深海のタコの母は、卵を53か月抱き続けた。卵を守る期間として知られる中で動物最長

水深1397mの岩で卵を抱く母ダコを、研究者は4年半で18回見に行った。母は毎回同じ場所にいて、卵がかえるまで53か月かかった。

No.150 8分で読めるえっ度 論文 2023年
真っ暗な深海の岩壁に、白っぽくなった8本腕の母ダコがはりつき、腕を丸めて体の下の細長いしずく形の卵をおおっている。そばの岩の上を、脚の長いカニが歩いている。

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  1. 水深約1400mの岩で、母ダコが卵を53か月抱き続けた
  2. 無人潜水機で18回見に行き、傷あとで同じ母ダコだと確かめた
  3. 冷たい海では卵がゆっくり育ち、大きな子が生まれる

人に話すなら

深海のタコのお母さん、卵を53か月、つまり4年半も抱いてたんだって。研究者が18回見に行っても毎回同じ岩にいて、そばにカニが来ても食べる様子はなかったらしいよ。

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深海のタコが卵を抱いた53か月は、卵を守る期間として動物で知られる最長の記録だ

タコのお母さんは、卵を産むと、そのそばで世話を続けます。浅い海にすむタコの多くでは、その期間は1〜3か月ほどです。タコの多くは一生に一度だけ卵を産み、そのあと死んでしまいます。

ところが、深さ1400mほどの深海で、卵を53か月、つまり4年半近く抱き続けた母ダコがいました。アメリカの研究チームが、人の乗らない潜水機で同じ岩に何度も通って確かめた記録です。卵を守る期間としては、動物で知られる中で一番長い記録になりました。

深海は暗くて冷たく、同じ場所を何年も見続けるのはとてもむずかしい場所です。そのため、深海のタコが卵をどれくらい抱くのかは、ほとんど分かっていませんでした。冷たい水では卵の育ちが遅くなると予想されていましたが、自然の中で直接測った例はなかったのです。

01卵を産みに来た母ダコに、たまたま出会った

アメリカのモントレー湾水族館研究所(MBARI)のブルース・ロビソン(Bruce Robison)さんたちは、カリフォルニア州沖の深海を長く調べてきました。研究所の発表によると、チームは25年ほど、数か月おきに同じ調査地に潜水機を下ろしていました。

2007年4月、チームはモントレー海底谷の底にある、水深1397mの岩場を調べました。まわりを泥に囲まれ、ぽつんと出ている岩です。チームはこの岩に前にも来たことがありました。グラネレドネ・ボレオパシフィカという深海のタコのメスが、ここに卵を産みつけることを知っていたのです。

この日、岩の上に卵を抱くタコはいませんでした。そのかわり、近くの泥の上を、1匹のタコが岩のほうへゆっくり進んでいました。

38日後の5月、チームは同じ場所に戻りました。すると、あのタコが岩の上にいて、岩に産みつけたばかりの卵を抱いていました。同じタコだと分かったのは、体の傷あとです。腕と腕のあいだの膜にある傷あとの形が、前に見たものと同じでした。

024年半のあいだに、同じ岩を18回見に行った

卵を産んだ直後から見られる機会は、めったにありません。チームはそれから4年半のあいだに、同じ岩を18回訪れました。母ダコは毎回、ほぼ垂直な岩の面にはりつき、腕を丸めて卵をおおっていました。写真に写った傷あとを比べて、毎回同じ母ダコだと確かめました。

もう1つ確かめたいことがありました。卵が途中で別の卵に入れかわっていないか、です。チームは何度か卵の大きさを測りました。卵がずっと大きくなり続けていたことから、最初から同じひと組の卵だと判断しました。

測るときも、母ダコの体にはふれないようにしました。2回だけ、潜水機の吸いこみ装置の水を逆向きに流し、腕のあいだの膜をそっと持ち上げました。そしてレーザーの光を目盛りにして、見えた卵の大きさを測りました。測ったのは、卵のかたまりの外側にある卵だけです。

03卵は大きく育ち、母ダコは白くやせていった

この種の卵は、細長いしずく形のふくろです。先にある短い柄を、母ダコが岩に貼りつけます。最初、卵の長さは1.5cm、太さは0.5cmでした。かえる1か月前には、長さ3.3cm、太さ1.6cmまで育っていました。

40か月目には、卵の中の子ダコの形がはっきり見えるようになりました。43か月目の2010年12月には、子ダコの黒い目も見えました。

卵のふくろは、外の水と酸素をやりとりしています。母ダコがそばで世話をしないと、卵は汚れて息ができなくなります。ふくろはやわらかいので、守る者がいないと食べられてしまいます。

母ダコの体も変わっていきました。泥の上で初めて見たとき、皮ふはでこぼこで、うすい紫色でした。卵を抱き始めると、ほとんど白くなりました。年月がたつと、体はしぼんで小さくなり、皮ふはたるみ、目は白くにごりました。

2011年9月、母ダコと卵はまだそこにありました。1か月後の10月に行くと、母ダコの姿は消えていました。岩には、空になった卵のふくろが、ぼろぼろになって残っていました。

卵を抱き始めた2007年5月から数えると、53か月です。空のふくろと、岩に残る緑色の貼りつけのあとを数えると、卵は155〜165個あったと見積もられました。

深海の岩場で、人の乗らない潜水機がライトを当てて、岩にはりついた母ダコを照らしている。母ダコの腕のすき間から、中に小さなタコの形と黒い目が見える半透明の卵がのぞいている。

04そばにカニが来ても、押しのけるだけで食べる様子はなかった

タコの母は、卵を抱いているあいだ、食事をやめるか、ほとんど食べなくなると考えられています。この母ダコのまわりにも、カニやエビがよく来ていました。でも母ダコは、近づいてきたカニやエビを腕で押しのけるだけでした。

チームは試しに、潜水機のロボットアームでカニの切り身を差し出しました。母ダコは見向きもしませんでした。実験室では、深い海にすむ別のタコが、人が手で差し出したえさをときどき食べた例があります。

ただし、チームが見ていたのは、53か月のうちのほんの短い時間です。チームがいないあいだに何かを食べた可能性は、論文も否定していません。卵をねらうカニを追いはらうついでに、食べていたかもしれないとも書いています。母ダコがどうやって4年半も生きのびたのかは、まだ分かっていません。

05冷たい水が、卵の育つ時間をのばしている

なぜこんなに長いのでしょうか。チームがあげる理由の1つは、水の冷たさです。タコのように体温がまわりの水と同じ海の生き物では、水が冷たいほど卵の育ちが遅くなる傾向があります。この岩場の水温は、3℃前後でした。

もう1つの理由は、生まれてくる子ダコの姿です。この種の子ダコは、生まれたときから親を小さくしたような姿をしています。イカやタコの仲間で知られる中で、一番大きく、よく育った状態で生まれます。

浅い海のタコにくらべると、この種の卵は大きく、数は少なめです。長い時間をかけて、生きのびる力の強い子を少しだけ育てる。チームは、母がどこまで長い子育てにたえられるかと、子の強さとのつり合いで、この長さが決まっていると考えています。

チームは、ほかのタコのデータから、水温と卵がかえるまでの期間の関係を式にしました。その式で3℃の期間を予想しても、実際の53か月より300日あまり短くなりました。これまでの予想は、実際の長さに届いていなかったのです。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

ほかの動物とくらべると、どれくらい長いのか

論文は、ほかの動物の記録とくらべています。卵を守る魚で知られる最長は、南極の近くの海にすむ魚の4〜5か月です。鳥では、コウテイペンギンの2か月が、続けて卵を温める期間の最長とされます。

おなかの中で子を育てる動物では、ゾウの妊娠が20〜21か月です。ラブカというサメは約42か月、アルプスにすむサンショウウオの一種は最長48か月です。母ダコの53か月は、そのどれよりも長い数字です。

このタコは、長生きなのかもしれない

浅い海にすむイカやタコの多くは、寿命が2年に満たないとされます。一方、タコでは卵を抱く期間が一生のおよそ4分の1になる、という目安があります。この目安が当てはまるなら、このタコは、イカやタコの仲間でも特に長生きな種かもしれません。論文はそう書いていますが、寿命を直接測ったわけではありません。

温かい場所を選んで卵を抱くタコもいる

同じカリフォルニア州沖の水深約3200mには、何千匹ものタコが集まって卵を抱く場所があります。「タコの庭」と呼ばれる場所です。2023年、MBARIのジェームズ・バリー(James Barry)さんたちが、ここにいる別の種の深海のタコを調べた結果を発表しました。

まわりの海水は1.6℃です。けれども、海底のすき間から温かい水がわき出していて、卵のまわりは平均5.1℃ありました。卵がかえるまでの期間は、平均で約1.8年と見積もられました。研究所の発表によると、もっと冷たい水なら5〜8年かそれ以上かかると予想されていました。

チームは、卵を抱く期間が長いほど、卵が食べられたり傷ついたりする危険が増えると考えています。温かい場所を選べば、その期間を短くできます。ただし、温かければよいとは限りません。中米のコスタリカ沖にある別の温かい場所では、2013年に、卵を抱く姿勢のタコが100匹以上見つかりました。このとき観察した卵には、育っているものがありませんでした。その後の調査では、同じ場所で育っている卵も見つかっています。

この研究の弱点

記録は、1匹の母ダコと、ひと組の卵だけです。同じ岩では以前にも、2匹の母ダコがそれぞれ8か月と20か月その場にいるのが見られました。けれども、抱き始めと終わりは分かっていません。

それでもチームは、長く卵を抱くのはこの種にとってふつうの作戦だと考えています。このタコは、北太平洋の東側の深海でとても数の多いタコだからです。53か月が特別に見えるのは、深海のことがまだほとんど分かっていないからだ、と論文は結んでいます。

06まとめ

アメリカの研究チームは、水深1397mの岩場で卵を抱く母ダコを、4年半のあいだに18回見に行きました。母ダコは毎回同じ場所で卵をおおっていて、卵がかえるまでに53か月かかりました。卵を守る期間として、動物で知られる最長の記録です。

長くなる理由として、3℃前後の冷たい水と、大きくよく育った子を産む作戦が考えられています。ただ、母ダコが何を食べて生きのびたのかは分かっていません。記録も1匹だけです。

母ダコが卵を抱き始めた2007年5月に生まれた人の子どもは、卵が空になっていた2011年10月には4歳になっていました。

RESEARCH FILE

研究カルテ

アメリカ・モントレー海底谷

研究チーム
アメリカのモントレー湾水族館研究所などのチーム(第一著者ブルース・ロビソン)
調べた場所
アメリカ・カリフォルニア州沖のモントレー海底谷、水深1397mの岩場
調べた動物
深海のタコ(学名 Graneledone boreopacifica)のメス1匹
調べ方
無人潜水機で4年半に18回同じ岩を訪れ、傷あとで母ダコを見分け、卵の大きさを測った
分かったこと
卵を抱き始めてからかえるまで53か月。卵は長さ1.5cmから3.3cmに育ち、数は約160個だった
まだ分からないこと
母が4年半のあいだ何を食べていたのか。記録は1匹だけで、見ていない時間がほとんど
論文
PLOS ONE(2014年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

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An Octopus Mother Guarded Her Eggs for 53 Months

Most octopus mothers in shallow seas take care of their eggs for one to three months. Then the eggs hatch, and the mother dies.

In 2007, scientists in the United States sent a robot sub to a deep rock. It was 1,397 meters below the sea. They found an octopus mother with new eggs on the rock. They knew her by the scars on her body.

The scientists went back 18 times in four and a half years. Every time, the same mother was covering her eggs with her arms. They never saw her eat. The eggs grew bigger, and her body became thin and white.

In 2011, the mother was gone, and the eggs were empty. She had guarded them for 53 months. No other animal is known to guard eggs for so long. The water there is about 3 degrees, so the babies grow slowly. They come out big and strong.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How deep was the rock with the octopus mother?母ダコがいた岩は、どれくらいの深さでしたか。

Q2. How did the scientists know it was the same mother?研究者たちは、どうやって同じ母ダコだと分かりましたか。

Q3. Why do the babies grow slowly?子ダコがゆっくり育つのはなぜですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Robison, B., Seibel, B. & Drazen, J. (2014) Deep-Sea Octopus (Graneledone boreopacifica) Conducts the Longest-Known Egg-Brooding Period of Any Animal. PLOS ONE 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pone.0103437
  2. 2モントレー湾水族館研究所(MBARI)(2014)プレスリリースmbari.org/news/deep-sea-octopus-broods-eggs-for-over-four-ye
  3. 3Barry, J. P. et al. (2023) Abyssal hydrothermal springs—Cryptic incubators for brooding octopus. Science Advances 論文確認済みdoi:10.1126/sciadv.adg3247
  4. 4モントレー湾水族館研究所(MBARI)(2023)プレスリリースmbari.org/news/scientists-solve-mystery-of-why-thousands-of-

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

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