ウソの警報の8割で相手が逃げ出す。エサを奪う鳥は、ウソが効かなくなると声を変えていた
アフリカのクロオウチュウは、ほかの動物の警報の声をまねてウソの警報を出し、エサを奪う。同じ声を続けると相手が慣れるので、声の種類を変えていた。

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- クロオウチュウは、ウソの警報で相手を逃がし、エサを奪っていた
- ウソの警報には、ほかの鳥やミーアキャットの声のまねもまじっていた
- 同じウソが効かなくなると、声の種類を変えていた
人に話すなら
アフリカに、ウソの「敵が来たぞ!」を叫んで、ミーアキャットのエサを横取りする鳥がいるんだって。同じウソばかりだと見破られるから、ほかの動物の声に切りかえて続けるらしいよ。
読む前に予想しよう
クロオウチュウのウソの警報は、同じ声をくり返すほどよく効く
同じウソの警報をくり返すと、相手の反応は弱くなった。声の種類を変えると、また怖がった。
アフリカのカラハリ砂漠では、ミーアキャットが土を掘って、サソリなどのエサを見つけます。そこへ木の上から警報の声が響きます。すると、ミーアキャットはエサを置いて物かげへ逃げることがあります。そのすきに、1羽の黒い鳥が舞い降りて、エサを奪っていきます。
このとき、敵はどこにもいません。警報はウソなのです。声の主は、クロオウチュウという鳥です。南アフリカの研究では、クロオウチュウのウソの警報の8割以上で、相手が物かげへ逃げ出しました。しかもクロオウチュウは、自分の声だけでなく、ほかの鳥やミーアキャットの警報の声もまねていました。
ウソの警報には弱点があります。何度も聞かされた相手は、だんだん反応しなくなるはずです。ところが2014年の研究で、クロオウチュウがこの弱点を乗りこえていることが分かりました。同じウソが効かなくなると、声の種類を変えていたのです。
01クロオウチュウは、ミーアキャットやシロクロヤブチメドリのそばで暮らす鳥
クロオウチュウは、アフリカのサハラ砂漠より南に広くすむ鳥です。体重は50gほどで、全身が黒く、尾の先が二つに分かれています。ふだんは1羽で枝にとまり、飛んでいる虫をつかまえて食べます。
一方で、クロオウチュウはほかの動物のあとについて行くこともあります。相手は、ミーアキャットや、シロクロヤブチメドリという鳥の群れです。相手が地面を掘って追い出した虫を、横からつかまえます。
クロオウチュウは、タカなどの敵が近づくと、本物の警報も出します。まわりの動物は、その声を聞いて物かげへ逃げます。クロオウチュウがいると、まわりの動物は見張りを減らして、エサ探しに時間を使えるようになります。クロオウチュウは、いわば群れの見張り役でもあるのです。
研究の舞台は、南アフリカのカラハリ砂漠にあるクルマン川保護区です。ここでは1993年から、ミーアキャットの長期研究が続いています。ミーアキャットもシロクロヤブチメドリも人に慣れています。研究者は、数mの距離から観察できます。
調べたのは、南アフリカのケープタウン大学のトム・フラワー(Tom Flower)さんです。2008年から毎年6か月、週に6日、1日5〜15kmを歩いて、クロオウチュウを追いました。気温は、冬の朝のマイナス11℃から夏の42℃まで変わりました。約200羽のクロオウチュウに色つきの足輪をつけ、1羽ずつ見分けられるようにしました。
02ウソの警報の8割で、相手は逃げ出した
フラワーさんは、まず2011年の論文で、クロオウチュウのエサの取り方を調べました。25羽のクロオウチュウを、1回1時間ほど、合わせて294回観察しました。
クロオウチュウがほかの動物からエサを奪う方法は、2つありました。1つは、相手に飛びかかって奪う方法です。もう1つは、枝の上から警報を鳴らし、相手が逃げたすきに奪う方法です。2つの方法は、ほぼ半分ずつ使われていました。奪ったエサは、クロオウチュウが食べる量の平均22%になりました。
ウソの警報は、258回記録されました。そのうち211回、つまり82%で、ねらわれた相手は物かげへ逃げました。140回、つまり54%では、相手がエサを置いていき、クロオウチュウがそれを奪えるようになりました。
ウソの警報の中身も調べました。クロオウチュウ自身の声だけを使ったのは31%でした。ほかの動物の声のまねと思われる声だけを使ったのは42%でした。残りの27%は、両方をまぜていました。まねていたのは、アカガタテリムクという鳥や、シロクロヤブチメドリなどの警報です。
03本物の警報とウソの警報は、聞かせても区別されなかった
ウソの警報は、本物と似ているのでしょうか。フラワーさんは録音を、音の高さや長さが見える図にして比べました。本物の敵に向けた声と、ウソの警報の声は、同じ鳥のものなら形が変わりませんでした。クロオウチュウがまねたアカガタテリムクの警報も、本物のアカガタテリムクの警報と、はっきりした違いはありませんでした。
次に、相手の動物に録音を聞かせる実験をしました。ミーアキャットには、生きたサソリをわたしました。シロクロヤブチメドリには、トゲにさしたミールワーム3匹をわたしました。相手がエサを手にした瞬間、5m先の茂みにかくしたスピーカーから声を流します。そして、相手が何秒間エサから気をそらすかを測りました。エサを置いて逃げるかも記録しました。
結果は、はっきりしていました。ミーアキャットもシロクロヤブチメドリも、本物の警報とウソの警報に、同じように反応しました。どちらにも、ふつうの鳴き声よりずっと長く警戒しました。クロオウチュウがまねたアカガタテリムクの警報にも、本物と同じように反応しました。相手は、ウソを見分けられていなかったのです。

04同じウソを続けると相手は慣れる。そこでクロオウチュウは声の種類を変えていた
それでも、ウソには限界があるはずです。2011年の論文には、そのヒントがありました。シロクロヤブチメドリは、クロオウチュウ自身の「チンク」という警報を聞いても、エサを手放す割合はふつうの鳴き声のときと変わりませんでした。この声は、クロオウチュウがウソの警報で最もよく使う声の一つでした。一方で、まねたアカガタテリムクの警報を聞くと、エサを手放すことが多くなりました。
フラワーさんはここから、次のように考えました。よく使う声は、ウソが多すぎて効かなくなっているのかもしれない。そうなら、ほかの動物の声をまねて種類を変えることは、大きな武器になるはずだ。
この考えを確かめたのが、2014年にScienceに発表された論文です。フラワーさん、イギリスのケンブリッジ大学のマシュー・グリブル(Matthew Gribble)さん、シロクロヤブチメドリを研究してきたアマンダ・リドリー(Amanda Ridley)さんのチームでした。
論文の要旨によると、分かったことは次の3つです。
- クロオウチュウは、エサをねらう相手の種の警報をまねていた
- 相手の動物は、同じウソの警報がくり返されると、反応が弱くなった。ところが、警報の種類を変えると、また同じように怖がった
- クロオウチュウは、同じ種の相手から何度もエサを奪おうとするとき、警報の種類を変えていた
つまりクロオウチュウは、「ウソが見破られる」という弱点を、声の種類を変えることでかわしていたのです。
05「だます」と言っても、相手の心を読んでいるとはかぎらない
ここで、言いすぎに気をつけたいところがあります。クロオウチュウは、相手の心の中を考えてウソをついているのでしょうか。
フラワーさんは2011年の論文で、その可能性は低いと考えています。クロオウチュウの警報は、結果として相手をだます働きをしています。けれどもそれは、試行錯誤や、仲間からの学習で身についた行動だろう、というのです。相手の考えを読んで操るような「だまし」とは、区別して考える必要があります。
実際、若いクロオウチュウは、ウソの警報でエサを奪う大人について回っていました。そして、そのあと自分でもウソの警報を出すようになりました。どうやってこの行動を覚えるのかを調べるため、フラワーさんは若い鳥の成長を追う研究も始めています。
また、クロオウチュウとまわりの動物の関係は、だまし一色ではありません。2014年の別の研究では、クロオウチュウはシャカイハタオリという鳥の群れのそばで、「見張っているよ」という合図の声を出していました。ウソの警報で相手が逃げたあとにも、この声をよく出しました。録音したこの声を聞かせる実験もしました。すると、シャカイハタオリは、ほかの鳥の声を聞かせたときより早くエサ探しにもどりました。クロオウチュウは、相手を助ける声と、だます声の両方を使い分けているのです。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
研究の歴史:ウソの警報が本当に「ウソ」だと示すのはむずかしかった
動物がウソの警報でエサを奪うという話は、以前からありました。有名なのは、2種の鳥についての昔の研究です。この2種が、ほかの鳥にとびかかってエサを奪うときに警報を出す、と報告されました。ところがのちに、その声は警報ではなく、相手をおどす声ではないかという意見が出ました。フサオマキザルの仲間でも、ウソの警報でエサを取るという報告がありました。けれども、その声はけんかのときにも出る声でした。
フラワーさんは、警報が本当にウソだと言うには3つの条件が必要だと考えました。1つめは、その声がエサを奪う場面で出され、相手に飛びかかるときにはほとんど出ないこと。2つめは、本物の敵に向けた声と同じ声であること。3つめは、相手が本物とウソに同じように反応すること。2011年の論文は、この3つをすべて確かめた初めての研究だと、論文自身が書いています。
進化の理由:ウソが効くのは、本物の警報がいつも混じっているから
相手の動物は、なぜウソの警報にだまされ続けるのでしょうか。フラワーさんの考えでは、本物の警報を無視したときの損が、ウソの警報に逃げたときの損より大きいからです。本物の敵を無視すれば、命にかかわります。
ただし、ウソの合図は、本物に比べて多くなりすぎると効かなくなります。これは、だましの合図に広く見られる性質です。クロオウチュウは本物の警報も出すので、相手は無視できません。そのうえで声の種類を変えることで、「ウソが多すぎると効かなくなる」という制約をかわしている。2014年の論文は、そう結論しています。
ほかの動物との比較:鳴きまねの使い道
動物の鳴きまねには、いろいろな使い道が知られています。2011年の論文によると、カッコウのひなは、育ての親の鳥のひなの、エサをねだる声をまねます。こうして、育ての親に見捨てられずにすみます。オウチュウの仲間のカザリオウチュウは、ほかの鳥の声をまねて、一緒にエサを探す仲間を引きよせると報告されています。クロオウチュウの場合は、まねた声で相手を追い払い、エサを奪っていました。
研究方法の工夫と限界
この研究の強みは、野生の動物が人に慣れていたことです。研究者は、エサを奪う場面を数mの距離から見て、録音できました。相手の動物にも1匹ずつ印がついていたので、どの個体に何を聞かせたかを管理しながら実験できました。
一方で、調べたのはカラハリ砂漠の1つの地域の集団です。クロオウチュウはアフリカに広くすみますが、ほかの地域でも同じことをしているかは、この研究からは分かりません。また、クロオウチュウがどうやって声を選んでいるのか、そのしくみもこの研究では調べられていません。
06まとめ
アフリカのクロオウチュウは、ウソの警報を出して、ミーアキャットや鳥のエサを奪っていました。ウソの警報の82%で相手は物かげへ逃げ、54%ではエサを置いていきました。警報には、自分の声だけでなく、ほかの動物の声のまねも使っていました。
同じウソをくり返すと、相手は慣れて反応が弱くなります。そこでクロオウチュウは、同じ相手をねらうときに声の種類を変えていました。ただし、相手の心を読んでウソをついているとまでは言えません。
クロオウチュウは、本物の敵が来たときにも警報を出します。フラワーさんは、この本物の警報があるから、ウソの警報も無視されずにすむと考えています。
研究カルテ
南アフリカ・クルマン川保護区
- 研究チーム
- 南アフリカのケープタウン大学のトム・フラワーさん、イギリスのケンブリッジ大学などのチーム
- 調べた場所
- 南アフリカ・カラハリ砂漠のクルマン川保護区
- 調べた動物
- クロオウチュウ(学名 Dicrurus adsimilis)と、エサを奪われるミーアキャットやシロクロヤブチメドリ
- 調べ方
- 足輪で見分けた鳥を毎日追い、エサを奪う場面を記録。警報の声を録音し、相手に聞かせる実験もした
- 分かったこと
- 相手の種の警報をまねてエサを奪う。同じ声が効かなくなると、声の種類を変える
- まだ分からないこと
- この「だまし」を、試行錯誤で覚えるのか、まねで覚えるのか。相手の心まで読んでいるのか
- 論文
- Science(2014年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
The fork-tailed drongo is a small black bird in Africa. It often stays near meerkats and other birds. When a hawk comes, it gives a real alarm call.
But sometimes it gives a false alarm. The meerkats often run away and leave their food behind. Then the drongo flies down and takes it. In one study, the animals ran for cover after more than 80 percent of the false alarms.
The drongo can also copy the alarm calls of other animals. If it uses the same call again and again, the animals react less. So the drongo changes to a different call. Then the animals get scared again.
Is the drongo reading the minds of other animals? The scientist who studied it does not think so. The bird may learn this trick by trying many times or by watching others. Young drongos follow adults and later give false alarms too.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What do the meerkats do after a false alarm?ウソの警報のあと、ミーアキャットはどうしますか。
ウソの警報を聞いた相手は物かげへ逃げ、エサを置いていくことがあります。
Q2. What happens if the drongo uses the same call again and again?クロオウチュウが同じ声を何度も使うと、どうなりますか。
同じウソの警報をくり返すと、相手の反応は弱くなりました。
Q3. What do young drongos do?若いクロオウチュウは何をしますか。
若い鳥は、ウソの警報でエサを奪う大人について回り、のちに自分も同じことをしました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Flower, T. P., Gribble, M. & Ridley, A. R. (2014) Deception by flexible alarm mimicry in an African bird. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.1249723
- 2University of Cape Town(2014)Drongo mimics alarm calls to steal food from other species, finds UCT biologistscience.uct.ac.za/node/4072
- 3Flower, T. (2011) Fork-tailed drongos use deceptive mimicked alarm calls to steal food. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2010.1932
- 4Baigrie, B. D., Thompson, A. M. & Flower, T. P. (2014) Interspecific signalling between mutualists: food-thieving drongos use a cooperative sentinel call to manipulate foraging partners. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2014.1232
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





