ザトウクジラの歌は東へ伝わる。ポリネシアの歌が、2年後に8000km先の南米で歌われていた

フランス領ポリネシアで歌われていた歌が、2年後にはエクアドルの群れの歌になっていた。新しい歌は南太平洋を東へ伝わり、南米の海にまで届いていた。

No.117 8分で読めるえっ度 論文 2025年
青く澄んだ暖かい海の中で、体の3分の1ほどもある長く白っぽい胸びれを広げたザトウクジラのオスが、頭を下に向けてじっと浮かび、歌っている。頭の上には小さなこぶが並び、背中には小さな背びれがある。まわりには小さな泡がいくつか見える。

30秒で読む

  1. ザトウクジラのオスは、同じ海の仲間とほぼ同じ歌を歌う
  2. 南太平洋では、新しい歌が西の群れから東の群れへ順に伝わる
  3. ポリネシアの歌が、8000km先の南米エクアドルでも歌われた

人に話すなら

ザトウクジラのオスって、群れのみんなで同じ歌を歌うんだって。南太平洋では、その歌が数年ごとにまるごと新しい歌に入れかわって、東の群れへ順に伝わるらしい。8000kmはなれた南米の群れまで同じ歌になってたんだよ。

ポストLINE

読む前に予想しよう

ザトウクジラの歌は、群れごとに一生変わらない

ザトウクジラのオスは、冬の暖かい海で長い歌を歌います。同じ海にいるオスは、ほぼみんな同じ歌を歌っています。そして南太平洋では、その歌が数年ごとにまるごと新しい歌に入れかわります。新しい歌は、いつも西の群れから東の群れへと伝わっていきます。

イギリスのセント・アンドルーズ大学などのチームは、この歌がどこまで東へ伝わるのかを調べました。録音した場所は、南太平洋の真ん中にあるフランス領ポリネシアと、8000kmはなれた南米エクアドルの沖です。3年分の歌を比べました。すると、ポリネシアで2016年に歌われていた歌が、2018年にはエクアドルの群れの歌になっていました。

これまで、新しい歌がオーストラリアからポリネシアまで東へ伝わることは知られていました。けれども、その先の南米の群れまで届くのかは分かっていませんでした。今回の結果を合わせると、オーストラリア東部から南米まで約1万4000kmの海で、歌が群れから群れへ伝わっていることになります。

01ザトウクジラの歌は、オスだけが歌う、何時間も続く歌

ザトウクジラは、夏は南極の近くなど冷たい海でえさを食べます。冬になると、暖かい海へ長い旅をして、子を産んだり相手を見つけたりします。歌は主に、この冬の海と、旅のとちゅうで聞かれます。歌うのは大人のオスだけです。

歌には、決まった組み立てがあります。一番小さな単位は、ひと続きの音です。いくつかの音が並んで短いフレーズになり、同じフレーズがくり返されて「テーマ」になります。いくつかのテーマが決まった順に並んだものが、1曲の歌です。1曲は5〜30分ほどで、それを何時間もくり返し歌うこともあります。

同じ海にいるオスは、ほとんどが同じ歌を歌います。その歌は、年ごとに少しずつ変わっていきます。オスたちは、仲間の変化をまねして、同じ新しい形に合わせていきます。歌は、仲間から聞いて覚えるものなのです。

02南太平洋では、数年ごとに歌がまるごと入れかわる

ところが南太平洋では、少しずつの変化とは別のことが起きます。群れの歌が、となりの群れの新しい歌に、まるごと入れかわってしまうのです。研究者はこれを、歌の「革命」と呼んでいます。

最初にこの入れかわりを報告したのは、オーストラリアの研究者たちです。2000年の論文で、オーストラリア東部の群れが、西部の群れの歌に入れかえたことを示しました。かかった時間は、わずか2年ほどでした。少しずつの変化では説明できない速さです。

2011年には、オーストラリアのクイーンズランド大学にいたエレン・ガーランド(Ellen Garland)さんたちが、11年分の録音を調べて発表しました。いくつもの新しい歌が、何度もくり返し、南太平洋の西から東へと群れから群れへ伝わっていました。たとえば2003年にオーストラリア東部で記録された歌は、2005年にはフランス領ポリネシアに届いていました。

伝わる向きは、いつも東でした。オーストラリア西部からフランス領ポリネシアまでは、1万km近くあります。その間には、ニューカレドニアやトンガなど、いくつもの別の群れがいます。では、この歌はポリネシアの先、南米の群れまで届くのでしょうか。

038000kmはなれた2つの海で、3年分の歌を録音した

第一著者は、セント・アンドルーズ大学のジョセフィン・シュルツェ(Josephine Schulze)さんです。録音の場所は、フランス領ポリネシアのモーレア島の沖と、エクアドル北部のエスメラルダスの沖です。2つの海は約8000kmはなれています。南米の西の沖に集まるザトウクジラは、ポリネシアから東で最も近い大きな群れです。

録音は2016年から2018年の3年間、南半球の冬から春にあたる7月から11月に行いました。船の上から水中マイクをおろして録音しました。ポリネシアでは、水深30mの海底近くにも録音機を置きました。この録音機は、2時間ごとに30分ずつ録り続けました。

チームは、2つの海でそれぞれ毎年3本、合わせて18本の質のよい録音を選びました。1本に複数のクジラの声が入っていたものは分けて数え、比べたのは19頭分の歌です。歌は、音の高さと時間を表す図にして、1つずつの音を聞き分けて記録しました。

そのうえで、歌の似かたを2つの方法で数字にしました。1つは、テーマの並び順がどれだけ似ているかです。もう1つは、並び順は気にせず、同じテーマをどれだけ共有しているかです。

042018年、エクアドルのクジラはポリネシアの歌を歌い出した

19頭の歌から見つかったテーマは41あり、歌は4種類に分けられました。チームは、この4種類を番号と色で区別しました。

ポリネシアでは、2016年に録音した3頭すべてが「青の歌」を歌っていました。この青の歌は、2017年と2018年にもポリネシアで聞かれました。

エクアドルでは、2016年と2017年に録音したオスはすべて、まったく別の「灰色の歌」を歌っていました。ところが2018年には、録音した3頭すべてが青の歌に変わっていました。ポリネシアの歌が、2年後にはエクアドルの群れの歌になっていたのです。

決め手の1つは、「7a」と名づけたテーマです。このテーマは、ポリネシアの歌に2015年から2016年の間に新しく加わったものでした。そして、2018年のエクアドルの青の歌には、すべてこのテーマが入っていました。チームはここから、歌がエクアドルへ伝わったのは、早くても2016年以降だと考えています。

上から見た広い青い海に、西から東へ島々が点々と並び、いちばん東に南米の海岸がある。それぞれの島の近くの海で、ザトウクジラが1頭ずつ頭を下にして歌っている。
DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

8000kmはなれた群れは、どこで歌を覚えたのか

冬の海が8000kmはなれていても、夏のえさ場が同じなら、歌を聞き合えるかもしれません。エクアドルの群れは、夏に南極半島の西の海でえさを食べることが分かっています。ポリネシアの群れの夏のえさ場ははっきりしませんが、南極半島の近くで見つかった個体もいます。ザトウクジラは、えさ場でも歌うことがあると記録されています。チームは、このえさ場で歌が伝わった可能性が一番高いと考えています。

ほかの道すじも否定できません。数は少ないものの、ポリネシアと南米コロンビアの間を行き来したクジラも記録されています。新しい歌を覚えたクジラが、別の群れの冬の海に移ったのかもしれません。また、ピトケアン諸島やイースター島、ガラパゴス諸島などで少数のクジラが見られています。そうした島々の群れを順に経由して、歌が伝わった可能性もあります。

なぜ、いつも東へ伝わるのか

コンピューターの中で歌の伝わり方を再現した研究があります。その結果では、歌は大きな群れから小さな群れへ伝わりやすくなりました。南太平洋で歌がいつも東へ流れるのも、群れの大きさの違いで説明できるかもしれません。チームは、新しい歌が南半球の11の群れを順にめぐり、一周する可能性もあると推測しています。

ただし、ポリネシアの群れは、南米の西の沖の群れより小さいとされています。それでも歌は、ポリネシアからエクアドルへ伝わりました。今後も同じ向きに伝わり続けるのかは、これから確かめる必要があります。エクアドルで2016〜2017年に歌われていた灰色の歌が、どこから来たのかも分かっていません。南米の東、ブラジルの群れとの間で歌が行き来している可能性もあります。

新しい歌は、前の歌より単純になる

オーストラリア東部の群れの13年分の歌を調べた研究があります。歌は年ごとに少しずつ変わるうちに、だんだん複雑になっていきました。ところが、革命で新しい歌に入れかわるときには、複雑さが下がっていました。研究チームは、クジラがまったく新しい歌を一度に覚えられる量には、限界があるのかもしれないと考えています。

日本の近くの海では、歌の革命は見つかっていない

北太平洋のようすは、南太平洋と違います。2025年には、沖縄の海で2011〜2013年に録音された歌の研究が発表されました。沖縄の歌の9つのテーマのうち6つは、小笠原やフィリピン、ハワイ、メキシコの群れでも聞かれていました。北太平洋では群れどうしがよくまざり、1つの歌が全体で少しずつ変わっていくと考えられています。ここでは、歌がまるごと入れかわる革命は、まだ記録されていません。

研究の限界

今回の研究で比べたのは、19頭の歌、3年分です。チーム自身も、数が少なく期間が短いことを認めています。それでも、ポリネシアで先に歌われたテーマが、次の年以降にエクアドルで現れ、前の歌と入れかわったという結果ははっきりしていると述べています。

05まとめ

ザトウクジラのオスは、同じ海の仲間とみんなで同じ歌を歌います。南太平洋では、その歌が数年ごとにまるごと新しい歌に入れかわり、西の群れから東の群れへ伝わっていきます。

フランス領ポリネシアとエクアドルで3年分の歌を比べると、ポリネシアの歌が2年後にはエクアドルの群れの歌になっていました。オーストラリア東部から南米までの約1万4000kmで、同じ向きに歌が受けつがれていたのです。

一方、北太平洋では歌の革命はまだ見つかっていません。沖縄の海で録音されたザトウクジラの歌は、9つのテーマのうち6つが、小笠原やフィリピン、さらにハワイやメキシコの群れでも聞かれていました。

RESEARCH FILE

研究カルテ

フランス領ポリネシア・モーレア島

研究チーム
イギリスのセント・アンドルーズ大学と、エクアドル・フランス領ポリネシアの研究者のチーム(第一著者ジョセフィン・シュルツェ)
調べた場所
フランス領ポリネシアのモーレア島沖と、エクアドルのエスメラルダス沖
調べた動物
子育てのために南太平洋の暖かい海に集まるザトウクジラのオス(学名 Megaptera novaeangliae)
調べ方
2016〜2018年の3年分の歌の録音を音の図にして、2つの海の歌の似かたを数字で比べた
分かったこと
ポリネシアで2016年から歌われていた歌が、2018年にはエクアドルの群れの歌になっていた
まだ分からないこと
8000kmはなれた群れのあいだで、歌がどこで伝わったのか
論文
Royal Society Open Science(2022年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

A Whale Song Traveled Across the Pacific

Male humpback whales sing long songs in warm seas in winter. Most males in the same area sing the same song. They learn the song from other whales.

In the South Pacific, the whole song changes every few years. A new song comes from the group to the west. Then it moves east from group to group.

Scientists recorded songs near French Polynesia and Ecuador for three years. The two places are about 8,000 kilometers apart. In 2016, whales in French Polynesia sang a song called the blue song. In 2018, whales in Ecuador were singing the blue song too.

So songs pass from group to group, all the way from Australia to South America. Scientists think the whales may learn new songs at feeding areas near Antarctica.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Who sings the long songs?長い歌を歌うのは誰ですか。

Q2. Which way do new songs move in the South Pacific?南太平洋では、新しい歌はどちらへ伝わりますか。

Q3. When were whales in Ecuador singing the blue song?エクアドルのクジラが青の歌を歌っていたのはいつですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Schulze, J. N. et al. (2022) Humpback whale song revolutions continue to spread from the central into the eastern South Pacific. Royal Society Open Science 論文確認済みdoi:10.1098/rsos.220158
  2. 2Garland, E. C. et al. (2011) Dynamic horizontal cultural transmission of humpback whale song at the ocean basin scale. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2011.03.019
  3. 3Allen, J. A. et al. (2018) Cultural revolutions reduce complexity in the songs of humpback whales. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2018.2088
  4. 4Marwood, E. M. et al. (2025) Humpback whale song complexity and evolution on a northwestern Pacific breeding ground: Okinawa, Japan. Royal Society Open Science 論文確認済みdoi:10.1098/rsos.241388

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい