古代中国で人の近くに3500年いたネコは、イエネコではなくベンガルヤマネコだった

中国の遺跡のネコの骨のDNAを調べると、5400年前から漢の時代まで村にいたのはベンガルヤマネコ。イエネコは唐の時代に現れた。

No.072 8分で読めるえっ度 論文 2026年
古代中国の農村で、土でできた穀物の倉の前を、体じゅうに丸い斑点のあるベンガルヤマネコが1匹、ネズミをねらって身をかがめている。遠くに土でできた家が見える。

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  1. 5400年前から漢の時代まで、村のネコはベンガルヤマネコだった
  2. 中国で一番古いイエネコの骨は、唐の時代の730年ごろのもの
  3. その最初のイエネコは、白い毛を持っていた可能性が高い

人に話すなら

昔の中国の村にいたネコって、今のネコじゃなくて、ベンガルヤマネコっていう野生のネコだったんだって。今のネコが中国に来たのは、ずっと後の唐の時代らしいよ。

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中国では5000年以上前から、今のネコ(イエネコ)が人と暮らしていた

約5400年前の中国の農村。人々はアワなどの穀物を育て、土器にたくわえていました。その村の跡から、ネコのなかまの骨が見つかっています。一時は「中国で一番古い飼いネコかもしれない」と考えられた骨です。

最近、北京大学やオックスフォード大学などのチームが、中国の遺跡のネコの骨22点のDNAを調べました。すると、5400年前から紀元150年ごろまで人の村にいたのは、今のネコ(イエネコ)とは別の種、ベンガルヤマネコでした。中国で一番古いイエネコの骨は、ずっと後の唐の時代、730年ごろのものでした。

小さなネコの骨は、形だけでは種類を見分けるのが難しいものです。そのため、「イエネコは5000年前から中国にいた」「漢の時代には来ていた」など、いくつもの説がありました。古い骨からDNAを取り出す技術が進み、ようやく1点ずつ種類を確かめられるようになったのです。

015000年以上前の村で、ネコはネズミを食べていた

最初の手がかりは、2014年に発表された研究です。中国科学院大学などのチームが、陝西省の泉護村(せんごそん)という遺跡を調べました。約5300〜5600年前の農村の跡です。そこから出たネコのなかまの骨は、イエネコと同じくらいの大きさでした。

チームは、人やネズミ、ネコの骨に残る成分を調べました。骨の成分からは、その動物がふだん何を食べていたかが分かります。すると、人もネズミもネコも、アワを中心とした食べ物を口にしていました。ネズミは村の穀物を食べ、ネコはそのネズミを食べていたと考えられます。

村には、ネズミが入らないように工夫した土器のたくわえ用のつぼもありました。ネズミは、農家にとって困った相手だったのです。さらに、ネコの1匹は、ふつうより穀物を多く食べていました。人からえさをもらっていたか、人の食べ残しをあさっていた可能性があります。

ところが2016年、別のチームが骨の形をくわしく測り直しました。フランス国立自然史博物館のジャン=ドゥニ・ヴィーニュ(Jean-Denis Vigne)さんたちです。結果は、イエネコではなくベンガルヤマネコでした。

0222点の骨のDNAで、ネコの種類を1点ずつ確かめた

2025年、北京大学のハン・ユー(Yu Han)さんたちは、もっと大がかりに調べました。中国でこれまで小型のネコの骨が出た遺跡は、15か所あります。チームはそのうち14か所から、骨22点を集めました。年代は、紀元前3500年ごろから紀元1800年ごろまでです。

チームは骨からDNAを取り出しました。全部の骨で、母から子へ受けつがれるミトコンドリアのDNAを読みました。7点では、さらにくわしく細胞の核のDNAも読みました。6点は放射性炭素年代測定で、年代を直接測りました。そして、ユーラシア各地の昔と今のネコ、130点のデータと比べました。

03漢の時代の終わりまで、村のネコはベンガルヤマネコだった

結果ははっきり分かれました。唐の時代より前の骨は8点ありました。そのうち7点がベンガルヤマネコでした。残る1点(約3800年前)は、イエネコでもベンガルヤマネコでもない、別の野生のネコでした。

一番古いベンガルヤマネコは、あの泉護村の約5400年前の骨です。一番新しいのは、鄭韓故城(ていかんこじょう)という遺跡の、人の墓から見つかった骨格で、紀元150年ごろのものでした。ベンガルヤマネコは、少なくとも3500年にわたり、人の暮らす場所にいたことになります。

「漢の時代にはイエネコが来ていた」という説の根拠になった骨もありました。漢の都、長安の遺跡から出た前足の骨です。けれどDNAを調べると、これもイエネコではありませんでした。

ベンガルヤマネコが人のそばにいたことは、昔の書物や絵からもうかがえます。紀元前5〜3世紀にまとめられた『礼記(らいき)』には、田畑の害獣を退治する「野のネコ」を人々がむかえたことが書かれています。紀元前168年ごろの馬王堆(まおうたい)の墓から出た食器の飾りには、丸い斑点のあるネコの姿が描かれていました。チームは、この模様がイエネコよりベンガルヤマネコに似ていると指摘しています。

乾いた土地に残る、白っぽい土の城壁の町の跡。城壁の前に、短い白い毛で長いしっぽのイエネコが1匹座っている。

04600年のすき間のあと、唐の時代に白いイエネコが現れた

紀元150年ごろを最後に、ネコの骨は遺跡からいったん見つからなくなります。次にネコの骨が現れるのは、約600年後です。しかもそれは、ベンガルヤマネコではなくイエネコでした。

中国で一番古いイエネコの骨は、陝西省の統万城(とうまんじょう)という遺跡から出ました。シルクロードの重要な町の跡です。年代は706〜883年のあいだで、730年ごろとみられます。唐の時代の半ばです。

チームは、この骨の核のDNAをくわしく読み、どんな姿だったかを調べました。オスで、毛は短く、しっぽは長かったとみられます。毛の色は、全身が白か、しまもようの体に白いぶちが入っていた可能性が高いと分かりました。遺伝子の型からは、黒い毛やオレンジ色の毛(茶トラ)ではなかったと考えられます。

この時代は、絵や物語にも初めてイエネコが登場するころです。820〜830年ごろの唐の2つの墓の中に、ネコの絵が描かれています。また唐の物語には、皇后が飼いネコを家臣に見せる場面があります。チームは、イエネコは珍しいペットとして、身分の高い人に飼われていたのだろうと考えています。

チームは、唐から20世紀までの絵33点に描かれたネコ91匹も調べました。そのうち85%に、白い毛が入っていました。昔の東アジアでは白いネコが好まれたのかもしれない、とチームは書いています。ただし、これはまだ仮の考えだとしています。

05イエネコはシルクロードで来た? 証拠はまだ足りない

では、イエネコはどこから来たのでしょうか。ミトコンドリアのDNAを比べると、中国の昔のイエネコは、どれも同じグループに入りました。地中海の東の岸の地方(レバント)に起源を持つグループです。今の中国のイエネコでも、38匹のうち30匹がこのグループでした。

カザフスタンのシルクロードの町の跡からも、775〜940年ごろのイエネコが見つかっています。このネコのDNAも、中国の昔のイエネコとよく似ていました。チームはここから、イエネコは商人とともにシルクロードを通って中国に来た可能性があると考えました。

けれど、チーム自身が弱いところも認めています。シルクロードの道すじで、700年より前のネコの骨がまだ見つかっていないのです。そのため、シルクロードを通ったと言い切ることはできません。また、今の中国の南や東の海岸のイエネコには、別のグループのネコも混じっています。海の道で来たネコがいたのか、最近のペットの品種が混ざったのかは、分かっていません。

ベンガルヤマネコが村から消えた理由も、はっきりしていません。漢が滅んだあとの時代は、寒くて乾いた気候が続き、作物がとれにくくなりました。争いが多く、人口も400年ほど減り続けました。チームは、こうした変化で村の環境が変わり、ヤマネコがいられなくなったのではないかと考えています。のちにニワトリを飼うことが広まり、ニワトリを襲うヤマネコが人とうまくいかなくなった可能性も挙げています。どれも推測の段階です。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

人のそばにいても、ベンガルヤマネコは家畜にならなかった

人の村に入りこみ、人の出す食べ物やネズミを利用する。こうした関係は、動物が家畜になっていく入り口の1つと考えられています。イエネコの祖先のリビアヤマネコも、農村のネズミを追って人に近づいたと考えられてきました。ベンガルヤマネコも、3500年以上それに近い関係を人と続けていました。けれど結局、家畜にはならず、人の村から姿を消しました。論文は、ベンガルヤマネコは自然のすみかへ戻ったと書いています。

ベンガルヤマネコは、イエネコとは属という分類が違います。自然には、イエネコと子どもを作りません。人の手でかけ合わせたのは1980年代からで、そこから「ベンガル」というネコの品種が生まれました。日本の対馬にすむツシマヤマネコも、学名を見るとベンガルヤマネコと同じ種に入っています。

研究の歴史:骨の大きさ、形、そしてDNAへ

2014年の研究は、骨の大きさや食べ物の成分から、5000年以上前のネコと人の関係を示しました。この研究では、骨はイエネコの大きさの範囲だとされました。2016年の研究は、骨の形を細かく測って、ベンガルヤマネコだと結論しました。そして今回の研究は、DNAと年代測定で、骨を1点ずつ確かめました。新しい方法が出るたびに、答えが書きかえられてきたのです。

ほかの家畜とくらべると、イエネコはかなり遅い

論文によると、ウシ・ヒツジ・ヤギが中国に来たのは紀元前3000〜2000年ごろです。ウマは紀元前1200年ごろでした。イエネコはウマより1900年ほど後で、中国に来た家畜の中でも最も遅いものの1つでした。

野生のネコへの影響という、今の問題

昔の中国のイエネコの骨には、中国の野生のネコの遺伝子は混じっていませんでした。ところが今、チベット高原では、イエネコの遺伝子の1〜10%がハイイロネコという野生のネコから来ているという報告があります。ヨーロッパでも、イギリスのスコットランドでは、イエネコとの雑種が増えて、純粋なヨーロッパヤマネコが失われたとされます。イエネコが広がることは、野生のネコを守るうえでの課題にもなっています。

06まとめ

中国の遺跡のネコの骨をDNAで調べ直すと、5400年前から漢の時代の終わりまで人の村にいたのは、ベンガルヤマネコでした。その後、遺跡からネコがいなくなる約600年のすき間があります。そして唐の時代に、西から来たとみられるイエネコが現れました。

中国で一番古いイエネコは、シルクロードの町の跡から見つかったオスでした。DNAから考えると、その毛は全身が白か、白いぶちが入っていた可能性が高いのです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

中国陝西省(泉護村遺跡の近く)

研究チーム
中国の北京大学とイギリスのオックスフォード大学などのチーム(第一著者ハン・ユー)
調べた場所
中国各地の14の遺跡から出たネコのなかまの骨
調べた動物
古代のベンガルヤマネコ(学名 Prionailurus bengalensis)とイエネコ
調べ方
骨22点からDNAを取り出して種類を調べ、6点は年代も測った。ユーラシアのネコと比べた
分かったこと
漢の時代まで村にいたのはベンガルヤマネコ。イエネコは唐の時代に現れた
まだ分からないこと
イエネコが本当にシルクロードで来たのか。ベンガルヤマネコがなぜ村から消えたのか
論文
Cell Genomics(2026年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

The First Village Cats in China Were Wild Cats

About 5,400 years ago, farmers in China stored grain in their villages. Mice came to eat the grain, and small cats probably came to eat the mice.

Scientists from China and the UK studied the DNA of 22 old cat bones. The bones came from 14 places in China. The early village cats were not pet cats. They were leopard cats, a wild cat with round spots.

Leopard cats lived near people for at least 3,500 years. Then they disappeared from the villages. The oldest pet cat bone in China is from around the year 730. It was found in an old town on the Silk Road.

Its DNA shows that this cat was a male with short hair. It was probably all white or had white spots. The scientists think traders may have brought pet cats to China.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What did the scientists study?研究者は何を調べましたか。

Q2. What kind of cat lived in the early villages?初めのころの村には、どんなネコがいましたか。

Q3. What color was the oldest pet cat in China probably?中国で一番古い飼いネコは、おそらく何色でしたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Han, Y. et al. (2026) The late arrival of domestic cats in China via the Silk Road after 3,500 years of human-leopard cat commensalism. Cell Genomics 論文確認済みdoi:10.1016/j.xgen.2025.101099
  2. 2Han, Y. et al.(2026)同論文の全文(PMC)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12926185/
  3. 3北京大学生命科学学院(2025)研究紹介web.bio.pku.edu.cn/en/index/detail-2263.html
  4. 4Hu, Y. et al. (2014) Earliest evidence for commensal processes of cat domestication. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.1311439110
  5. 5Vigne, J.-D. et al. (2016) Earliest "Domestic" Cats in China Identified as Leopard Cat (Prionailurus bengalensis). PLOS ONE 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pone.0147295
  6. 6環境省「ツシマヤマネコ」env.go.jp/nature/kisho/hogozoushoku/tsushimayamaneko.html

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい