閉経するクジラは、同じ大きさの閉経しないクジラより約40年長生き。子を産む期間はそのまま
閉経するハクジラ5種は、同じ大きさの種より約40年長生きだった。子を産む期間はのびず、孫と一緒に生きる時間だけがふえていた。

30秒で読む
- 閉経が知られる哺乳類は、ほぼ人と5種のハクジラだけ
- 閉経する種は、子を産む期間はそのままで寿命だけがのびていた
- 長生きしたメスは、孫と一緒に生きる時間が長くなっていた
人に話すなら
子を産まなくなったあとも長生きする「閉経」って、人のほかにはシャチなど5種のクジラくらいでしか、はっきり知られていないんだって。調べると、子を産む期間はそのままで、寿命だけが40年くらいのびてたらしい。そのぶん孫と長く一緒にいられるんだよ。
読む前に予想しよう
閉経するクジラは、子を産む期間が短くなる方向に進化した
子を産む期間は同じ大きさの種と変わらず、寿命のほうがのびていた。
ほとんどの動物のメスは、命が終わるころまで子を産み続けます。子を残すことを考えれば、それが一番得だからです。ところが人の女性は、閉経したあとも何十年も生きます。哺乳類は5000種をこえますが、閉経がはっきり知られているのは、ほぼ人と、シャチなど5種のクジラだけです。
イギリスのエクセター大学などのチームは、ハクジラの仲間32種の寿命を比べました。すると閉経する5種は、同じくらいの体の大きさの種より、寿命が約40年長いと分かりました。一方で、子を産める期間は変わっていませんでした。チームは、閉経は子を産むのを早くやめたのではなく、寿命がのびることで生まれたと結論しています。
なぜ子を産まなくなったメスが長く生きるのか。この問いは、人の研究でも長く議論されてきました。人だけを見ていては、答えを確かめにくかったのです。何度も別々に閉経を身につけたハクジラは、それを比べて確かめられる、ほかにない手がかりになりました。
01閉経がはっきり知られている哺乳類は、ほぼ人と5種のハクジラだけ
ハクジラは、歯を持つクジラの仲間で、イルカもふくまれます。閉経が知られているのは、シャチ、コビレゴンドウ、オキゴンドウ、シロイルカ(ベルーガ)、イッカクの5種です。シャチなど3種と、シロイルカとイッカクの2種は、親せき関係が離れています。論文は、ハクジラでは閉経が少なくとも4回、別々に進化したとしています。
人の閉経がどれほど特別かは、数字で見るとよく分かります。自然に近い暮らしをする人の社会では、女性は大人になってからの人生の平均42.5%を、子を産まない時期として過ごします。いちばん近い仲間のチンパンジーは、多くの野生の群れで平均2%ほどです。ただし、ウガンダのある野生の群れでは、この時期がもっと長いことが報告されています。これは後で紹介します。
クジラの閉経は、昔からの記録の積み重ねで見えてきました。たとえばコビレゴンドウについては、日本の太平洋沿岸のコビレゴンドウを調べた、粕谷俊雄さんとヘレン・マーシュさんの1984年の報告が論文に引用されています。
02死んだクジラの歯の年輪から、32種の寿命を割り出した
第一著者は、エクセター大学のサミュエル・エリス(Samuel Ellis)さんです。チームは、自分たちでクジラを調べたのではありません。世界中で発表されてきた、ハクジラの研究データを集めたのです。国際捕鯨委員会が認める75種のハクジラすべてについて、論文を探しました。英語だけでなく、クジラがすむ地域の言葉の論文も探しました。
ハクジラの多くは、歯に1年ごとの層ができます。「歯の年輪」と呼ばれるこの層を数えると、年齢が分かります。クジラの研究では昔から、浜に大量に打ち上げられて死んだクジラなどの年齢と性別が記録されてきました。チームはこの記録から、メスが何歳まで生きるかを種ごとに計算しました。計算では、年齢の数えまちがいや、データのかたよりも考えに入れました。
子を産める期間は、死んだクジラの卵巣の記録から出しました。卵巣には、排卵のあとが残ります。年齢ごとのあとの数を見れば、何歳で卵巣がはたらかなくなるかが分かります。こうして、32種の寿命と、18種の子を産める期間がそろいました。
03子を産む期間はそのままで、寿命だけがのびていた
閉経がどうやって進化したかには、2つの説がありました。1つは「長生き説」です。子を産める期間はそのままで、寿命のほうがのびたという考えです。もう1つは「早じまい説」です。寿命はそのままで、子を産める期間が短くなったという考えです。
大きな動物ほど長生きなので、比べるときは体の大きさをそろえる必要があります。チームは、体の長さから予想される寿命と比べて、閉経する種がどれだけ長生きかを調べました。種どうしの親せき関係の近さも計算に入れました。
結果は「長生き説」のとおりでした。ここでの寿命は、大人のメスが生きる年数の9割を生き終える年齢です。閉経する種のメスは、同じ大きさの閉経しない種より、この寿命が約40年長いと予想されました。一方、子を産める期間は、同じ大きさの種と変わりませんでした。人とチンパンジーを比べた研究でも、人は寿命が長く、子を産める期間は同じとされています。ハクジラも人も、子を産む期間はそのままで寿命だけがのびる形で、閉経が生まれていたのです。
04長生きしたメスは、孫と一緒に生きる時間が長くなった
では、長生きにはどんな意味があるのでしょうか。チームは、メスが生きている間に、孫と同じ時代を生きる年数を計算しました。種ごとに大人になるまでの年数が違うので、その年数で割ってそろえています。
閉経する種では、メスは孫が大人になるのを1頭以上見届けられるほど、孫と一緒に生きられると計算されました。閉経しない種では、孫が大人になるまでの道のりの36%ほどしか一緒にいられません。自分の子と一緒に生きる時間も、閉経する種のほうが長くなっていました。
一方で、母と娘が同じ時期に子を産む重なりは、閉経する種もしない種も変わりませんでした。もし子を産める期間も一緒にのびていたら、この重なりは大きくなったはずです。長生きしても子を産む時期を重ねないことで、年上のメスは娘と子育ての場を取り合わずにすむと、チームは考えています。
チームはもう1つの説も確かめました。オスの寿命がのびたせいで、メスの寿命もつられてのびたのではないか、という説です。しかし閉経する種では、オスはむしろメスより早く死にやすくなっていました。大学の発表によると、シャチのメスは80代まで生きることがありますが、オスは40歳ごろまでに死ぬのがふつうです。
閉経する種では、オスがメスより平均で約20%大きく、閉経しない種の約5%より差が大きくなっていました。チームは、年をとったメスが息子を助けることで、オスが大きく育つ可能性と合っていると見ています。

052023年、野生のチンパンジーにも閉経後の長い人生が見つかった
エリスさんたちの論文の前年に、陸の動物でも新しい報告が出ました。アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校などのチームが、ウガンダのキバレ国立公園にすむ、ンゴゴという群れのチンパンジーを調べたのです。第一著者はブライアン・ウッド(Brian Wood)さんです。
チームは、1995年から2016年までの21年間に記録された、メス185頭の生死と出産を分析しました。ンゴゴでも、50歳をこえて子を産んだメスはいませんでした。ところが、50歳をこえて生きたメスは16頭いました。計算すると、大人になったメスは人生のおよそ5分の1を、子を産まない時期として過ごしていました。人の狩猟採集民の半分ほどです。
チームは、66頭のメスの尿のサンプル560個で、ホルモンも調べました。子を産まなくなったメスでは、閉経した人の女性と同じように、卵巣のはたらきを促すホルモンが高くなっていました。このホルモンは、50歳ごろから急に増えていました。
ただし、ほかの野生のチンパンジーの群れでは、子を産まない時期はほとんど見られません。ンゴゴでは、ヒョウが1960年代に人の狩りでいなくなり、食べ物も豊かです。チームは、この恵まれた条件のせいで長生きしているだけかもしれない、という見方を自ら挙げています。もう1つの見方として、ほかの群れのほうが、森の伐採や人から移る病気で寿命を縮めている可能性も挙げています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
「おばあさん説」とシャチの証拠
人の閉経の理由として、よく知られているのが「おばあさん説」です。子を産まなくなった祖母が、娘の子育てを助けたり、孫の命を守ったりすることで、自分の血を引く子孫を増やせるという考えです。
シャチでは、この説を支える証拠が出ています。2019年の研究は、北アメリカの太平洋岸のシャチの群れの、40年以上の記録を調べました。祖母が死ぬと、その後2年以内の孫の死にやすさは、祖母が生きている孫の4.5倍になりました。閉経した祖母を失ったときの影響は、サケが少ない年やほどほどの年に大きくなりました。年をとったメスは、サケのいる場所を知っていて群れを導くと考えられています。
「おばあさん説」だけでは説明できない
ただし、祖母が孫を助ける動物は、閉経しない種にもいます。今回の計算でも、閉経しない種の中に、祖母と孫が長く一緒に生きる種がありました。助ける得があるだけでは、子を産むのをやめる理由にはならないのです。
そこで注目されているのが、「子づくりの争い」という説です。シャチでは、母も娘も同じ群れで子を産みます。2017年の研究では、母と娘が同じ時期に子を産むと、母の子の死にやすさは娘の子の1.7倍でした。年をとったメスは、子を産み続けても争いに負けやすいのです。チームは、長生きして助ける得と、年をとってから産む損の両方がそろったときに、閉経が進化すると考えています。
チンパンジーでは「おばあさん説」は当てはまりにくい
チンパンジーのメスは、大人になると生まれた群れを出て、別の群れで子を産みます。そのため祖母は、別の群れにいる娘や孫を助けられません。ウッドさんたちは、チンパンジーの閉経後の人生は、おばあさん説では説明しにくいと書いています。かわりに、子づくりの争いの説を候補に挙げています。
研究の限界
クジラの研究では、死んだクジラの記録しか使えない種が多くあります。浜に打ち上げられた群れが、その種の平均と同じとは限りません。チームはこのかたよりを計算に入れましたが、限界は残ります。また、シロイルカとイッカクの家族のくらし方は、まだよく分かっていません。この2種で、年をとったメスが本当に家族を助けているかは、これから確かめる必要があります。
06まとめ
閉経がはっきり知られている哺乳類は、ほぼ人と5種のハクジラだけです。32種のハクジラの寿命を比べると、閉経する種は子を産む期間はそのままで、寿命だけが約40年のびていました。人の閉経も、同じ形で生まれたと考えられています。
長生きしたメスは、孫や子と一緒に生きる時間が長くなりました。それでも、娘と子を産む時期の重なりは増えていませんでした。2023年には、ウガンダの野生のチンパンジーの群れでも、閉経後の長い人生が見つかっています。
シャチのメスは、30代の終わりから40代のはじめに子を産まなくなります。それでも80代まで生きることがあります。子を産まなくなってから40年近く、家族と一緒に海を泳ぎ続けるメスもいるのです。
研究カルテ
イギリス・エクセター大学
- 研究チーム
- イギリスのエクセター大学とヨーク大学などのチーム(第一著者サミュエル・エリス)
- 調べた場所
- 世界のハクジラの研究で発表されたデータ(死んだクジラの年齢や卵巣の記録)を集めて分析
- 調べた動物
- ハクジラの仲間32種。閉経する5種(シャチ、コビレゴンドウ、オキゴンドウ、シロイルカ、イッカク)をふくむ
- 調べ方
- 歯の年輪で調べた死んだクジラの年齢から寿命を計算し、卵巣の記録から子を産める期間を出して、体の大きさをそろえて比べた
- 分かったこと
- 閉経する種は同じ大きさの種より約40年長生きで、子を産む期間は変わらなかった。孫と過ごせる時間が長かった
- まだ分からないこと
- シロイルカやイッカクの家族のくらし方。年をとったメスが実際にどう家族を助けているか
- 論文
- Nature(2024年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Most female animals have babies until the end of their lives. But women stop having babies and then live for many more years. Only five kinds of whales are known to do the same.
Scientists compared the lives of 32 kinds of toothed whales. They used data from dead whales and counted the lines in their teeth. The five kinds lived about 40 years longer than other whales of the same size. But the years when they could have babies did not get longer.
So older females can spend more time with their grandchildren. In killer whales, young whales are more likely to die after their grandmother dies.
In 2023, scientists found a similar pattern in wild chimpanzees in Uganda. Some females lived long after they stopped having babies.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many kinds of whales are known to stop having babies and live long after that?子を産まなくなったあとも長く生きると知られているクジラは何種類ですか。
シャチ、コビレゴンドウ、オキゴンドウ、シロイルカ、イッカクの5種類です。
Q2. What did the scientists count to find the age of dead whales?研究者たちは死んだクジラの年齢を知るために何を数えましたか。
ハクジラの歯には1年ごとの層ができるので、それを数えて年齢を調べました。
Q3. Where were the wild chimpanzees in the 2023 study?2023年の研究の野生のチンパンジーは、どこにいましたか。
ウガンダのキバレ国立公園にすむ、ンゴゴという群れのチンパンジーです。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Ellis, S. et al. (2024) The evolution of menopause in toothed whales. Nature 論文確認済みdoi:10.1038/s41586-024-07159-9
- 2エクセター大学(2024)プレスリリース「Menopause explains why some female whales live so long」news.exeter.ac.uk/faculty-of-health-and-life-sciences/menopa
- 3Wood, B. M. et al. (2023) Demographic and hormonal evidence for menopause in wild chimpanzees. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.add5473
- 4Nattrass, S. et al. (2019) Postreproductive killer whale grandmothers improve the survival of their grandoffspring. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.1903844116
- 5Croft, D. P. et al. (2017) Reproductive conflict and the evolution of menopause in killer whales. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2016.12.015
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





