〜2歳の子どもは、類人猿の身ぶりのうち50種類以上を使っていました。また、類人猿の体で作れる身ぶりの形は1000種類をこえますが、類人猿が実際に使うのはその約12%です。限られた形の中で人と類人猿の身ぶりが重なるのは、偶然とは考えにくい、とチームは書いています。
人が演じた身ぶりでも、意味は通じるか
2024年には、グラハムさんとホベイターさんもふくむチームが、別の形の実験を発表しました。こんどは、人がチンパンジーの身ぶり10種類をまねて演じた動画を、300人に見せました。すると、9種類の身ぶりで、参加者の答えが1つの意味にまとまりました。そのうち6種類は、チンパンジーでの意味と同じでした。残りの3種類は、人どうしでは答えがそろっても、チンパンジーとは違う意味になりました。身ぶりの意味のどこまでが共通なのかは、まだ調べている途中です。
ゴリラやオランウータンの身ぶりはどうか
今回の実験は、人にもっとも近いチンパンジーとボノボだけを使いました。ゴリラやオランウータンも、多くの身ぶりが共通していると考えられています。けれど、その身ぶりの意味はまだ確かめられていません。そのため、テストに使えなかったのです。
05まとめ
チンパンジーとボノボがよく使う10種類の身ぶりを、5656人が4択で当てました。正解率は5割をこえ、でたらめの25%を大きく上回りました。場面の説明があると正解率は少し上がりましたが、はっきりした差ではありませんでした。
ただし、なぜ人に意味が分かるのかは、まだ決着がついていません。昔の祖先から受けついだ力なのか、今の人も似た身ぶりを使っているからなのか、意見が分かれています。
研究で一番当てられやすかった身ぶりの1つは、相手の口もとをなでる「その食べ物ちょうだい」でした。
研究カルテ
イギリス(セント・アンドルーズ)
- 研究チーム
- イギリスのセント・アンドルーズ大学のチーム(第一著者カースティ・グラハム)
- 調べた場所
- インターネット上の実験(動画はウガンダとコンゴ民主共和国で撮影)
- 調べた動物
- 野生のチンパンジー(学名 Pan troglodytes)とボノボ(Pan paniscus)の身ぶり
- 調べ方
- よく使う10種類の身ぶりの動画を見せ、意味を4つから選ばせた。半分の人には場面の説明も見せた
- 分かったこと
- 正解率は5割をこえ、でたらめ(25%)より高かった。説明の有無の差はわずかだった
- まだ分からないこと
- 人が意味を分かるのは、生まれつきか、体のつくりや目的が似ているからか
- 論文
- PLOS Biology(2023年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Chimpanzees and bonobos use many gestures to talk to each other. For example, a loud scratch on the body means "Groom me."
Scientists in Scotland made an online game. Players watched short videos of ten common ape gestures. Then they chose the meaning from four answers. The videos came from wild apes in Africa. More than 17,000 people played the game in 2017.
The scientists studied the answers of 5,656 people. If people only guessed, they would be right 25 percent of the time. But they were right more than half of the time. A short note about the scene did not help much. Only one gesture, shaking an object, was too hard for them.
Why can people understand these gestures? Maybe humans and apes share them from a common past. Or maybe people still use similar gestures today. Scientists do not know the answer yet.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many answers did the players choose from?参加者はいくつの答えから選びましたか。
1本の動画ごとに、4つの意味の答えから1つを選びました。
Q2. What does a loud scratch on the body mean?体を大きな音でかく身ぶりは、どんな意味ですか。
この身ぶりは、相手に毛づくろいを頼むときに使われます。
Q3. How often were the players right?参加者はどれくらい正解しましたか。
正解率は5割をこえ、あてずっぽうの25%を上回りました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Graham, K. E. & Hobaiter, C. (2023) Towards a great ape dictionary: Inexperienced humans understand common nonhuman ape gestures. PLOS Biology 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pbio.3001939
- 2Graham, K. E. & Hobaiter, C.(2023)同論文の全文と審査の記録(PMC)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9873169/
- 3University of St Andrews(2023)ニュースリリースnews.st-andrews.ac.uk/archive/humans-can-recognise-and-under
- 4Graham, K. E. et al. (2018) Bonobo and chimpanzee gestures overlap extensively in meaning. PLOS Biology 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pbio.2004825
- 5Henderson, R. M. et al. (2024) Shared semantics: Exploring the interface between human and chimpanzee gestural communication. Mind & Language 論文確認済みdoi:10.1111/mila.12500
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





