天敵を知らせる声を聞いていないカモメの卵まで、危険に備えて育った。隣の卵から伝わったらしい

天敵を知らせる鳴き声を一部の卵にだけ聞かせると、聞いていない隣の卵のヒナも同じように変わった。卵のゆれで伝わったらしい。

No.056 7分で読めるえっ度 論文 2024年
草の上の巣に、まだら模様のカモメの卵が3つ触れ合って並んでいる。そのうち1つの卵がかすかにゆれている。上空では大人のキアシセグロカモメが鳴きながら飛び回っている。

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  1. 天敵を知らせる鳴き声を聞いた卵は、中のヒナがよく動いて卵がゆれた
  2. 鳴き声を聞いていない隣の卵のヒナも、同じように体と行動が変わった
  3. そのかわり、ヒナの体の育ちはゆっくりになった

人に話すなら

カモメの卵って、天敵を知らせる鳴き声を聞いた卵がよくゆれて、それに触れてる隣の卵のヒナまで、生まれてから身をふせるのが速くなるんだって。卵どうしで危険を伝えてるらしいよ。

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卵の中のカモメのヒナは、隣の卵から危険の合図を受け取れるらしい

ふ化を数日後にひかえたカモメの卵の中で、ヒナが体を動かします。すると、卵が小さくゆれます。このゆれを、となりの卵のヒナが感じ取っているらしいことが、実験で分かってきました。

スペインのビーゴ大学のホセ・ノゲラ(Jose C. Noguera)さんとアルベルト・ベランド(Alberto Velando)さんは、キアシセグロカモメの卵90個を、3個ずつの組に分けました。そして各組の2個にだけ、天敵が来たときに大人のカモメが出す警戒の鳴き声を聞かせました。すると、鳴き声を聞いていない残りの1個のヒナまで、ふ化が遅れ、生まれてから身をふせるのが速くなりました。

卵の中の胚(卵の中で育っている赤ちゃん)が、天敵の気配を感じ取れる場合があることは、卵を産むいろいろな動物で前から知られていました。けれども、胚が受け取った情報を、となりの卵に伝えているのかどうかは、確かめられていませんでした。生まれる前の卵どうしで、危険の情報が行き来しているかもしれないのです。

01天敵が来ると、大人のカモメは巣の上で鳴きながら飛び回る

キアシセグロカモメは、たくさんの親が集まって巣を作る大型のカモメです。1つの巣には、ふつう卵が3個あります。繁殖地にワタリガラスやオオタカが現れると、大人のカモメは巣の上に集まり、警戒の鳴き声をくり返します。生まれたあとのヒナは、この鳴き声を聞くと、地面に身をふせて動かなくなります。

チームは実験の前に、繁殖地の近くで4日間、1日5時間ずつカモメを観察しました。親鳥がこうした警戒の騒ぎを起こすのは、1日あたりにすると平均7回ほどと見積もられました。1回の長さは平均で約100秒です。巣のすぐ上で測った鳴き声の大きさは、平均で約82デシベルでした。

卵の中のヒナは、ふ化が近づくと、外の音が聞こえるようになります。触られた感じも分かるようになり、卵を強くゆらせるようにもなります。チームは、このゆれが、同じ巣の卵どうしの情報のやりとりに使われているのではないかと考えました。

023個の卵のうち2個にだけ、警戒の鳴き声を聞かせた

チームは野生の巣から、2番目に産まれた卵を1個ずつ集めました。そして、ちがう巣から来た卵を3個ずつ組にして、ふ卵器(卵を温める機械)の中にくっつけて並べました。組は全部で30組です。半分の15組を「警戒の組」、残りの15組を「対照の組」にしました。

ふ卵21日目から27日目まで、各組の2個の卵を、1日4回、音を通さない箱に移しました。警戒の組の2個には、大人のカモメの警戒の鳴き声を聞かせました。対照の組の2個には、雑音を聞かせました。残りの1個は、そのあいだ、ふ卵器に置いたままです。この1個は、鳴き声を一度も聞いていません。

それ以外の時間、同じ組の3個の卵は触れ合ったまま温められました。27日目には卵を繁殖地に戻し、元とは別の巣に預けて、ふ化させました。

左に、温める機械の中で触れ合って並ぶ3つの卵。右に、生まれたばかりの灰色のまだらのカモメのヒナが、地面にぴたりと身をふせている。

03鳴き声を聞いていない卵のヒナも、同じように変わった

ふ卵25日目の朝、チームは卵がゆれる回数を15分間数えました。数える人には、どの卵がどの組なのか分からないようにしてありました。警戒の組の卵は、対照の組の卵より、よくゆれていました。鳴き声を聞いていない卵も、同じ組の卵と同じように、よくゆれていました。

生まれる前後の様子にも、違いが出ました。警戒の組の卵は、ふ化までの日数が長くなりました。ふ化の直前に卵の中で鳴く回数は、少なくなりました。生まれて1日目の血液では、ストレスに関わるホルモンの量が多くなっていました。

DNAに付く「メチル化」という目印も増えていました。メチル化は、遺伝子のはたらき方を調節する目印です。卵の中での経験が、ヒナの遺伝子の使われ方にまで跡を残していた可能性があります。

生後2日目には、ヒナに警戒の鳴き声を10秒間聞かせ、身をふせるまでの時間を測りました。対照の組のヒナは、平均で15〜20秒ほどかかりました。警戒の組のヒナは、平均で5〜7秒ほどでした。どの結果でも、鳴き声を聞いていない卵から生まれたヒナは、聞いた卵のヒナと同じ向きに変わっていました。

04危険に備えたヒナは、そのかわり体の育ちが遅くなった

変化は、よいことばかりではありませんでした。生後5日目まで調べると、警戒の組のヒナは、細胞の中のミトコンドリアが少なくなっていました。ミトコンドリアは、細胞の中でエネルギーを作る小さな部品です。あしの一部の長さの伸びも、小さくなっていました。ここでも、聞いていない卵のヒナが同じように変わりました。

同じチームは、同じ2019年に別の論文も出しています。卵のときに警戒の鳴き声を聞いたヒナは、ふ化のあと、テロメアが短くなっていました。テロメアは、染色体の端にある部分です。若い鳥では、テロメアが短いと、巣立ちの成功や寿命が下がることが知られています。

卵の中で危険を知ることには、損な面もあるのです。天敵が多い年なら、早く身をふせるヒナのほうが生き残りやすいかもしれません。天敵が少ない年なら、育ちが遅くなるぶん、損をするかもしれません。

05危険は卵のゆれで伝わったらしいが、まだ分からないことも多い

鳴き声を聞いていない卵は、どうやって危険を知ったのでしょうか。その卵は、鳴き声が流れている間、ふ卵器に残っていました。それ以外の時間は、鳴き声を聞いた卵と触れ合っていました。チームは、聞いた卵の強いゆれが、触れている卵に伝わったと考えています。論文の題名も「鳥の胚は、一緒に温められている卵から、天敵の危険を知らせる振動を感じ取る」という意味です。

ただし、論文の要旨は「強く示している」という言い方にとどめています。ゆれのどんな特徴が合図になっているのかは、この実験では分かりません。また、実験で組にした3個は、ちがう巣から集めた卵でした。本当のきょうだいが野生の巣で温められているときにも同じことが起きるのか、確かめるのはこれからです。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

卵の中で外の様子を知ると、なぜ得になりうるのか

生き物の体や行動は、遺伝子だけでは決まりません。育つときの環境によって、同じ遺伝子からでも違う体ができます。論文の考え方は、卵の中の胚が、これから生まれる世界の様子を前もって知り、それに合わせた体を作る、というものです。

天敵が多い場所では、鳴き声を聞いてすぐ身をふせるヒナのほうが、見つかりにくいはずです。その一方で、この実験ではストレスホルモンが増え、成長も遅れました。どちらが得かは、生まれたあとの環境しだいです。そのため、胚は確かな情報をできるだけ多くの所から集めるほうがよい、と理論では考えられています。親の声だけでなく、となりの卵も、その情報源になりうるわけです。

同じチームの続きの研究:親どうしの鳴き交わしも聞いている

ビーゴ大学のフランシスコ・ルイス=ラヤ(Francisco Ruiz-Raya)さんとベランドさんは、2024年に別の実験を発表しました。カモメの親は、卵を温める役を交代するとき、つがいどうしで鳴き交わします。チームは44の巣から2個ずつ、合わせて88個の卵を集めました。同じ巣の2個のうち、1個には「よく鳴き交わす親」の音を、もう1個には「あまり鳴かない親」の音を、1日3回、2分ずつ聞かせました。

生まれたきょうだいを同じ里親に育てさせると、よく鳴き交わす里親のもとでは、その音を卵のときに聞いていたヒナのほうが速く育ちました。卵の中のヒナは、危険だけでなく、親がどれくらい世話をしてくれそうかも、音から読み取っているらしいのです。

ほかの鳥では:危険を感じると、卵の中で鳴かなくなる

2021年の別の研究は、地面に巣を作るアカエリシロチドリとズグロトサカゲリの卵を調べました。天敵の鳥の声を聞かせると、2種とも、卵の中のヒナが鳴く回数が減りました(チドリでは、一部の声のときだけ)。地面の巣の卵にとっては、見つからないことが一番の守りです。卵の中で声を出さないことも、身を守る行動の一つだと考えられています。

この研究の工夫と限界

対照の組の卵も、同じ回数だけ箱に移して、雑音を聞かせました。こうすると「箱に移されたこと」の影響と、警戒の鳴き声の影響を分けられます。卵のゆれを数える人は、どの組の卵かを知らされていませんでした。一方で、組の数は15組ずつです。ヒナの行動を測れた数は、1つのグループで8〜20羽ほどでした。結果を確かめるには、別の場所や別の年での実験も必要です。

06まとめ

天敵を知らせる鳴き声を、3個のうち2個の卵にだけ聞かせました。すると、聞いていない残りの1個のヒナも、ふ化が遅れ、早く身をふせ、ストレスホルモンが増えました。そのかわり、体の育ちはゆっくりになりました。

卵のゆれが合図になったと考えられていますが、くわしいしくみはまだ分かっていません。ふ化の数日前のカモメの卵は、15分のあいだに20〜30回ほどゆれています。そのゆれの中に、天敵の情報がまじっているのかもしれません。

RESEARCH FILE

研究カルテ

スペイン(ビーゴ大学)

研究チーム
スペインのビーゴ大学のホセ・ノゲラ(Jose C. Noguera)とアルベルト・ベランド(Alberto Velando)
調べた場所
スペインの野生のカモメの繁殖地(卵を集めてふ卵器で温め、ふ化の前に繁殖地の巣に戻した)
調べた動物
キアシセグロカモメ(学名 Larus michahellis)の卵90個と、そこから生まれたヒナ
調べ方
卵を3個ずつ30組にし、各組の2個にだけ天敵を知らせる鳴き声(対照の組は雑音)を1日4回聞かせた
分かったこと
聞いていない残りの1個のヒナも、ふ化が遅れ、早く身をふせ、ストレスホルモンが増えた
まだ分からないこと
卵のゆれのどんな特徴が合図になるのか。本当のきょうだいの野生の巣でも同じことが起きるのか
論文
Nature Ecology & Evolution(2019年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Gull Eggs Pass On a Warning

Many gulls build their nests close together. When a predator comes, adult gulls fly over the nests and give alarm calls. After they hatch, chicks hear these calls and lie flat on the ground.

Scientists in Spain put gull eggs into groups of three. They played alarm calls to two eggs in each group, four times a day. The third egg did not hear the calls. For the rest of the day, the three eggs touched each other. In other groups, two eggs heard only noise.

Eggs in the alarm groups shook more. Their chicks hatched later and had more stress hormones. Two days after hatching, they lay down about three times as fast. The third egg changed in the same way, but it never heard the calls.

The scientists think the shaking of the eggs carried the warning. But these chicks also grew more slowly. Scientists still do not know exactly how the signal works.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many eggs were in each group?各組には卵が何個ありましたか。

Q2. Did the third egg hear the alarm calls?3個目の卵は、警戒の鳴き声を聞きましたか。

Q3. What was one bad result for the chicks?ヒナにとってよくない結果は何でしたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Noguera, J. C. & Velando, A. (2019) Bird embryos perceive vibratory cues of predation risk from clutch mates. Nature Ecology & Evolution 論文確認済みdoi:10.1038/s41559-019-0929-8
  2. 2Noguera, J. C. & Velando, A. (2019) Reduced telomere length in embryos exposed to predator cues. Journal of Experimental Biology 論文確認済みdoi:10.1242/jeb.216176
  3. 3Ruiz-Raya, F. & Velando, A. (2024) Lasting benefits of embryonic eavesdropping on parent-parent communication. Science Advances 論文確認済みdoi:10.1126/sciadv.adn8542
  4. 4Kostoglou, K. N. et al. (2021) Shorebird embryos exhibit anti-predator responses. Ibis 論文確認済みdoi:10.1111/ibi.12969

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい