ひとりでは開けられない箱の開け方を、マルハナバチは先輩から覚えた。15匹中5匹が成功

2段階の手順がいる箱を、ハチは最長24日かけても開けられなかった。開け方を知る先輩と一緒にすると、15匹中5匹が覚えた。

No.022 9分で読めるえっ度 論文 2024年
実験用の小さな箱の上で、黒と黄色のしまでおしりの先が白っぽい毛深いマルハナバチが2匹、前の1匹が青いつまみを押し、後ろの1匹が触角を伸ばしてぴったりついていく。

30秒で読む

  1. 2つの手順がいる箱は、ハチだけでは1匹も開けられなかった
  2. 開け方を知る先輩と一緒にすると、15匹中5匹が覚えた
  3. 覚えたハチは、先輩のすぐ後ろについて回っていた

人に話すなら

マルハナバチに、2つの手順がいる箱を出すと、何日たっても1匹も開けられないんだって。でも開け方を知ってる先輩のあとについて回ると、3匹に1匹くらいが覚えたらしいよ。

ポストLINE

読む前に予想しよう

マルハナバチは、ひとりでは思いつけない手順を、仲間から覚えることがある

スマートフォンを、何も知らないところから自分ひとりで発明できる人はいません。何世代もの人が積み上げた知識を、私たちは人から教わって使っています。「ひとりでは思いつけないことを、ほかの人から受け取る」。これは長いあいだ、人間だけができることだと言われてきました。

ところが、この考えに合わない結果が、小さなハチで出ました。イギリスの研究チームは、2つの手順を順番にしないと開かない箱を作りました。マルハナバチだけの巣では、最長24日たっても1匹も開けられませんでした。ところが、開け方を知る先輩バチと一緒にすると、15匹のうち5匹が開け方を覚えました。

ハチがまねをして学ぶことは、前から知られていました。でも、それはどれも、ひとりでも思いつける技でした。「ひとりでは無理な技」を仲間から受け取れるかどうか。そこを確かめた実験はありませんでした。

01青を押してから赤を押す、2段階の箱を作った

研究をしたのは、イギリスのロンドン大学クイーンメアリー校のアリス・ブリッジズ(Alice Bridges)さんと、ラース・チッカ(Lars Chittka)さんたちです。使ったのは、セイヨウオオマルハナバチという、体が毛でおおわれたハチです。

箱は3Dプリンターで作りました。真ん中の軸のまわりを回る、透明な円いふたがついています。ふたの下には黄色い丸があり、その上に甘い砂糖水が置いてあります。

ふたを回すには、赤いつまみを押します。でも、赤いつまみの通り道を、青いつまみがふさいでいます。だから、まず青いつまみを押してどかし、それから赤いつまみを押さなければなりません。

1つ目の手順には、ごほうびがありません。青いつまみを押しても、何も起きないように見えます。しかも、目の前の砂糖水からいったん離れなければなりません。チームは、ごほうびのない1つ目の動きを、最後のごほうびと結びつけて覚えるのは、ハチにはとても難しいだろうと考えました。

円い透明なふたのついた箱の上で、マルハナバチが青いつまみを押しのけてから、赤いつまみを押してふたを回し、下の黄色い丸に置かれた甘い液にたどり着く場面を、1枚に並べて描く。

02ハチだけの巣では、24日たっても1匹も開けられなかった

チームはまず、ハチが自分で開けられるかを試しました。3つの巣を使い、2つは12日間、1つは24日間続けました。毎日、ふたの閉まった箱を3時間ずつ置きます。箱を置いた時間は、巣ごとに合わせて36時間と72時間になります。

結果は、どの巣でも1箱も開きませんでした。青いつまみを最後まで押しどかしたことが、たった1回あっただけです。そのハチも、2回目はありませんでした。はじめは箱のまわりを口でさぐるハチもいましたが、その動きは日がたつにつれて減っていきました。

これは、ハチが不器用だからではありません。同じチームが前に使った、1段階で開く箱があります。その実験では、先輩なしの巣2つから、自分で開け方を覚えたハチが合わせて13匹出ていました。

03先輩を育てるのも、人間にとって大変だった

次は、開け方を知る「先輩」を用意します。ところが、これがひと苦労でした。ハチは、ごほうびのある赤いつまみはすぐに押すようになりました。でも、青いつまみにはまったくさわろうとしません。ふさがった赤いつまみを何度も押しては、あきらめてしまいました。

そこでチームは、青いつまみの下にも、一時的にごほうびを置きました。青を押すことを覚えたら、このごほうびを少しずつ減らし、最後はなくします。1段階の箱なら数時間で覚えるところ、この訓練には1匹あたり2日ほどかかりました。

ここが大事な点です。先輩バチは、1つ目の手順でごほうびをもらったことがあります。でも、これから学ぶハチは、青いつまみでごほうびをもらったことが一度もありません。

04先輩について回ったハチの3分の1が、開け方を覚えた

いよいよ本番です。訓練した先輩バチ1匹と、箱を見たことのないハチ1匹を組にしました。組は15組です。2匹は一緒に、閉まった箱3つの前で、1回20分までえさを集めました。

これを30回くり返したあと、学ぶ側のハチを1匹だけにして、ごほうびなしで試験をしました。不合格なら5回の練習を足して、また試験をします。試験は3回までです。

15匹のうち、5匹が合格しました。3匹は1回目、2匹は3回目の試験での合格です。この5匹は、青いつまみでごほうびをもらったことがありません。それでも、2段階の手順を最初から最後までやりとげました。

先輩と組んだハチが先輩と一緒に箱の前にいた時間は、最大でも約13時間でした。ハチだけの巣の72時間よりずっと短い時間です。

05「押しこむ」先輩から学んだハチだけが覚えた

実験の途中で、チームは予想しなかったことに気づきました。先輩バチの開け方が2通りあったのです。1つは、青と赤を別々に押すやり方です。もう1つは、青と赤のすき間に体を押しこみ、そのまま赤を押すやり方です。9匹の先輩のうち、6匹が「押しこむ」やり方でした。

結果ははっきり分かれました。「別々に押す」先輩と組んだ5匹は、全員が覚えられませんでした。「押しこむ」先輩と組んだ10匹では、5匹が覚えました。覚えたハチも、主に先輩と同じ押しこむやり方で箱を開けました。

チームは、学ぶ側のハチの動きにも注目しました。先輩が箱を開けているとき、すぐ後ろについて歩き、触角で先輩の体にふれることがありました。この「ついて回る」時間は、組で過ごす回数が増えるほど長くなりました。覚えたハチの組で一番長くなる傾向がありましたが、統計で確かな差とまでは言えませんでした。

押しこむやり方では、2つの手順がほぼ1つの動きになります。先輩のすぐ後ろについて回れば、学ぶ側のハチも同じすき間を通ることになります。わざとまねをしなくても、同じ動きをなぞれるのです。チームは、これが覚えやすさにつながったのではないかと考えています。

06「ハチにも文化がある」とまでは、まだ言えない

この研究には、注意すべき点もあります。まず、先輩バチを育てたのは人間です。ハチが自分たちで新しい技を生み出し、それが受けつがれたわけではありません。

次に、数が少ないことです。覚えたのは5匹で、そのうち箱を10個以上開けて「上手」と認められたのは2匹でした。著者たちも、ハチが一生のうちに自分で解く可能性を、完全には消せないと書いています。100万匹に1匹なら解けるかもしれない、という書き方です。ただし、ハチがえさ集めをする期間は平均8日ほどで、実験の日数の中におさまるとしています。

そして、野生のハチがこうした学び方を使っている証拠は、まだありません。このハチの巣は、温帯ではふつう1世代で終わります。あとに残るのは、何も教わっていない新しい女王バチです。技を何世代も積み上げる機会は、野生ではほとんどないかもしれません。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

「積み上げる文化」は人間だけと言われてきた

動物にも文化がある、という考えは、今では珍しくありません。論文が例に挙げるのは、ザトウクジラの歌が年月とともに変わることです。宮崎県の幸島のニホンザルも出てきます。1953年に若いメスの「イモ」がサツマイモを洗い始め、その洗い方がやがて海水で洗う形に変わっていきました。ただ、研究者の多くはこう考えてきました。動物の文化は、どれも1頭がひとりで思いつける範囲にとどまる。ひとりでは一生かけても思いつけないほど複雑な技を受けつぐのは人間だけだ、と。今回の研究は、その線引きに疑問を投げかけました。

動物の「積み上げ」は、どこまで確かめられていたか

論文によると、積み上げる文化の最低条件は2つです。役に立つ工夫が仲間に伝わること。そして、それがくり返されて改良が重なっていくことです。この条件なら、満たした動物の例はすでにあります。たとえばハトの実験です。2羽1組で巣へ帰る道を何度も飛ばせ、メンバーを少しずつ入れかえました。すると、メンバーを固定した組や1羽だけのときより、効率のよい道を早く見つけました。ただ、そこでたどり着いた道は、1羽でも見つけられる可能性がありました。「ひとりでは届かない所まで積み上がった」とまでは言えなかったのです。

なぜ「1つ目の手順」が難しいのか

チームは、ハチの学習が主に「ごほうびと動きの結びつき」でできているのなら、と考えました。赤いつまみを押せば砂糖水が出る、なら覚えやすいはずです。青いつまみは、押しても直接は何ももらえません。しかも、見えている砂糖水からいったん離れ、遠回りして押す必要があります。チームは、先輩の「押しこむ」動きが、青と赤とごほうびを1つながりの流れにしたのだろうと考えています。

鳥ではどうだったか

シジュウカラでも、2段階の箱の実験があります。このときの鳥は、すでに片方の手順を知っていました。そして、先輩から2段階のやり方をまるごと学んだのではありませんでした。手順を1つずつ覚えて、自分で組み合わせていたのです。今回のハチは、どちらの手順も知らない状態から、全体をまとめて覚えました。

研究方法の工夫と限界

「ひとりでは思いつけない」ことを示すには、長い時間試しても誰も解けないことを見せる必要があります。サルやカラスやクジラのように長生きする動物では、一生分を見届けるのはほぼ不可能です。ハチはえさ集めをする期間が短いので、それができました。ここが、ハチを使った大きな利点です。一方で、実験室の箱は自然の中にはありません。このハチが野生で文化を持つことも、まだ確かめられていません。論文は、花に穴をあけて蜜だけを取る「盗蜜」が候補になりうると書くにとどめています。野生のハチが、なぜこんな学び方をできるのか。その答えは、まだ出ていません。

07まとめ

2つの手順がいる箱を、マルハナバチだけの巣は最長24日かけても開けられませんでした。ところが、開け方を知る先輩と組むと、15匹のうち5匹が開け方を覚えました。覚えたハチは、青いつまみでごほうびをもらったことが一度もありませんでした。

ただし、先輩を育てたのは人間で、覚えた数も少数です。野生のハチが同じことをしている証拠も、まだありません。

この研究に使われたハチのえさ集めの期間は、平均すると8日ほどです。そのわずかな日数で、人が2日かけて教えた技を、先輩のあとについて回って受け取ったハチがいたのです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

イギリス・ロンドン

研究チーム
イギリスのロンドン大学クイーンメアリー校などのチーム(第一著者アリス・ブリッジズ)
調べた場所
イギリス・ロンドンの研究室
調べた動物
セイヨウオオマルハナバチの働きバチ(学名 Bombus terrestris)
調べ方
2段階で開く箱を作り、ハチだけの巣と、開け方を知る先輩バチと組ませたハチで結果を比べた
分かったこと
ハチだけでは1匹も開けられなかった箱を、先輩と組んだハチの3分の1が開けられるようになった
まだ分からないこと
野生のハチが、こうした学び方を実際に使っているのか
論文
Nature(2024年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Bees Learn a Hard Trick from Other Bees

Scientists in London made a small box with sugar water inside. To open it, a bee must push a blue tab first. Then it must push a red tab. The bee gets no reward for the first step.

First, the scientists gave the box to groups of bees with no teacher. They tried for up to 24 days. No bee opened the box.

Next, the scientists trained some bees to open the box. It took about two days for each bee. Then they put each trained bee with a new bee. Five of the 15 new bees learned to open the box. These bees often walked close behind their teacher.

Many people thought only humans could learn things too hard to discover alone. This study shows that bees may learn them too. But we do not know if wild bees do this.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What must a bee push first?ハチは最初に何を押さなければなりませんか。

Q2. How many bees opened the box with no teacher?先生役がいないとき、箱を開けたハチは何匹でしたか。

Q3. How many of the 15 new bees learned to open the box?新しいハチ15匹のうち、何匹が開け方を覚えましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Bridges, A. D. et al. (2024) Bumblebees socially learn behaviour too complex to innovate alone. Nature 論文確認済みdoi:10.1038/s41586-024-07126-4
  2. 2van Leeuwen, E. J. C. et al. (2024) Chimpanzees use social information to acquire a skill they fail to innovate. Nature Human Behaviour 論文確認済みdoi:10.1038/s41562-024-01836-5
  3. 3Bridges, A. D. et al. (2023) Bumblebees acquire alternative puzzle-box solutions via social learning. PLOS Biology 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pbio.3002019
  4. 4University of Sheffield(2024)プレスリリース「Bees master complex tasks through social interaction」sheffield.ac.uk/news/bees-master-complex-tasks-through-socia

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい