ショウジョウバエのメスは恋の相手選びをまねる。ほかのメスの6割が選んだ色のオスを好んだ
ほかのメスが緑のオスを選ぶのを見たメスは、緑のオスを好んだ。手本のメスの6割が同じ色を選べば、多数派の色に合わせた。

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- メスは、ほかのメスが選んだのと同じ色のオスを選んだ
- 手本のメスの6割が同じ色を選べば、多数派の色に合わせた
- 見たメスが次の手本になると、好みは偶然よりずっと長く続いた
人に話すなら
ショウジョウバエのメスって、ほかのメスが選んだオスと同じ色のオスを選ぶんだって。しかも多数派に合わせるから、色の好みがメスからメスへ伝わって、流行みたいに続くらしいよ。
読む前に予想しよう
ショウジョウバエのメスは、ほかのメスのオス選びを見ても、自分の選び方を変えない
ほかのメスが選んだのと同じ色のオスを、選ぶようになった。
台所の果物にたかる、あの小さなハエ。ショウジョウバエのメスが、恋の相手を選ぶとき、ほかのメスの選び方をまねていることが、実験で分かりました。
フランスの研究チームが、緑とピンクに色をつけたオスを使って調べました。ほかのメスが緑のオスを選ぶのを見たメスは、自分も緑のオスを選びました。しかも手本のメスの6割が同じ色を選べば、メスは多数派の色に合わせました。見たメスが次のメスの手本になると、色の好みはメスからメスへと伝わり、偶然よりずっと長く続きました。
動物の「文化」は、これまでチンパンジーやクジラ、鳥など、おもにほ乳類と鳥で見つかってきました。研究チームは、文化と呼ぶための条件を5つ決めて、ハエで1つずつ確かめました。その結果、ハエはこの5つの条件を全部満たしていました。
01ハエのメスは、ほかのメスのオス選びを見て学ぶことが知られていた
ほかの個体が選んだ相手を、自分も選ぶ。この行動は「配偶者選びのまね」と呼ばれ、背骨のある動物の多くのグループで知られています。ショウジョウバエのメスも、ほかのメスが交尾する場面を見て、オスの好みを学ぶことが、それまでの研究で分かっていました。
研究をしたのは、フランスのトゥールーズ大学とフランス国立科学研究センター(CNRS)のエティエンヌ・ダンシャン(Etienne Danchin)さん、ギヨーム・イザベル(Guillaume Isabel)さんたちです。チームは、まねる力が「文化」と呼べるものになるかを確かめようとしました。
チームが決めた文化の条件は5つです。①ほかの個体から学ぶこと。②年上から年下へ伝わること。③覚えたことが長く残ること。④その相手1匹ではなく、「緑のオス」のような特徴を覚えること。⑤多数派に合わせること。最後の条件は、伝わるうちに好みがぶれても、元に戻す働きをします。
02ガラス越しに見たメスは、選ばれた色のオスを選んだ
実験には、小さな筒の装置を使いました。まん中のしきりの片側に、まだ交尾していないメス(見るメス)を入れます。反対側では、手本のメスが、緑のオスとピンクのオスのどちらかを自由に選びます。オスの色は、研究者が人工的につけたものです。
しきりが透明なガラスのときは、見るメスは手本のメスの選択を見られます。しきりが白い紙のときは、見えません。そのあとすぐに、見るメスを新しい緑のオスとピンクのオスと一緒にして、どちらと交尾するかを調べました。
結果は、はっきり分かれました。紙で見えなかったメスの選び方は、でたらめと変わりませんでした。ガラス越しに見ていたメスは、手本のメスが選んだのと同じ色のオスを多く選びました。緑が選ばれた場合でも、ピンクが選ばれた場合でも同じでした。
手本のメスが、見るメスより11日年上でも、同じように伝わりました。11日は、ちょうど親と子くらいの年の差です。
03覚えた好みは1日たっても残り、色そのものを覚えていた
次に、覚えたことがどれだけ残るかを調べました。見るメスに、15〜30分の休みをはさんで、手本の場面を5回見せました。そして24時間後に、オスを選ばせました。
すると、見ていたメスは、1日たっても手本の色のオスを強く好みました。このとき、手本の色を選んだメスの割合は約78%でした。ところが、たんぱく質を作るのを止める薬をエサにまぜたメスでは、この長い記憶が消えました。長く残る記憶を作るには、新しいたんぱく質が必要だったのです。
メスが覚えたのは、手本で選ばれた「そのオス」だったのかもしれません。そこでチームは、オスを選ばせるときに、羽が縮れたオスや目の白いオスを使いました。見た目がまったく違うオスです。それでもメスは、手本と同じ色のオスを選びました。メスは「緑のオス」という特徴を覚えていたのです。
04手本の6割が選べば、メスは多数派の色に合わせた
5つ目の条件を確かめるため、チームは「ヘキサゴン」と呼ぶ六角形の装置を作りました。まわりの小部屋に、交尾している最中のオスとメスの組を入れます。オスの色は緑かピンクで、そばにはもう一方の色のオスもいます。見るメスたちは、6組の手本をまとめて見ることができます。
チームは、手本のうち緑のオスを選んだ組とピンクのオスを選んだ組の割合を変えました。多数派の割合は、100%、83%、67%、60%の4段階です。半分ずつの組も用意しました。
半分ずつのときは、見るメスに好みは生まれませんでした。ところが、どちらかの色が少しでも多ければ、見るメスは多数派の色を好むようになりました。多数派が60%でも、100%のときと同じくらいよく学びました。わずかな差でも、はっきり多数派に寄せていたのです。

05見たメスが次の手本になると、好みは偶然よりずっと長く続いた
最後に、好みが「伝統」として続くかを調べました。最初は、6匹の手本のメスが全員同じ色のオスを選ぶ場面を見せます。次は、それを見た6匹のメスが手本になり、別のメスたちがそれを見ます。これを、最初の色の好みが半分以下になるまで続けました。伝言ゲームと同じ形です。
この伝言の実験を36本行いました。見るメスが6匹しかいないので、偶然のまちがいで好みが入れかわることもよくありました。それでも、好みが続いた回数は、偶然だけの予想よりずっと多くなりました。8回目の伝言まで好みが続いた数は、偶然の予想の142倍でした。
チームは、実験の結果をもとにコンピューターの計算もしました。メスが150匹の集団なら、好みが10万回以上の伝言にわたって続く、という計算結果も出ました。1回の伝言を1日とすると、ハエの何千世代分にあたる、とチームは見積もっています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
なぜ「多数派に合わせる」と得をするのか
チームは、イギリスの学者ロナルド・フィッシャー(Ronald Fisher)が1930年に示した考えを使って説明しています。体の色が親から子に受け継がれる場合を考えます。ある集団で、多くのメスが緑のオスを好んでいるとします。そこで、ピンクのオスを選ぶメスがいたとします。そのメスの息子は、多くがピンクの体を受け継ぎます。けれど、次の世代の娘たちは、多数派をまねて緑のオスを好みます。ピンクの息子は相手を見つけにくく、孫も少なくなります。
こうして、多数派に合わせるメスほど子孫を多く残すことになります。最初はどちらでもよかった色が、いったん少しでも好まれると、どんどん「好まれる色」になっていきます。こうした流れは何十年も前から理論で予想されていましたが、実験の証拠はほとんどありませんでした。
ハエの脳のどこで覚えているのか
同じ研究グループは、その後、まねのしくみを脳で調べました。2023年には、ハエの脳の「キノコ体」という部分で、学習にかかわるある遺伝子が働かないと、まねができないことを示しました。キノコ体は、ハエが自分の経験から学ぶときにも使われる部分です。2025年には、1日以上残る長い記憶にも、キノコ体が必要だと報告しています。ほかのハエから学ぶときも、自分の経験から学ぶときと、かなり同じ脳のしくみを使っているようです。
ほかのハエでもまねるのか
2025年には、近い仲間のオナジショウジョウバエでも、メスがオス選びをまねることが報告されました。一方、2026年には、別の仲間のハエで同じ実験をしても、はっきりしたまねは見られなかったと報告されています。オス選びをまねるかどうかは、ハエの種類によって違うようです。
研究の限界と、反対の意見
今回の結果は、すべて研究室のものです。オスの色は人がつけたもので、野生のハエに色の流行があるかは分かりません。何千世代も続くというのは、計算上の話です。
2021年には、別の研究チームが「ハエのオス選びのまねは、これまで言われていたほど確かではないかもしれない」という題の論文を出しています。実験の条件しだいで、結果が変わる可能性もあるのです。
06まとめ
フランスの研究で、キイロショウジョウバエのメスは、ほかのメスが選んだのと同じ色のオスを選ぶようになりました。その好みは1日たっても残り、メスは「その色のオス」という特徴を覚えていました。
手本のメスの6割が同じ色を選べば、メスは多数派に合わせました。見たメスが次の手本になる実験では、好みは偶然よりずっと長く伝わりました。ただし、これは研究室での話で、野生のハエで流行が起きているかはまだ分かりません。
あの小さなハエのメスが、「みんなが選んでいる相手」を見て、自分の好みを決めていたのです。
研究カルテ
フランス・トゥールーズ
- 研究チーム
- フランスのトゥールーズ大学とフランス国立科学研究センター(CNRS)などのチーム(エティエンヌ・ダンシャン、ギヨーム・イザベル)
- 調べた場所
- フランス・トゥールーズの研究室
- 調べた動物
- キイロショウジョウバエ(学名 Drosophila melanogaster)
- 調べ方
- 緑とピンクに色をつけたオスのどちらかをメスが選ぶ場面を、別のメスに見せた。そのあと、見ていたメスにオスを選ばせた
- 分かったこと
- メスは見た色のオスを好み、多数派の色に合わせた。好みはメスからメスへ伝わり、偶然よりずっと長く続いた
- まだ分からないこと
- 野生のハエでも、オスの好みの流行が生まれているのか。何世代も続くというのは計算上の話
- 論文
- Science(2018年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Scientists in France studied small fruit flies. They colored some male flies green and some pink. A female fly watched another female choose a male.
Then the watching female chose a male herself. She often chose a male of the same color. She still liked that color one day later.
Next, the females watched six pairs at the same time. When most of the pairs had the same color, the females followed the majority. They did this even when the majority was only 60 percent.
The watching females then became examples for new females. The color choice passed from female to female. It lasted much longer than chance alone could explain. We still do not know if this happens in the wild.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What colors were the male flies?オスのハエは何色でしたか。
オスのハエは、緑とピンクに色づけされました。
Q2. How long did the female still like the color?メスは、どのくらいの間その色を好んでいましたか。
1日たっても、メスはその色を好んでいました。
Q3. What did the females do when the majority was 60 percent?多数派が60%のとき、メスたちはどうしましたか。
多数派が60%でも、メスたちは多数派に合わせました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Danchin, E. et al. (2018) Cultural flies: Conformist social learning in fruitflies predicts long-lasting mate-choice traditions. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.aat1590
- 2Nöbel, S. et al. (2023) Mate copying requires the coincidence detector Rutabaga in the mushroom bodies of Drosophila melanogaster. iScience 論文確認済みdoi:10.1016/j.isci.2023.107682
- 3Nöbel, S. & Kaufmann, T. E. (2025) Mate copying in Drosophila simulans. Biology Letters 論文確認済みdoi:10.1098/rsbl.2025.0070
- 4Nöbel, S. & Kaufmann, T. E. (2026) Does mate copying occur in Drosophila hydei? Behavioral Ecology 論文確認済みdoi:10.1093/beheco/arag114
- 5Santiago Araújo, R. et al. (2024) A social learning primacy trend in mate-copying: an experiment in Drosophila melanogaster. Royal Society Open Science 論文確認済みdoi:10.1098/rsos.240408
- 6Belkina, E. G. et al. (2021) Mate choice copying in Drosophila is probably less robust than previously suggested. Animal Behaviour 論文確認済みdoi:10.1016/j.anbehav.2021.04.007
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





