動物園のカメ52種の4分の3は、年をとってもほとんど死にやすくならなかった

動物園のカメ52種の記録を調べると、約4分の3の種で、年をとっても死ぬ危険がほとんど上がらなかった。ただし不死身ではない。

No.011 9分で読めるえっ度 論文 2022年
動物園の日なたで、大きな年老いたアルダブラゾウガメが、首をのばして草を食べている。そばを同じ種の小さな子ガメが歩いている。

30秒で読む

  1. 人やほとんどのけものは、年をとるほど死にやすくなる
  2. 動物園のカメ52種のうち約4分の3は、そうならなかった
  3. かたい甲羅と、大人になっても育つ体が関係するらしい

人に話すなら

カメって、年をとっても死にやすくならない種が多いんだって。動物園の52種を調べたら4分の3がそうだったらしい。人間は年とともに死にやすくなるのにね。

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読む前に予想しよう

動物園のカメの多くの種は、年をとってもほとんど死にやすくならない

人は、年をとるほど死にやすくなります。アメリカの統計では、10歳の女性が1年のうちに死ぬ危険は約2500人に1人です。80歳になると、約24人に1人に上がります。鳥やけものの多くでも、年とともに死にやすくなることが確かめられています。

ところが、カメはこのルールに当てはまらないかもしれません。デンマークの研究チームが、動物園と水族館にいるカメ52種の記録を調べました。すると、約4分の3の種で、年をとっても死ぬ危険がほとんど上がっていませんでした。同じ日に出た別の研究でも、野生のカメは体の大きさのわりに老化がとても遅いと分かりました。

生き物はみな、いつかは老いて弱る。このことは長いあいだ、生物学のほぼ常識でした。カメの研究は、その常識に「全部の動物がそうとは限らない」と問いかけています。

01「老化の速さ」は、年とともに死にやすくなる速さのこと

まず、この研究でいう「老化」をはっきりさせておきます。しわや白髪の話ではありません。年をとるにつれて、死ぬ危険がどれくらいの速さで上がっていくか。これを「老化の速さ」と呼びます。

たとえば、10歳のときに1年で死ぬ危険が1%だった動物がいるとします。この危険が20歳、30歳と年をとるにつれてどんどん上がるなら、その動物は老化しています。もし何歳になっても1%のままなら、その動物は「ほとんど老化しない」ことになります。

人間は、この100年ほどでずっと長生きになりました。ただ、研究チームによると、これは赤ちゃんや子どものうちに死ぬ人が減ったおかげです。年とともに死にやすくなる速さそのものは、ほとんど変わっていません。人やサルでは、くらしが良くなっても老化の速さは下げられなかったのです。

02動物園の記録52種分から、カメの老け方を計算した

カメの老化を調べるのは大変です。カメは何十年も生きます。年をとってから死にやすくなるかを確かめるには、たくさんの個体を長い年月にわたって追う必要があります。

そこで、南デンマーク大学のリタ・ダ・シルバ(Rita da Silva)さんとフェルナンド・コルチェロ(Fernando Colchero)さんたちは、動物園と水族館の記録に目をつけました。「Species360」という記録のしくみには、世界の動物園や水族館など1000をこえる施設が参加しています。ここに、1匹ごとの飼育の記録が集まっています。

チームはこの記録から、カメのなかま52種を選びました。メスは47種、オスは39種について、大人になってからの年齢ごとの死にやすさを計算しました。計算には、答えの確からしさの幅もいっしょに出せる統計の方法を使いました。

そして、大人のうち8割が死んでいるはずの年齢で、老化の速さを測りました。若すぎる年齢では老化がまだ始まっていません。逆に年をとりすぎると、生き残りが少なくて数字がぶれます。8割というのは、その間をとった目安です。

034分の3の種で、年をとっても死にやすさがほとんど上がらなかった

結果はこうでした。メスでは47種のうち35種、オスでは39種のうち31種で、老化の速さがゼロと区別できませんでした。どちらもおよそ4分の3です。年をとっても、死ぬ危険が上がっているとは言えなかったのです。

中には、年をとるほど死ぬ危険が少し下がるように見える種もありました。メスではギリシャリクガメなど2種、オスでは1種です。インド洋の島にすむアルダブラゾウガメのメスも、老化の速さがゼロのすぐ近くにおさまっていました。

さらに、老化の速さが今の人間より遅い種は、メスで約8割、オスで9割近くありました。カメのなかまの数字は、ほとんどのけものよりずっと低いところに集まっていました。

ほかにも分かったことがあります。体が重い種ほど、大人になってから長く生きました。また、オスとメスを34種で比べると、大人になってからの寿命は、平均でオスのほうが2割ほど長くなりました。ただし種によるばらつきは大きいものでした。メスがオスより大きい種では、メスが長生きする傾向がありました。

大きなゾウガメが草地をゆっくり歩き、その後ろに、同じ種の小さな子ガメから大きな大人まで、大きさの違うカメが一列に並んでいる。

04野生の77種でも、ほぼ老けない種があちこちで見つかった

動物園のカメは、エサにこまらず、敵におそわれることもありません。だから老けないだけでは、という疑問がわきます。これに答えたのが、同じ日に同じ雑誌に出た、もう1本の研究です。

アメリカのペンシルベニア州立大学のデビッド・ミラー(David Miller)さんや、ノースイースタン・イリノイ大学のベス・ラインキ(Beth Reinke)さんたちのチームです。研究者は114人にもなりました。チームは、世界の野生のカメ、トカゲ、ヘビ、ワニ、カエル、サンショウウオなど77種、107の群れのデータを集めました。

データの取り方は、つかまえて印をつけ、放して、また見つけるやり方です。これを何年もくり返すと、どの個体が何年生きたかが分かります。調査の長さは平均17年、長いものは60年にもなりました。

結果、カエル、ワニ、カメのどのグループにも、ほとんど老けない種が少なくとも1種いました。カメ、ワニ、サンショウウオは、体の大きさのわりに老化がとても遅く、長く生きていました。

05でも、カメは死なないわけではない

ここで大事な注意があります。「ほとんど老化しない」は「死なない」とは違います。コルチェロさんは、死ぬ危険は年とともに上がらないが、ゼロでもないと説明しています。カメも病気や事故で、いつかは死にます。

それに、全部のカメが老けないわけでもありません。動物園のように守られたくらしでも、メスでは約2割の種が、はっきり老化していました。

野生とのくらべも、すっきりしない結果でした。チームは3種について、野生のデータとくらべました。北アメリカのアカミミガメと、アフリカのホームセオレガメでは、野生のほうが老化がずっと速かったのです。アカミミガメは動物園の約4倍、ホームセオレガメは5倍以上の速さでした。一方、ニシキガメでは、野生の老化の速さは動物園とあまり変わりませんでした。かわりに、年齢に関係なく死ぬ危険が、野生では大きかったのです。

つまり、カメの老け方はくらしによって変わるらしいのです。研究チームは、カメはくらしが良くなると老化をおさえられるかもしれないと考えています。人やサルでは、くらしが良くなっても老化の速さは変わりませんでした。この違いは大きな問いです。ただし、どんなしくみで変わるのかは、まだ分かっていません。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

「老化はさけられない」という考えは、どこから来たのか

イギリスの生物学者ピーター・メダワー(Peter Medawar)は1952年に、老化を進化で説明する考えを出しました。野生では、多くの個体が年をとる前に、敵や病気で死んでしまいます。そのため、年をとってから悪さをする遺伝子があっても、自然の選び分けでは取りのぞかれにくい、という考えです。1966年にはウィリアム・ハミルトン(William Hamilton)がこれを数式にまとめました。この流れから、体をつくる細胞と、卵や精子のもとになる細胞が分かれている生き物は、みな老化すると考えられるようになりました。

1977年には、トム・カークウッド(Tom Kirkwood)が「使いすての体」説を出しました。生き物の力には限りがあり、子を残すことに力を使う分、体の修理は後回しになる、という考えです。この説でも、老化はいつかやってきます。

一方で、例外を探す人もいました。アメリカのケイレブ・フィンチ(Caleb Finch)は1998年の論文で、ある種の魚や針葉樹のように、老化がほとんど目立たない生き物がいる可能性を示しました。2014年には、46種の生き物の一生をならべた研究が出ます。その中で、北アメリカのサバクゴファーガメは、年をとるほど死ぬ危険が下がり続けていました。

カメが老けにくいのは、甲羅と、育ち続ける体のせいかもしれない

カメには2つの特徴があります。1つは、大人になっても体が大きくなり続けることです。体が大きくなるほど、たくさんの卵を産めるかもしれません。そうなると、年をとった個体ほど子孫を多く残すことになります。年をとった体を保つことに、進化の上での得が生まれるわけです。

もう1つは、かたい甲羅です。ラインキさんたちの研究では、甲羅やワニのかたいうろこのような体の守りを持つ種は、守りのない種より老化が遅く、長く生きていました。ラインキさんは、守りのある動物はほかの動物に食べられにくいので、死ぬ危険が下がると説明しています。長生きする個体が多くなると、ゆっくり老化するしくみが進化しやすくなる、と考えられています。ただし、これはまだ「考えられている」段階です。どの遺伝子や細胞のしくみが老けにくさを生むのかは、分かっていません。

研究方法の限界

動物園の記録には、野生とは違う点がたくさんあります。エサは毎日あり、敵はおらず、冬眠しない個体もいます。ダ・シルバさんたちも、結果が野生の老け方を表しているとは限らないと書いています。また、年をとってからどれだけ卵を産むかのデータが足りず、子を産むことが寿命にどう効くかは確かめられませんでした。

野生のデータにも弱点があります。カメは何十年も生きるので、60年調べても、一生を最後まで追えない種があります。同じニシキガメでも、すむ場所によって大人になる年齢や老け方がかなり違うことも分かっています。「カメ」とひとまとめにせず、種ごと、群れごとに見ていく必要があります。

06まとめ

動物園と水族館のカメ52種を調べると、約4分の3の種で、年をとっても死ぬ危険がほとんど上がりませんでした。野生の77種の研究でも、カメやワニ、サンショウウオに老化のとても遅い種が見つかりました。

ただし、カメは不死身ではありません。はっきり老化する種もいますし、野生では動物園より速く老ける種もいました。老けにくさを生むしくみも、まだ分かっていません。

それでも、この2つの研究で分かったことがあります。年とともに弱っていくのは、すべての生き物の決まりではないかもしれないのです。人では10歳と80歳で、1年のうちに死ぬ危険が100倍ほど違います。カメの多くの種では、年をとっても死ぬ危険が上がっているとは言えませんでした。

RESEARCH FILE

研究カルテ

デンマーク・オーデンセ(南デンマーク大学)

研究チーム
南デンマーク大学のリタ・ダ・シルバ、フェルナンド・コルチェロらのチーム
調べた場所
世界の動物園・水族館の飼育記録(記録のしくみ Species360 を利用)
調べた動物
カメのなかま52種(リクガメ・ミズガメなど。カメ目 Testudines)
調べ方
年齢ごとの死にやすさを計算し、年とともにそれが上がる速さ(老化の速さ)を求めた
分かったこと
約4分の3の種で、老化の速さがゼロと区別できなかった。約8割の種は人より老化が遅い
まだ分からないこと
野生でも同じか。老けにくさを生む体のしくみは何か
論文
Science(2022年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Many Turtles Do Not Get Weaker With Age

As people get older, their risk of dying goes up every year. Scientists call this aging. Most mammals and birds also age in this way.

A team in Denmark looked at the records of 52 kinds of turtles in zoos and aquariums. In about three out of four kinds, the risk of dying did not clearly go up with age. About 80 percent of the kinds aged more slowly than modern humans.

Another team studied 77 kinds of wild reptiles and amphibians. They found slow aging in turtles, crocodiles, and salamanders. Animals with hard shells aged more slowly than animals without them. Animals with this kind of protection are not eaten easily.

But turtles do not live forever. They can still die from illness or accidents. Some kinds aged faster in the wild than in zoos. Scientists still do not know how turtles slow down aging.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many kinds of turtles did the team in Denmark study?デンマークのチームは何種のカメを調べましたか。

Q2. Which animals aged more slowly in the second study?2つ目の研究で、ゆっくり老化していたのはどんな動物ですか。

Q3. Which sentence is true?正しい文はどれですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1da Silva, R. et al. (2022) Slow and negligible senescence among testudines challenges evolutionary theories of senescence. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.abl7811
  2. 2Reinke, B. A. et al. (2022) Diverse aging rates in ectothermic tetrapods provide insights for the evolution of aging and longevity. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.abm0151
  3. 3Jones, O. R. et al. (2014) Diversity of ageing across the tree of life. Nature 論文確認済みdoi:10.1038/nature12789
  4. 4南デンマーク大学(2022)プレスリリースsdu.dk/en/om_sdu/fakulteterne/naturvidenskab/nyheder-2022/sk
  5. 5ペンシルベニア州立大学(2022)プレスリリースpsu.edu/news/research/story/secrets-reptile-and-amphibian-ag

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい