シベリアの凍土で4万6000年凍っていた線虫が生き返り、子を産んで増えた

シベリアの凍土から生き返った線虫は、約4万6000年前に凍ったものらしい。研究室で100世代以上増え、新種と分かった。

No.023 8分で読めるえっ度 論文 2023年
氷のすじが何本も走る、シベリアの川ぞいの高い崖。その凍った土の中に、小さな透明な線虫が1匹、体を丸めて止まっている。

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  1. シベリアの凍土の古い巣穴から、生きた線虫が見つかった
  2. 巣穴の植物の年代から、約4万6000年前に凍ったと考えられた
  3. 研究室で100世代以上増え、新しい種と確かめられた

人に話すなら

シベリアの地下40メートルの凍った土から、生きた線虫が見つかったんだって。4万6000年くらい凍ってたのに、とけたら動き出して、メスだけで子どもを産んで増えたらしいよ。

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シベリアの凍土から生き返った線虫は、オスとメスがいないと増えられない

今から約4万6000年前、シベリアの地面の下で、小さな虫が凍りつきました。その虫が、何万年もたった今、研究室でとかされて動き出しました。しかも子を産み、増えていきました。

この虫は、線虫(せんちゅう)という、とても小さな細長い動物です。ロシアとドイツなどの研究チームが調べたところ、凍った年代は約4万6000年前と見積もられました。そして、まだ名前のない新しい種だと分かりました。

線虫が凍ったり乾いたりしたまま生きのびた記録は、これまで数十年が最長でした。今回の記録は、それを何万年ものばしたことになります。一方で、「その年代は本当に正しいのか」という点には、気をつけて見る必要があります。

01シベリアの崖の地下40メートル、リスの古い巣穴から見つかった

舞台は、ロシア・シベリア北東部のコリマ川ぞいにある崖です。ここは、氷のかたまりが何本もすじのように入った、凍った土の層でできています。夏でもとけない、ずっと凍ったままの地面です。これを永久凍土と言います。

ロシアの土の研究所のチームは、長年この地域で凍土の試料を集めてきました。調べた試料は300を超えます。そのうち2つから、生きた線虫が見つかりました。

その1つが、昔のジリスというリスのなかまの巣穴でした。地表から約40メートルも下、一度もとけたことのない層にありました。巣穴の中には、枯れ草や種が残っていました。この試料は、2002年8月に集められたものです。

ロシアの研究者アナスタシア・シャチロビッチ(Anastasia Shatilovich)さんたちが、この線虫をとかして育てました。2018年の最初の報告では、凍っていた期間を「3万〜4万年」と見積もっていました。

02巣穴の植物の年代から、線虫は4万6000年前に凍ったと考えられた

線虫そのものの年齢は、直接は測れません。そこでチームは、同じ巣穴の植物の年代を測りました。生き物の体にふくまれる炭素の一部は、長い時間をかけて少しずつ減っていきます。残っている量から、何年前のものかが分かります。これを放射性炭素年代測定と言います。

測った結果、巣穴の植物は約4万5800〜4万7800年前のものでした。巣穴は凍ってから一度もとけていません。だから、中にいた線虫も同じころに凍ったと考えられます。こうしてチームは、線虫が約4万6000年前から活動を止めていたと結論しました。

ドイツのマックス・プランク分子細胞生物学・遺伝学研究所は、この研究のお知らせを出しました。その中で、研究をまとめた1人は、線虫の記録を「何万年ものばした」と話しています。

凍った土の断面に、昔のリスの巣穴が見え、中に枯れ草と種が残っている。そのそばで、細長い線虫がゆっくり体をくねらせて動き出している。

03研究室で100世代以上増え、新しい種として名前がついた

生き返った線虫は、研究室で100世代以上にわたって育てられました。この線虫はメスだけで子を産みます。オスがいなくても、1匹から仲間を増やせるのです。

はじめは、形からすでに知られている種のなかまだと考えられていました。でも、このなかまの線虫は、形がそっくりで見分けがつきにくいのです。そこでチームは、遺伝子をくわしく読みました。ほかの種と比べると、どれとも違う、新しい種だと分かりました。

新しい種の名前は「パナグロライムス・コリマエンシス(Panagrolaimus kolymaensis)」です。見つかったコリマ川にちなんでいます。種の基準になる標本は、ドイツの博物館に収められています。

04生きのびるしくみは、実験でおなじみの線虫と似ていた

チームは、この線虫がどうやって生きのびたのかも調べました。比べる相手は、シー・エレガンス(C. elegans)という線虫です。世界中の研究室で使われている、とても身近な実験動物です。

シー・エレガンスは、えさが少ないときなどに、体の働きを落とした特別な幼虫になります。この幼虫は、乾燥や凍結にたえられます。そのためには、本格的に乾く前に、湿度98%の少しだけ乾いた状態で4日ほど過ごす必要があります。そのあいだに、体の中で「トレハロース」という糖を増やすのです。

新しい線虫も、同じでした。少しだけ乾かしてから強く乾かしたり、マイナス80度で凍らせたりすると、生き残る割合が上がりました。そのあいだ、トレハロースは最大で20倍に増えていました。遺伝子にも、シー・エレガンスと共通する道具がそろっていました。

さらに、シー・エレガンスの特別な幼虫を乾かしてからマイナス80度で凍らせる実験もしました。すると、480日たっても生き残る割合は下がりませんでした。とかしたあとは、ふつうに子を産みました。乾燥と凍結を組み合わせると、とても長く生きのびられるようです。

05年代は「巣穴の植物の年代」。残る疑問もある

この研究で測ったのは、巣穴の植物の年代です。線虫の年代を直接測ったわけではありません。「巣穴は一度もとけていないので、線虫も同じころに凍った」という考えに立っています。

凍土から生き物をとり出す研究では、試料をとるときに外から生き物がまざらないかが、いつも問題になります。論文は、この点はこれまでの研究で詳しく議論されてきたと書いています。それでも、読む側としては、年代が「植物の年代からの推定」であることは覚えておきたいところです。

また、生き返ったのは、ごく一部です。300以上の試料のうち、生きた線虫が出たのは2つだけでした。どんな条件なら何万年も生きのびられるのか。生きのびられる時間に上限はあるのか。論文も、この問いはまだ答えが出ていないとしています。

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なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

なぜ「止まって待つ」力が進化したのか

この線虫のなかまは、世界中の落ち葉や土にすみ、きびしい環境でくらす種も多くいます。土の中は、季節によって乾いたり凍ったりします。そんな場所では、悪い季節のあいだ体の活動を止めてやりすごせる種が、生き残りやすかったと考えられます。論文は、短い期間をしのぐために身につけた力が、結果として何万年もの「停止」を可能にしたのだろうと書いています。

研究の歴史:記録はずっと「数十年」だった

凍土から生き物がよみがえる可能性は、1936年にすでに気づかれていました。旧ソ連の収容所で囚人として働かされていた研究者が、何千年も凍っていた土から、生きたミジンコのなかまを見つけたのです。ところが、この発見は何十年も注目されませんでした。線虫ではこれまで、南極のコケの中でマイナス20度で25.5年凍っていた例が知られていました。植物標本の中で39年乾いていた例もあります。今回の記録は、それより何万年も長いものです。

ほかの動物ではどうか

凍ったり乾いたりしても生きのびる動物は、線虫のほかにもいます。クマムシやワムシがその代表です。2021年には、シベリア北東部の約2万4000年前の凍土から、生きたワムシが見つかりました。このワムシも、メスだけで子を産んで研究室で増えました。チームは、同じ試料の中からワムシの遺伝子を見つけ、本当に凍土の中にいたことを確かめています。

「1世代が何万年」になると、進化の見え方が変わる

線虫の世代は、ふつうは日の単位で入れかわります。ところが、何万年も止まっていた個体がよみがえると、親と子のあいだに長いすき間ができます。論文は、世代の長さが「数日」から「何千年」にまで引きのばされうると書いています。そして、こうした個体が、ほかでは絶えてしまった系統をよみがえらせる可能性にもふれています。この線虫のようにメスだけで子を産む種なら、1匹から新しい集団を始められます。相手を探す必要がないからです。

生きのびられる時間に上限はあるのか

論文は、上限があるかどうかは分からないとしたうえで、限界を決めるものの候補を挙げています。まわりの温度が大きく上下すること、自然にある放射線などです。今回の線虫がいたのは、地下深くの一度もとけなかった層でした。その安定した環境が、長い停止を支えたのかもしれません。

研究方法の工夫と限界

この研究の強みは、3つの方法を組み合わせたことです。年代の測定、遺伝子による種の確認、そして生きのびるしくみの実験です。限界は、年代が植物からの推定であることです。また、何万年も止まっていた線虫の体の中で、具体的に何が起きていたのかは、まだ分かっていません。チームは今後、遺伝子の働きを止める実験などで、しくみをさらに確かめたいとしています。

06まとめ

シベリアの永久凍土の地下約40メートル、昔のリスの巣穴から、生きた線虫が見つかりました。巣穴の植物の年代から、約4万6000年前に凍ったと考えられています。研究室で100世代以上増え、新しい種と確かめられました。

この線虫は、実験でよく使われる線虫と似たしくみで、乾燥や凍結にたえていました。ただし、年代は植物からの推定で、生きのびられる時間に上限があるのかも分かっていません。

凍ったり乾いたりして生きのびた線虫の記録は、それまで最長39年でした。それが一気に、約4万6000年までのびたのです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

ロシア・シベリア北東部

研究チーム
ロシア科学アカデミーの研究所と、ドイツのマックス・プランク研究所などのチーム(第一著者アナスタシア・シャチロビッチ)
調べた場所
ロシア・シベリア北東部、コリマ川ぞいの崖(ドゥバンヌイ・ヤール)
調べた動物
凍土から生き返った線虫(新種 Panagrolaimus kolymaensis)
調べ方
巣穴の植物の放射性炭素年代を測り、線虫の遺伝子と体の形を調べ、乾燥や凍結の実験をした
分かったこと
約4万6000年前から凍っていた新種で、実験でよく使う線虫と似たしくみで生きのびていた
まだ分からないこと
生き物が「止まった」状態で生きのびられる時間に、上限はあるのか
論文
PLOS Genetics(2023年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

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A Tiny Worm Woke Up After 46,000 Years

In Siberia, some ground stays frozen all year. Scientists studied more than 300 samples of this frozen ground. In one old animal hole, about 40 meters deep, they found tiny worms.

When the worms warmed up, they started to move again. The scientists checked the age of plants in the same hole. The plants were about 46,000 years old. So the worms probably froze at that time.

The worms had babies in the lab for more than 100 generations. In this kind of worm, females can have babies without males. The scientists studied their genes and found a new kind of worm.

Before this study, the longest record for these worms was 39 years. But the age comes from the plants, not from the worms. Scientists still do not know how long life can wait like this.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How deep was the old animal hole?古い動物の巣穴は、どれくらいの深さにありましたか。

Q2. How did the scientists find the age?研究者たちは、どうやって年代を調べましたか。

Q3. What was the longest record before this study?この研究の前の最長記録は何年でしたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Shatilovich, A. et al. (2023) A novel nematode species from the Siberian permafrost shares adaptive mechanisms for cryptobiotic survival with C. elegans dauer larva. PLOS Genetics 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pgen.1010798
  2. 2Shatilovich, A. V. et al. (2018) Viable Nematodes from Late Pleistocene Permafrost of the Kolyma River Lowland. Doklady Biological Sciences 論文確認済みdoi:10.1134/S0012496618030079
  3. 3Shmakova, L. et al. (2021) A living bdelloid rotifer from 24,000-year-old Arctic permafrost. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2021.04.077
  4. 4Max Planck Institute of Molecular Cell Biology and Genetics(2023)プレスリリースmpi-cbg.de/news-outreach/news-media/article/genome-analysis-

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい