サナダムシに寄生された働きアリは、3年後も半数が生きていた。女王アリと同じくらい長生き

サナダムシの幼虫に寄生された働きアリは、3年後も半数が生きていた。同じ巣で見守ったふつうの働きアリは、1匹も残らなかった。

No.106 8分で読めるえっ度 論文 2026年
落ち葉の下のドングリの殻の中にある小さなアリの巣。茶色い働きアリたちの中に、1匹だけ黄色っぽい働きアリがいて、まわりの茶色いアリが触角でふれて世話をしている。

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  1. 寄生された働きアリは、3年後も半数が生きていた
  2. 同じ巣で見守ったふつうの働きアリは、1匹も残らなかった
  3. 寄生されたアリは、女王アリよりも多く世話を受けていた

人に話すなら

ヨーロッパの小さなアリで、サナダムシに寄生された働きアリは3年たっても半分が生きてたんだって。同じ時に見守ったふつうの働きアリは全部死んでたのに。しかも仲間から女王より世話されてるらしいよ。

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サナダムシに寄生された働きアリは、ふつうの働きアリより早く死ぬ

寄生虫は、ふつうは体に住みついた相手を弱らせます。相手の栄養を横取りして生きているからです。寄生された動物は、育ちが遅くなったり、早く死んだりします。

ところがドイツの研究チームが、まったく逆のことを見つけました。サナダムシの幼虫に寄生された働きアリを3年間見守ると、3年後も半数が生きていました。同じ巣で見守ったふつうの働きアリは、1匹も残っていませんでした。寄生された働きアリは、何年も生きる女王アリと同じくらい生き残ったのです。

寄生虫が相手の寿命を延ばす例は、これまでにもありました。けれど多くは、相手が子どもを作れなくなるかわりに長生きする、というものでした。このアリでは、寄生された働きアリの卵を作る力は落ちていません。なぜ長生きするのか。しかも、それは誰にとって得なのか。研究チームは、この2つの謎を調べました。

01寄生された働きアリは、体が黄色くなり、巣の奥でじっとしている

主役は、中央ヨーロッパの森にすむムネボソアリの仲間です。体の長さは2〜3ミリほどです。落ち葉の下に落ちている小枝やドングリの殻の中に、巣を作ってくらします。

このアリには、サナダムシの仲間が寄生します。アリは、まだ幼虫のうちに、サナダムシの卵を食べさせられて寄生されます。卵はアリのおなかの中でふ化し、サナダムシの幼虫になります。1匹のアリに70匹もの幼虫が入っていることもあります。

サナダムシが大人になる場所は、アリの体ではありません。キツツキのおなかの中です。キツツキがアリの巣をこわしてアリを食べると、サナダムシはキツツキの腸に移り、そこで大人になります。

寄生された働きアリは、見た目ですぐに分かります。ふつうの働きアリは茶色で、おなかに黒っぽい帯があります。寄生された働きアリは色が抜けて黄色っぽく、体の表面もやわらかめです。よく動かず、巣の中の幼虫の山の上にとどまります。危ないときも、あまり逃げようとしません。

02働きアリに針金で印をつけ、10日ごとに3年間数えた

研究したのは、ドイツのマックス・プランク老化生物学研究所のサラ・ベロス(Sara Beros)さんと、マインツ大学のスザンネ・フォイツィク(Susanne Foitzik)さんたちです。チームは、マインツ近くの森で、寄生されている巣を30、寄生されていない巣を28集めました。

このアリは、毎年夏の同じ時期に、新しい働きアリがいっせいに生まれます。生まれたばかりの働きアリは体の色がうすいので、年上のアリと見分けられます。チームはこれを利用しました。

2014年9月、新しい働きアリが生まれた直後に、それぞれの巣で印をつけました。若い世話係のアリを5匹、外にエサを取りに行く年上のアリを5匹です。印には、太さ0.025ミリの針金を体に巻きつけました。寄生された巣では、寄生された働きアリにも1〜5匹ずつ印をつけました。女王アリは体が大きく形も違うので、印がなくても分かります。

巣は、2枚のガラス板のあいだにすき間を作った、小さな観察用の巣に移しました。部屋の温度と明るさは、季節に合わせて変えました。そして10日ごとに、印のついたアリと女王アリが生きているかを記録しました。記録は2017年10月まで、1110日続きました。

03ふつうの働きアリは1匹も残らず、寄生された働きアリは半数が生き残った

3年後の結果は、はっきり分かれました。

寄生された巣では、印をつけたふつうの働きアリ285匹が、1匹も生き残りませんでした。ところが、寄生された働きアリは98匹のうち52匹、約53%が生きていました。同じ巣の女王アリは、29匹のうち15匹、約55%が生きていました。寄生された働きアリと女王アリの生き残り方に、はっきりした差はありませんでした。

このアリの女王は、20年生きることもあるとされています。一方、アリの働きアリは一般に、数週間から数か月、まれに数年しか生きません。チームは、寄生された働きアリの寿命が、少なくとも3倍に延びたと見ています。

一方で、気になる結果も出ました。寄生された巣のふつうの働きアリは、寄生されていない巣の働きアリより早く死んでいました。とくに、外へエサを取りに行く年上の働きアリで差がはっきりしていました。サナダムシの「負担」は、寄生されたアリ本人ではなく、同じ巣の仲間にかかっているのかもしれません。

透明な板にはさまれた細長い巣の中に、大きな女王アリ、茶色い働きアリ、黄色っぽい働きアリ、白い幼虫が並んでいる。黄色っぽい働きアリは幼虫の山の上にじっととどまっている。

04寄生されたアリは、若いアリのような体で、女王より世話されていた

チームは、別に集めた28の巣で、アリの体も調べました。1匹ずつ小さな部屋に入れて、10分間に使う酸素の量を測りました。動物は、体の働きが活発なほど酸素をたくさん使います。

寄生された働きアリが使う酸素の量は、若い世話係のアリと同じくらいでした。体の重さや、体にたくわえた脂の量も、若い世話係のアリと近い値でした。女王アリは酸素をあまり使わず、外へ出る年上のアリはたくさん使っていました。寄生された働きアリは、若い働きアリに近い体の状態を保っているらしいのです。

次に、仲間からどれだけ世話を受けるかを数えました。1匹のアリを20回見て、そのたびに、なめてもらう・エサをもらう・運んでもらう・触角でさわってもらう、のどれかを受けているかを記録しました。すると、寄生された働きアリは、世話係のアリよりも、年上のアリよりも、女王アリよりも多く世話を受けていました。女王はふつう、巣でいちばん大事にされるアリです。

寄生された働きアリが、自分からエサをねだっていたわけでもありません。観察した1780回のやりとりのうち、エサをねだる行動は5回だけでした。その5回に、寄生された働きアリはかかわっていませんでした。

05仲間を引き寄せていたのは、体の表面のにおいだった

アリは、体の表面についた油のような物質のにおいで、仲間を見分けます。寄生された働きアリは、このにおいの成分の量がふつうのアリと違うことが、前から知られていました。

チームは、このにおいを確かめる実験をしました。寄生された働きアリと、ふつうの働きアリから、それぞれ体の表面の物質を取り出します。それぞれを小さなガラス玉にぬります。次に、働きアリ10匹と幼虫、女王を小さな皿の巣に移し、そこに2つの玉を置きました。そして20分間ビデオで撮り、アリが玉にふれた回数を数えました。

結果は、寄生された働きアリのにおいをぬった玉のほうに、アリが多くふれました。寄生されたアリのにおいは、仲間をより強く引きつけていたのです。チームは、このにおいが、手厚い世話のきっかけになっているのではないかと考えています。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

長生きさせて、得をするのはサナダムシかもしれない

サナダムシにとって、アリは途中の住まいにすぎません。キツツキに食べられなければ、大人になれません。チームは、寄生されたアリが長く生きるほど、キツツキに食べられる機会も長く続くと考えています。巣の奥でじっとして逃げないことも、キツツキに巣ごと食べられやすくするのかもしれません。ただし、寿命を延ばしているのがサナダムシの「作戦」なのか、アリの体の反応なのかは、まだ確かめられていません。

サナダムシは、アリの体にたんぱく質を流しこんでいた

2023年、フォイツィクさんのチームのユリアーネ・ハルトケ(Juliane Hartke)さんたちは、寄生されたアリの体液を調べました。アリの体液に含まれるたんぱく質の、かなりの部分がサナダムシから出たものでした。サナダムシから出たたんぱく質の中でいちばん多かったのは、細胞を傷つける物質を消す働きを持つ2種類でした。チームは、サナダムシが出すたんぱく質が、アリの長生きや行動の変化にかかわっている可能性があると考えています。サナダムシが出していたたんぱく質の多くは、何をするものか分かりませんでした。

「女王と同じしくみ」かどうかで、結果が分かれている

寄生された働きアリは、女王と同じしくみで長生きしているのでしょうか。2021年の研究では、寄生された働きアリと女王で、そろって働きが強まる遺伝子は6個しかありませんでした。チームは、女王と同じしくみではないと考えました。

ところが2026年の研究では、栄養をたくわえる組織に注目すると、寄生された働きアリの遺伝子の働き方が、女王に近い方向へずれていました。重なっていた遺伝子には、老化の調節にかかわるものが目立ちました。調べる体の部分によって、答えが変わるのかもしれません。

巣の中に寄生されたアリが多いと、みんなの寿命が縮む

2025年の研究では、巣の中で寄生された働きアリの割合が高いほど、寄生された働きアリも、女王も、ふつうの働きアリも、生き残る割合が下がりました。大きな巣ほど、生き残る割合は上がりました。寄生されたアリの長生きは、巣の仲間の支えがあってこそ、ということかもしれません。

研究の歴史

このサナダムシがアリの体を変えることは、1972年にフランスの研究者が報告していました。2000年には、体の色、大きさ、脚や目の形まで変わることが報告されています。2015年には、今回の研究チームが、寄生されたアリは数週間の観察でも長く生き、仲間の生き残りは悪くなることを報告しました。2021年の研究は、それを3年にのばして確かめたものです。

06まとめ

ドイツの森の小さなアリを3年間見守ると、サナダムシの幼虫に寄生された働きアリは、半数が生き残りました。同じ巣で見守ったふつうの働きアリは、1匹も残りませんでした。寄生された働きアリの生き残り方は、何年も生きる女王アリと同じくらいでした。

寄生された働きアリは、若いアリのような体のままで、女王より多く仲間に世話されていました。その体のにおいは、仲間を強く引きつけていました。一方で、同じ巣のふつうの働きアリは、寄生されていない巣より早く死んでいました。

寿命が延びるしくみは、まだ分かっていません。分かっているのは、サナダムシが大人になるにはキツツキに食べられる必要がある、ということです。黄色いアリが長く生きるほど、その機会は長く続きます。

RESEARCH FILE

研究カルテ

ドイツ・マインツ

研究チーム
ドイツのマックス・プランク老化生物学研究所とマインツ大学などのチーム(第一著者サラ・ベロス)
調べた場所
ドイツ・マインツ近くの森で巣を集め、大学の実験室で飼った
調べた動物
ムネボソアリの仲間(学名 Temnothorax nylanderi)と、寄生するサナダムシ(学名 Anomotaenia brevis)
調べ方
働きアリに細い針金で印をつけ、10日ごとに3年間、生きているかを記録した。使う酸素の量、体の脂、世話された回数も測った
分かったこと
寄生された働きアリは、女王アリと同じくらい生き残った。体のようすは若い働きアリに近く、女王よりも世話を受けていた
まだ分からないこと
どんなしくみで寿命が延びるのか。寿命が延びることで、サナダムシが本当に得をしているのか
論文
Royal Society Open Science(2021年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Ants With Tapeworms Live Much Longer

Some small ants live in forests in Germany. Young tapeworms can live inside these ants. An ant with tapeworms turns yellow and stays in the nest.

Scientists put tiny wires on many worker ants. They checked the ants every ten days for three years. After three years, about half of the yellow ants were still alive. None of the normal workers with wires in the same nests were alive. The yellow ants lived as long as the queens.

The yellow ants had bodies like young workers. Other ants cleaned them, fed them and carried them. They got more care than the queen. Their body smell attracted other ants.

The tapeworm becomes an adult inside a woodpecker. A long life may give birds more time to eat the ant. Scientists still do not know how the ants live so long.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What color do ants with tapeworms turn?サナダムシのいるアリは何色になりますか。

Q2. How many normal workers were alive after three years?3年後、ふつうの働きアリは何匹生きていましたか。

Q3. Where does the tapeworm become an adult?サナダムシはどこで大人になりますか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Beros, S. et al. (2021) Extreme lifespan extension in tapeworm-infected ant workers. Royal Society Open Science 論文確認済みdoi:10.1098/rsos.202118
  2. 2Beros, S. et al. (2015) The parasite's long arm: a tapeworm parasite induces behavioural changes in uninfected group members of its social host. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2015.1473
  3. 3Stoldt, M. et al. (2021) Parasite presence induces gene expression changes in an ant host related to immunity and longevity. Genes 論文確認済みdoi:10.3390/genes12010095
  4. 4Hartke, J. et al. (2023) Long live the host! Proteomic analysis reveals possible strategies for parasitic manipulation of its social host. Molecular Ecology 論文確認済みdoi:10.1111/mec.17155
  5. 5Sistermans, T. et al. (2025) Parasite prevalence in a social host has colony-wide impacts on transcriptional activity and survival. Evolution 論文確認済みdoi:10.1093/evolut/qpaf118
  6. 6Blasi, G. et al. (2026) Cestode infection is linked to transcriptional shifts in neuropeptide signalling and caste-specific ageing pathways in a social insect. BMC Genomics 論文確認済みdoi:10.1186/s12864-026-12959-6

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい