カラスの仲間の群れは、鳴き声で飛び立つ時を決めていた。仲間の声を流すと約6分半早まった
夜明け前のねぐらで、カラスの仲間は鳴き声をだんだん大きくしていく。声の盛り上がりが早い朝ほど早く飛び立ち、仲間の声を流すと出発が約6分半早まった。

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- 冬のねぐらから、数百羽がほんの数秒で一斉に飛び立つ
- 鳴き声の盛り上がりが早い朝ほど、出発も早かった
- スピーカーで仲間の声を流すと、出発が約6分半早まった
人に話すなら
カラスの仲間の大群って、夜明けに何百羽も数秒で一斉に飛び立つんだって。暗くてよく見えないから、鳴き声の盛り上がりで「そろそろ行くか」をそろえてるらしいよ。
読む前に予想しよう
カラスの仲間の大群は、鳴き声を使って飛び立つ時をそろえている
イギリスの実験で、ねぐらで仲間の声を流すと、風の音を流したときより約6分半早く飛び立った。
冬の夜明け前、イギリスの林では、ねぐらの木から黒い鳥の大群がいっせいに飛び立ちます。数百羽が、ほんの数秒のうちに空へ上がるのです。まだ薄暗く、木の枝が重なっていて、遠くの仲間の姿はよく見えません。それなのに、どうやって出発の時をそろえているのでしょうか。
イギリスのエクセター大学のチームは、カラスの仲間のニシコクマルガラスで、この謎を調べました。答えは「鳴き声」でした。夜明け前の鳴き声が早く盛り上がる朝ほど、群れは早く飛び立ちました。スピーカーで仲間の声を流すと、出発は約6分半早まりました。
動物の群れが声で行動をそろえるしくみは、これまでミツバチと、50匹に満たない小さな群れでしか調べられていませんでした。チームは、数百羽の大きな群れでも声で合意を作っていることを、野外の実験で示したとしています。
01冬のねぐらから、数百羽がほんの数秒で一斉に飛び立つ
ニシコクマルガラスは、ヨーロッパからアジアにかけて広くすむ、小型のカラスの仲間です。仲間と群れて暮らし、集まって巣を作ります。
冬になると、昼は広い範囲に散らばってえさを探し、夕方には決まった林に集まって夜を過ごします。このねぐらには、数百羽から、多いときには何千羽も集まります。年齢も、生まれた繁殖地もばらばらで、血のつながった鳥もそうでない鳥も一緒です。
ねぐらの鳥たちは、夜明け前から長い時間、大きな声で鳴き続けます。そして日の出のころ、いっせいに飛び立ちます。チームは、この鳴き声に意味があるのではないかと考えました。声なら、暗くても遠くまで届くからです。
026か所のねぐらで、夜明け前の声を録音した
研究を率いたのは、アレックス・ディブナ(Alex Dibnah)さんと、アレックス・ソーントン(Alex Thornton)さんです。チームは、イギリス南西部の町ペンリンから15キロ以内で、9か所のねぐらを見つけました。2018年から2020年の2回の冬、11月から3月まで、週に平均4回通いました。
観察する人は、日の出の60分前から、ねぐらから50メートル以上離れた場所で待ちます。飛び立つ様子は、望遠レンズのカメラで撮影しました。
群れの数は、動画を1コマずつ止めて数えました。画面に写った鳥1羽ずつに同じ形の印を重ね、印の数を数えたのです。同じ鳥を2回数えないよう、飛ぶ鳥の動きを1秒ごとのコマで追いました。
録音機は、6か所のねぐらで、木の高さ2.5メートルの所に約40メートルおきにくくりつけました。録音は日の出の3時間前から4時間続けます。何台もの録音機の時刻は、設置のときに大きく手をたたいた音で合わせました。鳥をおどかさないよう、機械の設置と回収は昼間に行いました。
調べたねぐらの鳥の数は、約160羽から約1470羽でした。
03声が早く盛り上がる朝ほど、群れは早く飛び立った
記録できた33回の朝のうち、21回は、ねぐらの半分以上、またはすべての鳥が一緒に飛び立ちました。こうした一斉の出発では、全部の鳥が飛び立つまでの時間は平均4.32秒でした。
鳴き声は、日の出の平均101分前に始まりました。録音できた30回の朝のうち、73.3%では、出発前の1時間に鳴き声がだんだん強くなっていきました。
雨の日や雲の多い日は、出発が遅くなりました。天気の影響を差し引いて調べると、鳴き声の強まり方が急な朝ほど、出発が早くなっていました。強まり方が10%急になるごとに、出発は1.32分早くなりました。
出発の直前1分間の声の大きさも、大事でした。直前の声が大きいほど、ねぐらの鳥のうち一緒に飛び立つ割合が増えました。しかもその増え方は、ある大きさをこえたところで急に跳ね上がりました。
04スピーカーで仲間の声を流すと、出発は約6分半早まった
鳴き声と出発が一緒に変わるだけでは、声が出発を早めたとは言い切れません。そこでチームは、声を足してみる実験をしました。
実験の舞台は、ペンリンの貯水池の近くにある、150〜200羽のねぐらです。チームは、このねぐらで録音した声のうち、出発前30分間の部分から15分ずつを切り出しました。比べる音として、強まったり弱まったりする風の音も用意しました。どちらも10通りずつ作りました。
スピーカー4台を、木の高さ2.5メートルの所に40メートルおきにくくりつけました。音は、予想される出発時刻の20分前から15分間流れます。鳥に近づかずにすむよう、スピーカーは前の日の午後に置きました。15〜18時間の無音のあとに、決まった時刻に音が始まるようにしたのです。

実験は2019年12月から2020年3月まで行いました。雨の日や、スピーカーが動かなかった日を除いて、23回の朝を比べました。何も流さない朝が8回、風の音が8回、仲間の声が7回です。
結果、仲間の声を流した朝は、ねぐらの半分以上が飛び立つ最初の出発が、風の音の朝より平均6.57分早くなりました。風の音を流した朝と、何も流さない朝には、違いがありませんでした。鳥は、ただの物音ではなく、仲間の声に反応していたのです。仲間の声を流した朝は、2回をのぞいて、音が終わる前に群れが飛び立ちました。風の音の朝は、一度もありませんでした。
チームの動画には、1つの群れの全部の鳥が2.4秒のうちに飛び立つ様子が写っていました。残ったのは2羽だけで、どちらもニシコクマルガラスではなく、ハシボソガラスでした。チームは、天敵から一斉に逃げる動きとは違い、同じ種類の仲間の声に反応した出発だと考えています。
05声が合図なのか、気分を高めるだけなのかは、まだ分からない
この研究には、残された問いがあります。直前の声が大きくなるほど、一緒に飛ぶ鳥が急に増えるのは、決まった数がそろうと行動が始まるしくみとよく似ています。けれどチームは、別の可能性も書いています。声の盛り上がりで群れ全体が出発の準備をととのえたあと、何か別のきっかけで一斉に飛び立つのかもしれません。たとえば、外からの物音や、何羽かが動き出すことです。
また、録音で測ったのは、ねぐら全体の声の大きさです。1羽1羽がいつ鳴き、だれの声に反応したのかは分かりません。声を流す実験も、1か所のねぐらで23回の朝を比べた規模です。
それでも、声が出発を早めることは、実験で確かめられました。暗い林の中で何百羽もが同じ瞬間に飛び立つしくみの、一番大きな手がかりが声だったのです。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
群れの「いつ動くか」はどう決まるのか
群れで暮らす動物にとって、仲間と一緒にいることには得があります。天敵に襲われにくくなり、えさの情報も手に入れやすくなります。そのためには、いつ動くかを群れでそろえなければなりません。
チームは、一緒に早く飛び立つことで、天敵に襲われる危険を減らし、昼の短い冬にえさを探す時間を長くできるのかもしれないと考えています。ただし、この得は確かめられたわけではありません。
ほかの動物の「声で決める」例
これまで、声で群れの動きを決めることを実験で確かめた例は、ミーアキャットとミツバチでした。どちらも家族中心の群れです。2010年のミーアキャットの研究では、「移動しよう」という声に加わる仲間が2匹から3匹に増えると、群れが別のえさ場へ移る確率が急に高くなりました。
アフリカのリカオンは、群れで移動する前の集まりで、くしゃみ(鼻から短く強く息を出す音)を出します。2017年の研究では、くしゃみが一定の回数をこえると、群れが出発しやすくなりました。今回のニシコクマルガラスは、血のつながらない鳥が数百羽も集まる群れです。チームは、こうした大きくて広がった群れでも、声で合意を作れることを示したと書いています。
「どこへ」より「いつ」の研究は少ない
群れの決め方の研究は、これまで「どのえさ場へ行くか」のような場所の決定が中心でした。2024年に、アメリカのマサチューセッツ大学ボストン校などの研究者は、「いつ動くか」という時間の決定はほとんど調べられていないと指摘しました。時間の決定には、やり直しがきかないことや、早すぎるときと遅すぎるときで損の大きさが違うことなど、場所の決定とは違う特徴があります。ニシコクマルガラスの研究は、この「いつ」の決め方を野外の実験で調べたものです。
研究方法の工夫
この研究の工夫は、鳥にまったく近づかずに実験を進めたことです。スピーカーも録音機も昼間に設置し、音は夜明けに自動で流れました。流した声は、実験したねぐらで録音したものだけでした。比べる風の音も、仲間の声と同じように強まったり弱まったりする音を選び、ただの物音に反応しただけかどうかを見分けられるようにしました。
06まとめ
イギリスのニシコクマルガラスは、冬のねぐらから数百羽がほんの数秒で一斉に飛び立ちます。夜明け前の鳴き声が早く盛り上がる朝ほど出発は早く、直前の声が大きいほど大勢が一緒に飛びました。スピーカーで仲間の声を流すと、出発は約6分半早まりました。
声そのものが合図なのか、声で準備がととのったところに別のきっかけが加わるのかは、まだ分かっていません。
ねぐらの鳥たちは、日の出の平均101分前から鳴き始めます。1時間以上続く声の盛り上がりの先で、数百羽の出発は平均4秒あまりで終わります。
研究カルテ
イギリス・コーンウォール(ペンリン)
- 研究チーム
- イギリスのエクセター大学のアレックス・ディブナさん、アレックス・ソーントンさんらのチーム
- 調べた場所
- イギリス南西部コーンウォールの町ペンリンから15キロ以内の林
- 調べた動物
- 野生のニシコクマルガラス(学名 Corvus monedula)
- 調べ方
- 6か所のねぐらで夜明け前の鳴き声を録音し、飛び立つ様子を撮影した。1か所ではスピーカーで仲間の声を流した
- 分かったこと
- 鳴き声が早く盛り上がる朝ほど早く飛び立ち、直前の声が大きいほど大勢が一緒に飛んだ
- まだ分からないこと
- 声そのものが出発の合図なのか。声で高まったところに、別のきっかけが加わるのか
- 論文
- Current Biology(2022年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Jackdaws are small birds in the crow family. In winter, hundreds of them sleep together in the trees. In the early morning, they all fly away in just a few seconds.
It is still dark, so the birds cannot see each other well. Scientists in England recorded their calls before sunrise. The birds called louder and louder before they left. When the calls got loud quickly, the birds left earlier.
Next, the scientists put speakers in the trees. On some mornings, they played jackdaw calls. On other mornings, they played the sound of wind. With the bird calls, the birds left about six and a half minutes earlier than with the wind. The wind sound did not change the time.
So the birds use their voices to agree on when to go.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. When do the jackdaws fly away?ニシコクマルガラスはいつ飛び去りますか。
冬の朝早く、何百羽もがいっせいに飛び去ります。
Q2. What did the scientists play from the speakers?研究者はスピーカーから何を流しましたか。
ある朝は鳥の声を、別の朝は風の音を流して比べました。
Q3. What happened when they played the bird calls?鳥の声を流すと、どうなりましたか。
鳥の声を流すと、約6分半早く飛び立ちました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Dibnah, A. J. et al. (2022) Vocally mediated consensus decisions govern mass departures from jackdaw roosts. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2022.04.032
- 2Bousquet, C. A. H. et al. (2010) Moving calls: a vocal mechanism underlying quorum decisions in cohesive groups. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2010.1739
- 3Walker, R. H. et al. (2017) Sneeze to leave: African wild dogs use variable quorum thresholds facilitated by sneezes in collective decisions. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2017.0347
- 4Kao, A. B. et al. (2024) Timing decisions as the next frontier for collective intelligence. Trends in Ecology & Evolution 論文確認済みdoi:10.1016/j.tree.2024.06.003
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