小鳥のヒナは卵の中で母の声を習っていた。母鳥は卵に向かって1時間に約16回鳴く
母鳥は卵を温めながら特別な声で鳴く。ヒナはその声の一部をおねだりの声に入れていた。卵を入れかえると、ヒナは育ての母の声に似た。

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- 母鳥は、ふ化の数日前から卵に向かって特別な声で鳴く
- ヒナのおねだりの声には、その声の一部が入っていた
- カッコウのヒナを声で見破れるかは、まだはっきりしない
人に話すなら
オーストラリアの小鳥の母親は、卵に向かって鳴いて「合言葉」を教えるんだって。生まれたヒナはその音を入れてエサをねだるんだ。卵を入れかえると、育ての母の声に似るらしいよ。
読む前に予想しよう
ルリオーストラリアムシクイのヒナの鳴き声は、生みの母より育ての母に似る
卵を別の巣と入れかえると、ヒナの声は卵を温めた育ての母の声により似ていた。
鳥の母親が卵を温めているとき、巣の中は静かだと思うかもしれません。ところが、オーストラリアの小鳥ルリオーストラリアムシクイの母鳥は違います。ふ化が近づくと、卵を温めながら、1時間に平均16回ほど、決まった声で鳴くのです。
研究者がこの声を調べると、ふしぎなことが分かりました。卵からかえったヒナは、エサをねだるときに、この母鳥の声の一部を入れて鳴いていたのです。しかも卵を別の巣と入れかえると、ヒナの声は、生みの母ではなく卵を温めた育ての母の声に似ました。ヒナは卵の中で、母の声を習っていたと考えられます。
研究チームは、この声を「合言葉」と呼びました。巣に入りこむカッコウのヒナを見分けるための合言葉ではないか、と考えたのです。ただし、そこにはまだ確かめきれていない部分もあります。
01ルリオーストラリアムシクイは、カッコウに卵を託されてしまう鳥
ルリオーストラリアムシクイは、オーストラリアの南東部だけにすむ小鳥です。林や低い木のしげみで虫を食べてくらしています。オスは繁殖の時期になると、頭やほおがあざやかな水色になります。メスは茶色っぽい色で、一年中変わりません。
この鳥は、同じなわばりで前に育った若いオスが、巣の手伝いをすることがあります。研究した巣の66%で、1〜2羽の手伝いのオスがいました。卵は1回に2〜3個産みます。
この鳥をねらうのが、「托卵」をするカッコウのなかまです。托卵とは、ほかの鳥の巣に卵を産み、ヒナを育てさせることです。カッコウのヒナは早くかえり、巣の中のほかの卵を外へ押し出してしまいます。育ての親は、自分の子を1羽も育てられません。
ルリオーストラリアムシクイは、カッコウの卵を見分けるのが苦手です。2003年の別の研究では、卵の段階の守りはカッコウに簡単にかわされると報告されました。そのかわり、カッコウのヒナが1羽だけになった巣を見捨てることがあります。卵ではなくヒナの段階で、見分けるしくみが進んだと考えられています。
02巣を録音し続けて、「卵に向かって鳴く声」を見つけた
研究したのは、オーストラリアのフリンダース大学のダイアン・コロンベリ=ネグレル(Diane Colombelli-Négrel)さん、ソニア・クラインドルファー(Sonia Kleindorfer)さんたちです。
チームは2007年から2011年までの4回の繁殖期に、南オーストラリア州の4か所の自然保護区で138の巣を見回りました。そのうち15の巣では、巣作りから巣立ちまでの間、巣の下約30センチにマイクを置いて音と映像を記録しました。6つの巣では、1日24時間の録音を続けました。
その録音から、これまで知られていなかった鳴き声が見つかりました。母鳥が1羽で卵を温めているときに出す、約1.8秒のさえずりです。チームはこれを「抱卵の声」と名づけました。
母鳥がこの声で鳴き始めるのは、卵を温め始めて9〜10日目ごろです。ヒナがかえるのは15日目ごろなので、ふ化の4〜5日前からということになります。そして、卵がかえると鳴くのをやめました。
抱卵の声には、母鳥ごとに違う短い音のかたまりが入っていました。チームはこれを「サイン音」と呼びました。かえって3〜4日目のヒナは、エサをねだるとき、短い音を何回もくり返します。その音を調べると、自分の母のサイン音によく似ていました。ほかの巣の母鳥の音とは、あまり似ていませんでした。
03卵を入れかえると、ヒナは育ての母の声に似た
ヒナの声が母に似ているだけなら、親から受けついだ性質かもしれません。そこでチームは、卵を入れかえる実験をしました。
2011年、チームは22の巣で、温め始めて1〜3日目の卵3個を、まるごと別の巣の卵と入れかえました。まだ母鳥が抱卵の声を出し始める前です。入れかえるときは、一時的に作り物の卵を置き、巣の様子が変わらないように気をつけました。22の巣のうち、ヒナがかえるまで無事だったのは8つでした。
結果は、ヒナのおねだりの声は、生みの母よりも、卵を温めた育ての母の声に似ていました。さらに、育ての母がたくさん鳴いた巣ほど、ヒナの声はよく似ていました。卵の中で聞いた回数が多いほど、よく覚えたと考えられます。ただし、声の特徴の一部は、生みの母にも似ていました。声には、生まれつきの部分もあるようです。
親鳥のほうも、ヒナの声を聞き分けているようでした。チームは13の巣の下にスピーカーを置き、ほかの巣のヒナの声を流しました。すると親鳥は、自分のヒナの声を流したときよりも、ヒナにエサを与える回数が減りました。巣の外を見回す時間や、警戒の声も増えました。
04卵の心臓の動きで、聞き分けていることを確かめた
ヒナが卵の中で声を聞いているなら、生まれる前から反応があるはずです。2014年、チームは卵の中のヒナの心臓の動きを測りました。
使ったのは、卵に光を当て、中の血の流れから心拍を読みとる機械です。野外の巣から卵を1個ずつ借りて、機械にのせました。そして、スピーカーから声を流しました。
まず43個の卵で、3種類の音を比べました。ルリオーストラリアムシクイの抱卵の声、オーストラリアにはいないミソサザイのなかまの声、そして「ザー」という雑音です。すると、鳥の声を聞いたヒナは心拍が下がりました。雑音では下がりませんでした。同じ種の声のときだけ、声が止んだあとも心拍が低いままでした。
次に17個の卵で、聞き分けの実験をしました。同じ母鳥の声を3回聞かせると、ヒナはだんだん慣れていきました。4回目に別の母鳥の声を流すと、心拍は下がりました。同じ母鳥の声を流したヒナでは、心拍は上がりました。心拍が下がるのは、注意を向けたしるしだと考えられています。卵の中のヒナは、母鳥ごとの声の違いを聞き分けていたのです。
実験のあと、卵はすべて元の巣に戻しました。かえる割合が下がることはありませんでした。

05カッコウのヒナを声で見破れるかは、まだはっきりしない
チームは、カッコウのヒナは合言葉をうまく言えない、と考えています。カッコウの卵は12日ほどでかえります。母鳥が抱卵の声を出すのは10日目ごろからです。カッコウのヒナが声を聞けるのは、2日ほどしかありません。実際、カッコウのヒナの声は、母鳥のサイン音とあまり似ていませんでした。
けれども、この話にはいくつか弱いところがあります。
まず、2012年の研究で声を調べられたカッコウのヒナは、2羽だけでした。調べた地域では、托卵された巣は138巣のうち6巣と少なかったのです。
次に、親鳥の反応です。スピーカーの実験で、親鳥は「ほかの巣のヒナの声」と「カッコウのヒナの声」に、違う反応を見せませんでした。合言葉で分かるのは「うちの子ではない」ということまでかもしれません。
さらに、カッコウのヒナも負けていません。2008年、オーストラリアの研究者ナオミ・ラングモア(Naomi Langmore)さんたちは、このカッコウのヒナの声を調べました。するとヒナは、生まれてすぐから、ルリオーストラリアムシクイのヒナによく似た声で鳴きました。別の種類の鳥に育てられたヒナは、育ての親の反応を手がかりに、声をその鳥のヒナにすばやく似せていきました。
ラングモアさんたちの2003年の研究では、ルリオーストラリアムシクイが見捨てたのは、カッコウのヒナ1羽だけの巣の40%でした。残りの60%では、カッコウのヒナをそのまま育てていました。合言葉があっても、すべてのカッコウを見破れるわけではないのです。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
托卵する鳥と、だまされる鳥のかけひき
托卵をする鳥と、される鳥のあいだでは、長いかけひきが続いてきました。ヨーロッパなどにすむカッコウの場合、托卵の多くは卵の段階で見破られます。見破られないように、カッコウの卵は相手の卵に似るように進化してきました。
ルリオーストラリアムシクイの場合、卵の段階ではカッコウにほとんど負けています。そのため、かけひきの舞台がヒナの段階に移ったと、ラングモアさんたちは考えました。育ての親がヒナを見捨てるようになると、カッコウのヒナは、育ての親のヒナに姿や声を似せるように進化します。合言葉の研究は、このかけひきの次の一手を示したものと言えます。
一方で、合言葉には代償もあるようです。チームは別の研究で、抱卵の声をたくさん出す巣ほど、敵におそわれる危険が高いことも報告しています。母鳥がいつも鳴く回数を増やさないのは、そのためだと考えられています。いつでも鳴けばよい、というわけではないのです。
カッコウが近くにいると、母鳥は鳴く回数を増やす
2014年、クラインドルファーさんたちは、もう一つの実験をしました。卵を温める時期の巣の近くで、カッコウのさえずりを1時間流したのです。比べるために、ほかの小鳥のさえずりを流した巣も用意しました。
すると、カッコウの声を聞いた16の巣では、次の日に母鳥の抱卵の声が増えました。ほかの小鳥の声を聞いた13の巣では、変わりませんでした。チームはこれを、危険を感じた母鳥が「教える量」を増やしたと考えています。
生まれる前に学ぶのは、鳥だけではない
卵や母親のおなかの中で、外の音を覚える動物はほかにもいます。人の赤ちゃんは、生まれる前から母親の声とほかの人の声を聞き分けると報告されています。アヒルの卵の中のヒナも、ふ化の1週間ほど前から親の声に反応します。
ただし、ルリオーストラリアムシクイの例には、大きな違いがあります。卵の中で聞いた声を、生まれたあとに自分で「声に出す」点です。チームによると、人以外の動物で、生まれる前に聞いた声をまねて出す例が示されたのは、これが初めてでした。
声を習う鳥と、習わない鳥
鳥の中でも、スズメのなかまの鳴き鳥は、人と同じように聞いた声をまねて覚えます。一方、カッコウのなかまは、聞いた声をまねて覚える力をもたない鳥とされています。カッコウのヒナが卵の中で合言葉を習ったという証拠は、まだありません。そのかわり、かえってから、エサをもらえる声を試しながら見つけていくと考えられています。
06まとめ
ルリオーストラリアムシクイの母鳥は、卵を温めながら、1時間に約16回、特別な声で鳴いていました。かえったヒナは、その声の一部を入れてエサをねだりました。卵を入れかえると、ヒナの声は育ての母に似ました。卵の中のヒナが、母鳥ごとの声を聞き分けていることも、心臓の動きから分かりました。
ただし、この合言葉でカッコウのヒナを見破っているのかは、まだはっきりしません。カッコウのヒナも、かえってから声をまねるからです。
卵の中にいるあいだに、もう親の声を覚え始めている。そんな鳥が、オーストラリアの林にすんでいます。
研究カルテ
オーストラリア・南オーストラリア州
- 研究チーム
- オーストラリアのフリンダース大学などのチーム(ダイアン・コロンベリ=ネグレル、ソニア・クラインドルファーら)
- 調べた場所
- オーストラリア南部の自然保護区(ニューランドヘッド保全公園など)
- 調べた動物
- ルリオーストラリアムシクイ(学名 Malurus cyaneus)と、托卵するカッコウのなかま
- 調べ方
- 巣の鳴き声を録音して母鳥とヒナの声を比べた。卵を別の巣と入れかえた。卵の心臓の動きも測った
- 分かったこと
- ヒナのおねだりの声には、卵を温めた母鳥の声の一部が入っていた。生みの母より育ての母に似ていた
- まだ分からないこと
- カッコウのヒナを本当に声で見破っているのか。2012年の研究で調べたカッコウのヒナは2羽だけ
- 論文
- Current Biology(2012年)、Proceedings of the Royal Society B(2014年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
The superb fairy-wren is a small bird in Australia. When the mother sits on her eggs, she sings a special call. She sings it about 16 times an hour.
After the chicks hatch, they ask for food with a short sound. This sound is like a part of their mother's call. Scientists moved some eggs to other nests. The chicks sounded more like the mother who sat on the eggs. So the chicks probably learned the sound inside the egg.
The scientists also checked the hearts of the chicks inside the eggs. The heart slowed down when a new mother's call was played. The chicks could tell the voices apart.
Cuckoos lay eggs in fairy-wren nests. The scientists think the call helps parents find cuckoo chicks. But cuckoo chicks can copy the sounds of fairy-wren chicks, too. So the answer is not clear yet.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How often does the mother sing the special call?母鳥は特別な声をどのくらい出しますか。
母鳥は卵を温めながら、1時間に約16回、特別な声で鳴きます。
Q2. Whose call did the moved chicks sound like?別の巣に移されたヒナは、だれの声に似ていましたか。
ヒナの声は、生みの母より、卵を温めた育ての母の声に似ていました。
Q3. What did the scientists check inside the eggs?研究者たちは卵の中の何を調べましたか。
卵に光を当て、中のヒナの心臓の動きを測りました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Colombelli-Négrel, D. et al. (2012) Embryonic Learning of Vocal Passwords in Superb Fairy-Wrens Reveals Intruder Cuckoo Nestlings. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2012.09.025
- 2Colombelli-Négrel, D., Hauber, M. E. & Kleindorfer, S. (2014) Prenatal learning in an Australian songbird: habituation and individual discrimination in superb fairy-wren embryos. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2014.1154
- 3Kleindorfer, S., Evans, C. & Colombelli-Négrel, D. (2014) Females that experience threat are better teachers. Biology Letters 論文確認済みdoi:10.1098/rsbl.2014.0046
- 4Langmore, N. E. et al. (2008) Socially acquired host-specific mimicry and the evolution of host races in Horsfield's bronze-cuckoo Chalcites basalis. Evolution 論文確認済みdoi:10.1111/j.1558-5646.2008.00405.x
- 5Australian Museum「Superb Fairy-wren」australian.museum/learn/animals/birds/superb-fairy-wren/
- 6Langmore, N. E., Hunt, S. & Kilner, R. M. (2003) Escalation of a coevolutionary arms race through host rejection of brood parasitic young. Nature 論文確認済みdoi:10.1038/nature01460
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





