100年生きるかもしれない洞窟のホライモリ。1匹は7年後も同じ場所にいた
洞窟のホライモリに目印をつけて8年追うと、多くは1年に5mほどしか動かず、7年後に同じ場所で見つかる個体もいた。

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- 洞窟の水の中で、ホライモリに目印をつけて8年間追った
- 多くの個体は、1年たっても5mほどしか動いていなかった
- 7年後に、前とまったく同じ場所で見つかった個体もいた
人に話すなら
ヨーロッパの洞窟にいるホライモリって、100年くらい生きるかもしれないんだって。しかも7年後に、前とまったく同じ場所で見つかったやつがいたらしいよ。
読む前に予想しよう
ホライモリは、何年たっても同じあたりにとどまることが多い
目印をつけて追うと、1年で動いた距離はふつう5mほどだった。
ボスニア・ヘルツェゴビナの山の中に、水でいっぱいの洞窟があります。ダイバーがライトを持って潜っていくと、水の底に白くて細長い生き物がじっとしています。体の長さは20cmをこえ、目は皮ふの下にうもれていて見えません。ホライモリという両生類です。
ハンガリーなどの研究者は、この洞窟のホライモリに1匹ずつ目印をつけ、8年間にわたって見つけた場所を記録しました。すると、多くの個体は1年たっても5mほどしか動いていませんでした。ある1匹は、前に見つかってから2569日後(約7年後)に、まったく同じ場所でまた見つかりました。
ホライモリは、100年以上生きるかもしれないと推定されている生き物です。けれど、野生でどう暮らしているのかはほとんど分かっていませんでした。すみかが水の中の洞窟で、人が近づくのがとても難しいからです。分かっていたことの多くは、捕まえて水槽で飼った個体の観察から来ていました。
01目が見えず体も白い、ヨーロッパの洞窟だけにすむ両生類
ホライモリは、イモリやサンショウウオと同じ両生類のなかまです。すんでいるのは、スロベニアやクロアチアなど、ヨーロッパ南東部の地下の水の中です。ヨーロッパで、洞窟の暮らしに合わせて体が変わった背骨のある動物は、ホライモリだけだとされています。
ホライモリの祖先が洞窟に入ったのは、およそ880万〜2000万年前と考えられています。長い暗闇の暮らしで、目は役に立たなくなりました。ほとんどの地域のホライモリは、体の色も失って白っぽくなっています。また、子どものころの姿を残したまま大人になります。
目が見えないかわりに、ほかの感覚がよく働きます。においを感じる力、音を聞く力、地球の磁気を感じる力などです。食べ物がとぼしい洞窟で、何年も食べずに生きのびられることも知られています。
02フランスの洞窟で60年近く飼い続けた記録から、寿命を推定した
「100年生きる」という話は、フランスの研究から来ています。フランス南部のムーリスという村の洞窟に、1952年、ホライモリが暮らす川底に似せた水槽が作られました。1950年代の終わりから、ここでホライモリを増やす試みが始まりました。それ以来、生まれた数と死んだ数が毎週記録されてきました。
フランスのリヨン第1大学などのヤン・ヴォワチュロン(Yann Voituron)さんたちは、この記録を2010年にまとめました。洞窟には、いろいろな年齢のホライモリが400匹以上いました。大人が1年のうちに死なずに生き残る割合は、98.4%でした。しかも年をとっても、この割合は下がっていませんでした。
いちばん年上の個体は、少なくとも48歳でした。メスが卵を産めるようになるのは、平均15.6歳です。卵は平均で12.5年に1回、1回に35個ほど産みます。
チームはこの生き残る割合から、大人の平均の寿命を68.5年と計算しました。さらに、最長の寿命はおよそ102年と推定しました。ただしこれは、100歳の個体が見つかったわけではありません。「年をとっても弱らない」という前提で計算した予想の値です。
03潜って、しっぽに目印を入れ、何年も同じ通路を見回った
では、野生のホライモリは洞窟の中でどう暮らしているのでしょうか。それを確かめたのが、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学のゲルゲイ・バラージュ(Gergely Balázs)さんたちです。
舞台は、ボスニア・ヘルツェゴビナ南部の町トレビニェの近くにある「ヴルリャク1」という洞窟です。中の通路はほとんどが水の中で、潜らないと入れません。この洞窟は洪水がおだやかで、ほかの洞窟よりホライモリがたくさんいました。
チームはまず、目印のつけ方を工夫しました。ホライモリを手で捕まえ、しっぽのひれの皮の下に、細い針で黒い色の目印を入れます。目印の形は1匹ごとに違うので、1〜2m離れた所から見ても誰だか分かります。1匹に目印を入れるのに、2分もかかりません。そして、捕まえたその場所に放しました。水の外へ連れ出さずにすむので、動物への負担が小さくなります。
2016年5月、入り口から270mまでの区間で、大人19匹に目印を入れました。その先の80mは、目印のある個体が遠くへ動いていないかを確かめるための区間です。チームはその後、2018年9月まで4回、調査のために潜りました。2010年に試しに目印をつけた7匹も、記録に加えました。

潜るのはいつも2人です。ゆっくり同じ速さで泳ぎ、目印のある個体を見つけると、その位置を記録しました。洞窟の地図は同じチームが作ったものなので、見つけた場所を正確に書きこめました。
04多くの個体は、1年たっても5mほどしか動いていなかった
2016年に目印をつけた19匹のうち、13匹が後でまた見つかりました。2010年の7匹のうち5匹も、また見つかりました。後から見つかった目印のない大人は、ほとんどいませんでした。チームは、この270mの区間にいる大人は26匹ほどだと考えています。
結果ははっきりしていました。次に見つかるまでの間に動いた距離は、真ん中の値(小さい順に並べたときに真ん中にくる値)で5mでした。そのあいだにたった日数は、真ん中の値で357.5日、つまり約1年です。一番大きく動いた個体でも、230日で38mでした。
さらに、たった時間が長くても、動いた距離は長くなっていませんでした。1000日以上たってから見つかった例が4つありました。1480日、2074日、2197日、2569日です。そのうち3つでは、その個体は前とまったく同じ場所にいました。
目印をつけた個体は、確認用の80mの区間で一度も見つかりませんでした。全部で37回の再発見のうち、10mより長く動いていたのは10回だけでした。20mをこえたのは3回だけです。
水槽の観察では、ホライモリは群れたり、物かげに隠れたりすることが知られていました。けれど、この洞窟ではそんな様子は見られませんでした。ホライモリはたいてい開けた場所にいました。近くに何匹かいても、集まっているようには見えませんでした。
05動かないのに、遺伝子は10km先まで混ざっていた
ここで、別の研究と合わせると、なぞが残ります。スロベニアのリュブリャナ大学のチームは、ホライモリ201匹の遺伝子を調べました。ポストイナとプラニナという、地下の川で約10kmへだてられた2つの洞窟の個体です。すると、2つの洞窟のホライモリは、遺伝子の上ではほとんど1つの集団のようでした。
大人がほとんど動かないなら、遺伝子はどうやって10kmも混ざったのでしょうか。バラージュさんたちは論文で、動くのは子どもだけではないかという考えを紹介しています。けれど、これはまだ確かめられていません。チームは、危ないので子どもには目印をつけていませんでした。
チーム自身も、研究の弱いところを書いています。ダイバーが入れない岩のすき間にいる個体は、調べられませんでした。冬は水が増えるので、潜れませんでした。さらに、この洞窟のホライモリは、調べた11か所の遺伝子の目印で、個体ごとの違いがまったく見つかっていません(まだ発表前のデータ)。クロアチアの4つの集団では、同じ目印で違いが大きく出ていました。この洞窟の集団は、少ない祖先から増えたなど、特別な事情をかかえているのかもしれません。そのため、この結果がほかの洞窟にも当てはまるかは、まだ分かりません。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
小さいのに長生き。いちばんの説明がまだ見つからない
動物では、体が大きいほど長生きするという関係がよく知られています。ところがホライモリの体重は15〜20gしかありません。それでも、ヴォワチュロンさんたちによると、近いなかまの3倍ほど長生きです。論文は、長生きの点でホライモリに近い両生類として、体重25kgをこえるオオサンショウウオを挙げています。
長生きの説明として、よく挙げられる考えが2つあります。1つは、体の中でエネルギーを使う速さ(代謝)が遅いという考えです。ところがホライモリの代謝の速さは、ほかの両生類とあまり変わりませんでした。
もう1つは、体を傷つける物質(活性酸素)を消す力が強いという考えです。けれどホライモリでは、この力も特に強くはありませんでした。チームは、細胞の中でむだなくエネルギーを作るしくみがあるのではないかと考えています。ただし、まだ仮説の段階です。
研究の歴史:200年以上前から知られていた
ホライモリは、洞窟にすむ動物の中で、科学の記録がもっとも古くからある種の1つです。1807年の文献も残っています。1970年代には、水槽の中で、ホライモリが自分のいる場所の底ににおいをつけることが報告されました。2002年には、水槽の実験で、においを手がかりに自分の隠れ場所を見つけ出せることも示されました。2015年、バラージュさんたちは水中でその場で目印をつける方法を発表しました。この方法が、野生のホライモリを何年も追う研究につながりました。
動かないことは得なのか、まだ答えは出ていない
洞窟には、ホライモリを食べる敵も、食べ物を取り合う相手もほとんどいません。論文は、動かないことにどんな得があるのか、強い説明はできないと正直に書いています。チームの推測は、エネルギーを節約するためではないか、というものです。食べ物が少なく、何年も食べずに生きられ、めったに卵を産まない。そんな動物は、動くことも最小限にしているのかもしれません。
ほかの両生類とくらべると
ただし論文は、この「動かなさ」が両生類の中で飛びぬけているとは限らない、とも書いています。たとえば、洞窟にもすむサンショウウオのなかまを人工のトンネルで調べた研究では、1匹が使う範囲が平均6平方mでした。動く範囲がとても狭い両生類は、ほかにもいるのです。
保護のうえでの意味
チームは、この結果が保護のやり方にも関わると指摘しています。数時間だけ捕まえて、だいたい元の場所に戻す。それだけでも、決まった場所で暮らすホライモリには負担になるかもしれません。100年近く生きて、12年に1回しか卵を産まない動物では、数の減少に気づくのも遅れます。ホライモリは、洞窟の水の変化を知らせる生き物としても注目されています。
06まとめ
ヨーロッパの水中洞窟にすむホライモリは、目が見えず、体の白い両生類です。フランスの飼育記録からは、最長で100年ほど生きるという推定が出ています。ボスニア・ヘルツェゴビナの洞窟で8年間追いかけると、多くの個体は1年に5mほどしか動いていませんでした。
一方で、遠く離れた洞窟どうしで遺伝子が混ざっているなど、なぞも残っています。誰が、いつ、どうやって動いているのかは、まだ分かっていません。
この研究で一番長く見つからなかった個体は、2569日ぶりに姿を見せました。そこは、約7年前に見つかったのと同じ場所でした。
研究カルテ
ボスニア・ヘルツェゴビナ(トレビニェ)
- 研究チーム
- ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学などのチーム(第一著者ゲルゲイ・バラージュ)
- 調べた場所
- ボスニア・ヘルツェゴビナ南部、トレビニェ近くの水中洞窟「ヴルリャク1」
- 調べた動物
- 野生のホライモリ(学名 Proteus anguinus)の大人
- 調べ方
- 潜って捕まえ、しっぽに目印を入れてその場に放した。何年も潜って、見つけた場所を地図に記録した
- 分かったこと
- 動いた距離はふつう数m。長く時間がたっても、遠くへ動いてはいなかった
- まだ分からないこと
- なぜ動かないのか。岩のすき間にいる個体や、ほかの洞窟でも同じなのか
- 論文
- Journal of Zoology(2020年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
The olm is a white amphibian with no working eyes. It lives in dark underwater caves in Europe. Scientists in France think it may live for about 100 years.
A team from Hungary studied wild olms in a cave in Bosnia and Herzegovina. The divers caught each olm by hand and put a small black mark under its tail skin. Then they let it go at the same spot.
For eight years, they looked for the marked olms again. Most of them moved only about five meters in a year. One olm was found in the exact same place after about seven years.
Why do they move so little? The scientists think the olms may be saving energy, because food is hard to find in caves. But nobody knows for sure yet.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. Where does the olm live?ホライモリはどこにすんでいますか。
ホライモリはヨーロッパの暗い水中の洞窟にすんでいます。
Q2. How far did most olms move in a year?ほとんどのホライモリは、1年でどのくらい動きましたか。
ほとんどの個体は、1年で5mほどしか動いていませんでした。
Q3. What did the divers put under the olm's tail skin?ダイバーはホライモリのしっぽの皮の下に何を入れましたか。
1匹ずつ違う形の黒い印を入れて、あとで見分けられるようにしました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Balázs, G., Lewarne, B. & Herczeg, G. (2020) Extreme site fidelity of the olm (Proteus anguinus) revealed by a long-term capture–mark–recapture study. Journal of Zoology 論文確認済みdoi:10.1111/jzo.12760
- 2Voituron, Y. et al. (2011) Extreme lifespan of the human fish (Proteus anguinus): a challenge for ageing mechanisms. Biology Letters 論文確認済みdoi:10.1098/rsbl.2010.0539
- 3Voituron, Y. et al.(2011)同論文の全文(PMC)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3030882/
- 4Zakšek, V., Konec, M. & Trontelj, P. (2018) First microsatellite data on Proteus anguinus reveal weak genetic structure between the caves of Postojna and Planina. Aquatic Conservation 論文確認済みdoi:10.1002/aqc.2822
- 5Britannica「olm」britannica.com/animal/olm
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





