野生に数百羽しか残らない鳥キガオミツスイは、オスの12%がほかの鳥の歌を歌っていた
野生に数百羽しか残っていないキガオミツスイでは、オスの12%がほかの鳥の歌を歌っていた。地域でふつうの歌と違うオスは、つがいになりにくかった。

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- オスは、父親ではなく近くの大人のオスから歌を覚える
- 数が減った今、オスの12%がほかの鳥の歌を歌っていた
- 地域でふつうの歌と違うオスは、つがいになりにくかった
人に話すなら
オーストラリアのキガオミツスイっていう鳥、数が減りすぎて、歌を教わる大人のオスに出会えないことがあるんだって。オスの1割以上がほかの鳥の歌を歌ってて、そういうオスはメスとつがいになりにくいらしいよ。
読む前に予想しよう
キガオミツスイのオスは、父親から歌を教わる
父親は子育て中は歌わず、子を追い出してから歌い出す。若いオスはほかの大人のオスから歌を覚える。
鳥の歌は、生まれつき歌えるものだと思われがちです。ところが、多くの小鳥は、子どものころに大人の歌を聞いてまねすることで、自分の種の歌を覚えます。人が言葉を覚えるのと同じように、歌は世代から世代へ受けつがれていくのです。
では、もし歌を教わる大人がまわりにいなくなったら、どうなるのでしょうか。オーストラリア国立大学のロス・クレイツ(Ross Crates)さんたちは、数が激減した鳥キガオミツスイの歌を調べました。すると、歌を調べた野生のオスの12%が、自分の種の歌を1つも歌わず、ほかの種類の鳥の歌を歌っていました。
話す人が減ると、その言葉が消えていく。人の言葉では、こうした例がよく知られています。でも、動物の歌のように仲間から教わって伝わる行動が、数が減ったせいで失われていく例は、野生の動物ではほとんど確かめられていませんでした。
01キガオミツスイは、数百羽しか残っていない
キガオミツスイは、オーストラリア南東部のユーカリの林にすむ、全長22センチほどの小鳥です。頭からむねの上までが黒く、背中と翼に明るい黄色のもようがあります。主に花のみつを吸って暮らしています。
20世紀の半ばまで、この鳥は数百羽の群れで、数百キロもの距離を移動していました。ところが、すみかが広い範囲で失われ、数が激減しました。今では野生に200〜400羽ほどしか残っていないと推定されています。その数百羽が、30万平方キロメートルという広い範囲に、まばらに散らばっています。絶滅のおそれが最も高い「深刻な危機」の種とされています。
今、巣作りが見られるのは、主に2つの地域だけです。ニューサウスウェールズ州のブルーマウンテンズ地域と、その北のノーザン・テーブルランズです。
02オスの歌は、父親ではなく、ほかの大人のオスから覚える
キガオミツスイで歌をきちんと歌うのは、オスだけです。オスは歌で、メスに求愛したり、なわばりを主張したりします。
この鳥では、息子は父親から歌を教わりません。父親は、メスが卵を産んだあとから、子どもが巣立って独り立ちするまで、歌うのをやめます。そして独り立ちした子どもを、巣のあたりから追い出します。父親が再び歌い出すころには、息子はもうそばにいないのです。
そのため若いオスは、父親以外の大人のオスのそばで、歌を覚える必要があります。仲間がたくさんいた時代には、それは難しいことではありませんでした。でも今は、巣を作る群れどうしが100キロ以上離れていることもあります。若いオスが歌の先生に出会えるとは限りません。
032015〜2019年に、野生のオス146羽の歌を分類した
研究チームは、2015年7月から2019年12月までの目撃記録を集めました。1つは、市民からバードライフ・オーストラリアに寄せられた確かな目撃情報です。もう1つは、1,367か所で続けている調査の記録です。足につけた色の輪や巣の場所などで、オスを1羽ずつ見分けました。
見分けた野生のオスは228羽です。そのうち146羽の歌を、種類ごとに分類しました。47羽については、雑音の少ないきれいな録音もとれました。声の高さや長さなど、録音から測った特徴で、歌の種類をくらべました。
比べる相手として、1986〜2011年にブルーマウンテンズで録音された昔の歌も集めました。動物園などの飼育下で育ったオス12羽の歌も録音しました。
分類が思いこみになっていないかも確かめています。7人の鳥の専門家に、どの歌か知らせずに20曲を聞き分けてもらいました。研究チームの分類との一致は89%でした。
04オスの27%は地域でふつうの歌と違い、12%はほかの鳥の歌だった
キガオミツスイの歌には、地域ごとの「方言」がありました。ブルーマウンテンズのオス132羽のうち93羽は、その地域のふつうの歌を歌いました。ノーザン・テーブルランズでは、22羽のうち17羽がその地域の歌を歌いました。
ところが、そこから外れるオスがたくさんいました。ブルーマウンテンズでは20羽が、ふつうの歌の途中を切ったような、短い歌を歌っていました。そして146羽のうち18羽(12%)は、キガオミツスイの歌を1つも歌わず、ほかの種類の鳥の歌を歌っていたのです。地域でふつうの歌と違う歌を歌うオスは、全部で27%にもなりました。
ほかの鳥の歌を歌うオスは、まわりに仲間が少ない場所にいました。同じ年に1キロ以内、50キロ以内で見つかった仲間の数が、ふつうに歌うオスのまわりより少なかったのです。少なくとも4羽は、いちばん近い仲間のオスから100キロ以上離れていました。
まねされていた鳥は8種類でした。いちばん多かったのは、同じミツスイの仲間の別の種類の鳥の歌で、5羽が歌っていました。2番目もミツスイの仲間の鳥の歌で、4羽でした。若いオスが、歌を覚える時期にたまたまそばにいた別の鳥から歌を覚えてしまったのだろう、とチームは考えています。

05地域でふつうの歌と違うオスは、つがいになりにくかった
チームは次に、歌の違いがオスの子孫の残しやすさに関係するかを調べました。結果、地域でふつうの歌と違う歌を歌うオスは、メスとつがいになっている割合がはっきり低くなっていました。ブルーマウンテンズで、地域でふつうの歌のオスとくらべました。すると、短い歌のオスも、北の地域の歌のオスも、ほかの鳥の歌のオスも、つがいになりにくくなっていました。
つがいになったオスの中でも、地域でふつうの歌と違うオスは、卵を産むところまで進む割合が低くなっていました。これは主に、短い歌のオスで目立ちました。ただし、巣を作ったあとにひなが巣立つかどうかには、歌の違いは関係ありませんでした。
歌も、昔とくらべて単純になっていました。1986〜2011年に録音された歌は、今の歌より長く、音の区切りの数も多かったのです。飼育下で育ったオスの歌は、野生のどの歌とも違い、いちばん単純でした。飼育下のひなは巣立ったあと大人と離して育てられるため、野生の大人の歌を聞く機会がありません。
06「歌が原因でつがいになれない」とは、まだ言い切れない
この研究には、大事な限界があります。論文自身も書いているとおりです。歌の種類、まわりの仲間の数、つがいになれるかどうか。この3つに関係が見られても、どれが原因かは決められません。たとえば、仲間が少ない場所ではメスも少なく、歌に関係なくつがいになりにくいのかもしれません。
実際、ほかの鳥の歌を歌うオス18羽のうち5羽は、つがいになって巣を作っていました。ほかの鳥の歌でも、まったくだめというわけではないのです。チームは、仲間の数がとても少ないところでは、メスにとって選べるオスが1羽しかいないこともあると書いています。
歌の文化が失われることが、この鳥の数をさらに減らしているのか。その答えも、まだ出ていません。それでもチームは、歌の変化は、数を直接数えにくい鳥の危険度を知る手がかりになると提案しています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
歌は「教わる」もの
鳴き鳥の多くは、生まれてしばらくの決まった時期に、まわりの大人の歌を聞いて覚えます。この時期にふさわしい先生がいないと、歌がうまく身につきません。人の子どもが、まわりで話される言葉を聞いて覚えるのとよく似ています。鳴き鳥の歌は、ふつう生後1年をすぎると固まります。キガオミツスイでも、色の輪で見分けたオスを何年か追うと、同じ歌を歌い続けていました。若いころに覚えた歌は、あとから変わりにくいようです。
飼育して放す計画にも関わる問題
キガオミツスイを守るため、動物園で育てた鳥を野生に放す取り組みが進められています。ところが、飼育下で育ったオスの歌は、野生のどの歌とも違っていました。チームは、野生のメスが、地域でふつうでない歌のオスをさけるのと同じように、飼育下のオスの歌もさけるかもしれないと心配しています。また、大人と離して育てられた若い鳥どうしが、たがいの歌をまね合っているのではないか、という仮説も挙げています。
ほかの動物や人の言葉との比較
ハワイにすむ絶滅危惧種の小鳥3種でも、ほかの種類の鳥の歌を覚える例が見られています。ただしハワイの鳥では、数が減ると歌が1つの形に似通っていきました。キガオミツスイでは逆に、地域の歌がばらばらに分かれ、歌の種類が増えていました。論文は、世界各地で先住民の言葉が失われていく現象と、この鳥の歌の変化を重ねています。
07まとめ
キガオミツスイは、野生に200〜400羽ほどしか残っていない鳥です。オスは父親ではなく、近くの大人のオスから歌を覚えます。その先生に出会えなくなった今、オスの27%が地域でふつうの歌と違う歌を歌い、12%はほかの鳥の歌だけを歌っていました。地域でふつうの歌と違うオスは、つがいになりにくい傾向がありました。
歌の違いが本当の原因なのかは、まだ確かめられていません。それでも、少なくとも4羽のオスは、いちばん近い仲間から100キロ以上離れた場所で、別の鳥の歌を歌っていました。かつて数百羽の群れで飛び回っていた鳥の歌が、今は地域や1羽ごとに、ばらばらの形に分かれつつあります。
研究カルテ
オーストラリア・ニューサウスウェールズ州
- 研究チーム
- オーストラリア国立大学とバードライフ・オーストラリアのチーム(第一著者ロス・クレイツ)
- 調べた場所
- オーストラリア・ニューサウスウェールズ州のブルーマウンテンズ地域とノーザン・テーブルランズ
- 調べた動物
- 野生のキガオミツスイ(英名 Regent honeyeater、学名 Anthochaera phrygia)
- 調べ方
- 2015〜2019年にオス146羽の歌を分類し、1986〜2011年の録音や飼育下で育った鳥の歌とくらべた
- 分かったこと
- オスの27%が地域でふつうの歌と違う歌、12%がほかの鳥の歌を歌い、ふつうと違うオスはつがいになりにくかった
- まだ分からないこと
- 歌の違いが本当につがいになれない原因なのか。歌の消失が数の減少をさらに進めるのか
- 論文
- Proceedings of the Royal Society B(2021年)
英語で読んでみよう
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The regent honeyeater is a small black and yellow bird in Australia. Long ago, these birds flew in groups of hundreds. Now only about 200 to 400 birds are left in the wild.
Young males learn their song from older males. They do not learn it from their fathers. But today, the birds live far apart, so many young males may not find a teacher.
Scientists studied the songs of 146 wild males. About 27 percent sang songs that were different from the local song. And 12 percent sang only the songs of other kinds of birds.
Males with unusual songs were less likely to have a partner. The scientists say the song may not be the only reason. Still, the bird's song culture is slowly disappearing.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many regent honeyeaters are left in the wild?野生のキガオミツスイは何羽ほど残っていますか。
野生には200〜400羽ほどしか残っていないと推定されています。
Q2. Who do young males learn their song from?若いオスは誰から歌を覚えますか。
父親は子育て中に歌わないので、若いオスはほかの大人のオスから歌を覚えます。
Q3. What percent of males sang only other birds' songs?ほかの鳥の歌だけを歌っていたオスは何%ですか。
146羽のうち18羽、約12%がほかの鳥の歌だけを歌っていました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Crates, R. et al. (2021) Loss of vocal culture and fitness costs in a critically endangered songbird. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2021.0225
- 2BirdLife Australia: Regent Honeyeaterbirdlife.org.au/bird-profiles/regent-honeyeater/
- 3PubMed Central:上の論文の全文(PMC8059949)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8059949/
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





